第28話 王立孤児院と神聖王国の滅亡
魔薬患者に結構多いのが、子供を売った親たちだ。
売った先は盗賊ギルドで、盗賊ギルドに聞くと、奴隷商に売ったと言う。
奴隷商は、いくつかあるが、子供の売買は法律で禁じられているので、全ての奴隷商にガサ入れを実施して、子供の回収をしていくのだ。
そして、脅す。
奴隷商が居る理由は、犯罪奴隷や借金奴隷など、子供以外の奴隷が普通にいるのと、国が管理するには多すぎる為に、奴隷商に振り分けをやらせているのだ。
「子供の売買は、死罪なんだが、盗賊ギルドから買った奴隷を全て差し出すと言うのなら、今回だけは許してやってもいい。次にやったら、その場で殺す。理解できたか?」
「は、はいい、判りました。もう二度とやりませんので!お許しください!」
「ほう、地下室でもあるのか?そこにいる様だが、それはどうするつもりなんだ?」
「は、ははは、い、いまから、お、お見せ、お見せしようとお、おお、おおおもってたんですよよよ。」
「見せるだけか?」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえ、お渡しする、たったたためででですよお!!」
隠し扉の向こうとか、地下室、天井裏、馬車の中、馬車の下、馬車の屋根の上など色んな所に隠して、見つからない様にしたい様だが、全員が魔力感知を使えるので、全く意味が無い。
寧ろ、罪を重くするだけだ。
子供の中には、貴族の子供もいたので、売った貴族は、全員捕縛だ。
伯爵邸には、まだまだ元患者が居るが、子供達を連れて行って、部屋に入れておく。
歩いて伯爵邸に向かっている間、ずっと子供達の手に包まれていて、疲れた。
「かわいい!抱っこするー!」
「何て名前なのー?」
「アルティス様ですよ。これでも偉い方ですから、落としたり叩いたりしては、いけませんよ。」
「えー!?ほんとにー?」
「本当ですよ?、貴方達を助けたのも、アルティス様ですよ?」
「うっそだー」
「こんなチビがそんなに偉い訳無いじゃん。」
『大きさは問題じゃないんだよ、必要なのは知識と知恵だ。君達も頑張って勉強すれば、将来俺の様に偉い人になれるんだぞ?』
「本当に喋った!?」
「まじかよ・・・でもこんなちっちゃかったら、すぐに誘拐とかされて、居なくなっちゃうじゃん。」
「アルティス様は、お強いんですよ?仲間もたくさんいるんですよ。だから、誘拐した人は、不幸になりますね。」
「すげー!どうやってそんなに強くなったんだよ!教えてくれよ!」
『たくさん努力するんだよ。失敗しても何度でも、諦めずに挑戦する。何度も何度も。少しずつ工夫をしながら、訓練する。そうやって強くなるんだよ。』
「勇者なんか最初から強いじゃん。」
『勇者だって、勇者になる前に沢山努力したんだよ。努力して、力だけじゃなく、心も強かったから、勇者に選ばれたんだよ。諦めない心、自分を強く持って、悔しいと思ったら、もっと頑張るんだ。勉強もいっぱいするんだ。筋肉と強い心があっても、頭が悪いと馬鹿にされちゃうからな。頭がよくて強くて真っ直ぐ自分の信念で強く生き抜くんだ。』
「うへぇ、勉強嫌いだよ。退屈なんだもん。」
『好きな事をやろうとしても、知識が無ければ上手くなれないんだよ。だから勉強も好きな事に関係する事から頑張る。そのうち他の事も必要になってくるから、そしたらそっちも頑張る。判らない事を判らないままにするのは、勿体ないだろ?』
「よく判らないよ。」
『その判らないを、本を読んだり、勉強したりして、判るにするんだよ。』
「アルティスちゃん凄い!私頑張る!頑張って凄い人になる!」
『その意気だ!』
「僕には無理だよ・・・」
『無理じゃないさ。頑張ればいいだけだ。勇気なんて必要ない。本を読むだけだ。それだけならできるだろ?』
「うん、本を読むだけなら。」
『物語だけじゃ駄目だぞ?、例えば、街灯は何で明るいんだろう?とか、何で馬車が走るんだろう?とかね、疑問に思ったら、何でも調べる。本で判らなければ、誰かに聞く。最初から諦めてちゃ駄目だ。やっても無理だったら諦めろ。先に努力する、諦めるのはその後だ。』
「うん、やってみる。」
「これから、孤児院に行くんでしょ?孤児院じゃ、本なんて買えないでしょ?」
『買えるよ?俺が経営者だからな。』
「アルティス様が先生やるの?」
『先生はやらないけど、先生に給料を払うのは俺だね。』
「たまには来てくれる?」
『もちろん!』
「やったー!」
『頑張ってなかったら叱るからな?』
「「「えー」」」
『俺は、怠け者が嫌いなんだよ。』
「さぁ、着きましたよ。ここが孤児院ですよ。大人が沢山いますが、気にしないでください。」
『みんなと仲良くするんだぞ?、変な奴が居ても、変だと思わずにバンバン話しかけて、友達になっちゃえば、変じゃなくなるからな?仲良くなって、みんなと協力して、みんなと遊んで、みんなと勉強する。判った?』
「うん、判った!」
スラムからも子供達を集めて、今ある孤児院の調査もして、経営者が駄目なら潰す。
子供を引き取ってみると、混血が結構いる。
ハーフエルフだったり、ハーフドワーフだったり、ハーフ魔族だったり。
獣人とのハーフは、見た目だけどっちかに寄るそうで、中身は獣人と人間の中間になるらしい。
サハギンとかピクシーとか姿が特殊な人族とのハーフはいないんだけど、鳥人のハーフはいた。
鳥人みたいな羽がある種族とのハーフの場合、羽は全員にあるそうだ。だから、翼人と間違われる事が多いんだとか。
城に戻ると、ルースがいた。
あれ?日数おかしくないか?
『おい、ルース。何でお前がここにいるんだ?』
「え?伯爵を連れてきましたけど?」
『官吏の到着は昨日じゃ無かったのか?』
「あぁ、新しい官吏が早く来たんですよ。」
『コルス、話がおかしいんだが?』
『偽物ですね。どうやったのか、判りませんが、本人そっくりに化けている様です。』
『へぇー、じゃぁ、まずは、カレンと10本勝負だな。』
「え!?、嫌ですよ。やりたくありません。勝てませんから。」
模擬戦を嫌がるルースとか、ちょっと気持ち悪いので、本物に念話で連絡してやる。
『ルース、お前の偽物が目の前にいるぞ?』
『ええ!?本当ですか!?捕まえておいてください。自分でケリをつけますんで。』
『判った。ソフティー、伯爵を捕縛して、こいつも捕縛。』
『判ったー』
伯爵の方は、女王に襲い掛かったそうだが、女王の着けているアミュレットは、特別製だから、攻撃が当たらないんだよ。
捕縛した奴は、拷問の末、命令した馬鹿を吐いた。
馬鹿は、神聖王国の枢機卿だった。
変装の方は、スキルと魔道具でできるらしいので、魔道具は頂いた。
じっくり中を調べて、大量生産して枢機卿だらけで神聖王国にいってやろうかな?
