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第16話 攫われた子供とカーバンクル

 『ねぇ?カレンはどう思う?』


 カレンに振ってみたが反応が無い。

 微動だにしない。


 『ん?カレン立ったまま寝て無いか?』


 カレンの足を軽く叩いた。


 「わっ!、びっくりした・・・」

 『寝てただろ?』

 「・・・はい、すみません。」


 本当に寝てたらしい。


 『カレンはコルスと交代な、そして寝てこい。バリア!いつまでそこでのんびりしてるつもりだ!、とっとと降りてこい!ペンタも注意しろ!。仕事しないなら、バウンドパイクの餌にするぞ!』

 「はい、すみません。」

 「はっ!、申し訳ございません!」


 エルフの護衛で、バリア以外は、疲れが溜まっている様だ。

 みんなの顔にも、疲れが出ている。


 『早く港に着かないとヤバいな・・・』


 アーリアが船長と交渉して、船室を借りてきた。

 エルフとケットシー全員が入れる部屋、というより、倉庫だが。

 部屋に入れれば、入り口と限られた範囲の警護だけで済むのだ。


 「船長と交渉して、船室を借りられる事になった。移動するのでついて来てくれ。」


 ぞろぞろと、エルフ達がついていく。当然後ろと真ん中あたりにも護衛につく。

 通路を歩いていると、途中の船室の扉が開き、中から手が伸びて、エルフの一人を掴んだ。


 「キャー!」

 スパッ

 「ギャー!!」


 船室に連れて行く途中で、エルフを自分の部屋に、引き擦り込もうとした奴が居たが、腕を切り落としてやった。

 ドアの前で蹲ってて邪魔なので、ルースが顎を下から蹴り上げて、中に押し込み、扉を閉めた。

 この世界の人間って、本当にバカばっかりだな。

 学習しないとか、狂ってる奴が多い。


 船室の中は、ガランとしていて、元が何の部屋だったのか判らないが、ちょっと臭い。

 ミュールなんて入ろうともしない。


 『[デオドラント]』


 生活魔法で、臭いを消してみた。一瞬マシになったが、すぐに元に戻ったので、今度は


 『[クリーン]』


 臭くなくなった。

 臭いの原因は、判らない。

 隣の部屋には沢山の人がいる様だが、そんなに人が乗ってたか?、大きな箱が何個も運び込まれていたのは見たが、エルフを除いて50人程しか乗っていなかった筈だ。


 隣の部屋に入り、中を見たが箱があるだけで、誰も居らず、そして、とっても臭い。

 アーリアには、心当たりがあるらしく、船長の部屋に向かった。


 「船長、この船は、攫った人間を運ぶ手伝いをしているのか?」

 「はぁ?、んなことするか!、見つければ逃がしてるぞ!、荷主は海に落とすがな!」

 「エルフ達が入った船室の隣に、箱に入った人間がいるが?」

 「何!?、すぐ見に行くぞ!」


 補佐の顔が曇り、懐からナイフを取り出し、船長に襲い掛かった。

 アルティスが対応しようとしたが、アーリアが剣の鞘で受け流した。

 たたらを踏んだ船員を床に転がし、右足で踏んづけた。


 「ぐっ・・・離せ!、俺には金が必要なんだ!、金が無いと薬が買えないんだ!」

 「何の薬だ?」

 「ドリーミーフィーリングだ!」

 「最近、巷に溢れてる魔薬だな。飲むと、幸せな夢の中に居る様に感じるんだとか。まさか、手を出している者が、船員にいるとは。」

 「船員だからだろうな、傀儡にして輸送を手伝わせるんだろ。」


 魔薬かよ、親の病気の薬を買うとかだったら、少しは同情できたのに。


 「だが、こいつには幼い兄弟がいた筈だ。海に落とす訳にはいかんのだ。」


 取り押さえた船員を縛り、個室に閉じ込めて、箱のある船室に行った。

 箱を割ってみると、中から子供達がわらわらと出てきた。

 中には船員の妹も居た。


 「アリス!どうしてこんな所に!?」

 「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが私を売ったの・・・うぅ・・・」

 「おじちゃん!」

 「アシュト!?お前まで?・・・兄弟を売り飛ばすなんて、グースの奴は、なんて酷い事を!!」


 他の箱も開けてやると、総勢120人もの子供たちが詰め込まれていた。

 狭い箱の中では、座る事もできず、トイレも当然無く、空気穴はある物の、臭いは篭り酸素も薄い。

 当然気分が悪くなる子供もいて、吐瀉物や排泄物で衛生環境も悪い。

 体調不良になっている子供も居たので、クリーンをかけてから、治療した。


 『ワラビ、船室に来てくれ。子供達の世話が必要だ。』

 『はい、直ぐに行きます。』


 この子達の荷主を調べたが、まぁ判らなくなっている。

 これは拷問の時間かな?


 『ペティ、楽しい時間がやってきたよ!!』

 『楽しい時間?どんなこと?』

 『イッツァ、ゴーモンターイム!』

 『行く行く!どこに行けばいい?』


 すっかり、擽り魔に嵌ってしまったペティ。

 軽蔑の眼差しで、アルティスを見るアーリア。

 痛めつける訳じゃないんだから、少しはいいでしょ?・・・ダメかな。


 今回は、少し趣向を変えてみようと思う。

 どう変えるかというと、恐怖を加える。

 相手は魔薬中毒者なので、薬を使って見る夢は、幸せではなく悪夢にしてやろうという計画だ。

 魔薬はドーパミンをドバドバ出す物だと思われるが、ドーパミンの作用は、快楽だけでは無い。

 行動抑制にも関わっていると聞いた事があるので、擽られてドーパミンが出始めた頃に、恐怖を植え付けてやれば、学習して、ドーパミンが出る→恐怖、となる様にならないか試してみる。

