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第23話 装備の更新とセイレーンの村

 暗部の装備については、更新できた。

 だが正直、暑さに対しては考えて無かった。

 防御力を高める方ばっかりに気が行ってたから、コルスの感想を聞いて、ちょっと方針を変更する事にした。


 まず、耐衝撃の緩衝材としてだけど、直接肌に触れる感じだと、最初はヒンヤリしてるけど、段々熱が篭ってきて、サウナ状態になるらしいので、アラクネ絹が肌着、ドラゴンの鱗とチタン合金を混ぜて作った、鱗で作るスケイルメイルの、鱗と鱗の間の隙間に緩衝材を挟む感じにしてみた。


 一部分だけ作って着けてもらった結果、失敗だったよ。

 鱗に負けてすぐにボロボロになるんだよね。

 温度調節の魔道具を付けないのかって?MPタンクが必要になるのと、MP補充ができないから、使えない。

 50人分のMPなんて補充したら、アルティスが死んじゃうよ。


 魔力鉱石を使ってやると、恐ろしく高価な防具になる。

 魔石でもMPをマナから吸収する事はできるが、効率が悪くて、ほぼずっと動かし続けるであろう温度調節の消費を補える気がしないのだ。

 それに、売る奴が出そうだから、やらないよ。

 ただでさえ、白金貨ウン十枚の価値はありそうなのに、これ以上値段を釣り上げるなんて、とてもじゃないが()()できないよね。

 まぁ、売ったら、売った奴と買った奴は細切れ(死)罪だな。


 次に、緩衝材をメッシュにしてみた。

 これは通気性もいいし、耐衝撃性能も残る、問題は、大量のゴミが出るんだよね。

 そこで、ヘルメットの内側に貼り付けてみた。


 『スミルどんな感じ?』

 「叩かれても、叩かれた感じがしないですね。」


 『叩かれた』と言っているが、鋼鉄製のヘルメットが、凹むほどの力で殴られたんだけどな。

 今や、一般兵士達もアラクネ絹の肌着と半キャップの帽子を着ている。

 鎧は、鱗とチタンを混ぜた物でハーフプレートを作り、スケイルメイルの鱗も当然チタンと混ぜた物を使っていて、それらを繋ぎ合わせた鎧に、変更している。

 内側には、当然緩衝材を裏地に使っているから、鈍器で殴られても問題無い。


 ヘルメットだけは、形が決まっていないので、どれがいいか選んでもらっている最中で、今は実験の為に、鋼鉄製のヘルメットで試しているんだ。

 最初はコルスがやるって言ってたんだけど、コルスはもう防具の更新は終ってるから、サンドワームを倒したスミルに手伝ってもらっている。

 スミルの剣は、見た時に綺麗な剣筋だったので、最近は、ワラビの側近として働いてもらっているよ。


 『そうか、じゃぁ、ヘルメットに使うのはアリだな。』

 「そうですね、後は兜のデザインと剣ですね。」

 『剣かぁ、剣はどうすっかなぁ』

 「鱗を使うのでは駄目なんですか?」

 『意外に脆くてな・・・』

 「それは駄目ですね・・・」


 ヘルメットのデザインなんか、どうでもいいと思ってたら、まさかの夫人からダメ出しをされてしまった。

 アニメやゲームじゃ無いから、鉢金みたいな物じゃ守り切れないから、消防士が被っている様なヘルメットにしようとしたら、ダメ出しをされた。

 装飾で格好良く作れと言われたのだが、装飾が硬いと、攻撃された時に武器が引っ掛かって、ヘルメットが外れてしまう可能性があり、あまり装飾を着けたいとは思わないのだ。

 なので、現在は、色々なデザインのヘルメットの模型を作って、選んでもらっている最中だ。


 ドラゴンの鱗は、単体では硬い、けど脆い、剣を作っても耐久性に欠ける。

 細い分脆くなる様で、数回殴ると折れるんだよね。

 鋼鉄と混ぜれば解決するんだけど、鋼鉄の在庫が無いんだよね。

 ハーフプレートは潰して使いたいんだけど、勝手にできないから確認中なのさ。


 「アルティス、作る予定の剣を一本作って欲しいそうだ。」

 『判った』


 スミルのハーフプレートを使って剣を作った。

 材質としては、馬車のとほぼ同じだが、剣の方が少し鉄が多めだ。

 理由としては、技量が発展途上の兵士達が使うため、ある程度の重さが無いと、威力が落ちる為だ。

 アーリアやカレンは、それを補って余りある程の力と技量があるので、剣が軽くても、問題無く使えるのだ。

 ちなみに、アーリアの剣はブロードソードだが、レイピア程の重さしかない。


 『できたよ。』


 できあがった剣をアーリアに渡すと、


 「歯は付けてないんだね?」

 『まだ必要無いからね、本番では付けるよ』

 「判った、見せてくる」


 ドラゴンの鱗は、20層くらいに分かれていて、色も色々ある。

 集めたドラゴンの鱗は、全属性魔法に耐性が有るらしいので、その全属性分の鱗が重なっているんだと思う。

 色々試した結果、一番使いやすいのが外側から2番目の層で、硬くて欠けもヒビも無い、綺麗な状態だったんだ。

 カラフルな層を混ぜると劣化するし、単体だと対応属性以外には弱いし、重ねて圧縮すると重くなる。

 軽量化の魔法も無いから、使い勝手が悪すぎて、今は放置してるよ。

 まぁ、元々属性魔法なんて、全く考慮されてなかったし、耐性は付与魔法でも刻印でも付けられるから、態々重くしてまで全属性に対応する必要なんてない。


 「アルティス、許可が下りたぞ、作っていいそうだ。」

 『了解ー』

 

 まだ全員の鎧を、回収できていないんだよね。

 家族や恋人から、鎧の内側にメッセージを書いてもらってる人が、結構いてね、そういう人たちは、鎧を潰されるのを嫌がってるのさ。

 兵士になった時から、ずっと身に着けていた物だから、思い出もたくさんあるんだろう。

 気持ちは判るので、無理に回収はしていない。

 一部の人は、欠片をネックレスにして、首から掛けているよ。

 そのハーフプレートを着けていて、無事でいられたからって事らしいんだけど、モコスタビアでは戦っていなかったから、無事なのは当たり前なんだよなぁ。

 貸与品だから、本当は持って帰っちゃ駄目なんだけど、持って帰った事のある人の話では、邪魔だから、捨てるか売るかして来いって言われるらしいから、時間の問題だとも言われたよ。