『面白そうなこと考えてますね。』
『面白いだろ?教皇の真似はヤバそうだから、枢機卿と大司祭と誰か高官がいいよな。1000人くらいの同じ顔で行ってみたいな。』
『それ、結構怖いですね。』
『見てる奴は怖いだろうけど、やってる方はきっと楽しいぞ。』
『ほうほう、こんな感じなのか。俺なら、こんな感じには、しないんだけどなぁ。やっぱり、普通の魔道具とは、考え方が少し違うんだな。ふむふむ。』
変身の魔法は、幻影魔法を使っていて、使用者の全体に被せる様にして発動させているらしい。
使用する魔力は、魔石のMPを利用しているみたいだが、節約の為に2時間程で切れる様に、タイマーが仕込んであった。
使用者は、魔道具に登録する様になっていて、使用者以外が使うと呪いがかかる様になっていた。
『どうしたんですか?』
『この魔道具は、術をかけても2時間程で解けるらしい。』
『駄目じゃ無いですか。』
『改良するに決まってんだろ?、実験には暗部を使うか。全員コルスとか。』
『ちょ、やめて下さいよ!。私だけ、狙われるなんて事に、なりかねないじゃないですか!?』
『ちょっと借りていいですか?』
『駄目』
『何でですか?いいじゃないですか!ちょっとだけですよ?』
『コイツ以外が着けると、呪われるんだよ。』
『マジ?』
『マジ』
『諦めます。』
『何に使おうとしたんだ?』
『アルティスさんに化けられるか試したかったんです。』
『それ、解除誰がやるんだ?』
『・・・いやいや、流石にジョークで通りますよね?』
『無理だと思うが?』
「あのー、トイレいきたいんですが・・・。」
『漏らして反省しろ。』
『酷いですねー、実は結構怒ってたりします?』
『当たり前だろ?仲間のフリをして、騙そうなんてさ、許さねぇよ。会ったら細切れにしてやるよ、枢機卿を。』
枢機卿を殺すって言ったら、偽物が鼻で笑った。
『おい、てめぇ、今馬鹿にしたろ?ここから、お前の首を切る事だってできるんだぜ?試しにやってやろうか?』
威圧したら、漏らしやがった。
王国を改造する為の第一歩として、王都の膿を搾り出してきたけど、まだまだあるんだよな。
まず、貴族の屋敷の地下だ。
ここには、必ずと言っていいほど、誰かが捕らえられている。
一体誰が?そんなの貴族でしょ。
当主だよ。
そして、当主に化けた誰かが居る。
それを確認する手段を昨日得たのだ。
それが、変装の魔道具だ。
単純な話だ、変装する魔法が判ったのなら、変装を解くに、魔法陣を書き変えてやればいいのだ。
魔法強度はこちらが上なので、使ってる奴の前で、魔道具を発動させれば、はい解除。
「な、何で!?、くそ!殺してやる!」
『捕縛しろ』
てな感じで、入れ替わった奴らをバンバン捕縛して、当主を助けてやった。
おかげで、従順な貴族が増えたよ。
今回助けた、貴族たちは全て男爵で、元侯爵、元伯爵、元子爵だそうだ。
元侯爵がライオネル・スピナーソイ、元伯爵がクルト・ボニファティクス、元子爵がエドモント・スキエケタイシ。
何か、3人目の家名が変だが、それぞれ、財務大臣、産業大臣、運輸大臣に任命した。
元々優秀で、優秀過ぎるが故に、降爵させられたと自称している貴族達だったので、無事に大臣を決める事ができましたとさ。
ありがとう!枢機卿!お礼に切り刻んで差し上げるよ!!
「真面な貴族が残っていて、助かりました。」
『本当ですね。他が全部無能ばっかりだったから、どうしようかと思ってましたよね。』
「はっ!、誠心誠意、役目を果たしていく所存です。」
『召集の方はどうですか?』
「思ったより大丈夫そうですね。最悪、誰も来ない可能性もありましたが、一応、重大発表があると書きましたので、来ざるを得ないでしょう。」
『しかし、2か月先とはね、国が広すぎるのも、困った問題ですね。』
「そうですね、何かいい方法があればいいのですが。」
『難しいですね、燃料の算段はできても、信用できる人間が、少なすぎるのが問題です。』
「燃料の算段とは?」
『これですよ。』
ディメンションホールから魔力鉱石を出した。
「「「おおお!」」」
「こ、これは、世界最大ではないでしょうか。」
『これは小さい方ですよ。ただ、これがあっても、使う術が無ければ、ただの宝石です。これを売って稼ごうにも、買ってくれる先が無ければ、儲からない。儲かったとしても、金を使う事ができなければ、贅沢はできない。贅沢するには、贅沢できる環境を作る必要があるのですよ。その為に、我々がいて、その為に、国を整備するのです。金持ちになったとしても、野獣の様な生活しかできなければ、せいぜい食べ物に困らない程度の贅沢しか、できません。』
「確かに。全くその通りですな。もっといい暮らしをしたいのであれば、国を豊かにしなければならない。国が豊かにならなければ、お金の価値も微々たるものですからな。」
「しかし、移動速度を上げる等、難しい問題では無いですか?」
『方法は色々あるのですが、維持が難しいのです。』
魔道列車や魔道自動車など、夢を言えば幾らでも出てはくるのだが、魔獣や巨大な動物がウヨウヨいるので、難易度が高い。
「方法とは?」
『例えば、道の整備。路面が平らであれば、自ずと馬車のスピードは上がります。ですが、魔獣や災害で破損する事が考えられますので、いかに維持をするかが問題となります。』
「確かに。維持費もかかりそうですな。」
『例えば、馬車のスピードを上げる。馬車が早く進めば、到着時間は短くなります。が、速度が上がれば、馬車の揺れは、酷くなります。その揺れを軽減する為には、路面の整備が必要となります。』
「そうか、そうなってしまうのだな。」
『例えば、道では無く、馬車専用の軌道を整備する。この場合は、コストは抑えられるでしょう。但し、軌道上に何も無い事が、速度を上げる為の条件になります。そして、維持管理が必要ですし、そもそも利用できない地域もあります。』
「利用できない地域とは?」
