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第21話 好奇心は猫をも殺し、ナマケモノは自分を殺す

 夕方、クスノベルティに着いた。

 色々あってみんなクタクタだ。

 官吏がいつもの様に晩餐会を開きたがっているが、伯爵の一喝で静まり返ったよ。

 でも、官吏の顔をみて、ピンと来たね。

 こいつは何かを企んでると。


 『コルス、今の見たか?』

 『はい、見ました。』

 『じゃぁ、オロシも連れて頼む。』

 『了解です。』


 夕飯の後で報告があったよ。


 『報告します。やはり黒でした。地下に多数の死体、メイドがアンデッド、屋敷には悪魔の姿も確認できました。』

 『ここでも、結界張った方が良さげだな』

 『そうですね、この街はほぼ五角形で、中央は教会です。鐘楼の屋根の上に設置するのがよろしいかと思います。』

 『判った、今回は、魔力鉱石を使おうと思うんだけど、どうだ?』

 『強力なのが張れそうです。』

 『壁の方は櫓の屋根の上か?』

 『はい、そうなりますね。』


 『お札の代わりに魔力鉱石を使えるか?』

 『使えますが、王都並みの強力な物になりますよ?』

 『問題無い。それと、ワラビがこっちに向かってる筈なんだが・・・』

 『ワラビさんでしたら、門番に引き止められて、押し問答中ですね。』

 『助けてやれよ。可哀そうだろ?ワラビ、門番が煩い様なら、殺しても構わないぞ?』


 ワラビに呼びかけたが、門番が普通の人間なので、躊躇している様だ。


 『門番の方は、人間なので、殺害するのはどうかと思いますが。』

 『そんなところでグダグダしてると、結界張っちゃうぞ?』

 『キュプラさんお願いします!』


 北門の方から、喧噪が聞こえてくるので、キュプラが出現して、脅した様だ。

 あ、光った。


 『では、その方法でやります。』

 『鉱石はすでに用意済みだ。』

 『すぐやりますか?』

 『先に夕飯を食え。』

 『『了解』』


 コルス達の夕飯の後、設置作業を開始した。

 既に、ワラビが神聖魔法で、セイクリッドライトを使って、大方のアンデッドや、悪魔を消滅させていたが、建物の中や地下などに逃げた奴らの対処には、困っている様だ。


 『そろそろ、結界を発動するぞ?』

 『仕方ありませんね、これ以上は打つ手がありませんので。』


 設置は順調に終わり、結界で覆われた街の中では、多数の断末魔の叫び声が響き渡り、数十秒後には静まり返った。

 道端では、家の中から出てきた住民が、口々に自分が何故此処にいるのか判らないと叫んでいた。

 住民の約半分は、アンデッドで、一部が悪魔、残りがどこからか集められた人間で、元々クスノベルティに住んでいた人間は、官吏の男爵だけになっていた。

 生き残った住民は、この街で暮らしていた記憶はあるので、そのままこの街に暮らす様だが、そもそも住民が半減してしまうと、色々と不具合が生じるものだ。


 官吏は、街が何故この様な状況になっているのか判らない様子だったが、自信の妻子が遺体で見つかると、自害した。


 「な、なんて事だ・・・、妻も子供も死んでいたなんて・・・」

 スバッ

 『あ、馬鹿っ!?・・・遅かったか。』

 「さすがに治せないか。」

 『頸動脈斬られると、あっという間に失血死だからね。いくら何でも無理だよ。』

 

