第107話 レッサードラゴンの料理とワーウルフの仇
『給仕の手伝いしてこい!狼人族のお前!こいつに給仕をさせるから、見張っておけ!』
「はっ!了解しました!」
「ちょ、ちょっと、私が給仕って、本気で言ってます!?」
『メニューが無いんだから楽だろ?酒場では無いからな。救助した住民に食事を配るだけの、簡単なお仕事だよ。その程度の事くらいできるだろ?』
「できますよ!?できますが、私は貴族で、平民がやる様な仕事をやるのはちょっと・・・。」
『貴族も平民も同じ人間だ。問題無い。それとも、宰相である俺の命令を聞けないとでも?』
ビクッと身を震わせて、渋々ながら給仕の仕事を開始した。
ラクトフェリンが食事を運ぶと、受け取った人がその顔を見て唖然とした表情になり、ペコペコとし始めた。
「ラクトフェリン様!?お貴族様にお食事を直接頂けるとは、大変申し訳ございません。この様な小汚い身でごめんなさい。」
「あ、いやいや、私は手伝っているだけですから、気にせず食べて下さい。私は仕事に戻りますから!」
ラクトフェリンがそれを慌てて止めてすぐに仕事に戻って行くという光景が何度も繰り返されていた。
悪い印象を持たれている訳では無いし、受け取った住民も怯えている様子も無いので、後から何かを要求する様な噂も無いのだろう。
普通の貴族であれば、感謝だけでは飽き足らず、とんでもない事を要求されるのが常だ。
それが、何を要求されるでも無く、自主的に食事を運んで来てくれているのだから、好印象に映るだろう。
それを狙った訳では無いし、やってる本人もやりたくてやっている訳では無いが、住民達からの印象が良くなったのは、想定外のいい結果だ。
ラクトフェリンがこっちを見て、目をキラキラさせているが、それは思い違いだぞ?俺はそんな事を微塵も考えていなかったからな?
ラクトフェリンの方は、狼人族に任せておけばいいや。
と、後ろに振り返ったら、忘れていた事を思い出した。
『ガウスの存在を忘れてた。』
いや、こいつ、気配を消していやがる。
『おい、ガウス?いつまで項垂れてるんだ?』
「カレンの手料理・・・。」
そんなに食いたかったの?
『カレーン、そっちはどんな感じだ?』
ケモナー共和国との国境付近の領に視察(掌握)に行ったカレンに、状況確認の念話をした。
『国境沿いの領の内、西半分は制圧しました。が、東半分については、領主が見つからないとの報告が来ています。』
国境沿いの領は、全部で7領あり、西半分というと4領を制圧したという認識でいいのかな?
『西半分というのは、ファーフェルトから数えて4領という事か?』
『そうです。残りの3領については、領都の門が硬く閉ざされており、中に入れない様です。』
ケモナー共和国に制圧されたって事か?
『コルスー』
『暗部も潜入できていません。というより、放置していました。』
まぁ、人手も限られてるし、マルグリッドとケモナーしか隣接していないから、ほぼ気にも留めていなかったのだ。
特に、マルグリッド側については、切り立った山脈が連なっており、攻めて来るにしてもルートが無い事から、気にする必要が無く、ケモナーの方にしても深い森しか無いので、魔獣の侵入以外に気にする物が無かったのだ。
『じゃぁ、残り3領に潜入して報告できたら、特製干し肉30個な。』
『それは私に?』
『成功した人に。』
『全員で行けと?』
『空いてる奴だけだよ。任務中は駄目だよ?任務放棄は、干し肉もエネバーも半年禁止ね。』
『死んでしまいます。』
『じゃぁ、エネバーの失敗作だけなら食っていいよ。』
『ではそれで。』
コルスが妥協した事で、コルスに非難の念話が殺到した様だけど、俺には関係無いね。
エネバーの失敗作というのは、エネバーを更に強化しようという試みから、毎日大量の失敗作ができているらしいのだ。
味が良くないという噂で、スラムで配布したり、冒険者ギルドで格安で販売したりしているのだが、スラムの住人でさえ受け取るのを渋るらしいので、相当に不味いのだろう。
一部では、疲労がポンッと飛んでいく程の効果がある様だが、苦さと渋味が強くて、食べるのに苦労するらしい。
良薬は口に苦しとも言うから、効果が高いという事は、薬草を濃縮した液を入れたとかそんな物だとは思うが。
アレも入れようという計画が練られていた事もあったのだが、用途が違うという事で、却下された様だ。
アレの使い道としては、栄養ドリンクが定着しつつあり、売れ行きも絶好調で、数か月後にはベビーブームになりそうな程だ。
そうなると、助産師やら産婦人科の様な、出産に関わる人員も増やした方が良さそうだな。
陛下に話を通しておく必要があるな。
『とりあえず、制圧した領だけでもいいから、兵士の育成と領主の教育を頼むよ。それと、ガウスをそっちに派遣したいんだが、何か使えそうな仕事はあるか?』
『ガウス?特に無いですね。強いて言えば、冒険者の育成に使えそうですが、どちらかと言えばウルファの方が適任化と思います。セットでなら引き受けますよ?』
『どうする?ガウス。』
「妥協はしねぇ。認められる様に頑張らせてもらうぜ。」
『そうか。じゃぁ頑張って強くなってくれ。』
カレンが言っているのは、ガウスでは指導役として向いて無いという事で、様々な武器を扱う事ができたとしても、それは振り回せるだけの話で、特性を理解している訳では無いという事。
指導をするという事は、それぞれの武器の扱いに関しての知識が必要で、どう扱えば良いのかを説明できる人材として、ウルファの方が適任だと言っているのだ。
ウルファの得物は刀だが、ウルファの故郷以外では取り扱いが殆ど無く、あっても造りが雑ですぐ折れ曲がる為に、代りとなる別の武器を色々試していた経緯から、それぞれの武器の特性に関しての知識が豊富なのだ。
しかも、今や冒険者の間でも超有名人になっている事から、教わりたい者も多いだろう。
ガウスがウルファの真似をしたとしても、同列に並ぶには何年かかっても無理な話だ。
器用不器用の話では無く、性格の面が違い過ぎるのと、ウルファは効率を求めて追及する効率厨で、ガウスは力と破壊力を突き詰める破壊の権化だ。
ある意味、体格と種族特性を生かした戦い方ではあるが、それを実践できる人間がほぼ居ないのが現状だ。
獣人にしても、体格のいい獣人の殆どは、ウォーハンマーやモーニングスター、バトルアックス等に偏りがちで、ブンブン振り回すだけで威力のある攻撃ができる為に、細かい事を教えても覚えようともしないのが普通だ。