 まぁ、他に使い道なんか無いし、重いし臭いからね。


 鋼鉄はそのままなら、鈍い銀色になるんだけど、鱗と混ぜると白みがかった銀色になるんだよ。

 鱗の比率が高いほど白さが増すから、今回の剣はそれ程白い訳では無いという事になるね。

 だから、王都に行って近衛騎士団になるんなら、丁度いいって事で、鎧の方はさっさと作れたんだけど、鎧を作ったら、剣の分が足りなくなったので、今回新たに許可を貰ったんだよ。

 それぞれの鱗と鋼鉄の比率は、鎧の方が7:3で、多い方が鱗、対して、剣は3:7で、多い方が鋼鉄だ。


 剣の作成は、すんなり終ったよ。

 鎧を作る時に、鱗と鋼鉄の合成は、たくさんやったから、簡単だった。


 剣はまとめてシャープネスをかけたんだけど、その時、ふと思いついた事があるんだ。

 剣に刻印で各属性を刻み込んでおいて、その刻印に魔力を流せば、属性剣にならないのか?ってね。

 一本試しに作ってみたよ。


 『コルス、その刻印に魔力を流してみて』

 「はい、・・・流しましたけど、何か抵抗がありますね。」

 『そうか、やっぱり駄目か。』

 「何をやろうとしてたんですか?」

 『刻印に魔力を流せば、属性剣になるかと思ったんだよ。』

 「属性剣ですか、そういう武器には、必ず魔石が付いているんですが、何か意味があるんでしょうか。」

 『魔石か、魔石で属性を変換する?、いや、貯めるのかもしれないな。やってみよう。』


 剣の鍔に魔力鉱石を埋め込んでみた。


 『これでできるか試してみて』

 「はい、・・・んー、やっぱり抵抗がありますね。」

 『鉄じゃ駄目とかか?、魔力の通り道が無いから、魔石に魔力が貯まらないって事かもしれないな。』

 『ちょっと貸して』


 属性剣は難しそうなので、変形に変更して、魔力の通り道を追加してみた。


 『これでどうだろ?』

 「はい、・・・うわっ!、何ですか?これ」

 『属性は難しそうだったから、変形する方でやってみた』

 「これ使えるんですか?」

 『どうだろう?』

 「何か面白そうな剣作ってますね、アルティス様、その剣は一体何なんですか?」


 カレンが話しかけてきた。


 『属性剣みたいなのができないか、実験してたんだけど、難しそうだったから、変形する剣を作ったんだよ』

 「へー、変形するんですねー、おもしろーい!」


 カレンの目がキラキラしてる。

 こういうのが好きなのかな?、一応ロマンではあるんだけどね。


 突然、剣を持っていたコルスが倒れた。


 『コルス!?』

 「ちょ、コルス!、どうしたの!?」

 『あ、MPが切れてる・・・これ持たせて寝かせてあげて』


 魔力鉱石を渡した。これ持ってると、MPの回復が早まるみたいなんだよね。

 アミュレットも魔力鉱石で作り直そうかな?MP回復に使えて便利にならないかな?


 『ん?、コルスのアミュレットのMP0じゃん!?全部使い切ったって事か!?