 恐怖にさせるのは、ソフティーだ。

 普通の人なら、気分を害する事だろうが、アラクネである彼女にとっては、自分を見て恐怖に怯えるのは日常なので、何も感じないそうだ。


 魔物全般に当て嵌まるかどうかは知らないが、俺自身も、恐怖又は驚愕する姿を見るのは割と楽しいと思っている。


 船員のいる部屋で、船員をベッドに縛り付け、ペティが羽を構え、巧みな手捌きで擽っていく。

 まるで職人の様な滑らかな動きで、真剣に笑いのツボを探し出し、優しいタッチと激しいタッチで、飽きさせない。

 船員は、押し寄せる感覚に耐えられず、呼吸も忘れるほどに笑い藻掻く。


 「ギャハハハハハハハハハハハハハ」

 「ヒー、ギャハハハハッハハハハハ」


 逃れられない笑いで、肺の中の空気が、吸った傍から吐き出される。

 酸欠になり、意識が朦朧としてきたその時、恐怖が襲い掛かる。


 天井に張り付いた巨大な蜘蛛、蜘蛛の体には、青みがかった人間の上半身が生え、弧を描く口、見開く目、垂れ下がる黒い髪、今にも襲い掛からんとする両手。

 勇者の物語に出てきた、恐怖のアラクネが目の前にいる。


 「ギイャァァーー!?」

 ドスンッ


 アラクネが落ちてきて、自分を食おうと口を開く。


 「もう駄目だ、死ぬ!・・・」


 あまりの恐怖に、全身が震え、脂汗が噴き出し、力が入らなくなり、漏らした。

 目をぎゅっと瞑り、死の恐怖に慄くが・・・。


 再び訪れる擽り


 「ギャハハハハハハハハハハハハハ」


 恐怖と笑いで混乱する頭、何が何だか判らなくなっていく。

 どれが現実で、何が夢なのか、訳が判らず手がかりを探して目を動かす。

 その時、頭の中に声が響いた。


 「ドリーミーフィーリングは楽しめたかな?」


 (なんだって!?今まで楽しくて、幸せな快楽を与えてくれたあの薬が、この悪夢を見せているのか!!嫌だ!逃れたい!嫌だ!苦しい!嫌だ!死にたくない!嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!)

 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」


 目を開いたそこに居たのは・・・、アラクネ。


 「ギイャァァーー!?」


 船員のグースが、泡を吹いて気絶した。

 ちょっとやり過ぎたかも知れない。


 「この人、大丈夫なの?」

 『多分?』

 「なんで疑問形なのよ!」


 起きたら、誰の手引きでやった事なのか聞いてみよう。

 拷問としては成功したと言えるが、壊れちゃったかもしれないな。


 部屋から出て、食事を作りに行く。

 160人分とか、給食かよ。

 などと思いながらも、リズとアリエンを呼んで手伝わせる。

 カレンはまだ寝てるからな。

 子供の相手は、ペティとワラビがやり、入り口の護衛はアーリア。

 ペンタはショウ楼から降りられないので、戦力外。

 メビウスとルースは休憩中。

 ミュールとソフティーはエルフの護衛をやっている。

 バリアは、船室の区画への入り口の前に立っている。

 ペンタと一緒にショウ楼に居たのを、引き摺り降ろしたからな。

 コルスは何故か、俺を抱いて料理の現場にいる。


 『コルス働けよ。』

 「働いてますよ。」

 『料理を手伝いたいのなら手伝ってもいいんだぞ?』

 「面倒なので嫌です。」

 『・・・・こいつ。』


 猫パンチしようとしたら、体を捻って避けられた。

 猫キックしようとしたら、脇を抱えられてぶら下げられた。


 『こいつ、心を読むから当たらないんだよな、全くどうライトニ「やりますやります」』


 バレない様にライトニングを撃とうとしたら、遮られて、俺を降ろして料理を手伝いに行った。


 100人以上いると、器が足りない。

 普段は保存用を作っても、鍋のままか、大皿に盛ってから入れる。

 一人用の器に入れて保存してるのは、一食分程度しかない。

 予備の器はあるが、それでも全然足りない。

 船員達に器を借りて、ギリギリ全員に行き渡ったので、子供達には並んで受け取ってもらう。

 数日食事も与えてもらえなかったそうなので、いきなり重い物は、食べられないと思い、お粥にオークの脂身から脂を抜いた、コラーゲンを刻んで混ぜた。

 脂を抜くのは、錬金術で簡単にできるのだ。

 スープは、豚骨を軽く茹でて作った物を使った。

 野菜もみじん切りにした物を入れてある。

 子供達はスプーンで一口、口に入れた途端に、掻き込む様に食べ始めた。

 肉を欲しがっている子もいたが、肉は次の食事の時な。


 ふと、部屋の隅の方に反応がある事に気が付いた。


 『あんな所に箱なんてあったっけ?』


 開けてみると、箱の数倍ある大きさの狐が出てきて、威嚇し始めた。

 怒っている様だ。

 子供達は驚き、パニックになって壊れた箱の裏に隠れた。

 狐は、歯を剥き出し、姿勢を低くして、低い唸り声をあげている。

 今にもこちらに飛びかかってきそうだが、ふさふさの尻尾が5本、ゆらゆら揺れているのが気になって、仕方が無い。

 化け狐か神かは知らんが、こんな所で威嚇など許せる筈はない。

 だが、殺すのも違う。

 視線は、アルティスの背後の空間を睨んでいた。


 『コルス、狐が睨んでる場所に誰かいるか?』

 『気配と姿を消した、何かがいるみたいです。』

 『倒せるか?』

 『倒します。』


 ザクザクッカカカッ

 「ぐっ・・・・」

 ドサッ


 コルスが針を、見えない奴に向けて、幅50cmの範囲に多数投げた。何本かが当たり、外れた針は床に突き刺さった。

 不審者の術は解けない様で、まだ透明?で見えないが、針が刺さっているので、居るのは判る。

 こいつはコルスに任せて、俺は狐の相手だ。


 狐は睨んでた奴が倒れたが、死んではいないので、未だに威嚇をしている。

 少しだけ溜飲が下がったのか、威圧が和らいだ気がした。

 ゆっくりと狐に近づき、顔面を往復ビンタした。突然頭が左右に振られて驚いた狐に念話で話しかけた。


 『おい、威圧を解け。』

 『いやだ!あいつはおれのてき!』

 『子供達が怖がってるだろ!威圧を解け!』


 軽く猫パンチで叩いた。


 バコッ

 『バコ?』


 狐の体が半回転し、目の前を5本のふさふさの尻尾が埋め尽くした。


 カチカチカチカチ


 何かが震える音がする。

 狐の正面に行ってみると、目を潤ませて歯をカチカチと振るわせていた。


 『落ち着いたか?』

 『ご、ごご、ごめんなさい、許して。』

 『落ち着いたなら話を聞け。』

 『き、聞きます。』

 『憎い奴は制圧したから安心しろ。あいつはお前に何をしたんだ?』

 『あいつはオレを箱に詰めて閉じ込めた。気付いたらここに居た。』


 こいつも攫われてきた様だ。暗い箱に詰められて怖かったんだな。


 『元はどこに居たんだ?』

 『山の中にいた。』

 『家族は?』

 『いない。』


 元は、どこかの山の中に一人でいた様だ。


 『小さくなれるか?』

 『なれるけど、まりょくたりない。』


 今は元々の大きさで、小さくなるには魔力、MPが必要って事だな。

 誰かに、にテイムしてもらおう。


 『誰かテイムして。』

 『ん?、騒がしいのは治まったのか?殺気がもれてたが。』

 『妖狐がいるんだ。中に来て、狐をテイムして。』

 『妖狐?』


 殺気を感知してたなら、中に来てよとも思ったが、荷主が来るかもしれないので、中はアルティスとコルスに任せていたんだろう。

 狭いからな、中に入っても動けないだろうし。

 中に入ってきたアーリアは、大きな狐を見て、目を丸くした。


 『どうしたんだ?この獣はもしかして、カーバンクルじゃないのか?』

 『カーバンクル?これが?・・・いやいやいや・・・、[鑑定]』


 名前:なし                 状態:萎縮

 種族:カーバンクル(幻獣)