『砂漠と湿地ですね。砂漠では、軌道が砂に埋まる、又は、軌道の下の砂が流れて無くなる。湿地では、地盤が軟弱な為、軌道が水没又は埋没します。また、材質にもよりますが、腐食する可能性が高まります。』
「その案も結局は、維持管理が必要という訳ですな。」
『次に空を飛ぶ。これは、技術開発が必要となりますし、魔力が無ければただのガラクタですね。それとコストが嵩むと思います。ワイバーンやロック鳥、ドラゴンとの遭遇も考えられますので、命の危険が高まります。』
「夢の話だな。翼人や鳥人でもない限り、空を飛ぶのは無理だろう。」
『そして、究極の移動方法が、テレポート。ゲート方式にすると、軍事的に危うくなるので、ゲートは無しですね。あくまでも対個人用としての運用に限定すれば、移動が楽になります。但し、距離が遠くなれば、当然コストが嵩みます。ただ、他の維持費を考えれば、格安でもあります。』
「伝説の魔法ですぞ。できるのですか?」
『可能ですよ?、覚えるのも簡単です。計算さえできれば。』
テレポートは時空間魔法でできるのだが、飛んだ先の位置を指定しなければ飛べないのと、位置を間違えると地面の中や壁に埋まる事になる。
そもそも、異空間を経由するので、何らかの計算が必要になるのは当然だと思われる。
自分が使えないので、正確には判らないが、最初のテレポートを成功させる為には、位置情報と時間軸の計算が必須だと思われる。
そう思った理由は、人間から時計を奪った事と、長さや重さの基準になる物を隠されてしまっている事が理由だ。
王城の宝物殿にあると思っていたのだが、見つから無かったのだ。
「計算?どのような計算ですか?」
『時間の計算と空間の計算です。魔族は、この計算をさせない為に、時間をかけて人間の社会から時計を排除したのでしょうね。空間の認識を無くすのは無理ですが、判りにくくする為に、定規や、計測道具の作成方法を無くさせたのでしょう。これで、人間が時空間魔法を覚える事ができなくなりました。』
「それが、どんな弊害をもたらすのだ?」
『勇者を呼ぶ事ができなくなります。』
「・・・。」
勇者の召喚術は、テレポートの上位互換だと思っている。
魔法陣はもっと複雑だろうと思われるが、異世界からこの世界にテレポートさせるだけだからな。
「王の錫杖でできるのでは無いのですか?」
『できませんね。そもそも、初代勇者が召喚された時に、錫杖なんてありませんから。』
この国は、勇者が興した国だから、錫杖を作ったのも勇者だ。
「確かにそうだ。では、城に召喚陣があるのでは無いのか?」
『ありませんね。初代勇者が召喚された城はもうありませんし、勇者が城にそんな物を作る訳がありませんよね。』
「何故作らないと、断言できるのですか?」
『考えてもみて下さい。もし貴方が、幸せな生活をしていたのに、突然全く知らない世界に呼び出され、全くの赤の他人の為に、魔王と戦えと言われたらどう思いますか?。しかも、帰れないんですよ?』
「嫌ですな。そうか、そんな人を不幸にする物を、作る訳無いな。」
『当たり前ですよ。もし勇者が、元の世界で自分の子供が生まれた、次の瞬間に飛ばされていたら?幸せの絶頂の瞬間に飛ばされていたら?知り合いも親も居ない、全くの赤の他人の為に、戦えと言われるんですよ?、俺ならその世界を滅ぼしますね。自分が魔王になりますよ。』
「アルティス様がそうならなかったのは、どうしてですか?」
『戦えとは言われてないからですよ。自分が生き残る為に戦っただけで、召喚された訳では無いからです。まぁ、もしかしたら、召喚されたのかも知れませんが、召喚した奴がいたら、異空間に飛ばしてやりますよ。』
「もし、そんな輩が居たら、とんでもない方を呼び出した事になりますな。」
城の関係者には、異世界からの転生者だと言う事は、伝えてあるよ。
先に言っておかないと、話が進まなくなるからね。
「しかし、勇者を呼ぶ事ができなくするという意味で言えば、時空間魔法を忘れる様に仕向けたのは、勇者である可能性があるのでは無いですかな?」
『可能性は、高いですね。ただ、マジックバッグを作る事ができなくなるので、不便になる事は確かです。もし、無くしてもいいという考えに、至ったのであれば、何か嫌な事件でもあったのでしょうね。』
「例えば?」
『誘拐とか窃盗ですかね。とても大切にしていた何かを盗まれたとか。フィギュアの可能性が高いですね。確か、神聖王国にもありましたよね?フィギュアが。』
「勇者が大切にしていたのに、盗んだ可能性があると・・・。確か、古い勇者の伝記には、激怒したという逸話が残っていたと思います。新しい伝記には載っていませんが。」
伝記には、フィギュアが神聖王国にも下賜されたと書いてあったのだが、違和感しかないんだよね。
時間が経過して、飽きた可能性もあるけど、元の世界との繋がりを示す、唯一の物をそんな簡単に手放すとは思えないよ。
『その本は、神聖王国が作ったのではないでしょうか?』
「そうですね、印刷技術は神聖王国が持っていますからな。」
『盗んだ事実を隠し通す為には、言い伝えの内容を変えるのが、一番いいですからね。』
「そう考えると、腑に落ちる事が沢山ある様に感じます。例えば、勇者と聖女の仲が良かったという話ですが、会話の内容をみても、とても仲がいい様には見えないのです。」
『別々に国を作っていて、しかも神聖王国が近くて遠い場所にあり、何の条約もない事を考えれば、おのずと判りますよね。』
そう、神聖王国は、初代勇者と共に魔王を打倒したとされる、聖女が興した国だ。
すぐ隣には勇者の国があるにも関わらず、国交も無ければ、条約も無い。
我関せずと、言わんばかりの関係性だった。
だが現在は、そんな隣国が急に牙を剝いたのだ。
しかも、魔王とは絶対に組みそうもない国なのに、魔王と手を組んで攻めてきたのだ。
計略されていたのがバネナ王国だけ、と考える方がおかしいのかも知れないな。
ま、それはいいとして、この王都でやるべき事をやっておかないと、ずっと動けない状態になるので、どんどん進めて行こうと思う。
