第20話 タックアーンの結界とヤバい大発見
茸の大群を殲滅したにも関わらず、全体の1%しか狩れてない茸があったんだよね。
名前はヒールファンガス。
こいつ、デカいんだけど、数が居ない。
そして腐りやすい。
こいつでポーション作ると、オールラウンドポーションができた。
つまり、万能薬?
1匹3m近いデカさで、見た目はエリンギっぽいし、狩りやすい。
こんなので万能薬ができるとはね。
でも、倒すのに時間がかかると、やっかいな奴らしい。
胞子は複合的な状態異常の効果で、麻痺、毒、睡眠、混乱、バーサク、スタンの、訳の分からん組み合わせコンボになるらしい。
状態異常のオールラウンダーってか?。
止めたいのか、暴れさせたいのかどっちだ?でも、同人誌方面が無くてよかった。
そっち方面の茸も居るにはいるよ?でも、それは死蔵だな。
アーリアの目が怖い。
でも、研究はするよ?そういう意外な所から、病気に効く薬ができたりするんだからさ。
『いや、魔族の街に、玉と一緒にばら撒くって手も・・・いだだだだだだだ痛い痛い嘘嘘、やらないってば!、冗談だから!』
「全く、油断も隙も無い!」
呟いたら、アーリアに怒られたよ。
アーリアのベアクロー痛いんだよ。
本気で怒らせると、鋼鉄の兜もぺしゃんこになるんだよ?片手で。
部隊はタックアーンに向けて進軍じゃなくて、移動している。
『あ!ゴートキャトルだ!確保しろ!』
兵士達にやらせたら、どこの戦場だよ!ってくらいの惨状になった。
『何で、あいつら固まってるんだ?分散しなきゃ、一撃で全滅するだろうが。』
「戦い方を知らないんですよ。」
『戦争屋なのに、戦い方を知らないって、今まで何をやっていたんだ?』
「遊んでいたんじゃないですかね?」
『カレン、指揮してきて。』
「はい」
「お前ら!もっと分散しろ!、固まってても後ろの方が何もできないだろうが!」
「そこっ!、相手の動きをよく見て動け!」
「小隊長は、指示をしっかりやれ!、一人で突っ込むな!」
『メイドさーん、カレンの為にお茶の用意をお願いー。』
「こらっ!お前ら何処を狙ってるんだ!、腹なんかに届く訳無いだろうが!」
「足を狙え!足を!」
「ギャー」
ゴートキャトルの後ろに回ったやつらが、上から降ってきたうんこに押しつぶされた。
まぁ、押しつぶされたというよりも、まき散らされた物をモロに被ったと言うべきか。
全身茶色になっている。
呆然としている所へ、ゴートキャトルの後ろ足が来て、飛ばされた。
「ギャーァァァァ」
「救護班!助けに行け!」
「そこの小隊!爪に攻撃しても意味が無いだろうが!」
ゴートキャトルの鼻攻撃で、半数が脱落。
『カレン、右後ろ足を切って。』
スパッ
「ブモーッ!?」
ドスンッ
「前足を狙え!」
カレンが、見本とばかりに、ゴートキャトルの右足の後ろ側にある筋を切り裂いて、膝をつかせた。
「足の後ろ側の筋を狙え!、カレンさんのやった通りにやるんだ!」
「おー!」
勢いだけで、不用意に突っ込んだ騎士達が、前足の一撃で脱落した。
『もう駄目だな。戦術から見直しさせないと、役に立たない。ソフティーお願い。』
『はーい』
ソフティーが居なかったら、死人が出てたかも。
最初は塊になって動いていて、盾を持ってる騎士に、受けてもらうつもりだった様だが、ゴートキャトルの足は、ワイヤーで釣った軽自動車を、振り回している様な物だから、当然耐えきれずに、ダルマ落としの独楽の様に吹っ飛ばされる。
分散させても、分散した戦い方を知らないので、どう動けばいいのか判らずに、固まる。
攻撃する奴も居たが、狙いが腹だった。
3階の床の位置を狙っても、剣で届く訳無いのにね。
足を狙えと言っても、蹄を切ろうとする。
巨大な顔が近づいてくると、足が竦んで動かなくなる。
後ろに回り込もうとしても、上を気にせず、前しか見てないから、糞まみれになる。
散々だったね、クッソ弱いゴミ兵士だ。
仕方ないから、ソフティーに捕縛を頼んだよ。
生け捕りにしたら、メスだった。
しかも、乳が出る。
存分に搾り取ったよ。
そのままディメンションホールに流し込んでさ。
量はタンクローリー1台分くらいかな?、そのまま絞めて、明日のお昼ご飯かな。
糞まみれの連中を、クリーンも掛けずに、そのまま運んで来やがったので、ぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばされた救護班は、何が何だか判らなかった様子だったが、アーリアが激怒しながら、怒鳴った。
「貴様ら!、何故クリーンを掛けない!伯爵の元にその汚い連中を近づけるな!」
「く、クリーンをかけると、MPが足りなくなる恐れがありまして・・・」
「消毒もせずに回復させるな!、先にクリーンを掛けろ!仲間を殺したいのか!?」
「ひいぃぃ」
『メイドさーん、回復魔法の上手い人いたでしょ?その人に救護班の教育をお願いしたいんですがー?』
「一人連れてまいります。どのくらいの教育をさせますか?」
『徹底的にお願いします。基礎から。』
「畏まりました。」
回復は移動中に馬車の中でやったよ。
魔法使える兵士を先に起こして、マジックポーション使いながら、治させた。
こんなに回復魔法使える機会なんて、そうそう無いからね。
早く試せて良かったね。
回復魔法と一概に言っても、人によって効果にバラツキがあるんだよ。
イメージ力とMAG値に、差があるからなんだけど、酷いやつは、表面の傷だけ治して、終わりとかね。
そういうやつは、外傷が無いと治せない。
所謂、クズ治療士ってやつ。
ちょっと厳しいとは思うけど、徹底的に教育したよ。
「え?ちょっと待って下さい!、これ刺すんですか!?、痛い!痛い痛い!!」
「ギャァァー、助けてー」
『ほら、治せ、早く治療しないと痛みが続くぞ?』
「まだ、痛いんですが・・・、痛いょぅ」
『お前は、表面の傷しか、治していないからだよ。内側も治せ。』
「どうやるんですかぁ?痛いょぅ」
『痛い箇所に、魔法を当てればいいじゃないか、早くやれよ。』
針を刺すコルス、治せと嗾けるアルティス、どっちも怖かったらしく、暫らく近づいて来なかったよ。
でも、必要な事だからね?擦り傷とは違うんだよ。
日本でやったら、ハラスメントになるけど、こっちは、そんな物無いし、嫌なら置いて行くだけだ。
治療がまともにできない連中は、自分がそういう怪我をした事が無く、怪我に対する理解度が低い場合が多い。