 厳密に言えば、死んでないのだが、血が足りなさ過ぎて、死ぬのは時間の問題だろう。

 絶望の淵に追いやられたから、自害したのに、死ぬまでの時間を引き延ばしたら、拷問だよね、それ。

 妻子の遺体は地下牢の中で、鎖に繋がれた状態だったそうだ。

 街の人口は半分に減り、官吏が居なくなった事で、混乱が広がり始めていたが、伯爵が一時的に街を管理する事で対応する事になった。

 伯爵の護衛として、ルースと騎士10人が残り、ルースが騎士に昇格、騎士たちの隊長となり、街を守っていく。

 昇格したとはいえ、俺のパーティーから離れる事になるので、渋い顔をしていたが、助言したら、機嫌が良くなった。


 『ルース昇格おめでとう、隊長としてがんばれよ。』

 「本当はやりたく無いのですが。」

 『何言ってるんだよ、人を指導する立場になると、見える視点が変わるから、更に強くなれるぞ?』

 「本当ですか!?、頑張って胸を張れる隊長になります!」


 ちょろい。

 残る騎士たちには、新装備を着けさせたよ。

 あと、新しい魔道具を試作したので、着けてもらった。

 魔力鉱石を丸くした時に出た、削りカスで作ったタリスマンで、おでこに付けると吸収されて、取れなくなるものだ。

 効果は精神異常耐性と精神干渉耐性と状態異常耐性の3種類だ。

 これなら、外す事は無いから、解決できるね。

 光るのが難点だが。


 ナットゥの結界の件については、既に執事の配下と連絡が取れていて、執事に張ってもらったよ。

 連絡方法は、コルスに任せた。

 まぁ、単純に、付随してついて来ていた暗部に持たせて、伝言ゲーム的に執事を呼び出して、結界を張っただけだが。

 渡す魔力鉱石には、光魔法ではなく、ワラビに神聖魔法を付与してもらったので、悪魔や偽物は、触るだけで、砂になる。

 魔族は平気だが、精神干渉や洗脳が解けるので、実質、奪うのは不可能だ。


 悪魔のハエがブンブン煩かったので、馬車の上にもセイクリッドライトを付与した魔力鉱石を付けておいた。

 取れない様に、ソフティーの糸でくっ付けたから、ドラゴンが掴んでも馬車が浮く程だ。

 まぁ、近づいただけで洗脳が解けるから、無理だろうけどね。


 翌朝、クスノベルティを出発した一行は、ギレバアン郊外の砦へと向かった。

 途中、スケープゴートの大群を見つけたので、兵士の訓練を実施した。

 スケープゴートの大群は、何かから逃げる様にこちらに向かって来ていたが、強敵のロックリザードを討伐した経験から、10倍の数を相手にしても、余裕を以て殲滅した。

 スケープゴートの回収が完了したころに、上空にワイバーンが現れた。


 『ワイバーン?』

 「そうだな。なぜこんな所にワイバーンがいるのか、全く判らないが、いい獲物が来たな。」


 ワイバーンを見て、兵士達に動揺が見え始めた頃、攻撃を仕掛けてきた。

 兵士達は、クスノベルティで、新装備を付けており、動揺はしているが、新しい装備を試したくて、ウズウズしている様子でもある。


 『まずは、落とすぞ!』


 爪で攻撃をしようとしていた所を、アルティスが、タイミングを見て飛び上がり、顎に頭突きをした。

 アルティスは、勢い余って上空へ上がり、ワイバーンは反回転して、仰向けになり、地面に背中から落ちた。


 「翼の根元の骨を切れ!飛び上がれない様にしろ!」

 「尻尾に気を付けろ!」

 「目を狙え!」


 自信を付けた兵士達によって、2分で倒した。


 「倒したぞ!勝鬨を挙げろ!」

 「「「「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」」」」


 上空を見ると、数匹のワイバーンが飛んでいるのが見えたが、降りてくる様子が無い。


 『アレは、偵察かな?』

 「そうかも知れないな。だが、あの高さでは、魔法も届かないだろ?」

 『そうでもない。落としてくるから、ちょっと待ってて。』

 「できるのか!?」

 『ソフティー、キュプラ行こう!』

 『『りょうかいー』』


 アラクネ二人が飛び上がり、アルティスが風魔法で下から風を送る。

 アラクネ達は、足を広げ、足の間に糸を絡ませて膜を作っていた。

 バランスを取りながら、風に乗り、上空へと上がって行き、もう少しのところで、キュプラの後ろ足の間に一本の糸を張り、そこにアルティスとソフティーが乗ると、びよーんと下に糸が伸びて、最大に伸びた瞬間に、ソフティーがアルティスと糸から手を離した。


 まるで、スリングショットの様にアルティスが上空のワイバーンに迫り、一匹目を猫パンチで叩き落し、2匹目を後ろ足でかかと落とし、3匹目は、2匹目の頭を踏み台にして飛び上がり、胸の辺りに頭突きを食らわせた。


 落ちるワイバーンの背に乗り、一緒に落下していく途中で、空中に飛び出し、アラクネ二人が作ったネットに降りた。


 高度はまだ、500m程あるが、アラクネ二人が、落下傘の様に風を受けて降りて行き、風魔法で下から風を送って軟着陸した。


 地上では、落ちてきたワイバーンに、兵士達が止めを刺して倒していた。


 ワイバーンを倒した興奮で、騒がしかったが、解体を始めると静かになった。

 でかいので、各部位ごとに分けて[ディメンションホール]に入れて行き、一部の肉は樽に詰めて、グリフォラファンガスのみじん切りを一緒に入れて、馬車に乗せた。

 [ディメンションホール]に入れると、時間が止まるから、肉が柔らかくならないのだ。

 皮はある程度乾かしてから、薄く剥いでいき、騎士たちのマントにする予定だ。


 「アルティス、あの技は一体なんなんだ?」

 『ソフティーと前に話をしていたんだよ。小さい蜘蛛が、空中を飛んでるのを何度か見た事があるからさ、ソフティーもできるのか聞いたら、できるって言ってたからね、下から風を送れば、高く上がれると思ってね。やってみた。』

 「凄いな。アラクネはそんな事もできるのか。」

 『遠くに移動する時は、よく飛んで行くらしいよ。』

 「そうなのか。知らなかった。」


 空を飛ぶ蜘蛛は、よく日本でも見ていた。

 アラクネは、大きいとは言っても、体重はそれ程でも無い。

 体長2mあっても、体重は50kg程度しかないので、ただのジャンプでも、50mくらい飛び上がれるのだ。


 アラクネ二人は、楽しかったようで、ニコニコしていた。


 スケープゴートに、ワイバーン4匹、ワイバーンの解体に結構な時間を割いたので、お昼の時間が近くなってきた。

 人数が多い為、作るのにも時間がかかるので、近くでお昼ご飯にする事となった。


 倒したばかりのスケープゴートを解体し、調理していると、一人の騎士がやってきた。


 「あのー、スケープゴートって不味いって聞いたんですが、大丈夫なんでしょうか?」

 「アルティス様が今まで、不味い食事を提供したことがありますか?」

 「無いです。いつも美味しい料理ばかりです。ですが、一般的に不味いと言われているスケープゴートを調理しているので、見てる者が不安になっておりまして。」

 『カレン、焼いた肉を一枚あげてみなよ。』

 「では、こちらを試食してみてください。」

 「あむ、モグモグ・・・。すいませんでした!!」


 騎士は勢いよく頭を下げて、仲間たちの方に駆け足で戻り、凄く美味しかったと熱弁していた。

 今回は、ローストゴート、焼肉、さいころステーキ、カレー、豚骨スープ、ピタパンというメニューだ。

 ピタパンは、肉と野菜を先に挟んでおいて、すぐに食べられる様にして出した。

 カレーは、3種類作って、辛口がゴートキャトルの肉、中辛がワイバーンの肉、甘口がスケープゴートの肉で、ご飯かナンで食べる様にした。


 食事は毎回、立食形式で、自由に取れる様にしてある。

 伯爵一家だけは、テーブルとイスが専用で用意されていて、ペティがニコニコしながら食べている。

 その様子を見ていた、アルティスが爆弾を落とした。


 「ペティ、太った?」


 ペティがビシッと音を立てて固まった。

 だが、アルティスは、下から覗き込む様な体制なので、ペティの顎の下にある弛みが良く見えるのだ。


 伯爵夫人の視線が鋭くなり、キラリと光を放った。


 「そういえば、ペティは最近、あまり馬車から出ないわね?」

 「えっと、そう、ですね。兵士達が頑張ってるのに、私が出しゃばるのは違うかなぁって思いまして・・・。」

 「ケインも最近、何だかぷよぷよして来た様な気がするのよねぇ。」

 「お父様の顎が、ちょっと丸みを帯びてきたような気はします。」


 ペティは父親の話題が出て来た事を、これ幸いと思い、自分から父親の話に変えようとしている。

 そんな努力も空しく、さらにアルティスが話す。


 『ペティの為に、体重計を作ったから、毎日乗って記録するといいですよ。』

 「あら、そんな物まで作ったのね?、ペティ、今日から毎日寝る前に、体重を測りなさい。貴方はこれから、この国の王女になるかもしれないのよ?、ブヨブヨの体で民衆の前に立つなんて、恥ずかしいわよ?」