 HP:1209

 MP:9320

 STR:203

 VIT:237

 AGI:219

 ING:176

 MAG:932

 攻撃スキル:噛みつき 引っ掻き

 感知スキル:魔力感知 空間感知 振動感知 嗅覚強化 聴覚強化 毒感知 殺気感知

 耐性スキル:状態異常耐性 精神異常耐性 斬撃耐性 毒耐

 魔法:自動回復 火魔法 風魔法 水魔法 土魔法 回復魔法 生活魔法 念話


 [鑑定]してみると、確かにカーバンクルって書いてあるわ。

 しかも、(幻獣)になってる。

 頭をよく見たら、赤い宝石があった。

 表面はつるっとしていて、ルビーかガーネットのどちらかだろう。

 大きさは、体のサイズに比べたら、かなり小さい。

 俺の頭くらいの大きさしかない。

 だが、かなり強い。


 『お前、テイムされろ。』

 『おれのことテイムするのは、にんげんにはむりだよ。』

 『あるじがテイムすると、人外っぷりが増すかもしれない。』

 「それは困るが、他に居なければ仕方ないかもしれないな。」

 『はいはいはいはい!やってみたいです!』


 ペティがテイムしてみたいそうだが、ペティがか?無理じゃね?


 『私もやってみたいです。アルティス様への忠誠は、変わりませんが、少しでも強くなりたいです。』

 『カレン、寝て無くて大丈夫か?』

 『大丈夫です!』


 カレンの気迫に、ペティが譲った。


 カレンが唱えると、カーバンクルの体が一瞬光り、カレンの足元には青い魔法陣が出た。

 カーバンクルの体がどんどん小さくなっていき、アルティスと同じくらいのサイズで止まった。


 『なんでにんげんが!?』

 『あるじのまりょくすごい!』

 『凄いだろ?カレンは凄いんだよ』

 『オレニンゲンとのけいやくしたのはじめてだ』

 『あるじ!よろしく!』

 「かわいい!、君の名前はルベウスだよ。これからよろしくね!」

 『ルベウス!判った。オレはルベウス!』

 『俺はアルティスだ。こっちの人間の従魔だ、よろしくな!』

 『アルティス様よろしく!』

 『様?』

 『オレより強い!凄いアルティス様!オレも強くなる!凄い強くなる!凄い!』

 『様など付けるな、アルティスと呼べ。』

 『判った、アルティスよろしく!』

 『よろしい。』


 ルベウスと契約したカレンは、小さくなったルベウスを抱き上げ、部屋を出て行った。

 カレンが何故契約できたのか、それは、アルティスが補助したからだ。

 カレンのMAG値は、現時点で302、人間としては多い方だが、全然足りない。

 そこで、カレンのアミュレットに、MAG値上昇を付与して、割り増ししたのだ。

 MAG値の付与は、他のステータスとは違い、自分のMAG値を貸し出す方式でしか付与できないが、1000貸せば事足りるのである。

 しかも、MAG値が上がれば、殆どの魔法を防げるし、極大魔法を食らっても死ななくなる。

 もちろん、精神魔法も利かなくなるし、回復魔法の回復量が増える効果まである。

 こんな便利な物を使わない手はない。

 それに、一度契約してしまえば、外しても問題無いしな。

 但し、一人頭500ずつ付与すれば、5000減る訳で、アルティスのMAG値は、現在3850まで落ちている。

 それでも、ドラゴンよりも多いが。

 身体強化と同じで、MAGを一旦強化して、器を作ってしまえば、後は体がMAGを増やそうと、頑張ってくれるかもしれないのだ。


 コルスに任せた刺客は、未だ透明のまま。

 これは、本人のスキルや魔法ではなく、魔道具による効果だと思ったので、別の小部屋に移してから、魔力感知で持ち物を調べた。

 装備品も透明になっているので、よく判らないが、手触りの感触から、殆ど裸なのでは?と思えた。

 手探りでは、形も判らないので、小麦粉を振りかけて判る様にしてから調べ、胸にアミュレットを付けているのを確認したので、外した。

 現れたのは、下着姿の女だった。とりあえず、露出狂と呼ぶ事にした。

 こいつの体に刺さっていた針を抜き、椅子に縛り付けてペティを呼び、気付けの為にペティがビンタして起こした。


 『おい、露出狂、貴様は子供を攫った奴の仲間か?』

 「・・・・・。」

 『ペティゴー』

 「ん・・・んん・・・うっ・・・・くっ・・・」


 必死に我慢している様だが、汗をだらだらとかき始めた。


 『コルスも手伝ってやれ』


 コルスが小さなブラシで、足の裏をコチョコチョ始めると、


 「ひゃっ、あはっあははっはははははは、や、あはははっはははは」

 「や、やめ、あはははははははははは、あ、あははははははははは」


 汗だくになって、青褪めてきたら、一旦止めて、上を向かせる。

 そこには、天井に張り付いたソフティーがいる。

 ソフティーが糸にぶら下がりながらゆっくりと降りてくる。

 露出狂は青褪め、目を見開き、口をわなわなさせて涙ながらに訴えてきた。


 「は、はは、話す!話します!た、助けて!おねがい!助けて!」

 『じゃぁ全部話せ、嘘ついたら殺す』

 「はい、侯爵の命令でやりました!侯爵が子供を集めて、他領に売るそうです!」

 「カーバンクルは、移動の途中で見つけたので、捕まえて箱に入れました。!」

 「私はあの部屋で、監視をしていました!。貴方たちが子供達を逃がそうと画策してたので、隙を見て殺そうと思ってました!以上です!」

 『侯爵とは誰だ?バウンドパイクか?』

 「そうです!バウンドパイク侯爵です!」

 『貴様の仲間の露出狂は何人乗ってる?』

 「露出・・・な、仲間は3人です!」


 あと3人も居やがるのかよ。

 どいつがそうなのかが判らん。


 『とりあえず、近くに居て仲間じゃない奴をぶっ飛ばすか。』

 『流石に反応しないか・・・』

 『あぁ、こいつが着けていたアミュレットがあるじゃないか!』

 『このアミュレットと、同じ魔力を使っている奴を探せば、楽勝だな。』

 『見えますか?、何を探知してるんです?』

 『このアミュレットを持って、同じ魔力を探知してみろ。判るだろ?』


 コルスは器用貧乏というか、何でもすぐに覚えてくれるので、仕事にも使えるし、魔力探知をサラッと覚えてくれた。

 