ちょっとカレンで試して・・・、あ、ちょ、逃げるなよ!』


 コルスが倒れたので、コルスの個室で様子を見てるよ。

 カレンとの会話に夢中で、MPを見て無かったのは、俺のミスだからね。

 悪い事したなぁ。


 「アルティス様が悪いなんて事はないですよ、私のミスです。」

 『コルス大丈夫か?』

 「はい、もう大丈夫ですので、そこから降りて頂けませんか?」


 俺は今、コルスの上に乗っている。


 『アミュレットにMP補充してるから駄目だよ。』

 「私、最近はアミュレットにMP補充してないんですよ。」

 『何で?』

 「アルティス様に頼り切ってる気がして、もっと自分の力で努力をしたいと。」

 『何言ってるんだよ!、コルスに何かあったらどうするんだよ!』

 「あ、いえ、そんなに怒らなくても・・・。」

 『怒るに決まってんだろ!?、俺はお前に何かあったら暴れるぞ?この国を滅ぼすぞ?』

 「怖い事言わないで下さいよ、判りましたよ、MPは補充します。」

 『ならいい、アミュレットはお守りなんだよ。コルスが窮地に陥った時は、これが役に立つんだよ。絶対にMPは切らすなよ?』

 「・・・判りました。」

 『まぁ、もう魔力鉱石を使って作り直したからな、勝手にマナをギュンギュン吸収して、MPが切れるなんて事にはならないがな。』

 『それと、防具の腿に、針を入れられる専用の場所を作っておいたぞ、新しい針も入ってるが、数は少ない。』

 「この手に増えてる物は、何ですか?」

 『針を撃ち出せる射出機だ。』


 「何で増やしたんですか?」

 『何となくだ。』

 「何となくで増やさないで下さい。」

 『別にいいだろ?手数は多い方がお得感があるんだよ。』

 「全然お得に感じませんが?」

 『何で?』

 「アルティスさんの期待が、ずっしりと圧し掛かってる様な気がします。」

 『何で判ったんだ?』

 「ほらー!?、ちょっと重くないですか!?」

 『太ってないぞ?』

 「そっちの重さじゃなくて!期待の重さですよ!?」

 『みんなに期待してたんだけどなぁ・・・』

 「あの3人の事ですか?もう許しちゃったらどうですか?」

 『アリエンに負けて、悔しがるのかと思えば、落ち込んで練習もしないんだぞ?』

 「でも、居ない間、暫らく洗脳されてたじゃないですか、その時の癖が残ってってどうしたんです?」

 『ちょっと試したい事ができたんだよ。ありがとう。』


 『リズ、バリア、メビウスちょっとこっち来い。』


 ヘロヘロの3人が来た。


 「もう許して下さい・・・。」

 『オークの玉を「アルティス?」』


 3人の表情を見ると、3人とも目をキラキラさせている。


 『ワラビ、頼む。』

 『はい、行きます。』

 『[エビルイレース]』


 3人が、目をパチクリしてアルティスとワラビを見ている。


 『大丈夫か?』

 「えっと」

 「「「失礼な考えを持ってしまい、申し訳ございません。」」」


 何をしたのかというと、洗脳されていた間に、邪な考えを植え付けられている可能性を考えた。

 そして、玉の話をする事で、反応を見たのだ。

 離れる前は、3人共顔を真っ赤にしていたのだが、今は、目をキラキラさせていた。

 一週間と少し離れていただけで、そこまで代わる奴なんて、いないよ。


 『ワラビは何か感じたか?』

 『はい、砕ける音を3人から聞きました。』

 『じゃぁ、成功だな?』

 『はい、成功したと思います。』

 『よし、特訓は終わりだ。』


 砦の暗部から緊急連絡が入った。


 『アルティス様、助けて下さい。』

 『どうした?』

 『ヒマリアとリシテアが、アルティス様が居ないって大泣きしてるんです。』

 『・・・俺、そんなに懐かれてたっけ?』

 『そうですね、お仕事の邪魔にならない様に、気を使っていましたよ?』

 『そうなんだ、全然気が付かなかったな。』


 コルスが、砦の暗部に二人を連れて来いと、無茶振りをした。


 『貴方たちが連れて来なさい。』

 『コルス?どうやって追いつくんだ?』

 『暗部なら、水の上くらい走れますよ。』

 『ここは駄目だろ、危険過ぎる。』


 何が危険なのかと言えば、人間など一口で飲み込める魚がウジャウジャ居るのと、バウンドパイクが狙ってくるし、子供を背負って躱して水上を走れとか、要求が多すぎるだろ。


 だが、どうやって砦に行くか。


 『アルティスー、私が連れて来るよ。』

 『キュプラ?』

 『私なら水の上走れるし、あの二人を連れて来れるよ。』

 『キュプラがやる気でいるが、あるじはどう思う?』

 『じゃぁキュプラで。』

 『判った!行ってくる!』


 ピョーンと船から降りたと思ったら、水しぶきを上げて走り去っていったよ。

 まるで、戦闘機が水面ギリギリで飛んで行く映像の様に、あっという間に見えなくなった。

 足の先に糸を使って、水蜘蛛の様な物を着けていたのが見えた。

 ソフティーに感じた事を言ってみた。


 『アラクネって万能なんだね・・・』

 『アルティス程じゃないよー?』

 『俺、水の上なんて走れないよ?』

 『空飛ぶじゃん。』

 『そういう魔道具を作ったからな。』

 『アレに乗って行けば良かったんじゃないの?』

 『アレはまだ、試作段階だからね、少ししか飛べないんだよ。』

 『そっかー。』


 ヒマリアとリシテアは今も大泣きしているだろう、挨拶しないで来ちゃったから、寂しかったのだろうか。

 キュプラから念話が届いた。


 『アルティスー、二人とも大泣きしてるー。何か持って行くものあるー?』

 『特に無いよ。連れてきて。』

 『判ったー。』


 というか、もう着いたのか。

 早いなぁ。

 走りでマッハ超えて居そうだな。

 数分でキュプラが戻ってきた。


 「うああぁぁん、アルティスー、どこ行っちゃうのー」

 「うえぇぇん、アルティス置いてっちゃやだー」

 『ああ、置いて行って悪かったな、もう置いてかないから、一緒に行こうな。』


 キュプラの背で、はしゃいでいたヒマリアとリシテアは、アルティスの姿を見て、泣きながら抱き着いてきた。

 本当は、これから戦争をやるかもしれないので、連れて行きたくは無かったんだけど、何も言わずに出て来ちゃったからな、『また』置いて行かれると思って、寂しくなっちゃったんだろう。


 目の前にキュプラがいるのに、見向きもされないのは、そういう関係だったからなのだろう。

 二人に挟まれて、上から涙や鼻水、涎なんかが落ちて来るが、今は我慢しよう。


 エカテリーヌ夫人とペティが、部屋から出て待っており、二人を出迎えた。

 俺は、ヒマリアに抱っこされ、ヒマリアはカレンに抱っこされ、リシテアはリズに抱っこされて、夫人たちの部屋に向かった。

 部屋には、カレンが作ったドーナツとクッキーがあり、美味しそうな匂いに釣られて、3人が飛びついた。

 ん?3人?


 『ペティ、太るぞ?』

 「んぐっ!?」

 ドンドンドン

 「ちょっと!食べてる時になんて事いうのよっ!、死ぬかと思ったじゃない!?」

 『両手にドーナツ持って、がっつくからだろ?、食うなら動けよ、また顔の周りがタプタプしてきてるぞ?』

 「え!?マジ?、ちょっと、ヤバい?」

 『ちょっとどころでなく、かなりヤバいぞ?、一度太ると癖になるからな?』

 「私だけ?お母様は大丈夫なの?」

 『ヤバいな。』


 「あらあらまぁまぁ、あまり太っては示しが付きませんわね、カレン、お茶請けは、太らない物で頼みますわ。」

 「畏まりました」

 『平民は、重税で貧困に喘いでいる人が多いので、太っていると心象悪くなりますね。』

 『アルティス様、太らないお茶請けなんてありますか?』

 『食べ続ければ、何喰っても太るぞ。』

 『じゃぁどうすれば・・・』

 『出す量と、時間を制限しろよ、出し続けるから駄目なんだよ。』


 『でも、失礼にあたるのでは?』

 『太らせる方が失礼だろう?、痩せる為に、お茶請けを出すのを午後3時のみにすると言え。』

 「エカテリーヌ様、瘦せる為に、お茶請けは毎日午後3時のみとさせて頂きますが、よろしいでしょうか?」

 「仕方ないわね、ペティも同じ様にしなさい。」

 「・・・はい、判りました、お母様。」


 『アル君何か無いの?痩せるお菓子とか。』

 『食わないのが一番痩せるんだよ!』

 『チェッ』

 『太った分運動して痩せる事を推奨します。』

 「運動って何をすればいいのかしら?」

 『本当は、散歩するのが淑女としてふさわしいとは思いますが、ここは船の上ですし、陸では馬車に乗ったままになりますので、座ったままでもできる運動をするのが良いでしょう。』