 「ちょっと、アル君、余計な事言わないでよ!」


 ペティが小声で文句を言ってきた。


 『俺もペティが丸くなっていくのは、本意ではないんだよ。かわいいし、気立てもいいし、王女になるなら、スラッとしていた方が、人気者になれるだろうからな。』

 「そうね、今日の夜からは、ペティには、ダイエット用の特別メニューにして頂けるかしら?」

 『判りました。ペティが早く元の体形に戻れるよう、最善を尽くしていきます。』

 『カレン、よろしく頼むよ。』

 『判りました。美味しいヘルシーメニューを考えます。』


 夫人の指示を、メイド達にも共有して、おやつをあげ過ぎない様に制限させよう。


 『カレン、どんなメニューで考えてる?』

 「そうですね、野菜中心で肉少な目ですかねぇ。」

 『それだと、続かないから、肉を入れた煮込みとか入れてね。』

 「煮込みですか、どんな感じで作るんですか?」

 『ゆで豚作った事あったでしょ?、アレの油を徹底的に取るんだよ。』

 「大変そうですね。」

 『簡単に取れる方法があるんだよ。』

 「どんな方法ですか?」

 『一回冷やす。』

 「油を固めるんですか?」

 『そうそう、油を固めて掬い取る。』

 「味は?」

 『くず野菜スープだな。』

 「中に沈めておくんですか?」

 『先に一回茹でて、粗方の油を取ってから、スープに沈める。』


 あぁ、醤油があれば、角煮作るのにー!

 とりあえず、一旦作るか。

 ご飯はお粥、パンはライ麦パンをふっくら焼き上げて、飲み物はラモネードだな。

 それと運動だな。


 『コルスー』

 「何ですか?、また変な事させようとしていますか?」

 『変とはなんだ、変とは。』

 「違うんですか?」

 『変と言えば変かもしれない。』

 「何か凄く嫌な予感がします。」

 『鋭いな。』

 「一体何をさせようとしてるんですか?」

 『簡易トイレの実験。』

 「!?」

 『[ホーリーフィールド]に色を付けて、中を見えなくして、疑似便座を出す魔道具を作ったんだよ。ちょっと試しに使ってみてくれ。』

 「・・・今ですか?」

 『違うよ?』

 「いつですか?」

 『コルスがしたい時に決まってるだろ?、それともいつでも出せるのか?』

 「出せませんよ。そんな便利な体をしてませんから。」

 『オロシとか別の人に使わせてもいいけど、使用感と臭いの具合を確認して欲しい。』

 「ちなみに、どんな魔道具です?」

 『これだ。』


 コルスに渡したのは、洋式トイレの形をした魔道具だ。

 間違ってスイッチを入れる事が無い様に、蓋つきだ。


 何故、突然こんな物を作ろうと思ったのか。

 それは、今いる場所が、何もない平原だからだ。

 生えてる雑草は、全て背が低く、隠れる場所が無い。

 兵士にしても、小は良くても大が困るという訳で、兵士含め、メイド達にも渡してある。


 だが、これはまだ試作段階の為、伯爵夫人には渡していない。

 何故なら、間違いがあっては困るからだ。

 しかも、伯爵用の馬車には、トイレが装備されているので、ほぼ必要が無いと言える。


 しかし、メイド達が使っているのを見てしまった様で、使いたいと言い出したらしい。

 だが、アルティスからは、〈試作品〉だから、夫人に使わせる訳にはいかないと言われており、それを説明した。

 メイド達は、何度か説得を試みたが、結局説得しきれずに、貸してしまった様だ。

 

 『カレン、ちょっと頼みたい事があるんだけど。』

 「はい?なんでしょうか?」

 『ブンブン飛び回ってるハエを、全部斬り落としてくれない?』

 「斬り落とす!?」

 『動体視力と剣捌きの良い訓練になるよ?きっと』

 「く、訓練として・・・」

 『じゃぁ、カレンの訓練決定ね』

 「いやあああぁぁ!」

 『あるじを超えられるかもしれないよ?』

 「嫌ですよ、こんなきん・・・いや、こんな強すぎるのは」

 「きん・・・何?、言いかけてた言葉は、なぁに?カーレーンー?」

 「さっ、馬車に戻ってお昼ご飯の用意しなきゃっ!いたたたたたた、痛い痛い、ごめん!ごめんってば!」


 昼食を済ませ、片付けを行っていた時、地平線に広がる白い物が見えた。


 『あれは何だろう?』

 「え?何ですか?」

 『ほら、地平線に何か白い物が・・・、スケープゴートの群れ?』

 「す、凄い数ですね。」

 『魔王のちょっかいだろうな。あるじ!戦闘準備!』

 「戦闘準備!!スケープゴートの群れが突っ込んでくるぞ!」


 『ソフティー、キュプラ、ルベウス、ペティ、ワラビ、リザ、ミュール、アリエンも参戦しろ!』

 『バリア!そっちの状況を報告しろ!』

 『こちらにも、大群が迫っている様です!』

 『バリスタと手りゅう弾も使っていい!、地下に人を配置して、落ちてきた奴を片っ端から冷凍庫に放り込め!でないと、溝が埋まるぞ!』

 『了解!』

 『キュプラ!倒しつつ砦に向かって、砦の援護をしてくれ!』

 『了解!』


 砦の方の状況も聞いたが、やはり向かって来ているそうだ。

 あの大群では、溝はすぐに埋まってしまうだろう。

 砦の人数は多いが、戦闘能力で言えば、こちらの方が高い。

 キュプラに救援に行ってもらわねば、砦の壁を突破されてしまうかもしれない。


 「接敵あと5分!」

 『極大魔法を使う!』

 『[メテオレイン]!』


 詠唱から20秒後、突如空が赤く染まり、隕石が多数落ちてきた。

 狙いは、スケープゴートを発生させている場所だ。

 魔力感知を広げた時に、スケープゴートの大群が、あるラインを境に突然湧き出ている事に気が付いた為だ。

 きっとそこには、魔王軍がいて、転移ゲートを開いて、スケープゴートをばら撒いているんだと予想したのだ。


 今いる場所からだと、遠くと近くにばら撒かれている様に見えるが、実際には一直線に並んでいて、転移ゲートがあるであろう場所に落ちていく。


 星が落ちてくる光景を眺めていたアーリアは、気を引き締め、号令をかける。


 「戦闘員!前へ進め!、一匹ももらすな!、全て殲滅しろ!」


 最前線は、アーリアとカレン、ミュール、リズ、ソフティーが騎士と兵士の前に進み、後方には、アルティス、ペティ、ワラビが魔法を準備して待つ。

 コルス達暗部は、夫人及び馬車を守る陣形だ。

 メイド達も、もちろん戦闘態勢を整えている。


 スケープゴートにあたるまで、残り200mを切ったところで、魔法をスケープゴートの先頭にぶつけた。


 『魔法準備!狙いは先頭!・・・撃て!』

 ドドドド!