 『ほうほう、点にならないのは何でですか?』

 『点にしたら区別付かないだろ?』


 魔力感知は、常に周りの魔力を感知している訳で、探知した者を同じ様な見え方にすると、判らなくなってしまうのだ。

 だから、点にならない様に定義付しておいたのだ。

 敵対している訳でも無いから、色も他の乗客と同じ色にしかならないしね。


 『あぁ、納得』

 『今回は俺が定義付しておいたが、自分で使いやすい様にアレンジして、見えやすくしてくれ。』

 『了解です。』

 『近くに居る奴の確保を頼む』

 『『了解』』


 程なくして、露出狂全員を捕まえた。


 『こいつらどうしようかなぁ・・・』


 全員を鑑定してみると、奴隷だった。

 主はバウンドパイク侯爵になっている。


 『契約魔法:契約上書き』

 『違うか』

 『契約魔法:契約変更』

 『ダメか』

 『契約魔法:隷属解除』

 『違うな』

 『契約魔法:隷属』

 『これか、ふむふむ、これで解除して・・・』

 パリンッ

 『これで、俺に変更っと』


 俺と露出狂3人組の下に魔法陣が広がり、消えた。


 「ま、まさか、奴隷契約を書き換えた??」

 「やったー!!あのジジイから解放されたー!!」

 「やっと、やっと解放された・・・。」


 奴隷主が俺に変わった事で、4人組がそれぞれ涙を流して喜んでいた。

 こいつらは、元々冒険者で、依頼失敗の違約金が払えず、侯爵の奴隷にされたそうだ。

 約1年間、子供の誘拐や、魔薬の配布などをやらされていたそうだ。

 今回も、密かに荷物の見張りとして、着いてきたそうだ。


 『何か、国王反対派も、まともな奴がいないなぁ』

 「・・・そうだね、ムカつくね」


 アーリアも侯爵のやり方にイラついている様だ。


 「バウンドパイク侯爵家ですか?、確か執事が悪魔だった気がします。」


 アリエンが爆弾を落としてきた。


 『はぁ!?悪魔ぁ!?』

 「はい、確か男爵級のデーモンと聞いた事があります。」

 『それって、どのくらい強いの?』

 「大体、ゴートキャトルくらいだと言われています。」

 「じゃぁ、余裕で勝てるな。」

 『なんだ、余裕じゃん』

 「え?ちょ、よ、余裕なんですか?!?」

 『シープキャトル100匹って言われたら、ん?、って思わなくも無いけど、ゴートの方なら余裕だな。』

 「ホントに規格外ですね・・・」

 『何、他人事のように言ってんのさ、アリエンだって、結構強くなってるんだよ?』

 「え?うそっ!?」

 『もうオークジェネラル程度なら、ソロで余裕だよ。』

 「そ、そんなに強くは・・・」

 『何言ってんの?、俺が作った武器持ってるんだよ?強くなってるに決まってんじゃん。それ持っても強くなれないなら、返してもらうからね?』

 「何が何でも強くなります!」

 『カス目玉からの干渉は、無くなった?』

 「はい、無くなりました。」


 あの目玉は、アリエンに精神干渉を仕掛けていて、アリエンが、夜にうんうんうなされていた。

 だから、MAG値を貸したのは正解だった。

 しかし、その後も度々来ていたので、反射させてやった。

 そして、アリエンを探知できる意味を知りたくて、調べた結果、心臓の近くに魔道具を仕掛けていやがった。

 魔力は、血液と一緒に、心臓に一旦集まるので、近くに何かがあっても、見えないのだ。

 魔力が体の中で、どういう状態なのかは判らないが、血液成分のどれかに引っ付いて、体中を巡っているのだろう。


 取り出し方は、治療術でできたが、異物を異物として認識させない様にされていた為、病気でも怪我でも無いので、その魔道具をピンポイントで指定しないと、取り出せなくて、苦労した。

 治療術は、レントゲンや内視鏡の様に、中を見える様にしてくれるのだが、これは人間だった頃に、人体模型や内視鏡の画像、骨格標本やMRI画像などを見て、それなりに人体の知識があったから判るのだろうと思う。

 治療術も、その手の知識が無いと覚えられないから、伝説になったのかもしれないね。


 他のメンバーの体も調べたが、アリエン以外は持っていなかった。

 多分、洗脳されていて、且つ、有能と認められていたから、しつこく付き纏われるし、手放したくないのだろう。


 ちなみに、回収した魔道具は、解析してみたら、定期的に位置情報を送る様になっていて、送った魔力を追跡すると、目玉の部下の所がピンポイントで判った。

 送られる魔力の位置情報を、少しずつずらして、200㎞ほどズレた所で、ディスペルしてから、バーサクと混乱が発動する様に、付与してあげた。

 向こう側では、定期的に大混乱に陥いる事だろう。

 あ、魔道具はバウンドパイク製の肉団子に入れて、海中に落としてあげたから、今頃は、魚の胃袋に入っている事だろう。


 『他に困っている事は無いか?』

 「今の所は、特に何もないです。」

 『そうか。暫らくしたら、また目玉の干渉が始まると思うから、来たら教えてくれ。』

 「判りました。」


 『あるじ、バウンドパイク侯爵ってどこに住んでるの?』

 「確か、ギレバアンにあったと思うけど。まさか潰しに行く気?」

 『ダメなの?』

 「伯爵と関係無くなってからじゃないとダメ」

 『そっかー』

 『じゃぁ、子供らはどうする?』

 「孤児院に預けるとか・・・」

 『孤児院が侯爵の息がかかってる可能性があるんじゃない?』


 ラノベではよくある設定だよね、孤児院で子供を集めて育ててから売るなんて。

 でも、今回は売る為に攫ってきた訳だから、孤児院が本当に侯爵の息がかかってるとすれば、育てずに売ると思うんだよね。

 だって、育てたらお金かかるじゃん?

 

 他に子供を育ててくれそうな所と言えば、普通は教会になるんだけど、この国の教会は腐ってるからな。

 アルティスが行けば神の言葉として受け入れられるだろうけど、その前にアルティスの体が危険で危ない。

 王都ではそれどころじゃ無かったが、チラチラと神官がアルティスを見ていた。

 ケットシー達に任せても、隷属されて、あちこちで神の使徒として、見世物にされるのがオチだ。

 いっその事セイレーンにお願いして、匿ってもらって、船長がカレースパンで親を探して連れ帰ってもらうとかか?うーむ。


 『何かお悩みの様ですね?』

 『うぉ!?・・・執事か。子供達を安全に匿っておく秘策とか無いか?』

 『ギレバアンには、我々のアジトがありますので、そちらで一時的に保護する事は可能かと思いますが、いかが致しましょうか?』

 『暗部に育てるのか?』

 『いえいえ、あくまでも一時的に保護するだけですよ。』


 『街中にあるのか?』

 『いえ、街からは少し離れた場所にあります。』

 『そこって収容人数どれくらいだ?』

 『そうですね、400人程は寝起きできます。』

 『でっか!何でそんなにでかいんだ?』

 『元々は、古代の砦で、放置されていましたので、我々の訓練施設として再利用したのですよ。広さは申し分なく、近隣にはスケープゴートやゴートキャトルなど、食料になる獣が多数生息しておりますので、多数で生活するのにも、便利だったのです。』