『次は、学校の設置だな。』
「学校ですか?」
『この国は、識字率が低すぎるんですよ。だから情報が伝わらないんですよ。』
「文字を読めるようになれば、情報が伝わると?」
『当然でしょう。法律が変わったら、看板に内容を書き記した紙を貼っておけば、勝手に読んでくれるのだから。人を割く必要も無くなるし、文字として残るから、覚えやすいですよね?』
「まぁ、そうですね。」
『平民は馬鹿ばかりとか思ってないですよね?、貴族が馬鹿になったのは、勉強をしていなかったからですよ?、平民は勉強していないから馬鹿ばっかりなのは、当たり前。なら、勉強をすれば、天才が現れるかもしれないじゃ無いですか。可能性があるのに、放置するのは得策とは言えませんよね?』
「そうですね。勉強をする機会を作ってやれば、将来優秀な者が現れても、おかしくは無いですね。」
「ですが、子供を一カ所に集めるというのは、誘拐の危険性もあるのでは無いですか?」
『対策を講じればいいだけじゃないですか。作るだけ作って、後は丸投げするから、そうなるんですよ。作ったら最後まで面倒をみるのが常識ってものですよ。』
識字率の問題は、最重要課題と言っていい程の事で、商売にしても仕事にしても、文字が読めなければままならない事はたくさんある。
現に、冒険者ギルドで依頼書を読み解く必要があるのだから、覚えやすい子供の頃に覚えさせるのは、必須事項だといえる。
学校に子供を集めると、そこを狙う連中がいるのなら守るのは当然で、ODAで他国に箱を作るのとは違うんだよ。
「それは、売った物に対してもそうなのですか?」
『売ったのなら、買った者に権利が移るので、責任は無くなりますよ。当然でしょ?でも学校は国が作るんだから、国の物のままでしょ?売る訳無いじゃないですか。反逆者が買ったらどうするんですか?。仕方がないじゃ済みませんよ?よーく考えてから聞いて下さいよ。馬鹿っぽいですよ?質問の内容が。』
何か、さっきから、馬鹿っぽい質問ばかりしてくる元子爵にイライラしてきた。
こいつ、本当は馬鹿なんじゃないだろうか。
『コルス、シイタケエキス・・・じゃなくて、スキエケタイシ家の経歴と、当主の生活態度とか調べてくれ。本当は馬鹿の気がして来たよ。』
『判りました。で、シイタケエキスとは何ですか?』
『家名を逆から読んだんだよ。』
『・・・本当だ。シイタケエキスですね。調べておきます。』
他の助けた貴族たちも、要職に就いてもらっているが、選択を間違えたかもしれない。
何か、不安になって来たな。
あ、そうそう、ダフネスの事すっかり忘れてたんだけど、ミュールに迎撃に行かせたら、ボコって畑に突き刺したらしい。
暗部とソフティーが、しっかりと封印してきたらしいから、放置でいいだろう。
起きてきたら、またミュールか、誰かに行ってもらうよ。
王都に来てから、一週間ほどが経った。
最初の数日間の内容が濃かっただけに、その後は結構地味で、治安回復と働く場所の確保、人材の確保、選定試験等をやっていた。
次の課題は、王都内各所に学校を作る予定なのだが、問題山積なのだ。
簡単にできそうな気がするが、そう簡単な事では無い。
最近、誘拐事件が多発しているのだ。
孤児院の子供達も、何度か誘拐されかけている程だ。
手口は、子供を頭陀袋に入れて、王都外に連れ出そうとするもの。
殆どが門の検閲で引っ掛かり、逃げようとして切り倒される、又は、観念して捕縛される。
貴族が依頼者の場合が多いが、神聖王国がやる場合も多い。
商人の馬車の荷台が、上げ底になっている事も度々あり、商会を取り潰す事も多いのだが、依頼主が神聖王国で、依頼料が激安なのだ。
命を懸ける程の金額では無い為、搾り上げて聞いた話では、神聖王国への移住が可能になるのだとか。
「貴様は、犯罪を斡旋する国に行きたいのか?」
「そんな国には行きたくありません。」
「だが、実際の所、お前は犯罪者になってるぞ?神聖王国への移住を条件にしてな。」
「そんな筈はありません!。私が言われたのは、子供達を助ける為に、協力しろと言われて、やっただけです!」
「ちゃんとした服を着ていて、血色もよく、友達と笑いながら歩いている子供達が、不幸に見舞われているというのか?」
「・・・いえ。」
「無理やり子供を頭陀袋に押し込んで、隠して連れ出すのが、救出になると思うのか?」
「・・・いえ。」
「じゃぁ、お前は一体何の為にやったというのだ?」
この時点で、商人は真っ青になっている。
洗脳なのか、暗示にかけられたのかは判らないが、いつの間にか手を貸しているという事例が後を絶たないのだ。
そしてとうとう、アルティスが怒った。
『神聖王国の教皇を脅すなり、攻め入るなりしようよ。もう、放置するのも限界だよ。俺とソフティーだけで行ってくるよ。暗殺してくる。』
「待つんだ!駄目だよ。」
『じゃあどうすんだよ!、このまま放っておくのか?いい加減何とかしなけりゃ、もっと酷くなるんだぞ?考えがあるのなら、はっきりと言え!言わないならぶっ潰す!』
「二人だけで行くのは駄目だと言ってるんだ!。行くなら私も行く!」
『女王の守りはどうするんだよ!、誰が守るんだよ!魔王軍が攻めてきたらどうするんだよ!あるじがいると、時間がかかるんだよ!』
「私が居なくても、みんながやってくれる。」
『駄目だ。あるじがここの指揮を執るんだ。それ以外に無い。』
「何故だ?」
『精神魔法にかからないからだよ。』
「それは・・・」
アルティスと契約しているアーリアは、MAGが高いので精神魔法にはかからない。
そのアドバンテージは、王都で女王陛下を守る為には、必須となるのだ。
『俺の配下は、俺のあるじの命令なら聞く。だからあるじがここに居なければ、殆どの配下が動かないんだよ!判れよ!単純な話だろうが!』
「だが、アルティスが心配で・・・」
『俺がどうにかなるとでも思ってんのかよ!俺の心配より、この国の心配を少しはしたらどうだ!。このまま国が駄目になったら、多くの人が不幸になるんだぞ!?それを黙ってみてるつもりかよ!』