魔法が使えれば、全自動で全て正常に治るなんて事は起きないから、骨折した時に捻じれたままヒールすれば、捻じれたまま繋がってしまう。
魔法の自由度が高い代わりに、こういう弊害もあるのが、この世界の魔法なんだよ。
他には、やり過ぎて、一回の治療でMPを使い切るやつもいた。
こういうのも、戦場では、役立たずに分類される。
こいつの治療を受けたやつは、病気まで治って、スッキリするんだけど、他に治さなきゃいけない奴が沢山いるのに、MP切れでぶっ倒れる。
こいつの教育が、一番面倒くさいな。
「治療を開始しますね。ヒール・・・・痛っ、何するんですか!?」
『なんで、怪我以外も治すんだよ!、他にけが人がたくさんいるだろ?、あれはどうすんだ?』
「だって、ずっと続いてるから、終るまで待ってるだけなんですよ?」
『そうじゃない、お前は、こいつの体全体に、治療をしてるからそうなるんだよ。ピンポイントで治療しろよ。』
「それだと、怪我を見なきゃいけないじゃないですか!」
『見なきゃ治療できないだろが!、見ろ!じっくり!』
「嫌ですよ!気持ち悪いじゃないですかぁ。」
『じゃぁ、クビだな。まともに治療できない治療兵なんて、必要無い。ここに置いて行く。』
「ま、待って、待って、やります!、怪我を見ますから!、クビにしないで!!」
『じゃぁ、次はこいつな、肉抉れてるけど、やれ!』
「おえぇ、気持ち悪い・・・」
『お前、仲間に向かって気持ち悪いとか、酷いな。彼氏できないぞ?』
「そ、それは関係無いじゃないですか!?」
治療を受けている兵士に聞く。
『お前は、この治療兵が、天使に見えるか?』
「・・・いえ、全く、早くこの場から立ち去りたいです。」
「がーん・・・、酷いですよね?」
『酷いのはお前だよ!、頑張って戦ってきたのに、治療士に「おえぇ」とか言われたんだからな?』
「うぐっ・・・、すみませんでした・・・。」
「今は可愛く見えますね。」
『はいはい、そういうのは、治療が終わってから、後でゆっくりやってくれ。』
「はい・・・。」
『おい!、また疎かになってるぞ!?』
敵からすれば、こういう時こそ狙い目となるのは、アルティスも十二分に理解してる。
だから、時々周りを確認してる。
と丁度、近くに暇そうにしてるメイドが一人。
この手の密偵って、馬鹿なんだよな。
だって、他のメイドは、みんな洗濯だー飲み物だー寝床の準備だーって走り回ってるのに、ぼーっと佇むメイドなんて、目立ってしょうがないじゃん。
『ソフティー出番だよ。』
『はーい』
即捕縛。
[鑑定]すると、悪魔ではなく、魔族と出た。
名前:ウルチメイト
種族:魔族
職業:密偵 戦士
HP:291
MP:5130
STR:135
VIT:322
AGI:143
INT:140
MAG:513
攻撃スキル:剣術 投擲 刺突
感知スキル:魔力感知 視線感知 殺気感知 毒感知
耐性スキル:状態異常耐性 闇魔法耐性 精神異常耐性
スキル:隠密行動 暗視
魔法:風魔法 火魔法 闇魔法 念話 隠ぺい 魅了
ご飯の友か?
こいつは、姿だけ真似てるから、メイド服の材質も違うし、アミュレットの作りも雑。
『何しにここに来たんだ?』
「私はただのメイドです。」
『そんな安物のメイド服を着たメイドなんて、ここには居ないんだよ。』
「!?」
『メイドさん、一人こっち来て。』
「はい、なんでしょうか?」
『このメイド服の材質、判るよな?』
「な、な、な、何で・・・アラクネ絹!?」
「あらら?、この子メイドになりたいのかしら?」
『教育してもらうか。魔王軍を裏切って、人間のメイドになり下がった魔族として。』
「え?この子魔族なの!?へぇー、魔族って初めてみました。人間と変わらないんですね。」
『変装してるからな。奴隷化して任せるから、メイドとして教育してくれない?』
「判りました!、お任せください!立派な一流のメイドとして育ててみせます!」
「お前の奴隷になどなるかっ!!魔族相手にできる訳無いだろうがっ!?」
『契約魔法 隷属』
「ぐぉぁっ!?、何故だ!お、主様のどれ・・・、ち、違う、おま、」
『うん、最初から決まり事を付けるのもアリだな。『お前』なんて言葉は言えなくしてやったよ。偉そうな態度も禁止してある。』
「ぐっぅ・・・、く、嫌ですよ、あ、ああ、ご、ごしゅ、ご、ご、くっ」
『ソフティー、もう解いていいよ。』
『はいはーい』
解いた糸を見て、メイド達が寄ってきた。
「その糸は、捨ててしまわれるのですか?」
『そーだけど?』
「頂けませんか?」
『いーよー』
「大変助かります。ありがとうございます。」
『えへへ』
メイド達が糸を受け取って、ソフティーに、丁寧なお辞儀をして戻って行った。
メイド達の態度に、ソフティーも満更でも無い様子だ。
和やかな雰囲気はさておき、こちらは未だに葛藤を続ける魔族が、うんうん唸っている。
『早く諦めろよ、あー、魔王からブローチ貰ってんだろ?、アレ洗脳装置だから、外すぞ?、いや、外せ!』
ウルチメイトが、震える手でブローチを外した瞬間、ポロっと落とし、踏みつけた。
何度も踏みつけて、粉々になったブローチを見て喚きだした。
「クソ魔王が!ふっざけやがって!、この俺を洗脳しやがって!」
『魔王が嫌いなんだな。』
「あの野郎だけは許せねぇ!、今度会ったらぶっ、ぶっ、言えねぇぞ!?」
『お前はメイドになるんだよ、そんな汚い言葉を言わせる訳無いだろ?』
「・・・仕方ない、です。ご主人様には魔力で完敗しましたので、大人しく従います。」
やっぱり、あのブローチやばいな。
どんな洗脳してんだろ?今度手に入れたら、徹底的に調べてみよう。
アレさえ無くなれば、魔族の殆どは居なくなりそうだしな。
ウルチメイトは、アルティスの前で傅いてる。
『よし、お前はあそこのメイド達に、仕事を教えてもらえ。絶対に逆らうなよ?暴力も駄目だ。お淑やかにする事を学べ。』
「畏まりました。」
さて、魔族の件はこれでいい。
が、悪魔の眷属がブンブン煩いな。
殺虫剤いや、ここはハエトリ紙でいくか。
『ソフティー、ちょっといい?』
『なーに?アルティス』
『ちょっと粘着性の糸を1本振り回してみて?』
『こお?』
ソフティーが糸を頭の上で振り回す。
『一旦止めて』
『ほい』
『おー、付いてる付いてる。』
『何か言ってるよ?』
『聞こえないし、どうでもいいでしょ。』
『そうだね。』
一匹のハエが、激しく藻掻き始めた。
多分こいつが本体なのかも?