しかも、殆どのダンジョンには、通路が狭すぎて入れないので、外で狩りをするしか無いので、需要が少ないのだ。
『ガウス、盾使ってみないか?』
「タンクをやれって事か?」
『それも有りだとは思うけど、それでは長所を生かせないから、バックラーを装備して、攻守の両立を目指すのはどうかと思ってな。』
「剣を使いつつ守りもする?」
『そうだ。さっきの様に、細かい傷をたくさんつけられると、再生能力も追いつかなくなるだろ?だから、怪我をしない戦い方を覚えた方がいい気がするんだよな。』
そもそも、再生能力があっても、失った血は戻らないのだ。
肉体は回復できるのだが、自動回復にしても再生能力にしても、血は流れるし、流れた血は回復できないのだ。
総量が普通の人よりも3倍近くあるとしても、流し続けていればその内足りなくなってくる。
血が足りなくなれば、息が切れ、スタミナも落ち、回復力も格段に落ちて来る。
その時に深手を負えば、最悪死に至る可能性も見えて来るのだから、極力怪我をしない戦い方を覚えるのは、継戦能力を高める為にも必要になって来るだろう。
「血を回復させる魔法ってのは無いのか?」
『多分あると思うけど、試せないんだよ。』
「どういう意味だ?」
『出血多量の奴に使ったとしても、総量を知らないから、増やし過ぎる可能性が高い。増やし過ぎた場合、増やす前よりダメージがでかくなる可能性が高いんだ。』
「駄目じゃねぇか。」
『駄目だな。実験できればいいんだが、ハーフギガントを一人殺すつもりでやらないと駄目なんだよな。』
「駄目じゃねえか!」
『だから、駄目だって言ってるんだよ。』
輸血の様に点滴で増やす事も可能な気はするのだが、それを試すには、輸血が必要な者が必要になるんだよな。
だが、輸血が必要な者というのは、ポーションで治療してしまうので、殆ど居ないと言っていい。
ポーションであれば、血はある程度までは回復するんだよ。
血が増えるのでは無くて、ポーションが血の代わりとなって、血管を通るイメージかな?生理食塩水みたいな感じか。
何故血液を作れないのかは判らないけど、多分、難易度が高すぎるんだと思うよ。
赤血球に白血球、血漿板やら栄養素にホルモン、凝固因子などの様々な物が混ざっていて、それら全てを再生するなんて事は不可能に近いともなれば、それらを再生するには、膨大な魔力が必要になる。
しかも、臓器や皮膚と違って、人によって成分が異なるのだ。
前の世界と同じであれば、A、B、O、ABの4種類に加えて、それぞれにRh因子という物もあったから、全部で8種類という事だ。
そして、これは人間に限った場合の話で、多様な人族が存在するこの世界では、何千何万種類もある可能性だってあるのだ。
そんな細かい事に対応していられないんだと思うよ。
この分野に関しては、俺は知識が殆ど無いので、対応が難しいと言えるのだ。
だから、誰か別の人に研究してもらうしかないだろうね。
「だから怪我を減らす必要があるって訳か。」
『お前がちゃんと防具を着てくれれば解決するんだけどな。』
「むず痒くなるんだよ。」
『新しく造った奴でも駄目か?』
「駄目だったな。」
『そうか。』
ハーフギガントのガウスの体表には、産毛がビッシリと生えていて、それがそこそこの硬さを持つ為か、密着する服や防具を着ると、違和感が凄いらしく、長く着ていられなくなるのだとか。
初めの頃は着ていたのだが、暫らくすると脱いでいる事が多くなったので、色々試してはいるのだが、中々に難しいらしい。
その毛に魔力を通すと、普通のナイフも歯が立たない程に硬くなるのだが、あくまでも普通の鉄製の武器までの話で、王国軍仕様の武器には役に立たないのだ。
せめて、ソフティーの編んだ服だけでも着られれば違うのだが、それも厳しいらしい。
裸族の裸族たる所以という事か。
「判った。普通のバックラーじゃ小さ過ぎるから、俺専用のを作ってくれるんだろ?」
『そうだな。銅鑼みたいなデカい奴を作ってやるよ。』
「どら?」
『あぁ、銅製の太鼓みたいな物だよ。ガウスの腕の太さを考えると、直径1m程か。重さは要らないから、ミスリルとオリハルコンの合金で作るか。まずは練習用の壊れやすい物だな。』
「壊しても良いのか?」
『寧ろ壊さないと、お前の体に傷が付くぞ?使い方を理解するまでは、壊れた方が安全なんだよ。』
装着する場所にも依るが、左腕の肘から先にするか、上腕にするかによって、扱いに慣れていないバックラーが、体のどこに当たるのかが変わって来る。
ガウスの腕の振り方によっては、盾の縁で自分の首を切り裂きかねない為、柔らかい物を使って練習する必要があるのだ。
バックラーは、まともに受けるのでは無く、受け流す使い方がメインの為、中央が出っ張った形になるのだが、史実では弓に滅法弱かったらしい。
ただそれは、振り回す事を考慮して、軽くする為に薄い鉄板や木材、皮革をメインに使っていたのが原因であって、こちらの世界の硬くて軽い金属を使えば、セリナの特注弓以外なら防げるだろう。
正面から飛んで来ればの話だが。
最近のエルフ達の弓矢は、変態機動で飛んで来るので、盾で避けるのは殆ど不可能と言っていい。
魔力誘導を覚えたら、それが楽しくてどんどん練度が上がっているのだ。
だから、殆ど真っ直ぐ飛んで来る事は無く、下手すると滞空時間が5分を超える場合もある程だ。
上空でフラフラ飛ばしているのでは無く、エアボードなどで空中に固定して、忘れた頃に落としてくるというもの。
まぁ、まだ改善の余地はあるものの、実戦で使われたら初見殺しとなるのは必至だな。
自由落下では無く、魔力誘導で落ちて来るから、必中だし。
ケモナー共和国の兵士を脅した矢も、その誘導によってつま先に触れるか触れないかのギリギリに突き刺したのだ。
誘導無しでは、あんなギリギリは狙えないだろう。
「練習はどこでやるんだ?」
『王都でエルフ相手にやるんだよ。』
「・・・難易度高くね?」
『剣で捌けるんだから、できるだろ?』
「剣も使っていいのか?」
『当然だ。剣と盾を使って避ける練習だからな。』
「それならまあ、できなくは無さそうだな。」
ガウスはバスタードソードを使って、エルフの矢を半分くらいは叩き落せる。
叩き落せなかったのは、剣が間に合わない分が腕に当たっていたのだ。
つまり、その腕に当たる分をバックラーで受け流せれば、十分に使いこなせる事になる。
普通の一斉射で降って来る矢は、軍隊用の矢、つまり、群れている所に撃っている矢なので、ガウスが訓練する必要は無いのだ。