 『魔法準備!狙いは初撃位置そのまま!撃て!』

 ドドドド!


 スケープゴートの先頭に魔法が炸裂し、驚いたスケープゴートが停滞したが、後ろから押し寄せる波に、飲み込まれたその時、2撃目が着弾して、勢いが急激に減衰した。


 「かかれー!!」

 「「「「うおおおおお!」」」」


 突進の勢いが衰えたのを見計らったアーリアが、突撃の号令をかけた。

 兵士達は、横一列に並び、スケープゴートの群れへと突っ込んでいった。

 スケープゴートの左翼では、ソフティーが粘着性の糸によって、スケープゴートが回り込まない様に、けん制。

 右翼では、ミュールとリズが、回り込まれない様にけん制している。

 ミュールは、出発前に渡した新装備をフル稼働して撃退している様だ。


 『ペティ、右側でミュールとリズの援護を頼む!』

 「了解!」

 『ワラビはソフティーの援護!』

 「了解しました」

 『[マルチウインドカッター]』


 アルティスは、ウインドカッターを50発、アーリアの正面10m先に半円形に出し、撃ち出した。

 撃ち出す高さは、地面スレスレで、スケープゴートの足を狙って撃った為、殆ど抵抗を受けずに、扇子の骨の形に倒した。


 兵士達が、切れ味のいい剣で、バッサバッサと倒していき、2時間程で9割のスケープゴートの群れを殲滅した。

 まばらに残った、スケープゴートは、暗部達が倒していく。


 『バリア、そっちの状況は?』

 『キュプラが来てくれたので、大方終わりました。あとは、2割程ですが、突進する訳でも無く、暗部達が殲滅しに出て行きました。』

 『おつかれさん』


 こちらの戦力も、途中からは、暗部達も加わり、メイド達までもが前線へと赴き、スタミナ切れの兵士を連れ戻したり、抜けた穴を埋めたりしていた。


 最初に撃った[メテオレイン]は、上手く転移ゲートを潰せた様で、増援は来なかった。

 皆は、最初に撃ったメテオレインの事が気になっている様で、カレンとアーリアが聞いてきた。


 「最初のアレは、何だったんですか?」

 『ん?[メテオレイン]だよ?、それがどうかした?』

 「いや、真ん中じゃなくて、奥の方に落ちたから、何を狙ったのか判らなくてな。」

 『あぁ、魔力感知で見たら、いきなり湧いていたからさ、魔王軍が転移ゲートでも出しているのかと思ってね、最初に殲滅しておいたんだよ。』

 「あぁ、それで増援が無かったのか。どうりで中途半端な攻撃だと思ったよ。」

 『さぁ、休憩の前に、集めて放り込んでおこうね。アレを。』

 「うへぇ・・・」

 

 背後に振り向くと、ウルチメイトが土下座していた。


 『何してんだよ?』

 「アルティス様!私ウルチメイトは、生涯、貴方様に忠誠を誓う事をお許し下さい!。」

 『はあ?』

 「あの[メテオレイン]に感銘を受けました!。あの魔法をたった一人で発動させるなんて、さすがアルティス様です!。」

 『はぁ。そんな事より、スケープゴートを[ディメンションホール]に入れるのを手伝え。』

 「はい!畏まりました!!」


 結局、全部回収し終えたのは、4時過ぎだった。

 もう野営場所は、ここで決まりだね。


 夕飯の後、伯爵夫人は、メイド達からうば・・・借りた、魔道具を持って平原へと向かった。

 護衛は居ない、と本人は思っているが、暗部が10m程離れた場所を歩いていた。


 時間は、午後8時、辺りは暗く静まり返っている。

 月は、アマーティスが下弦の月、スクナービクもほぼ上弦の月で、それ程明るくはない。

 そんな中、伯爵夫人は、馬車から200m程離れた場所で、魔道具を起動した。


 夫人は知らなかった、この魔道具が光魔法を利用している事を。

 夫人は知らなかった、光魔法が光る事を。

 夫人は知らなかった、夜間は目立つ事を。


 その光は、暗闇の中で煌めき、馬車にいたみんなの注目を浴びた。

 アルティスは、夫人が何故それを使っているのか、理由を知っていた為、何も言わず見ていた。


 事件は、暗闇の中で起こった。

 伯爵夫人が済ませて、立ち上がろうとしたその時、ふと目の前に気配を感じ、前を向くとそこには、人影があった。


 「キャー!?」


 伯爵夫人は、人影に驚き、魔道具を止め、その場から逃げた。

 だが、逃げた方向は、馬車の方とは正反対の方角、護衛は焦った。

 何とか反対方向に行くよう、誘導しようとするが、伯爵夫人は、気が動転し、闇雲に逃げ回る。

 そして、闇雲に走った方向には、それが居たのだ!。


 魔道具を使わずに、用を足す者が!。


 伯爵夫人は、その者と目が合った。


 「ギャー!?」


 伯爵夫人は、正反対の方向へ走り出した。

 が、その方向には、コルスが追いかけて来ていた。

 伯爵夫人は、唐突に現れたそれを見て、事切れた。


 「事切れてません!、生きてますよ!ちゃんと!。」

 「ブフーッ、アッハッハッハッハッハッハ、おか、お母様、面白い!アッハッハッハッハッ」

 「面白くありません!。」

 「アルティス、いまの話は一体なんだったんだ?」

 「アッハッハッハッハッハッハッハ」

 『面白いでしょ?、試作品を勝手に持ち出して使った罰だよ。自分達の馬車にちゃんとあるのにさ、夜の平原に護衛も付けずに出歩こうなんて、無謀にも程があるよ。』

 「アッハッハッハッハッハッハッハ」

 「でも、気付いてたんだろ?」

 『寝てた人以外、全員気付いてると思うよ?、あんだけ光ってれば、注目の的だよね。』

 「アッハッハッハッハッハッハッハ」

 「あんな風になるなんて、聞いていませんわ!ペティ!いい加減笑うのをやめなさい!」

 「はーい・・・プププ」

 『夫人には渡してないからね、話してないのは当然だよ。メイド達には言ってあるからね?。奪い取った時の話も、ちゃんと聞いてたからね?』


 「どんな話をしていたんだ?」

 『みんなのトイレが大変って聞いてたからさ、気兼ねなく、用を足せる様にする為に、作ったんだけど、結界にすると消費MPが多くなるんだよ。だから、光魔法を使ってボックス型にしたんだけど、夜だと透けちゃうんだよ。だから、気を付けて使ってくれって、言ってあったんだよね。』