『[ホーリーボックス]』
『[ホーリーウォーター]』
次々と死んでいく中で、1匹だけ生きているやつがいるので、ボックスを一旦解除して糸を外してもらい、このハエだけを圧縮したホーリーボックスに入れて、ディメンションホールに放り込んだ。
ブンブン煩かったハエが居なくなった。
部隊の怪我人も治療が済んだので、タックアーンの中に入って行った。
タックアーンの街中は、何故か暗く、人々は胡乱気な表情で、元気が無い。
どうしようか、先日きれいにした筈なんだけどな。
『コルスー』
「お断りします。」
『まだ何も言ってないじゃん。』
「また、面倒くさい事をやらせようとしてますよね?」
『んー、結果的にそうなるかもしれないけど、どう対応したらいいか、案が無いかなーって思ったんだけど、嫌ならいいや。』
「え?、いや、嫌じゃないですよ?」
『断ったじゃん?』
「いや、そんなに軽く、いいやって言われると、何か、ちょっと寂しいっていうかですね。」
『コルスって、そんな面倒くさい性格だったっけ?』
「面倒くさくないですよ?、こんなに可愛くて、優秀な部下に向かって、酷い事言わないで下さいよ。」
『洗脳されてる?』
「アルティス様、こんな変な奴より、私を使ってください。」
現れたのは、モコスタビアで門番と一緒に、検閲していた、式神使ってた人な。
名前何だっけな?
『名前何だっけ?』
「私の名は、オロシです。」
『オロシか、よろしく。』
「はっ!よろしくお願いいたします!」
『オロシは札が使えるんだったよな?』
「はい、この札に魔法を書けば、使える様になります。」
『この札は、範囲魔法とか結界魔法に使えるのか?』
「結界でしたら、中心と周囲に線を結ぶように貼って行けば、作れます!」
『俺の魔法も使える?』
「多分使えるかと。」
『ちょっとやってみよう。』
貰ったお札に光属性魔法を書くと、ボロボロに崩れて無くなった。
もう一枚には、光属性を刻印してみた。こっちは大丈夫みたいだ。
『これをこの街の外壁に貼り付ければ、結界が張れるってことだな?』
「こ、この街全体にですか?」
『そうだよ?』
「わ、私、死んじゃいますよ。」
『死なない様にする為には、何が必要?』
「各お札に、魔石を使えば、いけるとは思いますが、中心に置く魔石は、強力な物じゃないと厳しいですね。」
『このゴーレムのコアとかは?』
「す、凄っ!、これなら、魔力を補充できますから、いけると思います!」
『そうか、じゃぁ貼ってきて。』
「はっ!」
『この街の中心地は、官吏の屋敷か。あそこの屋根に付けるか。』
オロシに仕事を頼むと、コルスが俯いてしまった。
『コルス、落ち込むなよ?』
「お、落ち込んでなんかいません。」
『そうか?、自分の立ち位置を、奪われたみたいな顔してるぞ?』
「・・・私が、弛んでました。申し訳ありません。」
『何言ってんだ?、今回は、コルスの範疇から外れていただけの話で、別にコルスが使えないなんて、思ってないからな?』
「でも・・・、補佐できなかったので。」
『お前の仲間が、フォローしてくれただけだろ?、俺は、役に立つなら何でも使うんだよ。俺ができないからな?、お前は、俺の手となり足となってくれれば、それでいいんだよ。』
「うっ・・・、精進します。」
『じゃぁ、これを官吏の屋根の上に、設置してきてくれ。』
「はい!」
ゴーレムのコアをミスリルの台座で固定して、官吏の屋敷の屋根の上に、設置できるようにした物を、コルスに渡して設置してもらった。
『しかし、アイツ全然帰って来ないな。コルス、ちょっと様子を見てきてくれないか?』
「はい!行ってきます!」
「アルティス様、コルスどうしたんですか?」
いつもと違う様子のコルスを心配してか、カレンが聞いてきた。
『んー、まぁ色々あるんだよ、アイツにも。』
「失恋したとかですか?」
「してませんよ?」
「うわっ!?、ちょっと!びっくりするから、後ろから話しかけないでよ!」
カレンの後ろから、戻ってきたコルスが答えたので、カレンは驚いた様だ。
『どうだった?』
「貼る位置に拘っていて、悩んでました。」
『そうか、位置って決まってるんじゃないのか?』
「そうですね、中心のコアの高さじゃないと駄目ですね。」
『うーん、アイツ抜けてんなぁ、やっぱりコルスじゃないと使えないな。』
「当然です!」
コルスが、どや顔で返事したのを見て、カレンが呆れた顔で苦笑いをした。
「なんだ、そんな事か。」
「そんな事じゃ無いですよ?、カレンさんだって、リズさんばっかり命令されてたら、嫉妬くらいしますよね?」
「そりゃ多少はするけどさ、私の忠誠は、その程度じゃ揺るがないよ!」
「只今戻りました!」
『おう、準備は完了か?』
「はい!いけてると思います!」
魔力感知を使って、魔力の繋がりを見て、交差の中心がズレていないか、確認してみると、少しズレているのが見えた。
だが、そこにヒントがある様な気がして、聞いてみた。
『ちょっとズレてるんだけど、あれってさ、交差してないと駄目なのか?』
「え?ズレて・・・ますね・・・。師匠は五芒星とか六芒星を書いて、中心に魔石を置いてましたが、私にはまだ、そんな技量が無くてですね・・・」
『お前、近眼だろ?』
「きんがん?」
『近くの物は見えるが、遠くの物はぼやけて、見えないだろ?』
「あ、はい、ちょっと離れると、ぼんやりとしか見えないです。」
『よく、そんなんで、暗部なんてやれるな。』
「何となく、見えていれば、それなりにできますよ。たまに、屋根を突き抜けたりはありますが。」
『それじゃぁ、駄目だな。コルスには、一生かかっても追いつけないな。』
「ガーン」
『あと、体力も足りてない。俺の下に就きたいなら、この街を5周できるくらいの体力が無いと駄目だな。な?コルス』
「5周は、ちょっと厳しいですよ?」
『じゃぁ、5周してきて。』
「無茶振りしますね、やってもいいですが、結界はどうするんですか?」
『そっちが先だから、終ったらでいいよ?』
「その時の分は、カウントに入りますよね?」
『入らないよ?』
「きつすぎますよ!?」
『冗談だよ、やらなくていい。』
『そんな事よりも、カノエとヒノエは、今回は居ないのか?』
「居ますけど、何か用でもあるんですか?」
『街の調査を頼もうかと思ってな。』
「既に動いています。」
『先行して、クスノベルティにも行かせたいんだが。』