『とりあえず、一旦ブラスバレルに戻って子供達にお別れして来い。』
「・・・そうだな。王都に戻らなきゃならねえからな。」
子供達に別れを告げるとギャン泣きされるのが判っているから、ちょっと残念に思ってるみたいだな。
いつもの事だから気にしないが。
何故かガウスの周りには、いつも子供が集まって来る。
初めは、ガウスが子供が落ちて怪我をしないかと怖がっていて、周りの大人達は、怒られないかとワタワタしてたけど、子供達はお構いなしによじ登ってた。
ガウスが諦めた様に動かないでいると、子供達がガウスの頭の上で勝鬨を挙げて喜び、肩に座って何かを話しかけていた。
お礼を言われたのか、褒められたのかは判らないが、悪い気はしないみたいだ。
でっかいお兄ちゃんは、歩くジャングルジムみたいな物なのだろう。
普通の建物は殆どが平屋で、王都とかは2階建ても建ってるが、3階建てはそれ程多くない。
ガウスの身長が3m程もあるから、頭の上に立つと、丁度2階の窓くらいの高さになって、楽しいらしい。
足を滑らせて落ちても、ガウスが受け止めてくれるし、全身に生えている産毛は、魔力を通さなければフサフサでは無いにしても、人工芝の様な手触りで気持ちいいのだ。
父親に肩車をして貰うよりも高い位置から、下を見下ろせるのは楽しいみたいだ。
たまに、思った以上に高すぎてお漏らしする子もいるが、ガウスが怒ることは無く、優しく下に降ろしてくれるのだ。
お漏らし程度なら、クリーン使えば綺麗になるからね。
『じゃぁ、ブラスバレルに行って来い。』
「うっす。」
ガウスをブラスバレルに送り、ガンバレルではワイバーンの解体を開始した。
解体されるワイバーンを複雑な顔で見守る住民達は、棄てられると思っていた肉が、綺麗に切り分けられていくのを見て不思議に感じていた。
一人が勇気を出して、狼人族の一人に話しかけた。
「そのワイバーンの肉は、どうするんだ?」
「後で食べるんですよ。」
ザワッ
「ワイバーンの肉を食べる!?硬くて臭いこの肉を食べるのか!?」
「そうですよ?ちゃんと下処理をすれば、美味しいんですよ。後で振舞いますから、食べてみて下さい。」
「お、俺達への嫌がらせか!?」
違うけど?
「我々が最初に食べるので、安心して下さい。」
休憩に戻って来た兵士達が、話に割り込んできた。
ワイバーンの体は大きいので、30人程度の兵士達であっても、1頭を食べ尽くす事は不可能で、この街で生き残った住民全員に食べさせたとしても、1頭消費するだけで精一杯だろう。
『リズ、レッサードラゴンの解体もやってしまおう。』
「素材は取れるのですか?」
『取れないことは無い。けど、ポーションや万能薬の材料としては、ドラゴンに劣るな。ドラゴン種ではあるが、ドラゴンになる前みたいな物だから、肉は食える可能性があるな。』
「あまり期待はしないでおきます。」
というのも、ドラゴンの肉については、未だに食べられる様になっていないのだ。
そもそも、ドラゴンには高い属性耐性を持ち、魔法耐性と物理耐性も高い事から、噛み切るのも困難な状態なのだ。
耐性というのは、鱗だけについている物では無く、本体が身に着けたスキルなのだから、体の隅々まで、それこそ毛の一本に至るまで有効なのだ。
ただ、発動にはMPが必要で、維持にも必要なのだ。
だから、肉から魔力を吸い出せば問題無く食べられるのだが、魔力は旨味でもあるので、完全に抜くと臭くてゴムの様な食感になって、とても不味くなってしまうのだ。
これは、他の魔獣肉全てに言える事でもあり、どんなに美味しい肉であっても、魔力を抜くとジューシーさが抜け、パサパサで旨味も無く、臭みが強くて噛み切れない肉になってしまうのだ。
つまり、魔獣にとっての魔力は、血肉と同じという事だ。
因みに、元々保有魔力の少ない動物の場合は、魔力を足しても美味くならないし、魔力も籠る事無くすぐに抜けてしまう。
生きてる状態の時に魔力を持たせる事はできるのだが、その動物を食べても特に美味しくはならないのだとか。
普通の動物は、魔力を持っていない訳では無いのだが、あまり魔力に馴染んでいる感じでも無いので、保有魔力が増えて馴染むと魔獣になるのかも知れない。
「レッサードラゴンの肉は、何か軟らかそうですよ?」
『ドラゴンも生だと同じなんだよ。プニプニした感触で、焼いたら美味そうって思える肉質なんだけど、焼くとカッチカチになるんだよな。』
「何をしても駄目なんでしたっけ?」
『そう、何をしても全然軟らかくならない。叩いても浸けても煮込んでも駄目で、どうにもならないって言ってた。』
「一時期、食べられる様になるかも?って聞きましたが?」
『結局駄目だったんだよねぇ。触るとフワフワなのに、食べると硬い不思議な肉になっただけだった。』
「ダイ何とかみたいな感じですか?」
『ダイラタンシーな、そんな感じだ。』
実際には少し違っていて、柔らかい肉を食べられると思って噛み締めたら、中心に鉄板が仕込まれてたって感じで、試食した奴の歯が折れたそうだ。
摘まんでる感じでは柔らかいのだが、噛み締めると最後の最後に硬くなるという鬼畜仕様。
錬金術で筋線維をズタズタに切裂くと、食べられるがベチャッとしていて、食感的に不味くなる。
魔獣界の頂点に立つ魔獣の中の魔獣だから、倒されて食べられる事を良しとしないという事か?ならば、レッサーならいけるかも知れない、そう思ったのだ。
「行けそうですか?逝けそうですか?」
『リズ、3切れ切り取ってくれ。試食してみよう。』
狼人族の一人が、携帯コンロを持って来たので、3切れだけを切り取って試食してみる事にした。
ジュー
焼いてみた感じ、特に火耐性が効いてる感じも無く、脂の乗りが悪い感じも無く、普通に焼けている。
ワイバーンには、火耐性が付いている筈なのだが、鑑定しても火耐性は出て来ない。
切り落とした頭には火耐性が付いている事から、頭部にだけ火耐性が付いていて、切り落とされてしまったから、胴体に火耐性が残っていないのかもしれないね。
「では!頂きます!あむっ」
最初に狼人族の奴が食べた。
味付けは無しで、薄切り肉をただ焼いただけの筈が、何故か口の中でモゴモゴと転がしている。
『硬いのか?』
「硬いというか、小骨が多いですね。食べにくいです。」
『小骨!?』
「魚じゃあるまいし、小骨なんてある訳無いでしょ。頂きます。」
続いてリズが口に入れたが、噛んだ瞬間、動きが止まった。
小骨がある様には見えないのだが、小骨と思える様な何かがあるって事か?