 「例えばどんな?」

 『座ったまま、膝を30秒ずつ上げる、これを左右で繰り返す。右腕を左肩の後ろに伸ばし、左手で右肘を押さえて、顔は真っ直ぐ正面を向いたまま30秒、左腕もやります。』

 「ふっ、ほっ、確かにこれは、中々の運動になりますわね、腕の運動は背中が痛くなってきますわ!」

 『頑張って続けましょう、ペティの猫背もそれで治りますよ。』

 「あらっ、それはいいわね!、ペティ、私と一緒に毎日やりますわよ!」

 「もう、アル君ってば、余計な事をお母様に教えないでよー。」

 『でぶっちょペティには、必要な事ですので。』

 「ムキー!」


 「ペテーどうしたの?」

 「ペテーお腹痛いの?」

 『ペテーお肉がはみ出すの?』

 「ペテーじゃなくて、ペティーよ?ぺ・ティー」

 「ペティー?」

 「ぺちー?」

 「ヒマリアちゃんは大丈夫だけど、リシテアちゃんは発音できないのね。」

 『まだ小さいからな。』

 「アル君大丈夫?」

 『暫らくこのままでいるよ。寂しがらせちゃったからな。』


 ヒマリアとリシテアは、口の周りを油でテカテカにしながら、お菓子を堪能した後、疲れたのか眠ってしまった。

 アルティスは、リシテアにがっちり掴まれたままで、動けずにいたが、エカテリーヌ夫人がリシテアの手を解してくれたので、出る事ができた。

 しかし、近くにアルティスがいないとわかると、部屋を探しまくり、それでも居ない事が判ると、船内を泣きながら徘徊し始めた。

 カレンとリズは、二人を抱き上げ、俺の所へ連れてきた。

 二人は俺を見つけると、俺を抱きたいと手を伸ばしたが、


 「ヒマリア、リシテア、アルティス様は忙しいのだから、邪魔しちゃ駄目ですよ?」

 「邪魔ばかりすると、本当に知らない街に置いて行かれちゃいますよ?」

 「え?ヤダヤダ!置いて行かないで!いい子にするから、置いて行かないで!」

 「ヤーダー!アルティスと一緒にいたいー・・・ヒック・・・ヒック・・うああぁぁ、アルティスと離れるのやだーぁ、あああああぁぁぁ」


 カレンとリズが、ヒマリアとリシテアを脅す様に、言って聞かそうとするが、ヒマリアはいい子にすると言うが、リシテアはイヤイヤして泣いてしまった。


 「寂しいんですねぇ、どうしますか?」

 『どうしますと言われてもだな・・・、どうしたらいい?』

 「困ってるアルティス様って、見るの初めてかも」


 リズが困ってる俺を見て、面白がっている。


 『ついさっきまでは、リズにすんげー困ってたんだよなぁ』

 「あーそうですね、拗ねてましたもんね、アルティス様。」

 『折角、一人前に育て上げたと思ってたら、だらけまくってて、アリエンにすら二人掛かりで5分持たないんだもんな、そりゃぁがっくりするよ。裏切られた気分だったんだからな?』

 「ううぅ、すみません、もう二度とあんな風にはなりませんから。」


 『アミュレットを外した瞬間を、狙われたんだろうけど、情けないったらありやしない。仕方ないから、お前らには、これをやる。指輪なら、着けたまま風呂にも入れるだろ?』

 「婚約指輪ですか?」

 『違うよ?』

 「「残念ですぅ」」

 『ライバル多くて大変だな。』


 「ああ、そうですね。ヒマリアとリシテアもそうですが、ミュール、アリエン、ウルチメイト、ソフティーもですか。強敵ぞろいですね。」

 「あれ?私は?」

 「あんたは、ガッカリさせた分最下位だよ。」

 「ううぅ・・・しゅみましぇん」


 『そんな事より、どうしよう。ヒマリアとリシテアの事』

 「誰かを専属で付けて、面倒を見てもらえばいいんじゃないですか?」

 『メイドを一人付けてもらうか。』

 「誰がいいですかね?」

 「パー『やめろ』」


 メイドを付けるのはいいが、バカメイドは駄目だ。あいつは放逐したい奴NO.1だ。


 『ウルチメイトでいいんじゃないか?』

 「・・・魔族ですよ?」

 『魔族じゃ駄目なのか?』

 「判りません。」


 魔族メイドを付ける事に、カレンが難色を示したが、理由を思いつかない様だ。


 『まだ認められないのか?』

 「うーん、そういう訳では無いんですが、何か、何かが引っ掛かってて、信用しきれないというか。」

 

 『ウルチメイト、ちょっと来てくれ』

 『はい、すぐ行きます!』


 1分待たずに、ウルチメイトが部屋に来て、俺の前に跪いた。


 『お前子供の世話は、した事あるか?』

 「子供の頃は、孤児院にいましたので、小さい子には、慣れているつもりですが、何かありましたか?」

 『この子達の面倒を見てやってくれないか?』


 ウルチメイトが、カレンとリズに抱っこされている、ヒマリアとリシテアを見た。


 「この子達が、アルティス様からお名前を頂いたという、子供ですか。羨ましい限りです。」

 『なんだそれ?、自分の名前をお前は、嫌なのか?』

 「違います、アルティス様に名付けてもらえる、幸運に恵まれたいだけです。」

 『俺は、お前の名前好きだぞ?微妙だが。』


 一文字違えば究極だったからね。


 「微妙とはどういう・・・、喜んでいいのか悪いのか、判りかねます・・・」

 『微妙というのは、ウルティメイトなら、究極という意味があるが、一文字違いで、惜しいという事だよ。』

 「では、その一文字違いの方を、私目に名付けて頂いても。」


 ウルチメイトにその名前を付けても、名前負け確定だからな?


 『お前を究極の部下と、思える様になったらな。』

 「はっ!、必ず究極と呼ばれる様に、誠心誠意努力致します!」

 『で、面倒をみるのか?』

 「はい!、この子らをアルティス様の側近と成れるべく、徹底的に教育『おい』」


 このバカ、子供を戦闘マシーンにでもする気かよ!


 「え?、どうかされましたか?」

 『どうかした?じゃねぇだろ、普通でいいんだよ、徹底教育なんてしなくていい。』

 「しかし、普通ではアルティス様の傍にいるのは、不可能かと存じますが・・・」

 『俺の周りは危険地帯だと?』

 「はい、その通りです。」


 おいおい、どこが危険地帯なんだよ?たかがアラクネと、魔族とワーキャットが居て、アーリアの従魔でいるこの・・・、ちょっと危険かも。


 『なんか酷い事考えていなかったか?』


 突然、アーリアから念話が!