 『確かに、狩れる実力があれば、問題無く食料の確保もできるな。』

 『はい、狩りを教えるのにもぴったりで、ございます。』

 『じゃぁ、そこで預かってもらうとしよう。』

 『畏まりました。部下を手配しておきます。』

 『よろしく頼みます。』


 むしろ、そこでケットシーとエルフも、育ててもらえばいいんじゃね?。

 ケットシーの能力なんて、まさに暗部向きだし、エルフが弓を扱えるようになれば、多数相手でも子供達を守れるようになる。

 食料の確保だってできるだろうし。

 露出狂4人はどうしようかね。


 『アルティス様、ひとつ言い忘れていた事がありまして、少しお話をさせて頂きたいのですが。』

 『ん?なんだ?』

 『実は、王都から伯爵へ鷹便が届きまして、奥様に女王になって欲しいとの打診がありました。』

 『マジで?やっぱりあの人が、旧王家の出身だったのか。』

 『話が早くて助かります。そこで、モコスタビアから奥様が王都に向かわれる事になりましたので、護衛をお願いしたいのでございます。』


 まともな貴族も居なさそうな、王都の誰が打診したんだ?


 『その打診とやらは、誰がしたんだ?』

 『冒険者ギルドのギルドマスターでございます。』

 『冒険者ギルドって国の機関なのか?ギルドマスターにそんな権限あるのか?』

 『本来ならば、国の機関ではありませんので、その様な権限は持っておりませんし、口を出す事も許されません。ですが、現在は王が不在で、王になりたい貴族が多数押し寄せまして、玉座の周りには死屍累々となり、ギルドマスターが封鎖をしている状況にあります。王都で、王位の仕組みを知っている方がギルドマスターですので、打診をお願い致しました。』

 『何でギルドマスターがそんな事を知っているんだ?』

 『あの方は、前々国王の時の元近衛騎士団の団長をしておりました方で、王位継承の際にその職を辞して、冒険者になられたのでございます。』


 前々王の近衛騎士団長だったという事は、あの人は結構な歳だったのかも知れないな。

 パッと見50代前後に見えたが、それよりも上の可能性もあるな。

 ペティが13歳だから、夫人が30代前半として、前王が継いだのは30年前?その頃に冒険者になるとしても、30前後がギリギリだと考えても60代か。

 まぁ、それはともかくとして、前王の継承の儀を間近で見ていたのなら、納得だ。

 残念勇者の事だから、色々なギミック盛り沢山の儀式を作ったに違いないしな。

 ギルドマスターが、近衛騎士団長の座を辞した理由は判らないが、忠義の士であるならば、王と共に座を退くのは、当然と言えるのかも知れない。

 ただ、そんな事を言っていたら、騎士団総入れ替えって事もあり得る話になるんだけど、そこの所はどうなんだろうか?