「単独では、危険過ぎます。」
『何か情報を持ってるのか?』
「4人と連絡が取れなくなっています。」
『ローブ渡してもダメか?』
「厳しいかと。」
『悪魔が跋扈してるのか?』
「その可能性が高いと見ています。」
『うーん、ワラビでも派遣するかなぁ。』
居残り組でも、派遣してみるか。
『リズ、ちょっと頼みたい事があるんだが。』
『・・・リズ?』
返事が返ってこない。
『バリア?』
バリアも反応が無いな。
『ミュール?』
『はい!アルティスー、リズもバリアもサボってるー。』
『リズ!バリア!、お前ら、あるじからのお仕置き待ってろよ!』
『ちょ、ちょっと待って下さい!、わ、私達、ちゃんと仕事していますよ!』
『じゃあ、何でミュールが困ってんだよ!!』
『ワラビいるか?』
『はい、何か御用でしょうか?』
『施設全体にホーリーフィールドかけてくれ。』
『それは、何をする為にでしょうか?』
『悪魔の精神干渉を受けている可能性があるからだ。』
『それでは、セイクリッドフィールドの方が、確実だと思います。』
『そうか。ではやってくれ。』
『はい。』
今回の措置は、〈アミュレットを外した瞬間〉を狙われた、可能性を考慮しての対策だ。
アクセサリーである以上、どうしても外す瞬間がある。
例えば、風呂に入る時がそうだ。
なるべく、常時つけている様には言ってあるが、確実では無い。
その為、断続して、精神干渉攻撃を受けていた場合、外れた瞬間にかかってしまう。
アルティスに、忠誠を誓っている筈のリズまでもが、不真面目になっているのであれば、可能性が高いと思いたい。
その点、聖女であるワラビには、周囲を神聖な空間が覆っている為、遠距離での悪意ある攻撃には強い為、精神干渉を受けて居ないと、判断できるのだ。
因みに、ホーリーフィールドは光魔法で、セイクリッドフィールドは神聖魔法、アルティスには使えない属性の魔法で、対悪魔や精神魔法への効果は絶大だ。
『完了しました。』
『ありがとう。』
『リズ、どうだ?』
『私、アミュレット付けてない・・・なんで?』
『早く着けろ。ミュール、キュプラの様子はどうだ?正常なら、アミュレットを着けていない奴がいないか、一緒に回って確認してこい。』
『了解です!。キュプラ行こう!』
『ほーい』
『ワラビ、アミュレットの装着が済んだら、クスノベルティに向かって欲しい。』
『判りました。メンバーはどうしますか?』
『リズ、ミュール、キュプラ、ワラビの4人で向かってくれ。』
『了解しました。』
『コルス、ちょっとお札増やすから、五芒星か六芒星を作れる様に、貼りなおして来てくれ。』
「私、この術使えないんですよ、貼り直すなら、オロシが居ないと、できないですね。」
『じゃぁ、貼る位置はコルスが決めて、貼りなおしをオロシがやってくれ。』
「「はい!」」
どんな速度で移動してるのか、判らないが、あっという間に五芒星が完成した。
「戻りました。」
「はぁはぁ、も、もど、戻りました、はぁはぁ。」
『街全体をフォローできてるか?』
「外壁の一部が外れていると思います。」
『じゃぁ、六芒星で行くか。』
「そうですね、それがいいと思います。」
『オロシ、大変だとは思うが、やってきてくれ。』
「はい・・・。」
オロシはきっと、コルスのスピードに着いて行くのに必死なんだろう。
五角形から六角形に変えると、辺の直線上が大きく変わるから、殆どを変更しなくてはならなくなる。
内角の角度が72度から、60度に変わるので、それを計算に入れながら貼る場所を決めていく。それぞれの距離は多少短くなるが、街を一周する事には、変わりは無いので、大変だろう。
『六芒星でも厳しいなら、八角形でもいいぞ?』
『あ、大丈夫そうです。この街は六角形に近いので、範囲内に入ります。』
『そうか、オロシの様子はどうだ?』
『遅いので、抱えてます。』
『そうか、オロシを暫らく鍛えてやれ。』
『了解です!』
オロシが近眼だと判ったから、何か作ってやるか。
コンタクトがいいんだろうけど、作れないから、遠近両用眼鏡でも作るか。
『私も欲しいです』
『コルスは要らないだろうけど、試しに作ってやるよ。但し、不要なら不要と正直に言えよ?』
『・・・はい。』
いま考えてるデザインは、昔のロボットアニメで見た、3つのレンズが切り替わるやつだ。
あれは確か、距離ではなく赤外線レンズと別のだったかな?、まぁこっちの世界の場合は、赤外線よりも魔力を見た方が便利なんだよね。
赤外線の場合は、濡れたり冷やしたりで、誤魔化せるけど、魔力の場合は、そうはいかない。
何故なら、生物や魔法生物は、全て魔力を含んでいるからだ。
遠距離から攻撃する時、魔法を使う時、拳で殴る時にも魔力を使う。
空気中の魔力をマナと呼ぶが、魔法という手段で、空気中のマナを除外すればいいだけだ。
とりあえず、理論とかそういうのは、今は説明できない。
自分自身もよく判ってないからね。
なんせ、生まれてからまだ1年経ってないんだからさ。
という訳で、魔力が見えるレンズと、属性が見えるレンズと普通のレンズの3種類を使い分けられる眼鏡?ゴーグル?を作ろうと思う。
まぁ、理屈は色々あるけど、簡単に言えば、フィルターをかけるだけだね。
でも、切り替える機構は、ちょっと時間かかるかも・・・。
とりあえずは、遠近両用眼鏡を渡しておこう。
孤児院に到着した頃、コルス達が戻ってきた。
『大根オロシ大丈夫か?』
「だ、だいこんって、なんです、か?ゼェゼェ。」
『コルスが抱えてたんじゃなかったのか?』
「鍛えてやれって言ってたので、鍛えてました。」
『あぁ、そうか、まぁいいや。オロシ、最後の作業は?』
「あの、魔石に、魔力を、そ、注ぐ、だけで、す。」
『判った、行ってくる。』
息も絶え絶えのオロシに聞いた方法をやる為に、屋根に上り、魔力を注ぎ込んだ。
魔石から六芒星に魔力が繋がり、各お札に向かって魔力が走り、お札に到達すると、お札の場所から結界が、せり上がってきて、ある程度の高さまで上がると、六角推を作る様に中心に集まって、街全体が12面の傘に、覆われた状態になった。
その結界は、完成と同時に透明になり、見えなくなった。
一部始終を見ていた住民は、何が起こったのか判らずに騒いでいたが、特に何も起こらず、むしろ気分がすっきりしてきたので、それ程続かなかった。