 『でも、夫人はそれをまともに聞かずに、メイド達から奪って使ったんだよ。』

 「夜は透けるって、昼間は?」

 『昼間は、太陽の光を吸収するから、白い壁ができるよ?』

 「さっき見た時は、光ってて透けて無かったけど?」

 『外からは見えないんだよ、発光体を見てるからね。でも、中からは見えるんだよ。外が。』

 「あぁ、そういう事か。」


 『だから、解決策が見つかるまで、夫人には渡せないと思って、試作品だけどみんなに渡してあったんだよ。』

 「始めから伝えておけば良かったのでは?」

 『性格を知らない訳じゃないでしょ?言ったら確実に寄越せって言うし、使いたがるじゃん。』

 「まぁ、そうだな。」

 『説明も聞かないしさ。だから、知らない振りをしたんだよ。一回痛い目を見てもらわないと、治らないからね。』

 「ぐぬぬぬ」


 『しかも、問題が一つあって、レバー下げずに止めたでしょ?アレ、そのまま残ってるからね?』

 「!?」

 「え?そのまま残ってるって、何が?」

 『何がって、用を足したんだから、残る物は一つしか無いでしょ?』

 「・・・処理するには?」

 『誰かがやるしかないって事だよ。俺はやらないよ?、本来なら出した本人がやるべき事なんだから。』

 「ゼリスにやってもらうのは?」

 『やだよ。風呂の水の処理はやらせてるけど、その手の物はやらせてないからね。』

 「メイド達にやってもらうしか、無さそうですね。」

 『嫌がってたよ?、奪った挙句騒ぎまで起こして、謝罪も無くやらされるのは、俺だったらぶっ飛ばしてるね。』

 「アルティス、何とか『いやだ』」

 『大人なんだから、素直に謝って、誠意を見せなさい。人の上に立つ予定があるんだから、余計に必要な事だよ?。人に命令する前に、自分の失態を認めてちゃんと謝罪してきなさい。』

 「アルティス、それは少しいいす『言い過ぎなんかじゃないよ!』」

 『最低限の話だよ。人に言い聞かせるには、自分がまず手本を見せなければ、誰も従ってなんかくれないよ。そんなゴミみたいなプライド、他の人からすれば、どうでもいい話だからね。』

 「謝ってきます・・・。」


 とぼとぼと天幕から出て行った。

 夫人が出て行ったのを確認してから、コルスが聞いてきた。


 「ところで、さっきのは一体なんだったんですか?」

 『ん?ペティがキラキラした目で、こっちを見ていたから、面白おかしく、笑える話にしただけだよ。』

 「何で私が、犯人役なんですか!?」

 『だって、驚かした張本人じゃん?』

 「確かに夫人は、私を見て驚きましたが、気絶したのは、私のせいではないんじゃないですか?」

 『最初に驚かしたのも、最後のダメ押しも、コルスだよね。』

 「うぐぅ。」

 『まぁ、一番悪いのは、夫人だけどさ。』


 翌日、昨晩は色々あったが、ひとまず砦へ向かう事にした。

 砦にはお昼前に到着したよ。

 昨夜野営した場所が、割と砦に近い場所だったからね。

 砦では、夫人から労いの言葉と、昨日の疲れをいやす休息日の話が出たよ。


 「護衛の皆様、お疲れ様です。ホリゾンダル領からここまでの長い道のりを、訓練をしながら旅をしてきました。明日は一日休息日と致します。明後日からまた、王都へ向けての旅を再開いたしますので、旅の疲れをゆっくり癒し、王都へたどり着くための英気を養って下さい。ここの砦には、エルフの方々もいますので、ご迷惑やトラブルを起こさない様お願いします。」


 エカテリーヌ夫人の挨拶の中で言われた、エルフがいるという言葉に、騎士や兵士達から、ざわめきが起こった。

 ついで、アーリアが砦での注意事項の説明を行った。


 「ここでの過ごし方について、説明を行う。気を引き締めて聞く様に。先程も奥方様が仰った様に、ここにはエルフ達がいる。しかし、彼らは、貴様らのおもちゃではなく、客人である。万が一、その客人に迷惑をかける様な真似をした者がいた場合、事と次第によっては、斬り捨てる場合もある事を覚悟してもらう。貴様らは、ここでは客人としてではなく、ホリゾンダル家の家臣として規律と礼節を持って過ごす事を願う。それができない者は、この先へ進む事は無いと思え。エカテリーヌ様が、女王になれば、貴様らは近衛騎士として、王都に住む事になる。これまで以上に主君を守り、この国の英雄となるべく、奮励努力する事を命じる。以上、解散!」


 アーリアの言葉を聞いた兵士達は、思った。

 ホリゾンダル家を出発して、たったの5日間だったが、今までの訓練とは違い、体力の限界まで戦い続けた、濃厚な5日間だった。

 どういう基準で、自分たちが選ばれたのかは、判らなかったが、数多の魔獣を屠り、体を鍛え、この地では、ワイバーンとスケープゴートの大群との戦いをした。

 その戦いでは、見た事も無い極大魔法を見て、的が自分達でない事を心底喜んだ。


 そしてたどり着いたこの中継地点では、美形と謳われるエルフとの出会いに、一瞬心を奪われたが、王都に行けば『近衛騎士』に成れると言われた。

 近衛騎士とは、騎士や兵士にとっては、憧れの存在でもある。

 王に仕え、王を守るこの国の最強の精鋭部隊、それが近衛騎士である。

 この国最高の装備を身に着け、この国最高の騎士として働けるチャンスが今、目の前にぶら下がっている。


 エルフなんぞに構ってる暇などない、栄誉に満ちた最高の職に就くために、より一層の努力をしなければ、目の前にぶら下がっている、チャンスを逃してしまうかもしれない。


 あのアーリアの様な化け物までとは言わないが、今よりもっと強くならなければならないだろう。

 明日は、今までの疲れを癒やせと言われたが、明後日の出発までのんびり過ごす訳にはいかない!。

 幸い、この平原には、自分を鍛えるための魔物はたくさんいる。

 ここで努力せずして、いつ努力するというのだ!やるぞ!俺はもっと強くなってやる!。


 「あー、ここの平原で頑張るより、カレースパンの先には、オークやゴーレムがうじゃうじゃいるから、もっと厳しい戦いになる。明日の休みは、そこそこ頑張って、オークの集落を潰す為の体力と気力を残しておけ。また、ギレバアンからカレースパンまでの船便での移動については、船上でビシビシ鍛えるので、そのつもりでいろ。内海には、シーサーペントやクイタイ、バウンドパイクなどの凶暴な魚もいるので、その対処も同時に行う。