 『モコスタビアまで、まだ数日かかると思うけど?』

 『それ程日数もかかりませんし、こちらに到着するまでお待ちしております。』

 『そこで、現在同行されている他種族の方々をアジトで保護して、馬車1台だけで来ていただく事は可能でしょうか?』

 『そういう事か、うーん、馬車1台は無理だけど、行けない事は無いな。それでいこう。』

 『では、その様にお伝えしておきます。』

 『あぁ、ありがとう!』

 『あるじ、それでいい?』

 『あぁ、それがいい。残すメンバーを決めないとな。』


 翌朝、個室で、みんなにこの話をした。

 でも、大騒ぎになったよ。

 なんせ、残りたくないって人しか、居ないんだもの。


 「私はついていきます!、アルティス様の騎士になったのですから、当然です!」

 「私も当然ついていきますよ!、アルティス様をお守りするのが、私の使命ですから!」

 「俺もいきますよ!リズが行くんですから!当然です!」

 「私は行く方に決定ですよね?、アルティスさんは私がいないと暇になっちゃいますから!」

 「私は伯爵の騎士だから、奥様を守るのは私の役目だ。」

 「私はコルスとセットだから、行くしかないですよね?」

 「俺は、まだまだ、アルティス様に教えてもらう事が沢山ありますから!」

 「私は『あ、あるじは行かなきゃ駄目だよ』」


 上から、リズ、カレン、メビウス、コルス、バリア、ペンタ、ルース、アーリアだね。

 新しいメンバーの方は、気圧されてて、黙ってる。


 『仕方ないから、俺が決めるね。リズ、メビウス、ペンタ、バリア、ワラビ、アリエンこの6名を残す。』

 「ちょ、アルティス様!なぜ私を残してカレンが行くんですか!?」

 『メビウスとセットじゃ、人数オーバーになる。それに料理できるだろ?』

 「私が残る理由は?」

 『特に無い。ただでも過剰戦力なのに。バリアがギレバアンに居た方が安心できる。』

 『ペンタとメビウスは言わなくても判るよね?』

 「・・・はい。」

 「はい!」


 『あと、ミュールも残って手伝ってやってくれ。』

 「!?、なんで残る?アルティスと一緒がいい!」

 『ミュールは残る側の最高戦力だ。子供達にも人気あるしな。』

 『ソフティーは、ペティを守るのに最適だから行く方な。』

 『判ったわ、ペティを守る。』

 『ルースは、モコスタビアに行くまでは特訓な。』

 「新しい奴隷4人はどうするんですか?」

 『残すよ?居ても使えないからな、鍛えてやってくれ。』

 「アリエンもですか?」

 『そうだ。アリエンは、まぁ、心配ではあるが、鍛錬を続けて強くなれ。』


 アリエンはちょっと扱いに困るという部分で、置いて行くしかないんだよ。

 モコスタビアは、教会とクロルローチの事件の後、結界が強化されて、魔族も探知に引っ掛かる様になったからな。

 連れて行けば、確実に騒ぎになる。

 ワラビは、元妊婦の世話と、皆の心のケア担当だな。


 「スケープゴートを差し向けられそうですが?。」

 『大丈夫だぞ?、食いもんが大挙して来てくれるんだから、有難いだろ。しかも、居残り組も過剰戦力だから。そもそも、コルスでも脱走できないくらいの所だろ?』

 「何で私が脱走する設定なんですか?、あそこは、脱走も侵入も不可能ですよ。空でも飛べない限り。」

 『な?』

 「な?じゃないですよ!、私達残る意味あるんですか!?」

 『空から来たら、危ないじゃんか、そういうのは大抵ワイバーンとか、ロック鳥とかだろ?』

 「ドラゴンが来たら、駄目じゃないですか。」

 『魔王軍にはドラゴンはいないらしいぞ?、人間が使役できる訳無いし、隷属ならあり得るかもしれんが、足環か首輪でしか縛れないだろ?』

 『まぁ、来たとしても心配はしないがな。お前らなら余裕で倒せるだろ。逆鱗を探してぶった切れば倒せる。』

 「何でですか?」

 『柔らかい所を狙って、強敵を倒してきたじゃんか。』

 「でも、ドラゴンは硬いって言いますし、今までの比じゃないと思うんですよ。」

 『じゃぁ、いきなり戦うんじゃなくて、話しかけるとか。』

 「言葉を理解できませんよ?」

 『できるだろ?アミュレットに言語理解付けてんだから。』

 「え?」

 『ソフティーと喋ったじゃん』

 「??」

 『念話なら会話できると思ってるの?』

 「はい、違うんですか?」

 『アミュレット外してから、念話でソフティーに話しかけてみろよ。』


 リズがアミュレットを外し、ソフティーに話しかけるが、何を言っているのか、さっぱり判らない。

 言葉を発しているのは判るが、その言葉が理解できない。

 試しにアミュレットを着けてみると、言葉が理解できる。


 「このアミュレットに、言葉を理解する為の、魔法の付与がされてるんですか?」

 『そうだよ?、でないと不便だろ?』

 「不便・・・?」

 『アミュレット外したまま、みんなの声を聞いてみろよ。』


 再びアミュレットを外して、話しかけてみると、ミュールは唸り声、ルベウスはキーキー鳴く声に聞こえた。

 今まで普通に会話をしていた相手が、実は話せてた訳ではない事に、驚愕した。


 「うそ・・・、はな・・・せない・・・?」

 『そうだぞ?、エルフやケットシーも話せないぞ?、言語が違うからな。』

 「そう・・・だったんだ、普通に話せてたから、それが普通だと思ってた・・・。」

 『そんな訳無いだろ?、今まで、何百年も人間との交流が無かったのに、人間の言葉なんて覚える必要が無いからな。』


 「アルティス様を疑ってしまい、申し訳ありませんでした!」

 『もし、ドラゴンが言葉を話せる様なら、料理を渡して、仲間に引き入れちまえ。』

 「はい、了解しました!」


 王都では、新装備目白押しだったから、あまり戦闘に関係のない事柄は、覚えていないのも無理はないのかも知れない。

 言語理解なんて、普通に話ができていれば、それが当たり前になって、気が付かないものなんだな。


 『言語理解が認識されていなかった事は、俺にとっては、結構ショックだったんだが、もしかして、MAG値が上がっている事も、努力の結果だとか思ってないよね?』

 「違うんですか?」

 『違うに決まってるだろうが。毎日常時魔法を使ってる訳でも無いのに、いきなり500も上がる訳無いだろ?ソフティーですら、600台なのに、何でお前らがたったの数日で抜けるんだよ。』

 「・・・」


 『そのMAG値は、俺のMAG値を貸してるんだよ。だから、今の俺のMAG値は3000程度しかない。それでも多いとは思うが、6000減ったんだ。黙っていようかとも思ったが、お前たちが自分の実力を過信していると、痛い目に遭うからな。』

 『無いとは思うが、俺に何かあれば、そのMAG値は消失するんだ。だから、今の状態に慢心する事無く、鍛錬に励む様に。アジトから先は、俺が居ないからと言って、サボっている様なら、今の装備は全て取り上げるからな。覚えておけよ。』

 「「「「はい!」」」」

 「アルティスー、私の新装備はまだぁ?」

 『ミュールは、ここで渡すと船を沈めかねないから、アジトで渡すよ。』

 「船が沈む程の威力があるんですか?」

 『使い方によっては、真っ二つだな。』

 「そんなに強力な武器を持つ必要があるんですか?」

 『俺の爪だって、この船を粉々にできるぞ?』

 「・・・それは、そうですが。」

 『お前らの剣だって、船のマストをスパスパ切れるんだからな?。ミュールは今は素手だから、この中では、一番弱いんだよ。そんな時に武器なんて渡してみろ、喜びのあまり、床に拳を叩きつけるかも知れないだろ?、そんな事をしたら、この船がぽっきり折れちまうよ。』


 ミュールのSTRは、チーム内で最強クラスだから、威力の高い武器を持たせないと、意味が無いんだよ。

 だが、新しいおもちゃを持つと、使いたくなるのは、俺も同じだし、近接特化のミュールが、海相手に試し打ちなんてできないからな。


 「そ、それは、ヤバいですね。私、船室で剣振ってましたけど、外でやりますね。」

 『鍛錬は、甲板でやれって言ってなかったっけ?』

 「・・・言ってました。乗船する時に聞きました。」


 乗船する時に、鍛錬は屋外でやれって言ってあったのに、船室でやってたとはね、懲罰ものだよ。

 ルースは、少し思慮が足りなさ過ぎる節があるから、徹底的に扱き倒してやろう。


 『お前は、今日から毎日体幹トレーニング三昧な。』

 「ぐふっ・・・」


 ルースは、走ったり、飛んだり跳ねたりと、とにかく体を動かす鍛錬が大好きで、剣の型練習などは退屈そうにしている事が多い。

 だから、体幹トレーニングの様な、動かない事が罰になるのだ。


 『居残り組は、アジトでケットシーとかくれんぼをやれ。エルフの練習にも付き合え。エルフ達には、弓の他に、短剣術も教えておけ。弓が使えないエルフには、適正を見て教えてやれ。戻ってきた時にサボってると判断した場合は、地獄を見ると心得ておけ。』

 ゴクッ

 「それは、やらなきゃいけない事なんですか?」


 メビウスが、馬鹿な質問をしてきた。


 『お前なぁ、お前の職業は何だ?、兵士だろ?、兵士ってのは軍隊なんだぞ?、街の警備兵とは違うんだよ。軍隊ってのは、本来は、命を懸けて戦うのが仕事だ。今の状況がいつまでも続くと思うなよ?、もう戦争は始まってるんだからな?、夫人が王都に行く以上、お前らも王都に護衛として着いて行くんだよ。王都は既に戦場になってるかも知れないんだぞ?。』

 『戦場に行けば、今まで戦った奴も、戦った事も無い様な奴らも、わんさか居るんだよ。魔王軍には、魔獣もいるんだよな?、一級冒険者でも死闘を繰り広げる様な、サイクロプスや、トロールも昔には居たって伝記にも書いてあるじゃないか。ヘラヘラしてる奴が、そんな強敵と戦えるか?』


 「絶対無理!無理無理」

 「私なら、・・・いや、まだ安心はできないですね。」

 「俺も無理ですね。自信が持てません。」

 「サイクロプスいるよ?、トロールも、スケルトンとオークが主力だけど、総戦力10万の内、8万くらいが、オークとスケルトンだよ。アーリア様の腕なら敵は居ないと思うけど、メビウスじゃ無理。」