『結界が完成して、街の雰囲気も明るくなった気がするな。』
「こんなに効果的とは、思いもよりませんでした。」
「凄い、こんな結界初めて見ました。アルティス様の、お力あっての事だと思います。」
俺が感想を言うと、コルスが驚きを口にし、オロシは自分の成果ではないと言う。
『オロシの協力があってこその成果だ。ちゃんと誇れよ?』
「え?、えへへ、ありがとうございます。」
こんな結界、俺一人じゃ成しえなかったからな。
『コルス、これ使えそうか?』
「うぇっ、ちょっと、これ、何ですか?、くらくらします。」
『じゃぁ、オロシ着けてみてくれ。』
「は、はい、・・・あれ?、見える・・・、見えますね、これ!いいですね!」
『逆に手元が、見え辛くなってないか?』
「ちょっと大きさが違って見えますが、大丈夫そうです。」
『じゃぁ、暫らくは、寝る時以外、着けたままにして、慣れてくれ。』
「寝る時は、外すんですか?」
『寝返りうつと、割れて目に刺さるぞ?』
「寝る時は外します!」
『あと、急激な温度差の場所に行くと、曇る事があるから、気を付けてな。』
「曇るとは?」
『眼鏡に息を吹きかけてみろ』
「はー、あ!、白くなりました。これが曇るって事ですか。」
『ガラス面を脂を付けた布で拭くと、曇りにくくなるが、汚れが付きやすくもなる。』
「メンテナンスが必要って事ですね、判りました。大事に使わせてもらいます。」
メガネフレームに紐で固定できるようにしたんだが、レンズが丸いせいか、の○太に見える。
まぁいいか、知らないだろうし。
『さて、ウルファの成果でも見るかねぇ。』
「お、来たな?、どうだ?」
『うーん・・・、ちょっと腹見せろ』
「!?」
「い、いや、ははは、腹は、ちょっとな・・・」
『ほら、出せよ、おい、自信無いのか?』
「ま、まて、ちょ、やめ、だあ、こら、おま、ちょ、待て待て、おい!」
逃げるウルファの手を躱し、捻った腰を先回りし、再び妨害してきた手を叩き落し、腹の肉にたどり着いた。
腹を触るとプニプニしてる。
『ぷにぷにしてるなー』
「不合格だな。夕飯の後で模擬戦をやってやろう。私に掠ったら考えてもいいぞ。」
「掠ったらって、そんなに自信あんのかよ?」
「あるな、アルティスともやってるしな。」
「勝敗は?」
『五分五分だ』
「マジかよ!?、アルティスのパンチは受けられるのか?」
「まともに受けたら剣が折れるし、多分肩が外れるよ。」
「受け流すって事か?」
「いや、避ける。」
「・・・すまん、俺には無理だぁ。」
アーリアとウルファの会話にカレンとルースが参戦した。
「そんなの私だって無理だよ?、アルティス様のスピードにはついて行けないよ。」
「俺も無理ですね。この前やった時なんて、瞬きしたら消えてましたから。」
「瞬きしたら消えてたぁ?ホントににん『黙れ』」
「なんだよ?」
『それは禁句だ、あるじの握力は、鋼鉄の兜を握り潰すほどだぞ?受けたいのか?』
ウルファが首をブンブン横に振る。
命拾いしたな。
『そういえば、カレン手伝わなくていいのか?』
「今日は、使用人とメイドの合作らしいですよ。」
『へー、あの奇抜な料理も出るのか?』
「い、いやぁ、あれは出ないんじゃないですかねぇ?」
奇抜な料理とは、メイド達が新しい料理を作り出すと言って作った、甘辛しょっぱい煮物と辛ーいスープの事だ。
煮物は青い色をしていて、スープは真っ赤だった。
毒見役は一口目で泡を吹いて倒れた。
アルティスは、人に食わせる前に、味見しろ!と怒鳴って、残りを全部メイド達に食わせたのだ。
今日はさすがに、子供達も食べるのだから、そんな物は出さないと思いたい。
思いたかったが、出てきた様だ。
「キャー辛ーいー、お口痛いー、わあああああぁぁぁぁ」
「げほげほげほ、のどがいだい・・・。」
この惨状に、アルティスがぶち切れた。
『この料理を作った奴連れて来い!今すぐ!』
「ひいいぃぃ」
『早くしろ!、連れてこないのなら、連帯責任だ。』
『料理した奴全員首を切り落とす!』
殺気が吹き出し、アーリアが慌ててアルティスを抑える。
「アルティス!落ち着け!、犯人をすぐに連れて来るから、とりあえず殺気を抑えろ!」
『・・・すまない、少し怒りを抑えきれなかった。』
落ち着いて周りを見回すと、一瞬であったが、凄まじい殺気を浴びて、ウルファも含め、子供達や伯爵夫妻、騎士と兵士、メイド達までもが、泡を吹いて倒れていた。
『ヤバい・・・、カレン、馬鹿メイドを外に連れ出してくれ。外でやる。』
「・・・はい。とても怖かったです。ちょっと待ってて下さい。腰が抜けちゃったようで、動けません。」
『済まない。みんなの介抱も頼む。』
「はい、判りました。」
アルティスは、冷静さを失ってしまった事を深く反省し、一人外に出て佇んでいる。
10分程で、カレンが馬鹿メイドの髪を掴んで、引き摺って持って来た。
『悪いな、カレン。』
「いえ、ソフティーさんを呼んでいただけませんか?」
『何で?』
「メイド達を脅しているので。」
『判った。ソフティーこっちに来てくれ。』
『ううー、こいつら、アルティスを怒らせた張本人だから、許せない!』
『主犯はこっちに居るから、こっちに来て。』
『判った。』
後でカレンから聞いた話では、ソフティーがメイド達と使用人達を威嚇して、早々に気絶させていたそうだ。
ソフティーには、辛みを感じる為の器官が無いので、辛い味には気が付かなかった様で、味見はしていたが、辛いなんて知らずに、そのまま運んでいたそうだ。
ソフティー自信も、子供達と遊んでいたので、泣かせてしまった事に、責任を感じているのかも知れない。
『こいつが悪者?』
『そうだよ。こいつが辛い料理を作った張本人だ。』
『殺していい?』
『殺すのは駄目だな。カレン、コイツの他に、悪ノリして共謀した奴が居る筈だから、他の料理を作った奴らも連れて来てくれ。あと、辛くて泣いてた子達には、ラモン入りの水を飲ませておいてくれ。』
『判りました。』
カレンが他の連中を連れてきて、すぐに中に戻って行った。
気絶したままの張本人に水をかけ、起こした。
『お前らが料理を作ったんだよなぁ?』
「ちょ、ちょっと待って下さい、あの料理は、こちらのメイドの方が作られたものです!」
『ほおぅ・・・、先日、あれ程食べられない物を作るなと言ったのに、無視してまたやりやがったと?』