 連戦の疲れで、船に乗ったら動けなくなるなどとならぬよう、気を付けろ。」


 カレンからの忠告を聞き、明日は、頑張り過ぎない様、気を付けようと、心に決めた。 


 その後、それぞれのメンバーが、再会を祝っていた。


 「おかえりー、怪我は無いわね。」

 「当たり前でしょ、ある訳無いわ。アルティス様がいる限りね。」

 「で、そのアルティス様は?ポーチの中?」

 「うん、昨日の戦闘で指揮を執ってたのに、夜の見張り番をやってくれてたのよ。」


 「すごっ!?、そんな事までしてくれたの?、あんた達、もう頭上がらないね。」

 「ホントに。それでね、もっと凄い事もしてたんだからね。」

 「アルティス様は、岩山の近くで魔力鉱石の鉱脈を見つけたから、この国も買い取れる程の財を持ってるわよ。」

 「・・・どのくらいの規模あるの?」


 「アルティス様の計算だと、100年は掘れるくらいらしいわ。」

 「それの価値って一体・・・」

 「王国の年間予算の500年分だって。」

 「あ、あはは、と、とんでもないわね・・・。」

 「でも、王国に寄贈するらしいわ。」

 「うん、まぁ、そうするしかないよね。」


 「でも、どうしてそんな物を見つける事になったの?」

 「アルティス様が荒れてたのよ、馬鹿メイドのせいで。」

 「馬鹿メイド?何があったの?」

 「タックアーンの孤児院でね、夕飯を食べてる時に、子供達が辛い食べ物を食べて、泣きだしちゃったのよ。それで激怒してね、その料理を作ったメイドの首を刎ねるって言ったんだけど、結局は折檻だけで済ませたの。でも、アルティス様の怒りが治まらなくて、ロックリザードに八つ当たりするって言ってたんだけど、アーリアが訓練に充てるから、アルティス様は馬車でお留守番って言われてね、仕方なく近くの岩で我慢して、岩を切り裂いていたら出てきたのよ。」


 「そのメイドって、まだいるの?」

 「いるわ、パーレスって名前よ、料理させると馬鹿みたいな味付にするから、今は洗濯係よ。」

 「パーレスね、覚えておくわ。で、あの魔族のメイドは?」

 「あの子は、ウルチメイトって名前で、途中で潜入してきたんだけど、捕獲してアルティス様の奴隷になってるわ。メイドの変装で潜入してきたから、そのままメイドの修業をさせてるの。でも、アルティス様に心酔してるから、安心よ?」


 「どうやって心酔なんて事になるのよ?」

 「極大魔法を撃ったところをみてたからじゃない?」

 「あー、確かに、そんな姿をみたら、心酔しても可笑しくないわ。」

 「ミュールと、ルベウスと、ソフティーが静かなのは何故?」

 「まだ、昨日の疲れが残ってるんじゃない?」

 「一番活躍したのはやっぱりアルティス様?」


 「そうね、一人で何千匹倒したのやら・・・。」

 『みんなが、頑張ったんだよ。俺一人の成果じゃないよ。』

 「「アルティス様!?起きてたんですか?」」

 『数分前に起きた。一番の功労者は、キュプラかも?』

 「キュプラが来てくれなかったら、こっちはヤバかったわよ。ホント、来てくれて助かったわ。」

 「ところで、そのスライムは一体・・・。」

 『モコスタビアを出る前に、テイムしたんだよ。』

 「へー、テイムすると何かいいことでもあるんですか?」

 『意思疎通ができる。』

 

 厨房にやってきた。

 隣の食糧庫には、味噌と醤油が熟成の為に置いてあるが、状態はどうだろうか。


 『味噌の具合はどお?』

 「ちょっと待って下さい。少し取ってみます。」


 小皿に取った味噌を観察してみると、白みそって感じの発酵度合いかな?

 普通に考えれば、たったの一週間で作れる訳がないのだが、この世界の酵母菌は強力なので、発酵が早いのだ。

 酒などは、2週間でできてしまう程に。


 『うん、いいと思うよ。まだ早いけど、あともう少し茶色くなってきたら食べられるよ。但し、カビには注意が必要だからね。』

 「カビと酵母の違いは?」

 『酵母は白いんだけど、カビは黒、赤、ピンク、青、緑、黄色と色鮮やかだから、そういうのが出てきたら取り除いて、酒を蒸留して作った酒精を吹きかけて、消毒すること。』


 なんか、暗部の他に、エルフも聞いていて、うんうん頷いてる。


 『エルフさん達も味噌に興味あるの?』

 「はい、エルフの里では、昔、勇者様に頼まれて、何度か挑戦した事がありまして、全て失敗に終わってしまいましたが、未だに研究を続けている者も居る程です。」

 『そうか、多分酵母が見つからないんだろうなぁ。』

 「そうだと思いますが、酵母というのが判らないので、作り様が無いんです。」

 『要はカビだよ。真っ白いカビ。』

 「そうなんですか!?」


 『エルフの里って、この国の北側にあるの?』

 「いえ、魔族大陸に移住しています。こちらの大陸では、人間に滅ぼされたり、奴隷にされたりと、酷い仕打ちをされてきましたので、殆どのエルフは逃げてしまいました。」

 『エルフの生活って、そんなにホイホイ移住できるほどなの?』

 「いえ、旧エルフの里には、世界樹がありまして、世界樹が我々エルフの神ですので、本来は移住などできない筈なのですが、長老達が移住を決めてしまいましたので、それに従って魔族大陸へ移住してしまいました。」