「判った。だが、やり過ぎない様にして欲しい。」
『俺がいつやり過ぎたっていうんだ?虐殺でもしたのか?関係無い奴を殺した事があったのか?』
「そうじゃない、教皇暗殺とかをやめて欲しいんだ。」
『教皇が、悪魔じゃ無けりゃしねぇよ!だが、俺の予想では、枢機卿か教皇が、悪魔なんだよ!』
「判った。もう何も言わない。行ってきてくれ。」
アーリアが拗ねた様な気がするが、アルティスは退かない。
アルティスの堪忍袋の緒が切れたのだ。
『ソフティー行こう。神聖王国をぶっ潰しに!』
『はーい』
『お供しますよ?』
『ついて来れるならついて来い』
『判りました。ついて行きます。』
コルスが着いてくるらしいが、どうやるのかは知らない。
『リズ、カレン、バリア、後は任せた。』
『了解!』
ソフティーの背に乗って、爆走する。
円形山脈まで5分で、着いた。
国境まで爆走するついでに、第二騎士団の様子を見るが、円形山脈の外側と神聖王国中間にある街、ニビタシで停滞していた。
王都からここまで、馬車で1週間の距離なのだが、何故こんな所にいるのか。
『騎士団なにやってるんだよ!』
「うぇ!あ、アルティス様!?」
『何やってんだって、聞いてるんだよ。』
「そ、それは・・・」
『はっきりしろ!』
「すみません!ここまで走り込みしながら来たのですが、休みが欲しいと不満が出まして、休息を取っておりました!。」
『それで?、全然進んでないじゃないか。どうなっているんだ?』
「それなりに、進んでいると思いますが?」
『ここまで、馬車を使えば1週間で来れるのに?一週間でたったの500㎞?のんびりし過ぎじゃないか?残りの1500㎞を2週間で走破?』
「・・・そうであります。」
『それで、ここに何日停滞してるんだ?』
「2日前に着いて、足の痛みが取れない者がいますので、明日からまた走り出します。」
『ポーションで治せよ。もう、走らなくていい。代りに、歩く時に踵からつま先までしっかり地面に着けて歩け。それと、毎日余裕を持って歩け。休憩時間には、ちゃんと体操と剣の訓練をやれ。野菜もちゃんと食べろ。』
罰として、競歩で歩かせる事にした。
あの歩き方は、脹脛が滅茶苦茶鍛えられるんだよね。
マッチョがやると、気持ち悪いけど。
『それから、外でベロベロに酔っぱらってる奴が居るから、ちゃんと取り締まれ。装備を盗まれたらクビにするからな。』
「は、はい!?、おい!お前ら!酔っぱらってる奴を連れて来い!」
「「「はっ!」」」
『お前らは、この国の顔になるんだ。節度を持って休め。みっともない姿を晒すな。子供達が憧れる様な騎士になれ。判ったな?』
「はい!頑張ります!」
『お前らが、かっこよく見える、いい方法を教えてやろう。それはな、全員が揃って整然と歩くんだよ。手の動き、足の動き、2列になっても、3列になっても、一糸乱れぬ動きで歩くだけだ。顔もビシッと決めて、真っ直ぐ前を向いて歩け。』
「判りました!。ご教授ありがとうございます!」
「はぁはぁ、連れてきました。装備は全て持ってるようですが、財布を掏られている様です!」
「他の連中は?」
「スリを追っている模様です。」
『何で財布なんか持ってんだよ。ポーチ渡してあるだろ?入れておけよ。』
「ポーチを盗まれる可能性がありますので。」
『ワイバーンの革製だぞ?ガキの力ではぎ取れる訳ねぇだろが。』
「え?・・・びくともしない・・・。知りませんでした。財布は禁止にしておきます。」
「歩きだと時間が掛かると思いますが、いいのですか?」
『歩く時に、地面を蹴るんだよ。靴が曲がる様になってるだろ?しっかりと地面を蹴って進むんだよ。脹脛が膨らむぞ?』
「おお!確かに!。この歩き方なら普通よりも早いかも知れません。」
『足が攣り易いから、ちゃんと筋肉を解してからやれよ。』
「判りました!ありがとうございます!」
『じゃぁな。』
再び、ソフティーに乗って、西へと向かう。
ソフティーのスピードは、本気走りじゃなくても、やっぱり早いんだと感じる。
国境まで、たったの1日、いや、半日で着くのだから。
今回は、浅瀬のある場所ではなく、何も無い大河を渡って行く。
浅瀬のある場所には、聖騎士団がいるから、密入国には向かないんだよね。
大河沿いには、両側に林があって、侵入しても見えにくいのだが、対岸に気になる点を見つけた。
『ソフティー、対岸にアラクネがいない?』
『んー、あ、いた!おーい!』
『ん?おおお!仲間だ!やほー!』
大河を渡る時、ソフティーは足の先に綿状の靴を履いて、水蜘蛛の様に水面を滑って進む。
その時に、川から魚が食いついてくるのだが、[ライトニング]1発で殺せるのだ。
殺してしまえば、その魚の下に、ディメンションホールを出せば、勝手に入ってくれるという訳だ。
タイラントライスフィッシュ2尾とクルーシャンフィッシュを獲った。
『おー!凄いね、アレを獲るなんて、私でも無理だわ。』
『アルティスがいるから、楽ちんだよー』
『アルティス?貴方の名前?』
『俺がアルティスだよ。よろしくね!』
『おお?ちっこい獣?喋れるなんて珍しいね。』
『アルティスは、私の友達なんだよ!強くて、頭良くて、優しくて、ご飯が美味しい!』
『ご飯が美味しい?作れるの?』
『とりあえず、ご挨拶にこれをあげる。食べてみて。』
挨拶代わりに特製干し肉を渡した。
パクッ
『うんまーい!ねね、これもっとある?』
『あるよ?』
『ちょっと友達にもあげたいの!』
『『友達?』』
『こっち来て!』
何か、スケープゴートの干し肉が、きび団子みたいに思えてきた。
アラクネの友達の所に行ってみると、驚きの光景が広がっていた。
『子供がたくさんいるな。どうしたの?この子達は。』
『人間が捨てて行くんだよ。どうしてなのか判らないけど、捨てて行くから、全部拾ってきて、飼ってる。』
人間が捨て猫を拾ってくるみたいな感覚で、アラクネが捨て子を拾ってくる様だが、多すぎじゃないか?