「あ、・・・いやぁ、その、耐えられなかったというか、えーっと、みんなをびっくりさせたかったと言うか、ですね、そのーぅ」
このメイドは、先日の酷い料理を作った奴だ。
一度目の時に、次やったら殺すと警告をしていたのに、また、やりやがった。
『クビ刎ねるか。2度目だしな。子供を泣かせるなど、大人のやる事じゃねぇよなぁ?』
「あ、あああ、わ、わわ、わわ、わた、私が、ご、ごご、ごめ、ご迷惑、か、かかか、か・・・」
ピンポイントで、メイドに対して殺気を向けると、青い顔でガタガタ震えながら謝罪しようとして、気絶した。
『どうする?』
『許せる?』
『むーりー』
もう一度、水をかけて起こした。
『気絶しただけで許してもらえると思ったら、大間違いだぞ?。今回はソフティーも怒ってるからな、命は無いと思え。』
「ひいいぃぃ、ゆ、許して、く、くだ、くだ、さい。お、お願い、しし、します。」
『アミュレット返せ。そのメイド服も脱げ。もうお前がどうなろうと知らん。悪魔でも魔族でも、なんでもいいから、襲われて死ね。俺達は、お前がどうなろうと気にしない。俺は、反省しない奴は大嫌いなんだよ。』
アミュレットとメイド服を回収して、建物の中に戻った。
夫妻は、この件については、特に何も意見は無い様だ。
まぁ、アルティスに、殺されないだけマシということだろう。
アルティスは、気絶させてしまった伯爵夫妻と、子供達に謝罪して、お詫びとしてパンケーキを作って、ハチミツをたっぷりかけて出した。
外に放置したメイドは、普通のメイド服を着せられて、仕事に復帰したが、伯爵夫人から、二度と料理を作る事を禁じられた様だ。
一緒に調理場で料理していた連中には、激辛料理を堪能してもらったよ。
少し砂糖を振りかけてね。
翌朝、張本人達の朝食は、激辛尽くしで揃えてあげて出発した。
本来は、タックアーンで新装備に、着替える予定だったのだが、騎士も兵士も、あまりにも頼りなさ過ぎて、新装備を与えるに値しないとの判断を下したので、従来の装備のままだ。
昨晩の怒りも、まだ治まっていないので、八つ当たりも含まれている。
朝食後に集まった兵士達は、アルティスとソフティーのピリピリとした雰囲気に、新装備を貰える様な感じには思えず、昨晩、何があったのかをルースやカレンに聞いていた。
タックアーンを出ると、次の狩場は、岩山だ。
ロックリザードに、八つ当たりをしようと目論んでいたが、兵士の訓練に当てる事になり、アルティスは監視のみだった。
憤懣やる方ないアルティスは、周辺の岩を、爪でザクザク切って憂さ晴らしをしていたが、思わぬ物が出てきてしまった。
『あー、どうしよう?これ。』
「何をみつけ・・・、あはは、もうこれ以上お金はいらないんだけど?」
それを見た時、アルティスは血の気が引いていくのを感じた。
アーリアは、アルティスからの念話を聞いて、現場に急いで来たが、実際に目にすると、一瞬、頭の中が真っ白になり、伯爵夫妻に丸投げしようと、思考を放棄した。
『んー、俺が貰うってのは駄目?』
「これは駄目だね。伯爵に報告しないと。」
『そっかー、仕方ない。』
「呼んでくるよ。」
『待ってる。』
伯爵夫妻が、慌ててやってきた。
発見された物を見て、口をぽかんと開けたまま、固まってる。
鉱石の断面とアルティスを交互に見て、生唾を飲み込み、やっとの事で言葉を発する事に成功した。
「これを見つけたと・・・?、こんなに大量に見つかった事なんて、今まで聞いた事がなかったよ。」
「そ、そうね、今まで見つかってる、魔力鉱石はこぶし大がせいぜいだから、これは世界最大ね。買取金額は国家予算を軽く凌駕するわね。」
「これはどれくらいの大きさなのか、解かるかい?」
『えっと、・・・これは一部が出てるだけで、この下に巨大な鉱脈があるようです。』
見つかったのは魔力鉱石と呼ばれる、天然の鉱石から採れる魔石だ。
青くて透き通った石の中に、銀色や虹色でキラキラと光る、マナが見えると言われる模様で、その模様は鉱石の形に因って、中心から放射状に伸びる様に変化する。
属性は特に無く、安定しており、魔石の様に爆発させる事が難しいとされていて、仮に爆発したとすると、直径1センチの鉱石でも半径100mは、消し飛ぶと言われている。
希少価値としては、拳大の大きさの鉱石で、高位魔獣クラスの30センチ程の魔石と同等の魔力量で、普通は、ミスリル鉱山で極々稀に見つかる程度だ。
拳大の鉱石が、オークションで白金貨3000枚で落札された事から、1ケロ辺り5000枚から6000枚と推察される。
アルティスが今回見つけたのは、直径3m、高さ10mの岩を切った時に、中身が全部魔力鉱石だったので、何トンあるのかも判らないくらい大きい。
しかも、振動感知で調べた結果では、地下数百メートルまで広がる魔力鉱石の鉱脈だった。
頑張って掘っても、100年くらいは、掘り続けられる。
つまり、この鉱山の発見者であるアルティスから、国が買い取るとしても、500年分の国家予算が必要になる。
実質無理だよね。
だから、困ってるのさ。
『えっと、鉱山の所有権を放棄しますので、買取金額とか考える必要は無いです。』
「「・・・・・・」」
「だ、大発見、ですね・・・。」
「結界で囲って見つからない様にしてくださる?」
『はい、魔族も悪魔も人間も近寄れない様に、頑丈な結界を周囲も含めて、張っておきます。』
「そうして頂戴。これがあれば、この国は当分お金に困らないわ、切り取った部分は、アルティス様に進呈しますので、いい活用方法を考えて下さい。」
『わかりました。有難くいただきます。』
こんな大鉱脈、放り出す訳にはいかないので、この周辺も含めて、結界で保護するよ。
盗掘の心配はほぼ無いんだけど、絶対に掘れない訳では無いからね。
この鉱石って硬いんだよ、モース硬度15くらいありそう。
『オロシ、コルス、ちょっと来て』
『どうしたんです?』
『大至急。』
『はい、今行きます。』
『・・・・・・・・・・・・』
『何か喋れよ。』
『アルティスさん、結婚しません?』
『断る。』
『酷い。』
『金に目が眩んだって判るプロポーズなんぞ、スライムの糞より価値が無い。』
『だって、これだけあれば、どんなに無駄遣いしても減らないんですよ?』
『ここは、国に譲渡するんだよ、だから、金は受け取らない。』