目の前にある肉片を爪で引っかけて、引き裂いてみた。
『確かに何かに引っ掛かる感触があるな。繊維というより、小骨と言った方がしっくりくる程の硬さがあるな。これが何なのか、調べてみよう。』
リズが、小骨の周りの肉をこそげ取る様にして、見える形にしてくれた。
『形からすると筋っぽいが、硬さは骨か。可能性から言えば、血管か神経ってところか。』
まぁ、網目になっていない所を見ると、神経の方が確率は高いな。
存在感のある神経組織は初めての経験だが、所謂図太い神経って事なのかも?なんてね。
『スケープゴートみたいな例もあるから、色々試してみるしかないな。』
神経、神経伝達物質といえば、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン辺りか。
料理には特に関係は無いが、筋肉を弛緩させる様な物を流し込めば、硬さが無くなる様な気がする。
とはいえ、何を流せばそうなるのかは、全く思いつかないのだが。
『首の所にある太い神経から、何かを注入するか。』
「何が良いですか?」
『グリフォラファンガスの搾り汁とか。』
「そういえば、グリフォラファンガスでも肉を軟らかくする効果があるって、以前言ってましたよね。」
『そうそう、マイタケプロテアーゼって言う分解酵素が、肉を軟らかくするんだよ。』
「生のグリフォラファンガスを搾って汁を出しても、それ程量が取れないんじゃないですか?」
『水で薄めればいいだろ。』
割とどこの森でもいるグリフォラファンガスは、美味しいので見つけたら毎回狩ってるので、在庫は沢山ある。
ディメンションホールから取り出したグリフォラファンガスを、圧縮し、汁を水で薄めて、結界で作ったシリンジで注入する。
脊髄から全身に枝分かれしているので、そこに圧力をかけて注入してやれば、小骨の様な神経にも行き渡るだろう。
グリフォラファンガスの攻撃には、溶解液を噴き出すというものがあり、この溶解液がタンパク質の分解酵素だと思う。
浴びると、数分で白骨化する程に強力なので、生け捕りにして吐かせて、肉を軟らかくするのに使うのもいいかもしれない。
「何か、肉がぷるぷるしてきた感じですね。」
『効果がでてきたかな?ちょっと切ってみるか。』
狼人族が包丁を入れると、何の抵抗も無くサクッと切れた。
「効果があった様です!小骨が感じられません!」
『切る時には、手袋をしてから作業してくれ。ファンガス液の効果が弱まってるとしても、皮膚についたら溶けるからな?』
「あ、はい。」
再び3切れを切り出して、焼いてみた。
「美味い!」
「ジューシーで旨味が強く、適度な歯ごたえと独特な風味が合わさって、口の中が幸せで一杯です!」
リズは一言で終わったが、狼人族の方は詳しく解説した。
ソフティーはうんうんと頷きながら、よく噛んで味わってる。
『よし、さっさと切り分けて、食べる分はさっさと焼き始めてくれ。時間が経てば経つほど、どんどん溶けて行くからな。ドロドロになる前に手早くやってくれ!』
「了解!」
狼人族が数名集まり、手袋に魔力を纏わせて素早く分解し始めた。
今回の情報は、既に王都の狼人族にも伝わっており、レッドドラゴンの肉をどうにか食べられる様にする研究チームが動き出しただろう。
そして、ルングベリで捕獲したドラゴン達は、いつ殺されるかと戦々恐々とし始めるだろう。
捕獲したドラゴン達は、人型の状態を解いてドラゴンの姿に戻っており、戦闘訓練の為に毎日ボコボコにされている。
奴らは、青天井のプライドにより、普通の兵士や騎士如きには勝てると踏んで、逃げ出そうとした経緯がある。
だから、そのプライドをへし折る為に、王都で戦わせている。
戦っている場所が屋内では無いので、その時に逃げ出そうと飛び上がり、エルフの弓で翼を撃ち抜かれ、数回撃墜されたという話を聞いた事がある。
可哀想という意見も無くは無いが、毎食シープキャトル1頭食い、寿命は天文学的数値にもなり、解き放てば害になるのは確実ともなれば、生かしておく間に訓練相手として活用して、必要な時に薬の材料や食料として利用する、家畜扱いとして扱うしかないのだ。
多少の知能はあるが、記憶力があるという程度で、人間の視点では大事件であっても、大体数百年前にどこら辺でちょっとした何かがあった程度にしか覚えて無いから、その記憶力が役に立つ事も無いのだ。
ドラゴンからすれば、人族が何人死のうが大した事では無く、覚えているのは、自分のテリトリーの中で起こった事しか知らず、主にスタンピードがあってたらふく食えたとか、オークの集落を襲ったら、逃げ出したオークが村を襲ったとか、森に降りたら魔獣が大混乱になったとか、主にお前等が原因だろうという事しか無いのだ。
そんな奴を野放しにする方が、どうかしていると言える。
飛んで自由に動ける分、空飛ぶ災害と言える存在がドラゴンなのだ。
因みに、竜の因子については、毎日洗い流せば問題は無く、たまにマンドラゴラで浄化してやれば良い程度だ。
マンドラゴラは、ピクルスにして毎日出しているので、特に問題になる事も無い。
ただ、そのピクルスが苦手という者も一定数いるので、監視体制はバッチリと行っている。
マンドラゴラの食味は、硬めの大根という感じで、火が入っても歯ごたえがあるので、炒め物には向かず、煮物にするか漬物にするしかないのだ。
だから、ピクルスが食べられない人の為に、カレーやシチューの具として使っていたりもする。
但し、煮ると万能薬の効果は下がるので、それなりの頻度で食べなければ、効果が出にくかったりもする。
薬を飲ませるのでも良いんだけど、結構不味いから、飲まなくなる確率も高いんだよね。
それと、ドラゴンの肉を食べても、竜の因子に感染することは無いみたい。
ウイルスか寄生虫かは判らないけど、加熱すれば問題無いって事かもね。
「切り分けた残りの部分は、マジックバッグに入れておくという事でよろしいでしょうか?」
『それでいいよ。希少な肉だけど、ここぞという時に使っていいぞ。』
「了解しました。」
ディメンションホールに入れても良いんだけど、調理するのは俺じゃないから、狼人族が持ってる方がいいのさ。
解体前の奴なら、まだ入ってるしね。
「住民に分け与えるのですか?」
『散々痛めつけられた相手だ、敵討ちのつもりで食ってもらった方がいいだろ。』
「そういうものですか?」