 リズ、カレン、ルースが答え、ミュールが、魔王軍の戦力を教えてくれた。


 『スケルトンは神聖魔法で倒せるとしても、オークの他にエルフ、ドワーフ、ノーム、その他色々人族もいるんだろ?』

 「どうだろう?、私が居た3か月前までは、拒否してたよ。」

 『そんな大量のオークが居るって事は、キングもいるのか?』

 「いないと思うよ。オークキングが2体いると、喧嘩を始めるから、扱いにくいんだよね。いてもジェネラルまでかなぁ。」


 「・・・厳しい。」

 『お前がやる気を見せてないからだよ。エルフ達にも言ったが、戦えない奴は要らない。毎日女の膝枕で、デレデレしてる奴は、とっととクビにする。判ったな。剣が駄目なら槍でも斧でも使え。』

 「・・・はい、ビシバシ鍛えてみせます。」

 『帰って来る時は、元同僚もたくさん来るからな。戦争になったら、お前らは、そいつらの隊長になるんだよ。魔法も磨いておけよ。』


 メビウスの実力は、現在、武器を持ってる中では、最弱だ。

 ルースに大きく引き離されて、いじけている様にも見える。

 アルティスは、仲間を見捨てるなんて事はしたくはないのだ。

 だが、何故か全くと言っていい程に成長しないんだよな。

 多少は強くなったよ?武器が強くなった分だけね。


 このメンバーは、この国最強のチームだと思っている。

 思ってはいるが、一人でも戦えない奴がいれば、全体に影響を及ぼす原因になる。

 それが、少数精鋭の弱点なんだ。

 誰も死なせたくない、贅沢な希望だが、だからこそ厳しくするんだ。


 もうすぐ、ギレバアンに到着する。

 港では執事の手先が待っている筈だ。

 侯爵家の執事の手先も待ってるとは思うが。


 昼前に船がギレバアンに到着した。

 他の客が下船してから、俺達と子供達、エルフとケットシーが降りる為に甲板に出ると、侯爵家の領軍が、港に勢ぞろいしていた。


 「侯爵家の兵士隊長殿、これは何事ですかな?」

 「この船に、魔王軍の手先が乗船していると通報があった。また、当家の商品が逃げ出したとの報告もある為、下船する者を確認している。」


 「我々は、ホリゾンダル伯爵家の者と、誘拐された子供達を保護、又、魔王軍から逃げてきた他種族を保護しております。まさか、侯爵家が、子供達を売り捌く様な事を、率先してなさっておられるのですか?」

 「伯爵家如きに用は無い。ガタガタ言わずに、さっさと引き渡せ。まさか、我々に楯突くつもりか?、この人数差で勝てるなんて思ってないよなぁ?」

 「勝てますが?」

 「ふんっ、脅しにもならんなぁ。証拠でもあるのか?」

 「これが証拠ですよ、オークキングの頭です。あなた方が1000人居ても倒せないですよね?」


 アーリアがオークキングの生首を出して、前に掲げた。

 野次馬と領兵から悲鳴があがる。

 後ろの方にいた領兵が逃走し始めた。

 忠誠も士気も低いなぁ、役に立つのかよ、こんな兵で。


 「お、オークキングだと!?、ど、どうせ拾ってきただけだろうが!、お前ら!ビビんじゃねぇ、あれはハッタリだ!」

 「ほお?、では聞くが、一体誰が倒したと言うんだ?、こんな綺麗な切り口で倒せる奴が、この領のどこかに居るとでも?」


 アーリアが威圧を放った。

 領兵達は、へたり込む者、泣き崩れる者、逃げ出す者、腰を抜かす者と様々だ。

 隊長は、膝をつき、蹲ってしまった。

 アーリアは、オークキングの頭を持ちながら、領兵の方に歩き出すと、蜘蛛の子を散らす様に領兵達が逃げ出した。


 『あれが兵士なのか?士気も何も全く無いな。住民に鎧を着せただけの集団だな。』

 「全くだ。とてもじゃないが、領を守る役に立つとは思えん。」


 野次馬の中に、ちらほらとこちらを睨む目があるが、特に今は何もしなくてもいいだろう。

 手を出して来たら叩きのめすけどな。


 「領民に告ぐ!、我々に手を出した者は容赦なく殺す!命が惜しくない者は向かってくるがいい。だが、勝てるとは思うなよ?」


 馬車を降ろし、次いで子供達、ケットシー、エルフと続く。

 露出狂4人はオークの集落から助け出した人間と共に幌馬車の中だ。

 バリア達とルース達は、守る様に分散配置した。

 騎士が通り過ぎ、ルースの目の前にゴロツキが現れ、ルースを無視してエルフに手を出そうとした瞬間、ルースが男の腕を切り落とした。


 「ギャアァァ!!」

 「ちくしょう!殺せ!」

 ヒュヒュン


 風切り音がした直後、ゴロツキが崩れ落ちた。

 膝からではなく、体がバラバラに崩れ落ちた。

 周りで見ていた群衆は、惨劇に驚き、逃げ惑った。

 どさくさに紛れて、エルフの列に入ろうとした者は、ルースに睨まれ、回れ右をして走り去り、ルースは、何事も無かったかの様に、隊列に戻った。


 ちょいちょいゴロツキが切り倒される事があったが、一人の脱落者も無く、無事に街の外に出た。

 先頭の馬車の御者は、執事の部下が船上から座っており、無言で俺達を誘導していた。


 隊列が通り過ぎた街の中は、歓声が響き渡り、領軍の兵士が、民衆に追い回されていた。

 隊長は民衆から、袋叩きにされていたのを港で見たから、最悪、海に落とされたかもな。


 門の隙間からは、棒や包丁、農具やフライパンなどを持って、走っていく群衆が見えた。

 領軍がヘタレだと判ったから、侯爵家に突撃するのかもしれない。

 ざまぁ無いね。


 『コルス、民衆の監視がてら悪魔が暴れない様にしてきて。』

 『はーい、ペンタも連れて行っていいですか?』

 『いいよ』


 一応、執事の悪魔が暴れると、民衆には手が付けられないからな、コルスとペンタがいれば、問題無いだろう。


 隊列は、暫らくしてアジトに到着した。

 橋が降ろされ、全員が中に入ると、後ろからこっそりついてきていた、ゴロツキが走って橋にしがみついて来た。


 「狙え!」

 「撃てっ!」

 パシュパシュ!