 『そ、そんなこと思ってないよ?』

 『動揺してないか?』

 『して無いよ、ちょっとびっくりしただけさ。』


 あーびっくりした。


 『危なくならない様に、気を付けてくれ。』

 「嫌です。」

 『何でだよ!?』

 「アルティス様の雄姿が見られなくなるじゃないですか!」


 ウルチメイトがとんでもない事をいいだした。

 うーむ、ここで怒鳴っても、意味無さそうだしなぁ。

 

 『褒美がもらえるとしたら何がいい?』

 「え?それは、やっぱり名前がいいですね!」

 『じゃぁ、俺が納得いく様に、育て上げたらいい名前、駄目だったら、魔王と同じ名前をやろう。』

 「ぐっ!、それは・・・」

 『嫌なら他の奴に頼「やります!」』


 「やってやりますよ!、全身全霊にかけて!立派な戦闘淑女に育て上げます!」

 『戦闘淑女ってなんだよ!?本人たちが望むなら、多少の訓練はしてもいいが、基本は淑女で頼むよ。戦闘は要らない。判ったか?』

 「判りました。立派な淑女に、育て上げましょう!。」


 『じゃぁ、俺の部下の証だ。』

 「こ、これは!?婚約指輪!?」

 『違うよ!?何でお前ら、揃いも揃って、俺と婚約したがるんだよ!?おい!、左手の薬指に嵌めるな!。魔王の名前に似せた名前付けるぞ!?』

 「げっ!?ち、違う指にします!」 


 『よし、ヒマリア、リシテア、お前たちの専属メイドのウルチメイトだ。挨拶しなさい。』

 「私が、ヒマリア様とリシテア様のお世話を仰せつかりました、メイドのウルチメイトと申します。以後よろしくお願い致します。」

 「ヒマリアだよ。よろしくね!」

 「リシテア、よろしく」


 ヒマリアは問題無さそうだけど、リシテアは少し、人見知りの嫌いがあるかもしれないな。

 早く懐いてもらえると助かるんだが。

 と思っていたが、心配は杞憂だった様だ。

 夕飯が終る頃には、リシテアは抱っこされ、ヒマリアは手を繋いで3人で部屋に戻って行った。

 翌朝の朝食の時も、ウルチメイトを挟む様に席に座り、お行儀よく食べる練習をしていた。


 『ヒマリアもリシテアも、お行儀よくご飯が食べられてるな。偉いぞ。』

 「アルティスおはよう。」

 「アルティスおはよー。」

 「アルティス様、おはようございます。二人ともいい子ですよ。どこで拾って来たんです?」

 『キュプラのペットだったらしいぞ。』

 「きゅ・・・、アラクネって人間を飼うんですか?」

 『さぁな、何かが琴線に触れたんだろ。』


 『二人とも、何かやりたい事とかあるか?』

 「お料理したい!」

 「アルティスと遊びたい。」

 『ごめんな、忙しくて遊んでる暇が無いんだよ。代りに、ウルチメイトが遊んでくれるからな?』

 「お料理は?」

 『お料理は、作る時間になったら、呼びに行かせるよ。カレンかメイドが行くからな。』


 「私のメイドとしての仕事は無くなったのですか?」

 『ヒマリアとリシテアを最優先にしろ。』

 「判りました。」


 朝食後、甲板に出てみると、セイレーンが漁をしているのが見えた。


 『お、やってるなぁ。』

 「アルティス!?」

 『朝から精が出るな!』

 「おはようございます、アルティスのおかげで、保存が利く食料をたくさん作れるようになったし、網も丈夫な物をもらったからね!」

 『ああ、おはよう、網のほつれとかは無いか?』

 「まだ大丈夫よ、これからカレースパンに向かうの?」

 『あぁ、そうだよ?』

 「大丈夫なの?カレースパンは、魔王軍に占領されたらしいわよ?」

 『マジか!?、聞いてないぞ?そんな話!?』

 「三日前に行った時に、港に魔族がいたから、聞いたのよ。」

 『緊急連絡!カレースパンが魔族に占領されているらしいぞ。』

 『という事は、この船はカレースパンが占領されていると知りながら、俺達を運んでいると?』

 「そういう事なんじゃないの?」


 船上が、にわかに慌ただしくなってきた。


 『どうするかな、どうせ住民を人質にとか言って、港に集結してるんだろうしな。』

 「私が、偵察しに行ってあげようか?」

 『いやいや、危険だろ?』

 「大丈夫よ、私は攻撃されないから。」

 『何で?』

 「だって、叫んだらみんな倒れちゃうもの。」

 『あぁ、叫び声に、〈状態異常魔法〉が乗るのか。』

 「村のみんなも、協力してくれると思うわよ?」

 『まぁ、どんなに急いでも、明日の昼過ぎの話だからな。会議して作戦が決まったら、連絡するよ。』

 「判ったわ、決まったらシーアまで連絡頂戴。」

 『シーア?』

 「私の名前よ。」

 『おお、そうか、じゃぁ、連絡するよ。』


 シーアは漁に戻って行った。


 俺達は、会議を始める前に、船長に会いに行ったが、船長室には、人間ではなく、魔族が居た。

 イケオジ風だけど、需要あるか?


 「やぁやぁ、人間どもよ、やっと気が付いてくれたか。間抜け過ぎて、このまま気が付かずにカレースパンに、行ってしまうのかと思ってたよ。」


 魔族が煽ってきたが、アーリアーが煽り返す。


 「我々をカレースパンに、招待してくれるというのか。悪いな、もてなしは豪勢にお願いしたいものだが、魔族如きには、豪勢な食事も接待もでき無さそうでな、先に話しておこうかと思って、来たまでよ。」