『何人いるんだ?』
『128人』
『多いな。』
目の前の女の子に話しかけた。
『どこから来たんだ?』
「え?話せるの?」
『あぁ、話せるよ。』
「私はクスノベルティって街で攫われたの。そして、ここに捨てられたの。おかあさんに会いたいよう。」
クスノベルティにいる、ルースに連絡を取った。
『ルース』
『はい、アルティスさん何でしょうか?』
『クスノベルティで、誘拐事件多発して無かったか?』
『していますね。40人程の子供が行方不明になっています。』
『神聖王国で見つけたぞ。』
『えええ!?そんな遠くまで行ってたのか・・・見つからない訳だ。』
『アラクネが保護してる。』
『どうしましょ?』
『とりあえずは、現状維持だな。連れ戻す手段がないのと、何の意図があって、そんな事をしているのか、判らないからな。』
『判りました。指示を待ちます。』
『そうだな。第二騎士団が近くまで来るから、そいつらに引き渡すのもいいかもな。』
『そうなんですね。ここからだと時間がかかりますので、近くの街にでも保護してもらえ得ると有難いですね。』
『そうだな。決まったら連絡する。』
『はい、よろしくお願いします。』
ルースに確認を取り、対策を考えてから連絡する事を伝えた。
子供には少し待たせてしまうが、故郷に戻す方法を考えなければ難しいので、待っててもらう様に伝えた。
『クスノベルティまで遠いから、準備ができたら、迎えに来るよ。それまで我慢してて欲しい。』
「判った。」
もう少し待っててね。
すぐに迎えに来るから。
アラクネに名前を聞くのを忘れてたので、聞いてみた。
『あー、君の名前を教えて?』
『私はシルクだよ。』
『私はソフティー、よろしくね!』
『あい、よろしくー!』
『シルクさん、この子達の言葉判らないでしょ?』
『うん、判らないけど、大人しいよ?』
『判る様にしてあげる。』
『できるの!?』
『これ着けて』
髪飾りを渡した。
『子供達と話してみて。』
『私はシルクだよ。』
「え!?アラクネさんと話せる!?」
『話ができるようにしたんだよ。シルクさんは、君らを食べる様な事は無いけど、魔獣だからね、人間とは生活様式が違うんだ。だから、不便だと思ったら、相談して自分達で改善できるようにして、協力し合えば、もっと住みやすくなるよ。』
「でも早く帰りたいの。」
『判ってる。でも、ここからクスノベルティまでは、馬車で2か月かかるんだよ。そして、人数も多いからね、準備に時間がかかるんだよ。歩いて帰るのは無理だから、迎えに来るまで待っててね。』
『アルティス優しいね。』
ソフティーは王都で、子供達と接する事が増えて、子供達には優しい目をする様になってきた。
『シルクさん、今のままだと糸燃えちゃうでしょ?、髪飾りに火耐性ついているから、外側だけでも糸を巻いて、燃えない様にしておいてね。』
『火耐性!?糸も火耐性?』
『付くよ?』
『ここに来る人間が、火を撃つから、いつも大変なんだ。火耐性付いたなら、追い返せる!』
『ん?二人近づいて来たな。ソフティー』
『はいはーい』
一瞬で終った。
いつもながら、ソフティーは仕事が早い。
『・・・はー、凄い。』
シルクがソフティーの早業に、感動しながら、捕まえた人間をグルグル巻きにしている。
捕まえた二人に尋問しよう。
『お前らは誰だ?』
「な!?、アラクネが話せるのか!、何だよ、言葉が通じないと思ってたのに、話せるんなら、最初から話せよ。なぁ、仲間にならないか?一緒にバネナ王国を潰そうぜ!」
『お前らは誰だと聞いてるんだよ。言葉が判らないのか?』
「んだと!ごらぁ!!燃やすぞ!」
『やってみればいいだろ?その状態で燃やせば、お前は丸焦げだな。』
「くそっ!判ったよ。俺は神聖王国に雇われた傭兵だよ。マーカスってんだ。」
『そっちは?』
「コブズだよ」
『それで、何でいつも攻撃してきたんだ?』
「ガキどもを取り戻す為だよ。言葉が通じるなんて知らなかったしよ。ったく、通じんなら、早く言えっての。」
『子供を集めて、何をしてるんだ?』
「あぁ、神官共が胸糞悪ぃ儀式の生贄に使うんだとよ。よくあれで、聖職者だなんて言えるよな。」
『どこに連れて行くんだ?』
「お、協力する気になったのか?教皇のいる大聖堂だよ。教皇なんて、餓鬼を食うらしいぜ?それで、若さを保ってるとか何とか言ってたよ。」
比喩表現なのか、それとも本当にやっている事なのか判らないが、何らかの儀式に子供を使っているのは、明白だな。
こいつらは、それを知りながら、協力していたと言っていて、全く悪びれた様子が無い。
『そうか、じゃぁ死んでくれ。』
「な!、ちょ、ちょっと待てよ!手伝うんじゃなかったのかよ!」
『そんな事一言も言ってないが?』
「ふざけんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」
「おい!アラクネ相手に勝てる訳ねぇだろが!やめろ!俺は!」
『引っ掻き』
シャッ
『!?私の糸ごと切った!え?どうして!?』
『アルティスだからだよ。アルティス強いんだよ!』
『さ、飯にしようぜ!、デカい魚もあるからな!。ソフティー手伝ってね!』
『はーい』
魚は、フライとムニエル、ご飯を炊く時に魚も入れて、タイラントライスフィッシュご飯、略してタイ飯にして、みんなで食べた。
美味しいご飯で、お腹いっぱい食べて、みんな大満足で寝たよ。
朝方、また人間が来た。
今度は、シルクもソフティーに教わって捕まえた。
『何しに来た?』
「アラクネが喋っただと!?おい!昨日ここに二人が来ただろ!どこに行った!?」
『殺したが?』
「俺の息子だったんだぞ!ふざけるな!」
『人の子が死ぬのはどうでもよくて、自分の子が死ぬのは許せないってのか?都合が良過ぎないか?』
「うるせぇ!生きる為には仕方がないんだよ!俺達は傭兵だ!他人を殺すのが商売なんだよ!」
『そうか、じゃぁ、そんなゴミを始末できて、好都合だな。』
「くそっ!」
傭兵は始末してから、川にぽいっと投げ入れるだけだ。
『シルク、子供達を頼むよ。まだきっとアイツらの仲間が来るから、守ってやって欲しい。』
『判った!アルティスはどこにいくの?』
『俺達は、胸糞悪い教皇の所で暴れて来るよ。狂ったこの国をぶっ潰す!』
『戻って来る?』
『帰りにまた寄るよ。じゃぁ、行ってくるね!またねー』
アーリアに念話で、状況報告をした。
『あるじ、傭兵から話が聞けたよ。』
『どんな話だった?』
『子供達を生贄にして儀式をやるそうだ。教皇は子供を食べて、若さを保っているそうだよ。』
『じゃぁ、殺すんだね?』
『あぁ、確定したよ。』
『気を付けて!』
もう、教皇を暗殺する事に反対はしない様だ。
一路大聖堂へ!早く行って、子供達を救わないと!