『他の物を貰うんですか?』
『この鉱石を少しだけもらう。』
『勿体ないんじゃないですか?』
『今貯金いくらあると思ってんだ?』
『さぁ?』
『白金貨4万枚だよ』
『一枚ください。』
『いいぞ。』
『と言っても無理で・・・ええ?、くれるんですか!?』
『それだけ活躍してるからな、今まで通り、活躍してくれるなら10枚くらい安いもんだ。』
コルスは実際、活躍している。
普通に考えれば、高給取りでもおかしくない程に使える人材だ。コルスが引き抜かれそうになったら、10倍の金を出してでも取り戻したいくらいにな。
『あの・・・、私も活躍したら、貰えますか?』
『いいぞ、何かあるのか?』
『家族に家を買ってあげたいんです。』
『そうか、いい話だとは思うが、家族の生活費までは出すなよ?』
『何故ですか?』
『自分で稼いだ金じゃないからな、ちょっと贅沢が、どんどんエスカレートしていって、元の生活に戻れなくなるんだよ、そうなったら、もう家庭崩壊まっしぐらだぞ?』
そんな話は幾らでも聞くよな。
高額の宝くじが当たって、贅沢しまくってたら、いつの間にか、金が無くなってて、何とか増やそうとして泥沼に嵌っていく話だ。
大体、働かなくても金が貰えるなら、普通は働かなくなるものだ。
『そうなんですか?』
『お前がもし、何もしなくても大金がもらえると言われたら、仕事続けるか?』
『んー、続けないですね。』
『一度だらけると、もう一度働こうなんて、思えなくなるものだ。』
『でもアルティスさんは、お金持ってるのに、働いてるじゃないですか?』
『あるじが仕事大好き人間だからな。』
『でも、アルティスさんは、別に働かなくてもいいんじゃないですか?』
『あるじの為に動いてるだけだ。』
『みんなの装備については?』
『みんなに死んで欲しくないだけだ。』
『死んで欲しくない理由は?』
『みんなが好きだからだ。』
徐にコルスが俺の前に跪き、
『私は、アルティスさんのその優しさが大好きです。これからも、アルティスさんのお役に立てる様頑張りますので、どうかよろしくお願いします。』
『俺もコルスの事が大好きだ』
『じゃぁ、結婚します?』
『しないよ?』
『がっくり。』
『ほら、仕事するぞ。』
『はーい』
アルティスは、鉱脈の上に、土魔法で山を造り、コルスとオロシは、光属性と侵入防止の結界を張った。
アルティスは、その結界を包む様に、認識阻害の魔法と反射の魔法を付与した魔力鉱石を山に埋めた。
魔力鉱石は、潤沢な魔力を含み、空気中のマナを吸収する設定を付けると、壊れるまで半永久的に動き続けるのだ。
壊れる可能性としては、長い間風雨にさらされたりする事で、登録した魔法陣にヒビが入ったり、欠けたりする事で、魔法が発動しなくなるのだ。
馬車に戻ってから、貰った魔力鉱石の分析を始め、直径5cm程の玉を20個程作った。
この魔力鉱石というのは、長い年月の間、高濃度の魔力に晒される事で、発生すると考えられている為、見つかった場所の近くには、大抵、竜脈と呼ばれる魔力の通り道が近くにあるのだという。
だが、今まで見つかった魔力鉱石が、拳大となると、竜脈以上の魔力を放つ何かが埋まっているとしか思えない。
『竜脈以上の魔力を放つ物って何だろ?』
「そうだな・・・、エンシェントドラゴンか、神龍、そのくらいしか思いつかないな。」
『神獣とか、大精霊の可能性もあるわよ?』
『ソフティー、喋り方気にしなくていいよ?好きな喋り方で問題無いよ。』
『そお?じゃ、こっちにする。』
「フフフ、気を使っていてくれてたのか。」
『キュプラと会話している時と違うから、不自然な気がしてた。最初は、丁寧に聞こえる様にしてくれていたんだよね?』
『うん、乱暴な言葉よりいいかと思って。』
『今は、楽な方でいいからね。時々口調が変わるから、何かと思ってたよ。』
『ミュールとルベウスが普通に喋ってるの聞いて、羨ましいと思ってた。』
『ルベウスは、話すのが得意じゃないだけだけどね。』
ルベウスの話題を出すと、ルベウスが会話に入ってきた。
『俺喋るの下手?』
『ちょっとね、片言に聞こえるよ。』
『もうちょっと頑張る』
『カレンと話してる?』
『あるじ、忙しそうで、あまり話してない。』
『話したい事があったら、話していいんだよ?』
『あるじ、よく疲れてる。俺、あるじの休憩邪魔したくない。』
『ルベウスが話すだけでも、休憩になるんだよ。相棒なんだから、色々話をするのも大事なんだよ。あとは、甘えるとかね。』
『甘える?』
『寝る時に、顔の横に行くとか、座ってる時に撫でろって顔をするとか。』
「アルティスはそんな事したっけ?」
『寝る時は首の所に行ってたじゃん?、あるじに嫌がられたから今はしてないけど。』
「え?嫌がった?いつ?」
『寝ぼけて、押しのけられたよ?』
「知らなかった。ごめん。」
『くすぐったかったのかも知れないから、今は枕の上で寝る。』
「以前は、よくお嬢様の所から逃げて来てたな。」
『ペティは、寝相が悪いから、落ち着いて寝られないんだよ。』
『それ、判る。俺も一度寝たけど、押しつぶされそうになった。』
『なるなる。』
『私とは寝たがらないよ?』
『ソフティーの毛は硬いからだね。』
『そっか。』
話が大分逸れたが、魔力鉱石は何に使おうかね。
『オロシ、ちょっといい?』
『はい?なんですか?』
『オロシ一人で結界って張れるんだっけ?』
『張れますが、アルティス様の程の強度は、作れません。』
『魔力鉱石を使っても?』
『うーん、見てみない事には何とも。』
『馬車に来て。』
「来ました。」
『これなんだけど。』
「ほー、これが魔力鉱石ですか。これなら、いけますね。」
『ナットゥの街にだけ、結界張ってないじゃん?だから、行ってきて欲しいなぁと、思ってるんだけど。』
『それなら、こちらから、別の者を手配しましょう。他にも結界を張れる者はおりますので。』
突然、執事が会話に入ってきた。
『じゃぁ、そうしてもらおうか。』
『タックアーンで、魔力鉱石の受け渡しをお願い致します。』
『誰に?』
『・・・』
『甘いな、目玉。口調が全然似て無いんだよ。それとな、お前の魔力は、既に登録済みだ。だから、すぐに判るんだよ。残念だったな。雑魚。』
『返事ありませんね。』
『最後の雑魚に[バーサク]を乗せてやったからな。今頃暴れてるだろうよ。』