 「ほう、我々魔王軍に勝つつもりだ、という事ですかな?」

 「楽勝だろ、片手間でできる事だな。」

 「はっはっは、これは面白い、冗談がこれほど上手いとは、思いもよりませんでしたよ。」

 「我々の実力も測れない程の雑魚に、話すジョークなど無いがな。」

 「なに?、この私に勝てるとでも?」

 「貴様は、この船の責任者ではないのか?、アラクネが、この船に乗ってるであろう?知らんのか?」

 「あぁ、アラクネが乗ってる件だな、あれは、魔王軍に参加する為に来たのだよ。」

 「魔王如きに、アラクネが挨拶に来るだと?。二人居る内の片方は、私の従者だ。貴様ら如きに、アラクネが会いに行くなど、馬鹿馬鹿しくて片腹痛いわ。」

 「あっはっはっはっは、アラクネが人間の従者になっただと?、バカも休み休み言え。」

 『キュプラおいで。』

 「お呼びでしょうか?」

 「私の従者のアラクネだ。」


 船長室に、アラクネのキュプラが、入ってきたのを見て、船長の魔族がたじろいだ。

 魔族の顔には、滝のような汗が流れ、足がブルブル震えている。


 「キュプラ、コイツを天井から吊るしてやれ。」

 「畏まりました。」

 『キュプラ言葉を覚えたんだな、凄いな』


 キュプラが魔族を縛り上げ、天井からぶら下げて、俺の方を向き、ウインクした。


 『おお!、ウインクまで!』

 『元々人間の言葉は、少しくらいなら話せたから。』

 『そうなんだ、意外と優秀だったんだな。』

 『意外ととは心外です。』

 『あはは、ソフティーにも教えてもらえるか?』

 『やってるよ?、ソフティーも少しは話せる様になってきたよ。』

 『マジか、いいないいなぁ。』


 ちょっと言葉が話せる、魔道具でも作ってみようかな?

 アルティスの口は、人間の言葉を話すのには、向いていないのだ。

 ケットシーは話せる様になるらしいが、魔法で補助しながら喋るらしく、話せる様になるというのも、種族特性の一つなんだそうだ。


 船長に話を聞いた。


 「この船の船員はどうした?」

 「この船は自動操縦で、勝手に港まで行くから、特に船員など必要無いんだよ。だから、この船に船員は、乗っていないし、船の操作は、何もしていない。」


 元々の船員や船長は、カレースパンで捕らえられているそうで、特に殺したりは、してないという。


 「カレースパンでの、魔族の作戦は?」

 「そんなの話せる訳が無いだろ!」

 「キュプラ」

 「はい。」

 「や、やめろ!」


 キュプラが脅すが、喋る様子は無い様だ。


 「アルティス、できるか?」

 『やるよ。ペティ来るか?』

 『やるー!!』

 「お嬢様・・・。」


 ペティーの反応に、アーリアが呆れる。

 魔族を椅子に括り付け、仰向けに寝かせ、羽を持ったペティが、薄笑いを浮かべながら迫っていく。


 『コルスも手伝え。』

 「はい。」

 「久々で、ちょっと興奮してきたわ。」

 「な、何をするんだ!?」

 「うひゃっ!やめ、や、ワハハハハハハハハ」

 「ちょ、ワハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 「苦しワハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

 椅子が床に固定されている為、逃げる事ができず、3分で落ちた。


 「たす、たすけ・・・てえ・・・ゼェゼェ」

 『ペティステイ』

 「はぁはぁはぁ、はな、話すものか」

 『ペティゴー』

 「ワハハハハハハハハハハッハハッハハハ」

 「わかっ、アハハハアハアハアハハハハハアハッハッハハ」

 『ステイ』

 「話す、ゼェゼェ、話すから、ハァハァ、もう、ハァハァハァ」

 「早く言え」

 『構え』

 「ひぃ!話す!だから!やめてください!お願いします!」

 「港の住民を人質にして、待ち伏せするんだ!」

 「ハァハァハァ、魔族の精鋭が待ち構えているんだ、ハァハァハァ、どうせ、お前達に未来は無いのだ。」

 「人数は?」

 「100人程だ」

 「なんだ、楽勝だね。」

 「な、何だと!?」

 『あ、こいつの反応みたいから、ちょっと待ってね。』


 ジャケットに付けてある、ブローチをコルスが取ると、魔族の様子が一変した。


 「はっ!?、何だ此処は!?どこだ?何故、身動きが取れんのだ!?」

 『お前が、この船の船長だからだ。』

 「はぁ?船長だと?私がか?。私は船など動かした事は無い!」

 『お前の名前は?』

 「グリコール・グルコシドだ。」

 『お前は魔王軍の先鋒として、俺達を魔王軍まで案内する役にされてたんだよ。』

 「な、何だと!?、私は子爵なんだぞ?、何故そんな事になってるんだ!、離せ!私を誰だと思っている!」

 『お前が、子爵だろうが、柄杓だろうが、俺達には関係ねぇんだよ。』

 『あぁ、お前色々付けられてんな。全部回収しておくか。』


 襟、胸ポケット、ベルト、背中に魔道具、後頭部には寄生虫まで付いている。

 指輪も3つ付いているが、どれも洗脳用だ。

 寄生虫を無理やり取ると、グリコールは死んでしまった。

 寄生虫から伸びる触手が、脳に達していた様だ。


 寄生虫の処理は、ワラビに任せた。

 ブローチは、コルスから受け取っておいたよ。

 解析して、遠隔で解除できるようにしておきたい。

 他のアクセサリーについても、要解析だな。


 『えー、カレースパンの対応について、会議を始めます。』


 アルティスが会議の開始を宣言し、アーリアが概要を説明する。


 「まず、魔族が話した内容では、カレースパンの港には、人間を人質にして、魔族の精鋭部隊、約100人が待ち構えているという話だった。我々は、人質を守りながら、カレースパンの解放を目標に行動しなければならない。」