 「ギャー!」


 ゴロツキ達が堀に落ちて行った。堀の中には水は無く、暗闇が広がっている。


 『この下ってどうなってるんだ?』

 「後でご案内します。」


 堀の底にはいける様になっているらしい。

 アジトは旧文明の砦だったらしく、四角い形で四隅に尖塔が建ち、周囲は深い堀に囲まれている。

 堀の上部、つまり空中には、グラビティの魔法がかけられており、飛び越えようとすると、下に落ちる様になっているそうだ。

 ただ、カバーされている、高さはそれ程でもない為、空中の敵には通用しないので、防衛用として尖塔には、バリスタが装備されているらしい。

 命中率は、推して知るべし。

 広さは100m四方といったところで、上は広場兼訓練場、下は住居になっている。

 その下もあって、牢屋や浴場、鍛錬場など様々だ。

 鍛錬場は筋肉を鍛えるのではなく、アスレチック広場の様な作りになっていて、サ○ケを彷彿とさせる。

 難易度は、はるかにこっちの方が高いんだけどね。

 最下部には、解体場と保管庫があり、保管庫は冷凍庫になっているそうだ。

 理由は、たまに動物が堀に落ちてくるので、それを解体して食料にする為だ。


 地上からの深さは、大体40mくらいか、4階しかないけど、鍛錬場が縦にも横にも広いから、この階数になっているのだろう。


 先程撃ち落とした連中も肉塊となって落ちていて、食べられないので、燃やして処分するらしい。

 丁度いいので、ディメンションホールから、まだ解体していないオークを100体出して、冷凍してもらった。

 解体してから冷凍すると、冷凍焼けするからね。


 尖塔に登り、アジトの外を見ると、ゴロツキとチンピラが、合わせて50人程と、孤児らしき少年少女が、数名縄で縛られて、連れられて来ていた。

 ゴロツキのリーダーらしきおっさんが叫んだ。


 「エルフをこっちに渡せ、渡さなければこいつらが死ぬ!」

 『ソフティー出番だよー』

 『どうするの?あたしでも飛び越えられないよ?』

 『糸で、少年少女をこっちに引っ張って』

 『やってみる!』


 門の上にソフティーが姿を現すと、ゴロツキが怯んだ。

 顔が青ざめ、足が震えている。

 ソフティーが糸を発射し、孤児たちを絡めとって引き寄せたが、グラビティ効果で下に引っ張られ、孤児たちが崖の壁に勢いよく打ち付けられる。

 と思った時、暗部の魔法で受け止められた。


 『[エアクッション]』


 やんわりと受け止められて、引っ張り上げられた。

 人質を奪われたゴロツキ達は、堀の向こうでギャーギャー騒いでいるが、諦める様子は無い。

 この手の砦には必ずと言っていいほど、抜け道がある。

 無ければ籠城したまま餓死しちゃうからね。

 戦争で砦を取り囲む敵は、背後から攻撃されたら、攻める側は大混乱に陥るだろうなんて、誰でも思いつくし、こっそり逃げ出せるルートを作っておいて、誰もいない砦を長期戦で落とさせるような、策略も考えられる。

 戦略的価値がある装備は、普通に設置してあるものだ。

 この砦も例に漏れず、その手の仕掛けはふんだんにあった。


 まず、橋はある程度の重さを超えると、下に折れ曲がり、上にいる敵を落とす仕組みになっている。

 門の横には指揮所と呼べる部屋が隠されており、そこから外の様子が丸見えで、外からは見えないという造りだ。

 まぁ、つる草がびっしり生えている所に窓があるから、外から判らないというだけだが。


 城壁にも、小さな部屋が多数あり、槍や弓を射るスペースが所々にある。

 防御力が下がらない様な工夫も見られる。

 こんな世界にも、攻城兵器くらいあるからね。


 周辺の藪には、抜け道の出口が設置されていて、そこから背後を取る事も可能だ。

 今回は、その抜け道を利用して、アルティスとアーリアを除く仲間が、ゴロツキの背後に現れ、堀に落としたり、切り刻んだりして排除した。


 戦闘と呼べるほどの事は無かったが、メビウスとアリエンとワラビを先頭にして、ミュールは補助、後詰めにバリア、リズ、カレン、ルースが入り、コルスとペンタは、回り込もうとする奴を排除する役だ。


 背後から突然現れたメビウス達が、声を上げて突撃すると、驚いて掘りに落ちる奴、腰を抜かして漏らす奴、手入れもされていない、錆びた剣で立ち向かってくる奴と、それぞれ反応は違うが、総じて弱かった。


 ワラビは、行く前に躊躇していたが、アルティスが説得した。


 『ゴロツキは、ここに戦いに来たんだよ。子供を人質にしてね。人を殺す覚悟で来たんだから、殺される覚悟は、あって当然だよね。もし、腰を抜かす奴が居たとしても、躊躇しては駄目だ。そんな事をして、仲間を危険にさらす様なら、ワラビはここでサヨナラするしか無いよ。もし助けるとしても、そいつは武器を捨て、こちらに絶対服従の意思を示さなければ、助ける事はできない。』

 「・・・判りました。人を殺めるのは、本意ではありませんが、そうですね、私達を殺す為に来たのですから、躊躇していては、駄目ですね。全力を以て排除致します。」


 聖女という立場としては、人を助けるのが本望だとは思うが、助ける相手はゴロツキでは無い。

 ギレバアンの様子を見れば、一目瞭然だ。

 ゴロツキと領軍に、虐げられてきた街の人々を助けるのが、聖女としての使命だ。

 人を殺すという行為に抵抗があるのも判るが、魔王軍との戦闘が始まれば、もっと沢山の人族の命を奪う事になる。

 何しろ、人間以外の人族はみな、魔王軍にいるのだから。


 アリエンは、普通に無双していた。

 渡した棒は、身長に合わせた長さで、身長200㎝だから、190㎝くらいの長さがある。

 少し短くした理由は、身長と同じ長さって、結構扱いにくいんだよね。

 槍と運用方法が違うので、長くするメリットも無いし、長さよりも扱い易さの方を重視した方が、攻撃力が上がると思ったから、短くしたよ。

 それに、両端から魔法を出せば、短さを補えるからね。


 今も、上手く魔法を組み合わせて、棒の先から氷やら炎やらが出てる。

 器用にも、片方が氷で片方が炎で、横向きになると一旦引いて、前後に棒が向くと、また出てくる。

 魔法を扱う繊細さは、さすが、魔族と云ったところか。

 ステータスから言えば、アリエンのMAGは既に四天王レベルだ。

 それが、密偵程度で使われていたのは、忠誠の低さと、性格の大人しさが原因なのかもしれない。

 いや、目玉が認めなかった可能性の方がデカいか?有能だと思っていても、自分の地位を脅かす様な部下を冷遇する上司なんて、ザラに居るからね。


 一方、メビウスは、足の運びを大分修正できてはいるんだけど、たまに躓いて(つまずいて)いたりして、まだ慣れていないのが判る。

 ルースみたいに、ストイックではないから、練習量が少ないんだよね。

 どうにか続けていれば、センスはいいと思うんだけどなぁ。

 メビウスのいい所は、視野が広いところだ。

 後ろから攻撃されても、何故か視えているかの様に、避ける。

 まるで、俯瞰で視ているかのように・・・まさかね。


 まぁ、魔力感知を上手く使っているんだろう。

 あいつのやる気が出ない理由は何なのか、そこが判れば簡単なんだけどなぁ。

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