『そういうものだろ。』
因みに、ドラゴンの肉を食べた3人には、ドラゴンイーターと言う称号が付いた。
効果としては、ドラゴンを食料として見ている事が判るから、ドラゴンに対して微妙に威圧できるみたいだ。
敵対者はドラゴンを殺した可能性は低いが、肉として見ている場合は、ドラゴンを倒した可能性が高いって事だから、それが判ると恐怖を感じるのかもしれないね。
『さ、ワイバーンもさっさと解体して、振舞ってやれ。』
「そうですね、ワイバーンなら気兼ねなくあげられますしね。」
『リズ、何か考えがケチ臭くなってないか?』
「がーん」
ケチるなとは言わないが、高級だからとケチケチするのには抵抗がある。
人間だった頃、姉がそんな感じのどケチだったから、自分もそういう風になりかけた事がある。
お高い食材をチビチビ使って、結局は半分以上を腐らせるとか、かなり勿体ない事をやっていた。
姉は、冷凍ズワイガニを勿体ない勿体ないと言い、冷凍庫で何年も放置していて、後に冷凍庫の中で冷凍焼けでカサカサになったズワイガニを見て、考えを改めたのだ。
食料品は、美味しい内に食べきらなければ勿体無い。
美味しい物を長く食べ続けたい、その思いは理解できるが、長く食べ続けるといつか飽きる日がやってくる。
いくら長期保存が可能とは言え、食べる度に何度も外に出していれば、その度にどんどん腐敗が進み、蓄積された腐敗によって味が変わって来る事になる。
最早新鮮な頃の味は消え、ほのかな腐敗臭を感じる別の物になってしまうのだ。
今を逃せば二度と食べられないという訳では無いのだから、みんなでワイワイ楽しく食べて良いんだよ。
「何か勿体ない気がしたんですよぉ。」
『下々の者に食わせるべき物では無い!てか?そんな考えはやめてくれ。階級や特権はあって然るべきだが、卑しい身分など無い。寧ろ、穀物をせっせと作ってくれる農民を敬うべきだ。』
「別に卑しい身分とか思ってる訳ではありません。ただ、こんなに美味しい物を分け与えるのが、惜しいと思っただけです。」
『無くなったら、また狩れば良いんだよ。お前にはそれができるんだからな。』
ドラゴンは別に希少種という訳では無く、居る所にはたくさん居る魔獣だ。
希少性があるのは、狩れる者が少ないという事が原因だ。
リズは、この世界で数人しか居ないドラゴンを狩れる者なのだから、食べたくなったらまた狩ればいいんだよ。
「そうですね。そう思う事にします。」
『どうしても見つからなければ、オニキスに分けてもらうとか?』
「オニキス?エンシェントドラゴンですか?」
『そうそう、でかいからちょっと一部を・・・。』
『何か背筋に冷たい物が走ったのじゃが?』
オニキスから念話が来た。
勘のいい奴め。
『すまんすまん、冗談だよ。』
『やめて欲しいのう。儂とて、痛い物は痛いのじゃ。』
特に説明しなくても、何を言われたのか判っているらしい。
『他のドラゴンを狩るのは問題無いが、儂を齧るのだけは勘弁して欲しい。』
『友達を傷つける様な事はしないよ。害が無ければ。』
『害とはどういう事を指すのじゃ?』
『俺の仲間を傷つけるとか、人の住む街を消し飛ばすとかかな?』
『過去にやった事は・・・?』
『そんな事はどうでもいい。過去は過去、未来の話をしてるんだよ。過ぎた事は取り返せないからな、今更気にしたところでどうしようもない事。』
『それでは、今後は気を付けるとしよう。』
くしゃみしただけで大災害だからな。
何とか気を付けて欲しい所だ。
『どうしてバレるんだろう?』
「何となく、アルティス様の声が聞こえた様な気がする事が偶にあるんですよねえ。」
『そうなのか?まぁ、面白いからいいや。』
「・・・。」
リズの眉がハの字になったが、いつもの事だと諦めたのだろう。
そんな事より、今は重要な事がある。
『ハーフリング、どうしよっかなー?』
ピッピを倒した時は普通だったのに、食べる為に解体したらギャン泣きし始めて、今は泣き疲れて寝てる状態だ。
ずっと無視してるフリをしながら観察してたんだが、どうやら痛覚の共有でもしていたのか、藻掻きまくっていた。
痛覚の共有というのは、それ程悪い事でも無いとは思う。
使い魔にしろ、獣魔にしろ、戦いとなれば先鋒に立たされるのは当然な事で、獣魔の知能が高ければ高い程に相応の対価が必要になってくる。
それは、魔力の場合もあれば、痛覚の共有や体の一部という事もあり得る話なのだ。
但し、痛覚の共有とは言え、半分を分けてしまうと痛みが軽減される為に、攻撃を避けなくなったり主が死んでしまう事になる為、大体8:2が相場では無いだろうか。
痛みを共有するという事は、離れている時に攻撃を受けたり、怪我をした場合に主にすぐに伝わる為、生存率が高まるのだ。
対価の少ない契約は、従う者にとっては奴隷契約と同じだからね、そんな契約を結びたい奴なんてそうそう居ないって事だ。
俺とあるじの契約はどうかと言うと、あの時点で俺の方が強さで言えば勝っていたが、俺自身が契約を望んだ為に対価を要求しなかった。
いや、対価として人間の知識、所謂書物の閲覧ができて、人間の生活圏内に自由に出入りできる様になった事こそが対価としての価値のある物かもしれない。
結果として、こちらの能力を共有する形になったのだが、双方合意の上で対等となっているので、特に問題は無いのだ。
問題があるとしたら、それは何十年も後に、あるじが老化した頃に発生するかも知れない事で、今考えても意味は無いのだ。
そもそも、普通に齢を取るかが疑問ではある。
この世界の生き物で、MAGの高い者程長寿だからだ。
人間という種族は、全ての能力について平均的で、器用貧乏過ぎて弱い。
その代わりに、適応能力が高く、各方面への伸びが凄い。
特化する事もできるし、万能になる事もできる、かなり自由度の高い生き物なのだ。
他種族との交わりで子を成す事もできるし、どんなに過酷な環境に行っても、何代か繰り返せば居住する事も可能になるし、その為の知識の蓄積も伝達も容易に熟してしまう。
こんな種族は他に居ない、稀有な存在と言える。
平均的な寿命は100年に満たないが、それ以上に生きた者もゼロでは無いし、300年生きた者も居るのだ。
だから、もしかしたら歴代の長寿だった者達よりも高いMAGを持つ者達が、数百年生き残る可能性もゼロでは無いかもしれない。