孤児院ではソフティーも大人気で、一緒に遊んだり、一緒にお昼寝したりしてるから、ソフティーも子供が好きになっている。
だから、大聖堂まで超スピードで行ったよ。
普通に街道を走って行くと、すれ違う人が飛ばされてっちゃうから、道なき道を突き進む。
途中で魔獣に遭遇しても、無視して通り過ぎるだけで、魔獣は重症になるんだよ。
ソフティーは、地上を音速で走り抜けていくから、当然ソフティーの前には、圧縮された空気の壁が存在していて、摩擦熱で熱くなっているが、体中の毛で放熱しながら進んで行く。
アラクネの毛は、剛毛過ぎる剛毛で、すべての毛が立っているから、音速のその毛に触れば、スパスパ切れてしまうのだ。
圧縮空気の壁も、近い所では鎌鼬の様な現象を引き起こす程に、凶悪な風を振りまきながら通り過ぎるから、魔獣のすぐそばを通り過ぎると、魔獣の体が抉れて瀕死になるのだ。
瀕死になった魔獣は、そのまま死ねば色々な生物の餌になり、重症化によるバーサク状態になれば、近隣の街や村に到達するかもしれない。
だが、重症化によるバーサク状態は、命の危機に瀕した場合の防衛策であり、大前提として目の前に敵がいる事が発動条件にあるのだ。
一瞬で通り過ぎたソフティーに怒りを覚えても、追いつける事は無く、姿も見えず。
バーサク状態も解けて、森の中を流血しながら彷徨う事になるだけであった。
狩人が偶然にも見つけられれば、すぐさま倒されて、近隣住民の食卓に並ぶだろう。
当然、通った後には、道の様な物ができるのだが、後で利用する人が出てくれば、首都までの直通街道として、利用される事になるかも知れないね。
まぁ、整地されていないから、今の時点で馬車で使うのは無理だけど。
神聖王国の首都は、王都では無く、聖都と呼ばれているそうだが、街を守る壁は、所々にヒビが入り、崩落した跡があっても、修復された様子は無く、入り口の門前には、攫った子供達を積んだ、荷馬車が数多く並んでいた。
アルティスは、魔力感知で見える、赤い点のすぐ後ろに、ギュウギュウ詰めにされた青い点がある事に気が付いたが、今ここで対応しても、大本の原因を潰さなければ解決しないので、後ろ髪を引かれる思いで、中心部を目指して突き進んだ。
街の中心に城みたいに大きな大聖堂があった。
大聖堂の隙間から見える空と、真上に見える空の色に違和感を覚え、大きな鐘楼とその下に並ぶ小窓を見て、小窓から見える人影に魔力感知が反応しない事と、奥行きを感じさせない空間、その正面入り口には、子供の列が中に繋がっていて、救済の筈が、全員がロープで手首を繋がれている。
今見ている周囲の風景に、体に纏わりつく様な、もの凄い違和感を覚えたので、ディスペルを唱えてみた。
『[ディスペル]』
ガシャーーン!!
もの凄い割れる音が鳴り響き、数秒の後で見た光景は、ボロボロの大聖堂とその周りにいる悪魔達。
子供達は、何が起こったのか、訳が分からず、その場に座り込んでいる。
建物の中と言っても、屋根も無く、あるのは壁だけで、昼間なのに赤黒い暗闇に包まれている、その場所の中心には、悪魔がウジャウジャいて、生きたまま子供達を食らっていた。
アルティスが殺気を解放した。
ソフティーも威圧を発動した。
『ふざけんじゃねぇ!!』
『子供達を解放しろおおおおお!!』
アルティスとソフティーが、殺気と威圧を乗せて叫んだ。
悪魔達は、もの凄い重圧を感じ、へたり込み、その場から動けなくなった。
アルティスが、魔力鉱石を使って作った神像を取り出し、今いる建物の屋根にソフティーがくっ付けた。
神像からは、まばゆい光が弾け、大聖堂跡の周辺に居る悪魔共を焼き尽くしていく。
大聖堂周辺にいる悪魔も、次々と燃え上がり、崩れ去って行く。
ソフティーとアルティスは、生き残った教皇の前に降りて、頭の上から神像を100体落としてやった。
触れた個所から燃え上がり、薄いベールに燃え移り顔があらわになると、手で顔を覆ったが、その手には肉は無く、完全に骨だけのスケルトンだった。
顔を覆った手の骨の隙間から見える顔は、所々に黒くなった皮膚らしきものが張り付いた、醜い骸骨で、目玉は無く、赤い光が灯っているだけだった。
教皇の体は、白い炎で燃え上がり、灰になった体は塵と化し、最後まで残った頭蓋も、白い炎に包まれて、塵となり消えていった。
塵は、教皇の居た場所の背後に広がる、赤黒い空間の中に渦を巻き、吸い込まれていった後、赤黒い空間がトンネルの様な奥行きのある空間に変わった。
アルティスが、そのトンネルに向けて、取り出した神像と魔道砲用のバーサク弾、タマタマ弾を暴風魔法に乗せて送り込み、ソフティーが、ワラビから預かっていた、神聖魔法を付与した魔道具をトンネルに向けて飛ばした。
空中にある魔道具に糸を飛ばし、スイッチを入れ、眩く光る[セイクリッドライト]を放ちながら、トンネルの中に飛んで行った。
その直後に、トンネルが消え、何事も無かったかの様に青空が広がった。
足元には、50体の神像だけが散らばっていた。
振り返ったアルティスは、生きている子供にポーションをかけて、治療術を発動して、命を繋げた。
直後、大聖堂跡には光の柱が現れ、人の形になってアルティスに近づいて来たが、アルティスが一言言い放った。
『役立たずめ。』
光の柱が立っているのを無視して、大聖堂から立ち去った。
アルティスと入れ替わりで大聖堂に入ってきた信徒は、大聖堂に残った光の柱が、呆然と立ち尽くしている様に見えたという。
神の威光にも感じられる柱ではあったが、その光に照らされた無数の骸骨と、薄汚れた法衣の下にある、人間の姿からはかけ離れた、異形の怪物の骨を見ると、アルティス同様に光の柱に向かって、暴言を吐いて行った。
「くそったれ!」
街には、神聖王国の民が生き残っていたが、教皇の行う行為を不審に思う人はおらず、連れて来られる子供達は、信徒として迎え入れる為の禊を、大聖堂の中でやっているのだとばかり思っていた。
しかし、小さな白い何かと、恐ろしいアラクネが、建物の屋根の上に現れ、直後、大きな何かが割れる音がして、白く美しかった筈の大聖堂が黒ずみ、ボロボロに崩れた様な形になり、空が赤黒く染まっていた。
空気が、気温が急激に下がった様な感覚を覚え、恐怖が感情を支配し、絶望を覚えた。
ほんの数秒前まで、微笑を讃えた神官が、真っ黒い悪魔に変わり、毎日見ていた筈の光景が、幻想であった事を理解した。