 『その長老達は、まだ生きてるの?』

 「いえ、魔族大陸での生活は、想像以上に過酷で、長老たちは早々にお亡くなりになりました。」

 『きっと、操られたんだろうなぁ。』

 「操られたとは?」

 『長老達が魔族によって操られて、移住させられて、生き証人である長老たちを殺せば、世界樹は魔族の物さ。手に入れるの簡単だろ?』

 「ま、まさか・・・」


 『この大陸に来る時に、世界樹に行ったか?』

 「いえ、懇願しましたが、聞き入れてもらえず・・・」

 『きっと、見られたくない物が、そこにあるんだろうな。』

 「見られたくない物とは?」

 『そこまでは、判らないが、魔力を吸い取っているとか、樹液を何かに使っているとか、色々需要はあるんだろ?』


 「世界樹を確認しに行くにはどうすれば・・・」

 『俺達が、魔族を追い払ってやろうじゃないか。お前たちも戦ってな。』

 「できるのですか!?」

 『やってみなきゃ判らないが、死ぬ気は無いぞ?』

 「お願いします!私達を世界樹の下に連れて行ってください!」


 エルフ達が頭を下げた。


 『俺が連れて行くんじゃない、お前たちも一緒に戦って、勝ち取るんだよ。』


 エルフ達の頭が上がり、その目には、気合と闘志が籠っていた。


 「ホント、アルティスさんは、人を育てるのが好きですね。」

 『いつの間に来たんだよ。』

 「来ちゃ駄目ですか?」

 『報告か?』

 「はい。」

 『聞こう』

 「まず、ギレバアンの街の様子ですが、相変わらずゴロツキが多いです。」

 「それと、精神魔法にかかっている様子のある人と、無い人が居まして、魔道具は探しましたが見つからず、アミュレットを着けているにも関わらず、精神干渉にかかる暗部も居まして」

 『そうか、突破してくるか。』

 「予想があったのですか?」

 『そうだな、例えば大規模魔法の儀式をやるとかだな。』

 「その可能性のある場所は、見つけられたんですが、探しても何も無いんですよ。」


 『可能性があるというのは?』

 「魔力感知で多数の人の集まっている場所があるんですが、その場所に行っても、誰も居ないんです。むしろ、その場所に来たメンバーが精神干渉を受けました。」

 『地上に居ないのなら、空中か地下だな。』

 「地下の可能性が高そうですね。」

 『入り口を探せ。必ずどこかにある筈だ。隠ぺいされていると思うから、壁や床の隠し扉や、幻影などだな。街の中に無い可能性もあるが、まずは、街の中を中心に探してくれ。』

 「判りました。」

 『それと、精神干渉を受けるその場所は、立ち入り禁止にしておけ。中心は特に強くなっている筈だからな。』

 「了解です。」


 翌朝、朝食も終わり、今日は何をして過ごそうかと思っていると、ミュールが来た。 


 「アルティスー・・・」

 『ん?どうしたんだ?』

 「アルティスが居ない間、アイツらサボってたのを見つけて、やらせようとしたのを二人がかりでやり返された。」

 『はあ?、アイツら・・・』

 「私のパンチ、効かないって言われた。」

 『ミュールのパンチが効かない・・・そうか、いなされたんだな?』

 「剣で避けられる?逸らされる?」

 『まぁ、あいつらの剣は、そうそう折れないからな。逸らされない様にしたいって事だな?』

 「うん・・・。」

 『ちょっとこれを吊るしてくれ。』


 取り出したのは、スケープゴートの死体だ。


 『殴る時に、拳をぎゅっとしないで打つんだよ。そして、拳に魔力を纏わせると威力があがるぞ。』 

 『これを殴ってみて。』

 『拳を握って?力を抜いて、そう、それで殴る。』

 ドフッ

 『いつも通りの殴り方でやってみて。』

 バシッ

 『音の違い判った?』

 「うん、判った。何か重みが全然違った。」

 『練習する時に、拳の握り方と、拳に魔力を集める練習をするんだよ。そして、意識しなくても魔力が集まる様にするんだ。そうすれば、後は当たった瞬間に魔力を撃ち出すだけだ。』

 『今度は、拳に魔力を集めて、纏わせる。それでさっきの殴り方で』

 ドゴンッバキバキ

 「!?」

 『凄い威力だろ?』

 「判った!やってみる!ありがと!アルティス!」


 ミュールは外に飛び出して行き、その後を見学していた拳闘士タイプの暗部達が、追いかけて行った。

 

 サボり組みをどうしようか考えていると、エルフ達がやってきた。

 エルフ達は、ここで適性に合わせて、訓練を行っている。


 「アルティス様、少しお時間をよろしいでしょうか?」

 『ん?ああ、いいよ。』

 「実は、アルティス様に、折り入って頼みたい事がありまして、どうかお願いできないでしょうか。」

 『話を聞いてみない事には、なんとも言えないな。』

 「実は、私たちは弓を扱うには、目が悪すぎまして、前衛に転向したいと考えております。そこで、剣の訓練を教えて頂けないでしょうか?」

 『バリアかリズ、もしくは、メビウスに習ったりは?』

 「ご相談したのですが、無理と仰られまして・・・」


 あいつら、今までここで何をやっていたんだ?

 出発する前に決めた筈だが、やってないのか?