 「そこで、問題になるのが、我々が船上に居るという事だ。それを踏まえた上で、どう動くか意見を述べて欲しい。」


 「現在のカレースパンの状況は、判らないのですか?」


 リズが現在の状況について、質問をした。


 「まだカレースパンまで半日以上かかる距離だ。我々が船上にいる以上、地上とは状況が違うので、偵察は出していない。」

 『それについて、セイレーンから、偵察してもいいとの申し出があったので、方法の一つとして、考えてもいいと思う。ただ、俺は、巻き込みたいとは思わないけどね。』


 アーリアが偵察を出すのが困難な事を説明するが、アルティスが、セイレーンの申し出があった事を報告した。


 「セイレーンに偵察を頼むのか?だが、彼らを戦争に巻き込むのは、どうかと思う。これは、我々人間と魔族の戦いだ。関係の無いセイレーンに頼るのは避けたい。」


 アーリアも同意見の様だ。

 アルティスが、セイレーンに話しかけたのは、好奇心からであり、結果として友誼を結べたと言っても、それは戦争の為ではなく、交流をした結果だ。

 たとえ、セイレーン達が、アルティスに恩義を感じていたとしても、戦争に巻き込めば、死人が出るかもしれないので、無理をして欲しくはないのだ。

 平和な事で恩義を感じたのなら、平和な事で返して欲しい。


 「他に偵察を送る方法はあるんですか?」

 「暗部が海上を走れるほか、アラクネ達も海の上を走れるな。」


 他の偵察方法について、リズが質問をして、アーリアが暗部とアラクネの話をした。


 ザワザワ

 「アラクネの背に暗部を乗せて、偵察をしてもらうのはどうでしょうか?」


 コルスが暗部を送り込む方法を、提案した。


 『ソフティー、何人くらい乗せていける?』

 「んー、上陸する場所にもよるけど、一人10人は、運べると思う。」

 『上陸する場所の条件は?』

 「網で包んで連れて行くから、港だと沈むか岸壁に当たって死んじゃうかも?」

 『砂浜が最適という訳か。』


 砂浜という条件を聞き、コルスが考える。

 この近くには、砂浜が無いのである。


 「20人も居ないので、4人程を網ではなく、背中に乗せられませんか?」

 「んー、それだと不安定になるから、3人までかなぁ?途中で転ぶと、私も死んじゃうかも知れないから。」


 コルスの質問に対し、ソフティーが答えるが、4人は無理だという。

 理由としては、4人だと立って乗るしか方法が無くなり、あのスピードだ。

 途中で転べば、音速で海面に叩きつけられる事になり、ソフティー自身も危険になるという事だ。


 「乗せ方はお任せしますが、お二人で3人ずつ乗せて行けば6人は、上陸できますので、十分偵察は可能かと思います。加えて、新装備を頂いていますので、多少離れた場所に降ろして頂ければ、偵察4人の援護二人で、活動が可能となります。」

 『ぶっつけ本番になるが、仕方がないか。』

 「狙撃の練習はさせていますので、問題無いと思います。」


 時間があれば、グライダーでも作って、空を飛ぶ練習ができたのにな。

 幾ら暗部が運動神経が抜群にいいと言っても、ぶっつけ本番で空に飛ばすのはしたく無いな。

 いつ練習していたのかは判らないが、狙撃の練習はしていたようだ。


 暗部の新装備には、超遠距離狙撃用の魔道砲を搭載しているが、魔道砲の基本理論として、魔力の特性を生かして作ってある。

 魔力は、風や重力に、影響を受けにくく、空気抵抗も無い為、物質に変化させるのではなく、魔力のまま飛ばす事で、超遠距離からの狙撃ができるのだ。

 ただ、魔力の塊の場合、拡散する傾向が強い為、薄い膜を表面に形成して飛ばす様に設定してある。

 所謂フルメタルジャケットの様な物だ。


 弾種もいくつか用意してあり、榴弾、徹甲弾、ダムダム弾、榴散弾の4種類だ。

 榴弾は、遅延信管で、当たった0.2秒後に爆発する。

 徹甲弾は貫通力を高めてあり、ダムダム弾は、爆発はしないが、体内で潰れて広がる。

 榴散弾は触発信管で、何かに触れると爆発して、破片をばら撒く様になっている。

 どの弾頭も殺傷力高めだが、戦争だから仕方がない。


 たとえ、相手が洗脳により操られているとしても、多数を相手にするのだから、いちいち助けるなどと、悠長な事は言っていられないのだ。

 助ける相手は、敵では無く、味方と市民だ。


 一応、助ける方向の弾も検討はしてみたが、弾にディスペルを仕込むと、発動した瞬間に弾が霧散してしまい、周囲には何の変化も起こらなかった。

 多分、魔力弾を消去して終るのだろう。

 また、リリースで解放しようともしたが、この魔法は、どちらかというと、()()ではなく、()()()()傾向が強く出る為、洗脳から解放されるのではなく、抑圧されていた怒りや不満、欲求等を、解き放ってしまう様だ。

 こっそり、暗部の一人に撃ったら、突然脱ぎ始めて、止めるのが大変だった。

 洗脳を解く方向で考えているのは、混戦の中で助ける場合、意識を無くすと踏みつぶされて終わり、暴れると袋叩きにあって死ぬ。

 単純に、意識を残したまま、洗脳を解くという方法しかないのだが、これが難しかったという話だ。


 他にも、状態異常で足止めさせる方法もあるが、魔族の様に高いMAG値が相手になると、状態異常が殆ど効かなくなるか、効果時間が短くなるのだ。

 そうなると、撃つのは雷系の魔法になってしまい、対象が単体では無くなってしまうのだ。

 人間が感電した場合、ほぼ確実に死んでしまうので、使えないという訳だ。


 そもそも、魔族を助ける条件としては、基本的に、捕縛して無力化も含む〈無抵抗〉の状態の時だけだ。

 殺すなら、始めから無力化等する必要は無いのだ。

 目の前に居て、直接助ける方法があるのなら助けるが、目の前に居らず、その場が安全かどうかも判らないのであれば、苦労して洗脳をといてやる必要は無く、見ず知らずの敵である魔族を、苦労してまで助ける義理など、全くないのだ。


 『コルスのいうとおり、問題無いのであれば、その作戦でいいと思う。』

 「うむ、他に何か意見はあるか?」

 「はい」

 「ワラビ、どうぞ。」

 「悪魔対策はどうしますか?」

 「アルティス、何か考えているか?」

 『光属性の[ホーリーライト]を出す、魔道具をあちこちに設置すればいいだろう。』

 「あちこちというのは、道沿いに置くという事でしょうか?」

 『いや、空に打ち上げる。』

 「それでは、効果が薄いのでは無いでしょうか?」

 『足止めができれば、良いと考える。神聖魔法については、結界展開後か、その前に広場の中心に、神像を置くか、だな。』

 「先に神像を置くのは駄目でしょうか?」

 『魔族に盗まれるぞ?』

 「・・・それもそうですね。失礼しました。」

 「他に意見は?・・・特に無い様だな。では、とりあえずの作戦として、アラクネで暗部を6名上陸させ、4人が偵察、二人が援護で情報を集めるとする。コルスは、メンバーの選定を頼む。以上、解散」


 会議が終わったので、セイレーンのシーアさんに、報告をしなきゃだね。


 『シーアさん』

 『はい、アルティスね。どうだった?』

 『偵察は、アラクネと、こちらの偵察部隊がやる事になったよ。』

 『そう、それは残念ね。』


 ん?