「はあー、無詠唱ですか?、凄いですね。」
『意外と簡単だったぞ?』
「無詠唱がですか?」
『頭の中で唱えるだけだ。』
「??」
『指を目の前に出して、指先に火が出るイメージで、頭の中で唱える。』
ポッ
『わ!出た!』
「無詠唱できました!」
『簡単だろ?』
『はい!、ありがとうございます!』
岩山に馬車が進入した。
ロックリザードの討伐は、先に兵士が岩山に入り、道の周囲のロックリザードを排除していた。
ミスリル鉱山の探索も、ロックリザードの排除が進んだ為に、順調に進められる様になった様だ。
街道からのルート上には、魔獣除けの魔道具が置かれ、安全地帯を作っているらしい。
アルティスは、安全地帯の数か所に、悪魔除けの光属性ゲートと精神干渉解除用の魔道具を設置しておいた。
探索者の一人が苦しみ出したので、憑りつかれていたのだろう。
魔道具は、毎日通る場所に設置したので、かかってもすぐ治ると思う。
ロックリザード討伐での怪我人は、10名。怪我の内容は、骨折一人で、他は打ち身だけ。
全員焦って転んだだけだった。
骨折した者は、転んだところに鋭角の岩があって、そこに腕を着いたからだった。
未だに足腰が弱い奴がいる事に驚いたので、足場の悪い場所でマラソンさせた後、ルースとルベウスの攻撃を避ける訓練をした。
調理班は、その間に昼食を作っていた。
問題のメイドは、近づけさせず、掃除と洗濯のみの作業に専念させている。
ウルチメイトにも、たまに話を聞いて、イジメや八つ当たりが無いか調べている。
ウルチメイトは、たまに愚痴を言うが、仕事内容については文句が無いらしく、愚痴の内容は殆ど魔王に関しての物だった。
「また来たんですよ、魔王の使い魔が。報告が無いだの、裏切りだの、遠くまできてやっただのと、うるさいんですよね。もう、嫌になっちゃいますよ。」
『魔王の使い魔だったら、殺していいよ。』
「ホントですか!、やった!、次来たらやっちゃいますね!」
『で、その使い魔ってどんなやつ?』
「大抵は、蝙蝠とかネズミですよ。たまに魔族が来る事もありますが、ほぼ無いですね。」
『魔族が来たら、念話してくれ。捕まえるから。』
「はい、畏まりました。」
ウルチメイトの裏切りが確定したからか、早いタイミングで魔族が来たと念話が来た。
『ソフティー出番だよー。』
『はーい』
捕まえたのは、レッドキャップ?じゃなくて、ノームらしい。
こいつもブローチを着けていたので、取ってやったら、凄く感謝されたよ。
本来は、温和な種族で、人間とも交流があり、鉱山で一緒に働くこともあるらしいが、魔王に操られてる時に、友人になった人間を殺してしまい、魔王を憎んでいるのだそうだ。
もう、何か、王都に行っても、魔王軍なんて居ないんじゃないかと思ってるよ。
だって、戦闘種族でもないノームを暗殺者にするとか、人手不足にも程がある。
ノームの話では、前の魔王は高齢ですぐにでも死にそうな感じだったらしく、今の魔王にあっさり殺されたのだろうと言ってた。
前の魔王は、昔勇者と戦って、負けてからは勇者との約束で、平和を保っていたそうだ。
新しい魔王は、MAGが低い癖に、異様に強かったそうだ。
まぁ、悪魔に唆されて魔王になったらしいからな、悪魔に操られていてもおかしくは無い。
MAG値が低いなら余計に疑いが、信憑性を持ってくる。
四天王については、ダッドアイ、ダフネスは健在だが、他二人は知らないらしい。
名前も知らないとの事。
ウルチメイトにも聞いたが、ウルチメイトも知らないと言っている。
どうなってんだ?魔王軍は。
『ちなみに、ノームの君の名前は?』
「オラは、タゴサだ。」
『タゴサクか』
「違うべ、タゴサだんべ」
『タゴサ』
「そう、タゴサ」
「タゴサクなんて名前付ける奴はいねえべょ、だってぇ、伝説のノームの名前だんべょ」
『伝説のノーム?』
「んだぁ、勇者さんに協力したノームの英雄だでぇょ」
『そっか、ノームは昔から魔王側ではないんだな。』
「んだんだぁ」
「ご主人様、よくノームの訛りが強い言葉を理解できますね?」
『そんなに訛りが強いか?普通だと思うぞ?』
ウルチメイトに引かれた。
きっとウルチメイトには、津軽弁か沖縄弁の様に聞こえているんだと思う。
アルティスは言語理解という魔法によって、翻訳されているので、それ程聞きにくい感じでは無いのだろう。
『ノームはこれからどうする?』
「そんだなぁ?、どうすっぺかぁ・・・もしよげれば、ここらで、はだらける場所があればいんだけんども。」
『鉱山がいい?』
「んだぁ、オラぁ、もどもど鉱山で、はだらいでたんだぁ」
『まだ開いてないけど、そこの岩山に鉱脈があってね、調査をしているんだよ。そこで働いてみるか?』
「いいのけ?、オラぁそこいぐべぇ!」
『コルス、ノームを鉱山の調査隊に紹介して、協力してもらえ。』
「はい!了解です」
『タゴサさんだ』
「タゴサさん、調査隊までご案内します」
「お、たのんまぁ」
『これ着けてくれ、魔王に操作されなくなるよ。』
「おお、ありがてぇな!」
鉱山の調査隊に、頼もしい仲間が増えたとさ。
上手く使いこなしてくれるといいんだが、万が一、使いこなせない様なら、トップはクビだろうな。
この世界は、魔法が使えれば、難易度が低いと思われがちだけど、そうではない。
完全能力主義なんだよね。
だから、使えないと思われたら、すぐにクビになる。
労働基準なんてものも無いから、休みなんて無い。
毎日、休みなく働くのが普通なんだよ。
だから、日本の感覚で働こうとしたら、長くは続かないだろうね。
労働時間も曖昧だから、休憩はあっても、短ければ5分、長ければ2時間の休憩になる。
でも、休みがもらえないなんて事も無い。
申告制だけどね。
定休日なんて無いんだよ。
だから、毎週休む奴は、キビキビ働いてアピールしないとすぐにクビだ。
協調性が無いとか、文句ばかり言うやつとか、合間にちょくちょく休憩するのもダメ。
その代わり、下をうまく使えない上司も、すぐクビになる。
特に、雇い主が連れてきた新人を蔑ろにする奴は、即切られる。
結構シビアだよ。
だから、ノームも上司がバカでなければ働けるって訳だ。
さて、昼食も済んだし、さっさとクスノベルティに行きますか。いつも平和な街なんだけど、官吏が優秀なのか、曲者なのか、よく判らないんだよね。
今回は、どうなることやら。