人間が長い年月を生きる為には、夢や希望、目標が必要になるが、それさえクリアしてしまえば長生きする可能性も高い。
後は、本人が長く生きる事を許容できるかどうかだな。
300年生きた者は、生涯独身で、ずっと魔法の研究に没頭し続けていたそうで、生きる希望を無くしてすぐに死んでしまったそうだから。
長寿の代名詞とも言えるエルフであっても、生きる希望を無くして短命で死ぬ者も多いと聞くし、希望や目標は生きる為には絶対的に必要なんだと思う。
因みに、短命のエルフはほぼ全てが他種族との婚姻をした者達で、自分よりも早く死ぬ夫や子供の後を追う様に死んでしまうのだとか。
性格にも依ると思うけど、愛する者の死というのは、自分の寿命を縮める程に辛いものなのだろう。
だから、エルフ族は他種族との婚姻を認めたがらないのだろう。
人間と結ばれて、子供が孫を産んだとしても、その孫も自分より早く老いて死ぬのだから、そんな事が50年おきに何度も続くのだ。
エルフにとって50年なんてあっという間で、つい先日くらいの感覚なのだから、しょっちゅう家族がホイホイ死んでいくのは、精神的にもきつそうだ。
「何か遠い目をして、何を考えているんですか?」
『あるじや君等が何年生きるのかなーって。』
「アルティス様が死ぬまで生きますよ?」
『おいおい、そんなに長生きしたら、ヨボヨボのカサカサになって、マミーって仇名付けられるぞ?』
「なんて事を言うんですかっ!?私はいつまでもピチピチですよ!」
『ピチピチって、フレッシュゾンビかよ。』
「何ですかそれ!?ゾンビって、死んでるじゃないですか!」
『普通死ぬだろ?』
「MAGが高いと長生きするって言われてるんですよ?知らないんですか?」
『伝説だろ?偏屈魔法使いとエルフの物語だっけ?』
「それは小説の話です。エルフ達がMAGが高いと長命になるって噂していたんですよ。それと、小説の方はエルフでは無く、ハーフエルフですね。」
『そっか。エルフの話のソースはどこから?』
「ソースは関係無いと思いますが、エルフ達はジョセフィーヌから言われたそうですよ?」
ハイエルフからの情報となれば、確度は高い情報と言えるな。
ハイエルフは独立した思考を持つが、世界樹の精霊の子というか分身でもあるので、遥かに長い年月を生きて来た彼等の言葉ともなれば、無視する訳には行かないだろう。
「あ、アルティス様は関係無いって言ってました。神の使徒であるアルティス様は、MAGがどうであれ、死ぬ事は無いそうです。」
『嫌なんだけど?』
「何でですか?」
『人間の相手するなんて面倒くさいし、あるじもリズもカレンも居ないんじゃ、人間にブチ切れて世界を滅ぼしそうだろ?』
「・・・あり得ますね。」
今の仲間が居なくなっても、どこかで新しい仲間を見つけて何かやってるんだろうとは思うけど、そもそも人間的な考え方で、人間の生活様式の方が過ごしやすい俺には、数百年も持つ精神力が無い気がするんだよなぁ。
転生する時に、何か約束をさせられたとしても、それでどうにかなるとは思えないし、そもそも、何の情報も無い時にこの世界を救えとか言われてOKしたとしても、今この世界の状況を見ても、変わらず救えると断言できる気がしないのだ。
『ま、成る様になれって事か。』
「そうですね、なってみなければ判らないという事で。」
ままならないから面白いという事も言えるかもしれないが、ゲームでは無く、現実では人が死ぬし、責任も発生するのだ。
政治の形には色々あれど、平和な世界なんて夢のまた夢。
表があれば裏があり、光が射せば闇が生まれる。
それが世界の理なのだ。
そういうのを全部無視して、自分の理想を追い求めたとしても、争いが絶えることは無いし、一つにまとまる事も無いだろう。
あるとすれば、その世界はもう末期状態という事だ。
平和で、何不自由無く暮らせる世界になれば、新しい物は生まれなくなり、人の進化もそこで止まる。
進化し無くなれば、退化するだけになり、その世界の文明はもう滅亡するのも時間の問題だ。
いつの世も生物は皆、窮地に立たされた時進化してきたのだ。
気候変動で、天変地異で、戦争でも進化する。
新しい環境に順応できない者は、淘汰されるのだ。
それが自然の摂理であり、生命が進化する為のサイクルなのだ。
ただ、それをすんなり受け入れられるかと言えば、できる自信が無いのである。
誰かが窮地に追いやられれば、それを助けるべく動いてしまうだろう。
ま、目の前に居たらの話だけどね。
「で、ハーフリングはどうするんですか?」
『どうしようか・・・、とりあえず尋問して本拠地を吐かせるか。そんで、ワイバーンの数を調べて、多い様なら間引いて、少ない様なら放置でいいかな。あのハーフリングは、面倒くさいから解放で良いんじゃないかな?』
「復讐しようとするのでは?」
『来たら討伐でいいだろ?食料が向こうからやってくるんだから。』
「八つ当たりで他国に行ったらどうします?」
『そんな事をしたら、殲滅するって言えば良いんじゃない?』
「言う事を聞くでしょうか?」
『聞かない様なら、ギリギリまで減らせばいい。』
本当に殲滅するかと言えば、それは無い。
ワイバーンは脅威とみなされるが、絶滅させても良いかと言えば、それは違う。
ワイバーンは、普段はオークやオーガ、その他の大型の魔獣を狩って生きている。
ワイバーンが減れば、大型の魔獣の数が増え、それらが餌を求めて人里へ向かって来る可能性も高くなるだろう。
一応、ワイバーンも野生の魔獣である以上は、数が減り過ぎてしまえば、更に大きな問題が生じる事は想像に難くない。
特にオークが増えすぎるのは、人類にとって大きな脅威となり得るのだ。
スタンピードが起きてしまえば、街一つ消える程の被害が出るのだから、ワイバーンの被害と比べたら、オークの方が脅威度は高いのだ。
「ハーフリングが使役するワイバーンは、殲滅しても良いんじゃないですか?」
『どのくらい居るのかにも依るよな。凄く大量に居るのなら少しずつ間引いていくしかないし、少ないなら殲滅してもいいかもね。ただ、その場合、ハーフリングが新たなワイバーンを使役する可能性があるから、野生のワイバーンの数が減る事になる。それは、こちらとしては問題があるんだよ。』
「そんな簡単に使役できるものなんでしょうか?」