自分達は何を見ていたのか、毎日大聖堂に入って行く子供達は、一体どこに行ったのか、判らない、何も判らない。
自分達がいつから騙されていたのか、何を信じて生きて来たのか。
大聖堂前の広場にいた男が混乱に陥る中、眩く光るものが建物の上にあり、アラクネと小さな何かのシルエットが見えた。
周りに居た悪魔が燃え上がり、ボロボロと崩れる中、アラクネと小さな何かが、大聖堂の中に消え、赤黒い空が消えた大聖堂の裏手には、伝説の魔界への扉が開いていた。
男は、アラクネが扉を開いたのだと思ったが、渦巻く扉に光り輝く何かが放り込まれるのを見た。
次の瞬間には、扉は閉じられ、何事も無かったかのように青空が広がり、次の瞬間には、光の柱がそこに立っていた。
神々しい光の柱を見た男は、跪き祈りを捧げようとしたが、その時、声が聞こえた。
『役立たずめ』
神に向かって何て事を!と憤った時、大聖堂から先程のアラクネとその背に乗った白い毛玉が出てきて、子供達を縛っていた縄を次々と切り、自由にしていった。
続いて、暴言が聞こえた直後に、信徒らしき男が中から出て来たが、その男は、首から下げた数珠の様なロザリオを地面に叩きつけ、アラクネ達に深々と頭を下げて、作業を手伝い始めた。
急に神々しく光っていた柱が、薄くなり徐々に消えて行ってしまったが、周りには光の柱のあった場所に、祈りを捧げる信者たちが沢山集まっていた。
『てめぇら!祈ってねぇで子供達を助けろ!てめぇらが不甲斐ないせいで、子供の命がどれだけ失われたか、判ってんのか!てめぇらが信じていた神は、目の前で子供が死んでいくのを、ただ眺めていただけなんだぞ!そんな物に祈ったって、平穏なんか訪れないって事が、まだ判らねぇのか!とっとと動け!動かない奴は殺すぞ!』
小さな毛玉が立ち上がり、祈りを捧げる人々にそう叫んだ。
人々は、子供達に駆け寄り、助け始めた。
大聖堂の中に入った人が叫び声を上げながら、飛び出してきた。
男が中に入ると、そこには、大量の人骨と、まだ新鮮な子供の手足が残っていた。
男は、首から下げていた神聖教のネックレスを引きちぎって、床に投げ捨てた。
大聖堂の外でも、人々が次々とネックレスを引きちぎり、投げ捨てていた。
あの神って奴は馬鹿だな。
神々しい光と共に現れて、神にひれ伏した後、足元にあった人骨を見たら、「あーこれを黙ってみてただけなんだーふーん馬鹿馬鹿しい」ってなるの当然じゃん。
どうせ出て来たんなら、人骨消して、天に召してやればいいのに、ホント馬鹿だな。
『あんな演出して、出てきて、俺に、勇者の称号を与えるとか言いたかったんだろうけど、誰がやるかっての。バーカ。』
アルティスのステータスには、数日前からシステムメッセージで、「勇者になりますか?【YES/NO】」と表示され続けているが、既に数十回、NOを選択している。
『アルティスは勇者にならないの?』
『ならないよ?』
『何で?』
『役立たずの神の下で働きたいって思える?』
『ムリー!』
『さて、子供達はどうしようか。』
「あの、助けて下さってありがとうございます!。」
ありがとうございます!!
アルティスとソフティーの周りには、子供達が集まって、頭を下げていた。
『うん、まぁ、そんなことよりも、帰る方法を探さないとダメだよ。』
「歩いては帰れないのですか?」
『ここからバネナ王国の王都まで、馬車で3か月かかるんだよ?歩いて帰ったら、1年くらいかかっちゃうし、途中には魔獣も出るからね?』
「うわああああぁぁぁん、おがあざーん」
「ああああぁぁぁんおどおざーん」
みんな泣きだしてしまった。
どうにかしてやりたいが、どうにもならないのが、もどかしい。
何か方法は無いか・・・と、そこに、聖騎士がやってきた。
「アラクネ!こ、子供達から離れろ!」
聖騎士がソフティーに剣を向けると、今まで泣いていた子供達が、ソフティーと聖騎士の間に、立ち塞がった。
「だめ!、この子達は私達を助けてくれたの!だから駄目!」
「そうだそうだ!あとから来て何もしてないのに威張るな!」
聖騎士は困惑した。
アラクネから、子供達を守ろうとしただけなのに、何故か、自分が攻められる立場になっているのが、理解できない。
住民の一人が、聖騎士に説明すると、聖騎士は大聖堂だった場所を見て、膝を突きガックリと項垂れた。
『聖騎士!お前どこから戻ってきたんだ!?』
聖騎士は顔を上げて、声の主を探したが、可能性があるとすれば目の前のアラクネだが・・・。
「テレポートを使ったんだ。この街からバネナ王国の教会までなら移動可能だ。」
『それを使って、子供達を住んでた街に返してやれ。』
「いや、それは無理だ。MPが足りない。私のMPではバネナ王国まで行けないんだ。」
『じゃぁ、そのポータルの場所を案内しろ!』
「あぁ、判った。ついて来い。」
ポータルのある建物の前に来ると、神官が入り口の前に立ち塞がった。
今まで、そんな事は一度も無かったのだが、今回はアラクネと子供達が背後にいるからか、神官が両手を広げて、ポータルのある建物に入れない様に塞いでいる。
アラクネから、突然魔法について聞かれた。
『おい、聖騎士、お前は神聖魔法を使えるか?』
「浄化くらいなら使えるが・・・何だ?」
『正面に居る奴は、悪魔だ。切れ。』
はあ?何言ってんだコイツ!?どう見たって人間にしか見えないじゃないか!?
「普通の人間にしか見えないが?」
『[ホーリーライト]』
「ギャアアアアアァァァ」
アラクネがホーリーライトを使った!?神官が苦しみだしたと同時に、皮膚が燃え始めた!?
『早くやれ。』
ズバッ
聖騎士の剣には、僅かながらに神聖属性が付いている様だ。
切られた悪魔がボロボロと崩れて消えて行った。
「ど、どういう事だ!?神官が悪魔!?」
『お前たちの親玉は、悪魔に魂を売ったんだよ。毎日毎日大勢の子供達に禊をさせてる?馬鹿言うなよ。どこから湧いて出て来たんだよ?その子供は!』
「神聖王国の各地から集まった子供ではないのか?」
『この国にそんなにたくさんの子供がいるのか?』
「そんなにたくさんの子供が来ているのか?」
『大聖堂跡に積まれた骨を見てみろよ。何人分の骨が積まれているのやら。』
「見てないから判らないが。」
『仲間を呼び寄せて、見てこい。てめぇらが信じて来たものの正体をな。』