 『バリア、リズ、メビウス、今すぐ来い』

 『え?どうかされたのですか?』

 『今!すぐ!来い!』


 剣を主武器とする3人を、強めに呼び出した。


 『『『はい!』』』


 そこへ、念話を聞き、近くにいたアーリアが登場した。


 「ん?どうかしたのか?」

 『ここを出発する前に、エルフを教育するって決めたよね?』

 「ああ、決めたな。適性を見て武器を扱える様にするって決めたな。」

 『あいつら、弓が使えないエルフ達に、剣を教えるのを拒否したらしいんだよ。』

 「なに!?、あいつら・・・!」


 「はぁはぁはぁ、っはぁっはぁっ・・・な、何か御用でしょうか?」

 「ふぅ、何か御用ですか?アルティス様」

 「ぜぇぜぇ、はぁはぁはぁ、やっと追いついた・・・」

 『お前ら3人、俺達がいない間、一体ここで何をしていたんだ?』

 「え・・・?、エルフの訓練と、自分たちの訓練をしておりましたが?」


 『弓以外のエルフ達には?』

 「えーっとぉー、下半身を鍛えろと指導を・・・」

 『剣の練習は?』

 「・・・してません。」

 『誰も?』

 「「してません」」

 『何故しない?』

 「剣を扱うには、まずは足腰を鍛えなければ、危険だからです。」


 『型を教えればいいのでは?』

 「・・・」

 『お前らが剣を鍛錬する時に、一緒にやればいいのでは?』

 「うっ・・・」

 『お前らが走り込みをする時に、一緒にやればいいのでは?』

 「ち、違うんです!、そのっ!、え、エルフがいると、メビウスが・・・その・・・」

 『お前は、メビウスがいなけりゃ、訓練もできないのか?』

 『メビウス、お前もだぞ?、エルフをそういう目で見てるのか?』

 「いや、俺はそんな目では見て無いですよ?、そりゃぁ綺麗だとは思いますが、手を出したらリズが悲しむじゃないですか?、だから手は出しませんよ?」

 『メビウス、話をする時は、こっちを見ろ。口だけで言い訳しても、お前の目は、エルフに釘付けだな。』

 「うっ・・・、そ、そんな事は・・・」

 『ルースは騎士に昇格したってのに・・・』

 「「マジですか!?」」

 『マジだぞ?クスノベルティで、伯爵の護衛隊長に、就任したんだよ。』

 『バリア、リズ、メビウス、3名は今日の御前中はエルフの剣指導をやれ!、監視は、あるじで!』

 「判った。身が入ってない場合は、どうしようか?」


 『馬用のムチがあったよね?アレでビシバシぶっ叩いていいよ、特にメビウスを』

 「ちょ、何で俺だけ!?」

 『お前、腹出せ。』

 「え?、いやいやいや、出せませんよ、こんな女性のいる前で」

 『太ったよね?』

 「っ!?、そ、そんな事は!」

 『腹出せ!』

 「はい・・・」


 メビウスの腹にはパンツに乗る肉があった。


 『この肉はなんだ?、おい、プニプニの柔らかい肉がついてるぞ?』

 「こっ、これは、その・・・。」

 『ミュール、今日からミュールの特訓にメビウスも連れてって、鍛えなおしてやってくれ。』

 『おお!あたしの練習台になってくれるのかー、やったー!』

 『本気で避けないと死ぬから気をつけろよ?』

 「ちょ、待ってください!、嫌です!死にたくないです!」

 『バリアとリズは、カレンと一緒に午後は、アリエンと戦え。』

 

 『アリエン、今日の午後は、バリアとリズを相手に演習をしろ。本気でな。』

 「「ええー!?、死んじゃいますって!」」

 『お前らがな。』

 『さぼった罰だ。以上』


 『ペンタ、お前は、コルスの暗部の特訓に付き合え。』

 『ええー!、私はちゃんとやってますよ!?』

 『バリアに甘すぎなんだよ、お前は。』

 『はい、頑張ります・・・。』


 見張りのエルフから連絡が来た。


 『ゴロツキがまた集まり出しています。』

 『コルスー』

 『はいー』

 『エルフの指揮と、暗部の指揮おねがーい』

 『殺しても?』

 『折角の生きた獲物だ、バンバン殺してやれ』

 『了解』


 指揮所に来た。

 堀の縁には、ゴロツキが集まっている。


 「おい!てめぇら!、大人しくエルフを渡せ!渡せば命だけは助けてやるぜ!」

 パシュッ

 バスッ

 「あ、アニキー!、てっめぇ!よくもアニキを殺」

 バスッ

 パシュパシュパシュパシュパシュパシュ

 「ギャー」

 「ウワアアアァァ」


 次々と弓の餌食になって行く。

 あいつら、何しに来たんだ?


 『逃げる奴がいるぞ?』

 「対応済みです。」


 逃げようとしたゴロツキの首に、ナイフが刺さった。

 堀の端の方では、梯子をかけて登っていたゴロツキが、折れた梯子と共に落ちて行った。

 本当にマジで、アイツら一体、何しに来たんだ?


 エルフ達との剣の鍛錬が始まった。

 監督役のアーリアも鞭を持って、おもにメビウスを監視している。

 剣は木剣を使用している。

 型の練習なので、重い剣は素振りの時にだけ使う。

 そうしないと、指導者が危ないのと、型の正位置を覚えられないからだ。

 エルフの剣に適性があるかどうか調べて、もし無いようなら、別の武器を使わせるか、メガネを渡すかしようと思う。


 『アルティスー』


 キュプラが話しかけてきた。


 『ん?どしたー?』

 『ちょっと、巣に戻りたいんだけど。』


 キュプラが自分の家に行きたいと言って来た。


 『何かあるの?』

 『何人か人間を飼ってたよ?』

 『それを早く言え!』

 

 アラクネ二人と一緒に、キュプラの家に行こうと、入り口前に行くと、人間が2人いる。


 「お、俺は、ギレバアンでゴロツキ共を取り仕切ってるタコスって者だ。ここの責任者と話がしたい。」

 『ゴロツキのドン、タコスが・・・責任者に会いたいってさ。』

 『付き人がトルティーヤだったら面白いな・・・』

 「こいつは、俺の部下で、トルティーヤってんだ。中に入れてくれ!」

 『ブフォッ!』

 『あははははは、タコスとトルティーヤって、狙ってんのかよっ!、ウケルッあははははは』

 『はぁ・・・、笑わせてもらった。行こうぜ、外に』


 橋が降りると、ドン・・・じゃなくて、タコスが中に入ろうと前に歩き出そうとした。


 「あ、アラクネが2匹・・・う、うわぁー!?」

 『おい、タコス、何の用だ?』

 「な、なんだ!?、誰だ!誰が喋ってる!?」

 『責任者だよ、で、何の用だ?』

 「お前らが俺の部下を捕らえたやつか!、部下を返すか、賠償金を払え!」

 『門の上にいる弓兵、こいつらを殺せ。』


 矢が2本飛んできて、タコスとトルティーヤの頭のあった場所を通過して、地面に刺さった。


 「あぶねぇだろが!、殺す気かっ!」

 『そうだが?』

 「なんだと!?、ふざけるな!俺を誰だと思ってるんだ!」

 『早く殺せ。』

 

 立て続けに矢が飛んでくるが、全てぎりぎりで回避してる。

 というか、動きが面白い。

 小太りだが、動体視力は悪く無いようだ。

 だがバカだから、要らないな。

 タコスの足を矢が捉えた。

 途端に動きが悪くなり、体と頭を矢で射られて死んだ。

 トルティーヤも同様に死んだのを確認した。


 『殺して良かったのでしょうか?』


 エルフの一人が念話で聞いてきた。


 『敵の総大将が来たんだぞ?のこのこと。昨日砦を攻めてきたのに、やられたら賠償を払えとか、バカだろ?、攻撃してきた奴が、負けたから賠償払えとか訳が分からんな。』

 『賠償を請求できるのはこちらだよ、こいつらには交渉する権利がねぇよ。こんなとこに来て、金払えとか、殺してくださいって言ってる様な物だろ?、だから殺したんだよ。』

 『死体の回収ついでに、矢の回収と、何で当たらなかったのか、検証しろ。たった二人に矢を50本とか、へたくそにも程があるぞ。』


 急いでキュプラの家に向かった。

 キュプラの家には、檻があり、その中には少女が二人ぐったりとしていた。


 『まだ息があるな、連れて帰ろう』

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