確かに、卵を盗んで来るにしても、そこには大きなリスクが存在してるし、今まではレッサードラゴンが居たから簡単にできていたとしたら、レッサードラゴンの居なくなった現在では、とても難しい事になるだろう。
ワイバーンの卵を盗むのは、比較的簡単だとしても、その後が大変だからだ。
ワイバーンは、卵を盗まれると、徹底的に追跡して卵ごと潰しにかかるのだ。
卵ごとというのは、ワイバーンには卵を運ぶ手段が無い為、一度巣から移動されてしまうと、巣に戻す方法が無くなる為だ。
そして、巣以外では卵を孵す事が無いという習性から、卵諸共盗んだ者を叩きのめすのだ。
自分を親と見ない子供が育つと、自分達に対して脅威となり得るからだと思うよ。
ワイバーンのブレスは、ワイバーンにとっても脅威なのだ。
『いずれにせよ、一度ハーフリングの村に行ってみるしかないな。』
「寒そうですね。」
『じゃぁ、リズはカレンと交代な。』
「何でっ!?」
『元々そういう予定だよ。カレンは南の領で軍隊の指揮を執っている、お前も指揮を執る勉強が必要だからな。それで交代だ。』
「拒否は?」
『してもいいが、カレンの癇癪を抑え込んでくれよ?』
「・・・交代します。」
賢明な判断だ。
『リズでもカレンの癇癪は抑えきれないか。』
「無理ですよ。捕まえようにもスルスルと避けられるんですから、取り押さえる事すらできません。」
ソフティーならできるんだけど、怒ってる理由も解るから、物に当たるとか危害を加える様な事が無ければ、やってくれないんだよね。
だから、留飲を下げる為にも交代してもらうしか無いのだ。
だけど、カレンと行動すると、何でも早く終わるんだよなぁ。
それは偏にカレンが優秀過ぎて、サクサクと処理してしまう為だ。
リズは、何の指示もされていない時は、近くに待機するだけなのだが、カレンは先を見越してあれこれ指示を出したり、準備できるものは先に準備してしまうのだ。
カレンみたいな人を才色兼備と言うのだろうな。
因みに顔は、無表情さは変わらないが、剣聖になって凛々しさが増して、カッコイイ人になっている。
美女とまではいかないが、平均より上だとは思うよ。
『何か言いました?』
カレンから念話が来た。
『もうすぐリズと交代って話かな?』
『それとは別の事で、私の事を何か言われた気がしたのですが?』
『何の事だろう?』
『まあいいです。いつ交代ですか?』
『明日かな。ちゃんとリズに引継ぎをしてからこっちに来る様にな。』
『解りました。』
何かもう、俺の思考って駄々洩れじゃないか?
『わざとじゃ無かったんですね。』
『コルス!?』
『アルティスさん、考えてる時に魔力放出してますよ?』
『なん、だって・・・!?』
考え事をしている時、魔力を抑えるのが時々緩まってる気がしていたが、そんな事になっているとは。
『コルス!余計な事を言うんじゃない!』
『そうですよ、完璧に聞こえなくなったら、何を考えているのか判らなくなるじゃないですか。』
『コルスはお仕置きですね。』
カレン、リズ、セバス執事がコルスの暴露に反応した。
そんなにハッキリと聞こえるのか?
『ハッキリとでは無いですが、聞こえる文面から、何を考えているのかは何となく解りますね。』
『聞こえてんじゃねえか!』
『あーぁ、怒らせちゃった。』
『執事さん、お仕置きお願いしますね。』
『お任せください。』
『コルスのお仕置きは無しだ。』
教えてくれたコルスには感謝しか無い。
寧ろ、黙ってた連中の方がお仕置き対象として妥当では?
『コルス以外の3人は、当分麦粥だけ食ってろ。』
すぐ隣に居るリズが、地面に四つん這いになって愕然としている。
だが、許す気は無い。
本当の忠臣であるならば、魔力が漏れて聞こえている事を忠告するべきだし、改善されて困るのであれば、相談するのが筋だ。
主君に進言も相談もできないのでは、それは忠臣では無く、ただの部下だ。
忠義とは、信じる心であり、信頼の証でもある。
だが、主君と言えども完璧な存在な訳では無い。
本人でも気付けない部分は沢山あるのだから、気付いたのなら、一つ一つ修正できる様忠告すべきだ。
「以後気を付けます・・・。」
『リズ、カレンの所に行って、一緒に平定して来い。』
シュン
問答無用でカレンの所に、無詠唱で飛ばした。
ソフティーについては、種族特性では無く、クィーンの特殊能力として、庇護下にある者の考えている事を読み取れる能力があるので、気にする必要は無い。
それがあるから、連携して動けるし、一々指示をしなくても対応できるのだ。
それに、魔獣の頂点に居るアラクネクィーンに隠し事をするなど、不可能と言っていいのだ。
魔獣だけでは無く、人族以外では表情が殆ど動かないのは普通の事で、感情の機微は、目の動き、耳の動き、眉や髭の動き、尻尾の動き、口の動き、それら全てを見て判断するしかないのだ。
しかも、目、耳、髭については、常に周囲を警戒する事にも使っている為、人族には非常に判り難い。
アラクネ達は、魔獣でありながら人族に近い姿を持ち、高度な頭脳と高い感知能力を持って、人族と魔獣のテリトリーの中間に住んでいる。
これは、人族を魔獣から守る役目を持っているのだと思う。
だから、適度な距離感を掴む為にも人族の感情や思考を読み取る力を持っているのだ。
人間とアラクネの間に確執が生まれた以降も、人間の住む街と魔獣の生息域の中間で、付かず離れずの生活をできているのも、そういう理由から来ているのだと思う。
それがどう人族に関係しているのかと言えば、アラクネが居るだけで魔獣が寄って来ないのさ。
例え数が多くても、アラクネは糸で簡単に制圧してしまうから、スタンピードが起きない限り人族側に魔獣が入り込む事が無いって事だ。
それに、食事の為に適度に間引く事になるから、スタンピードが起きにくいってのもある。
ゴブリンやオークと同様に、他の魔獣でもスタンピードが起きる事はある。
以前のレッドドラゴンの咆哮によるパニックの他に、個体数の増加による餌不足や狂乱という現象がそれだ。
魔獣は、その個体数の増大により、狂乱状態になって暴走する事があるのだ。
原因は不明だが、稀に起こる現象であり、それは上位魔獣の移動や減少が一因とも言われているのだ。
つまり、その地域の上位魔獣がどこか他の場所に移動したり、別の上位魔獣に食われたりすると、餌となっていた下位の魔獣が増えて、スタンピードが起きると言う訳だ。