 『どうして?』

 『だって、恩も返せてないのだから、少しくらい役に立ちたいと思うでしょ?』

 『うーん、気持ちは判るけど、これは、人間対魔族の戦争だからね。君たちセイレーンを巻き込みたくは無いんだよ。』

 『そお?、気遣ってくれてありがとう。』

 『それよりも、悪魔も活動している様だから、気を付けて欲しいんだ。』


 『悪魔も魔族に協力してるの?私達は大丈夫だけど、悪魔か。だから、真珠が必要なのね?判ったわ。後で、長老と一緒に真珠を届けに行くわね。村のみんなが協力して、たくさん集まったから、船がもつかしら?』

 『そんなに、大量にあるの?』

 『うん、たくさんあるわ。海底には、たくさん落ちてるのよ。』

 『セイレーンは使わないの?』

 『多少は使うけど、そんなに必要無いわ。』


 『そっか。もし良かったら、セイレーンの崇める神の像とか作れるよ?』

 『え?ホントに?ちょっと長老に聞いてみるわ!』


 暫らくして、返答が返ってきた。


 『アルティス!長老が是非お願いしたいって!』

 『判った。じゃぁ、島に向かうね。』


 会話の中で、ほんの僅かに疑念を抱いた。

 会話の内容に、おかしな点は見られないのだが、ちょっとだけ気になった。

 それは、()()と言った時のニュアンスだ。

 申し出を断られた時のニュアンスとしては、「そっかー、じゃぁ仕方ないね」と思うのが普通だと思うのだが、彼女のニュアンスでは、「くそー、駄目だったか、次の手を打とう」

という感じに読み取れたのだ。

 だから、一度確認をしておいた方がいいと判断した。


 『あるじー、ちょっと、セイレーンの島まで行ってくるよ。真珠が、船を沈めてしまいそうなくらい、あるらしいから。』

 『そんなにあるのか?、仕方ない。気を付けて行ってくるんだぞ?』

 『判ってるって。ワラビー、セイレーンの島に行くから、付いてきて。』

 『判りました。』

 『ソフティー、いこう!』

 『はいはーい』


 セイレーン達の島へやって来た。

 ソフティーの背中は、ワラビには、少し刺激が強かった様だが、気絶してないので、大丈夫なんだろう。


 『ワラビ、着いたぞ。・・・ワラビ?』


 目を開けたまま、気絶してた様だ。


 『ワラビ、大丈夫か?』

 「はい、醜態を晒し、ご迷惑をお掛けしました。」


 目を開けたままだったので、目が乾いて、少し視界がぼやけて見えてる様だ。


 『とりあえず、一旦浄化してくれ。』

 「はい、判りました。[セイクリッド・ピュリフィケーション]」


 一陣の風が吹いたような感覚の後、セイレーン達の戸惑う姿があった。


 『シーアさん、来たよ。どこにいるの?』

 『アル・・・ティス?・・・ねぇ、今何かやったの?』

 『浄化を使ったよ?』

 『周りにいたみんなが倒れているのはそのせい?』

 『どこにいるの?』

 『林の中よ。』

 『すぐ行く』


 砂浜から、林の中に入ると、セイレーン達が倒れていた。


 『[鑑定]』

 『気絶してるだけだね。後頭部から血が出てる人を治療するよ。』


 数人の怪我人が出た様だが、大事には至らなかった様だ。


 『シーアさん、俺が作ったアクセサリーを付けて欲しいんだけど、どれがいい?』

 『これは、何か効果があるの?』

 『洗脳防止だよ』

 『判ったわ、この指輪にする。』

 『ちょ、左手の薬指はやめて!』

 『あら、残念ね。指標の指にしておくわ。』


 またかよ、何でみんなして・・・。


 林と砂浜の境目に、石像が立っているので、聞いてみた。


 『この石造が神様?』

 『??違うわよ?、これは何の石像かしら。こんなのここには無かった筈よ?』

 「この石像からは、悪魔の気配がします。」

 『やっちゃって。』

 「はい、[セイクリッドフィールド][セイクリッドウォーター]」

 ガボガボゴボゴボ


 神聖な、見えない壁の中に大量の水が流れ込み、中で石像が藻掻き苦しみだして、崩れて消えた。


 『シーアさん、この島の中心は、あの山のてっぺんかな?』

 『そうよ。何かするの?』

 『神像を奉って(まつって)おこうかと思ってね。』

 『頂上には、祭壇があるから、そこに奉るといいわ。私達の神様は・・・あれ?ウンディーネ様の姿絵が無いわ!?』

 『ウンディーネ・・・水の大精霊?』


 「そうですね、神ではないですが、神の使いとしては、申し分無いと思います。」

 『そうか、ポセイドンとかなのかと思ってた。』

 「ポセイドンですか?誰ですか?、海の神の名はワタツミ様です。」

 『神道の方か。姿はあるの?』

 「ありません。海そのものですから。」


 『ウンディーネの姿絵があれば、神像として作るんだけどな。』

 「これですか?」

 『これで作ろう。』


 アルティスが魔力鉱石でウンディーネの姿を作ると、像が光り出した。


 『頂上の祭壇に奉って帰ろう。』


 アルティスが山頂の祭壇に像を置くと、光の柱が空に伸びて行き、光が島を覆い尽くすかのように広がった。

 セイレーン達は、一斉に山の山頂に向かって祈りを捧げた。

 盗まれては困るので、ソフティーの糸で祭壇に固定し、動かない様にしておいた。


 麓に戻ったアルティス達は、真珠を受け取りに来てみたが、うん、多い。

 ワラビの目はキラキラしているのだが、それは神聖属性と相性のいい真珠の山を見ているからだ。

 真珠って独特の白いメタリックというイメージだったのだが、これだけ集まると、細かく色が判れているのがよく解る。

 白、黒、ピンク、黄色、青、黒真珠はブラックメタリックだが、他のは銀色の種類の傾向に近く、パールホワイトの中に、それぞれの色が反射光としてあるみたいな。

 先程からずっと、ディメンションホールを起動して、真珠を入れて行っているのだが、全然減ってる気がしない。

 暫らく続けたが、全然終わらないので、途中で切り上げたよ。

 ディメンションホールの容量も、限りあるからね。

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