ただ、魔獣の増える原因がそれだけの理由では無い為、上位魔獣の減少はきっかけの一つと言われているのだ。
ゴブリンやオークの場合は、主に集団で生活をしているが、一定数を越えるとネズミ算式に数が増え始め、スタンピードを引き起こすのだ。
少数の場合は、数を増やすのに人間を使うのだが、一定の数を超えると別の方法で増え始め、成長速度も上昇する事により、スタンピードを引き起こすコロニーを形成するのだ。
ゴブリンは解らないが、オークの場合は、上位種が生まれると周辺の集落に居たオーク達が集まる事により、血が濃くならず、数が増え続ける様になる。
だから、一旦スタンピードが起こると、暫らくは総数が減って、スタンピードが起こらなくなるのだ。
ただ、初めのオークが生まれる要因については不明だ。
数百頭しか居ない筈のオークが、たったの数か月で10倍20倍に増える事も珍しくは無く、それだけの人族が捕まった訳でも無い為、どうやって増えているのかは判らないのだ。
減る原因は、上位魔獣に食われるのが主な原因であり、人族が狩る量は限定的な為、減少には寄与していないと言われている。
何故なら、人族の冒険者の殆どは5級以下であり、ゴブリンは狩れてもオークは狩れず、ゴブリンを狩ってるだけでは魔獣の数に影響しないからだ。
ゴブリンは、オークや狼、猪の餌となり、猪やオークは上位魔獣の餌となる。
上位魔獣は、オークや猪を見つけると、皆殺しにする為に総数の調整がされているのだ。
特にオークは、太っているから逃げ足が遅く、嗅覚以外の探知能力が劣っていて、どの地域に住むオークであっても、全てピンク色をしている為に見つけやすく捕まえやすい。
高たんぱく高脂肪で、大型魔獣の食料としては最適で、皮は軟らかく鱗も無く、力はあるが魔法を撃って来る事も無い為、ピンクソルトの大地や桜が咲き乱れる森でも無ければ、見つけやすくて美味しくてお腹いっぱいになる、格好の餌となるのだ。
だが、それを狩る魔獣が減れば当然の如く数は増えて行く。
オークは簡単に増えても、高位魔獣はそう簡単に増えたりはしないので、高位魔獣の数を減らし過ぎれば、人里に害が及ぶ可能性が高くなるのだ。
『さて、カレンもリズも居ないこの状況はどうするかなぁ。』
『要らないんじゃ?』
戦力と言う話で言えば必要無い。
だが、ハーフリングの尋問や、連れて行く為の人手は足りて無い。
『ウーリャ、フィーネ、今暇か?』
『鍛錬中ですよ?』
『ウーリャの監視中です。』
『武装してこっちに来い。それとミュールも。』
『わーい!すぐ行くー!』
何気にウーリャとフィーネを使うのは初めてか?オーク襲来の時に使ったが、あれは戦争だからな。
探索とか調査に連れて行くのは初めてだな。
ミュールはダンジョンに連れて行ったけど、アイツ、すぐにどっか行っちゃうんだよな。
『アルティスー!準備できたー!』
『[ワープゲート]』
3人がゲートから出て来たが、ウーリャが時代劇の女剣士の様な姿で出て来た。
『ウーリャ、姿から入っても、実力が伴わなければ駄目だからな?』
「ウーリャは、この姿になると真面目でストイックになるのー。」
「・・・。」
いつもの反応が無いな。
普段はキャンキャン煩い小型犬の様だが、今は静かに佇むラブラドールの様な感じだ。
形から入るのは悪い事では無いが、そこに実力が伴わなければ、痛い目に合うのがお決まり。
前の世界で子供の頃、任侠映画を見た大人達が、主人公になったつもりのまま外に出て、本物に絡んでボコボコにされる、そんな光景を見た事がある。
それは、実力もバックも無い状態で、本物になったつもりでやるからそうなるのだ。
傍から見たらただのチンピラだし、理由は解らないが、ぱっと見で違うと判るのだ。
今のウーリャもそんな感じで、姿勢は元々良いのだが、歩き方が何か変なのだ。
『全然身に着いてない様だぞ?』
「ウーリャは膝が固いの。」
膝が固い?
『ウーリャ、膝を診せてみろ。』
ビクッ
以前から、ウーリャの膝が固い事は知っていた。
だが、何故か調べようという気持ちにならなかった。
それは何故か?ウルファが居たから?部下だと思って無かったから?どちらも違う。
ならば、他に要因があると考えるのが自然だな。
「い、嫌です。」
『[アナライズ]』
勝手に調べた。
『やっぱり、膝に古傷があるな。靭帯の断裂か。無理が祟って切れたんだな。』
「お願いします!兄には言わないで下さい!」
ウーリャが土下座して頼み込んできた。
『知ってると思うが?アイツはお前の兄だし、小さい頃からお前の事を見ていたのなら、膝を庇っている事なんて、既に見抜いている筈だ。』
「それでも、言わないで下さい!」
こちらを見る事も無く、土下座をしたままだ。
『態々言う気はしないがな。そこまで頼み込むって事は、何か理由があるのか?』
「里の掟ではー、足の怪我をした家族が居たら、治るまで地位が最下位になるのー。」
『あぁ、それで冒険者か。アイツも頭が固いな。』
「アイツ?」
『ウルファだよ。ウーリャが膝を怪我したから、治すための資金稼ぎと、里の地位云々への反抗って事だな。』
「でもー、もう里は無くなってると思うー。」
『何で?』
「ワイバーンに襲われたからー。」
『そういうのは、早く言えよ!』
「でもー、ウル兄が里を出てすぐだから、もう無いよー?」
そんな前の話なのか。
ウルファは、冒険者になって4年目か5年目位だから、結構前の話だな。
『その里ってどこにあるんだ?』
「教えられません。」
だろうね。
里と言う言葉は聞いても、どこにあるという話は一度も無い。
獣王帝国の皇太子にしてもグレッグ将軍にしても、ワーウルフの里については知っているとしか言われなかった。
つまり、秘匿されている隠れ里と言う事だ。
『まぁ、少数民族では仕方ないか。だが丁度いい、これからワイバーンの巣の調査に行く予定だからな。』
勢いよく顔を上げたウーリャは、フィーネと見合わせてからアルティスを見た。
ミュールはその後ろで飛んだり跳ねたりして、大喜びしてる。
「ワイバーンを倒すんですか?」
『調査結果次第だな。多ければ間引くし、少なければスルー。ハーフリングの村だから、そこそこいると思うけどな。』
「里を襲ったのも、ハーフリングの使役するワイバーンだったのー。1匹だけ強そうな感じのが居て、ピッピって呼ばれてたのー。」
『ピッピ?殺したぞ?』
「「はえっ!?」」




