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第105話 ガンバレルに行ってみよう

 『孤児達を見に行こう。』


 孤児達は、フカフカのベッドでぐっすり眠る事ができた為か、もの凄く元気になっていた。

 部屋の中央では、ソフティー対孤児連合のベーゴマ対決をやっていて、それを取り囲む様に観戦する子供達で賑わっていた。


 「やってますね。」

 『ここでもベーゴマキングなんだな。』

 「あ!お姉ちゃんもベーゴマキングを倒すのを手伝ってよ!」

 「私も勝てないのよねぇ、でも、王都にはソフティーに何度か勝ってる子も居るのよねえ。」

 「本当に!?何かコツがあるの!?」

 「その子の話だと、引く時に手首を返すって言ってたかな?」

 「手首を返す?こうかな?」

 「弾かれにくくなった!お姉ちゃんありがとう!」


 リズのアドバイスで、更に白熱して来た様だ。


 『他の遊び道具も渡した方が良いな。』

 「何を渡すんです?」

 『計算カルタか、オセロかな?』

 「計算カルタはまだ難しいんじゃ?」


 計算カルタは、数字のカードと+-×÷のカードを神経衰弱の様にめくって、組み合わせて、答えの数字を取るゲームで、10回戦ずつで勝者を決めるのだ。

 ある程度計算ができる様になれば、数字を見て暗算できる様になる為、王都の孤児院では下級生から上級生までやっているのだ。

 だが、計算ができないと全く話にならないので、先に勉強をさせないと駄目だな。


 『トンブリー、孤児達に手習い事と勉強を教える手を考えてー。』

 「手習い・・・投げナイフですか?」

 『ちっげーよ!暗殺者を育てようとするんじゃない!』


 いきなり何を言い出すんだよ。

 思わずツッコミを入れてしまったよ。


 「編み物とかですか?」

 『そうそう、そういう感じ。』

 「では、投網を編んでもらいます。」

 『投網なんて何に使うんだ?』

 「暗部が使える様な、捕縛用として。」

 『こらこらこらこら!そうじゃなくて!服とか布とかあるだろ?』


 暗部の連中って、ちょっとズレてるんだよな。

 まぁ、小さい頃からそんな事ばっかりやってたって事なんだろうけども、もうちょっと普通の事も覚えた方が良くないか?


 「織物という事ですか?」

 『んー、それでもいいな。あと、針子とか。キャリーを通わせるか。』


 手編みの方を考えていたけど、よくよく考えると、冬でも寒くないバネナ王国では、セーターとかマフラーなんて使わないんだよな。

 となると、ラグマットでも織らせるか?

 トンブリと話をしていると、リズが子供とオセロで遊び始めた。

 ただ、これって、やり方知ってると圧勝しちゃうんだよな。


 「ああ!そこは駄目よ。こっちの方が良いのよ。多くひっくり返せる所じゃなくて、角を取るの。相手に角を取られない様にするのがコツよ。」

 「ここ?あんまりひっくり返せないよ?」

 「それでいいの。こっちに置くと、角を取られちゃうでしょ?」

 「あ!ほんとだ!すごーい!」


 リズも王都の孤児院で、何度か泣かせた経験があるから、教えるのが上手くなったんだな。


 『知恵の輪でも置いて行くか。』


 幾つか取り出すと、目敏く見つけた子達が寄って来た。


 「これ、君が出したの?どうやって使うの?」

 『これはね、工夫して外すんだよ。』

 「喋った!?」

 「え?これ外せるの?どうやって?」

 『それを考えるのさ。頑張ってみて。』

 「壊しちゃ駄目なの?」

 『壊れないよ。簡単に外す方法があるんだよ。良く考えてみてね。』


 パズル系って、嵌まる子は嵌まるんだよね。

 意外と、簡単に解けちゃうとはまらないんだけど、適度に難しいと、外れた時に嬉しくなって嵌まるみたい。


 『そろそろお昼か。』

 「そうですね。食堂に行きましょう。」


 食堂に行くと、人でごった返していた。

 怪我が治った人たちが、食事を摂っていたのだ。

 彼等は、リズを見ると静まり返った。


 『リズ、何かしたのか?』

 「してませんよ?」

 「治癒師達を統括していた方ですよね?我々を治療して頂いて、感謝しております。」

 『そっちか。また何かで脅したのかと思った。』

 「とりあえず、こっちはいいから、ゆっくりと食べなさい。そして、部屋に戻ってゆっくり休みなさい。」


 リズは、回れ右をして食堂から出た。


 「どうしますか?」

 『使用人達の控室で食べるか。』

 「応接間でお願いします。」


 トンブリがお願いしてきた。


 『何でだよ。応接間は客人を迎える為の部屋だ。食事を摂るには向かない。ソファーじゃなくて、テーブルのある部屋にしてくれ。』

 「しかし、アルティス様を使用人の部屋で食事させるなんて・・・。」

 『下らない事で悩むな。』

 

 食べる場所なんて、便所やゴブリンの死体のそば以外なら、どこでもいいんだよ。


 「判りました。では、こちらへどうぞ。」


 使用人用の控室に来たので、ブラスバレルの城と同様にシャワー室を設置した。


 「ありがとうございます。メイド達も喜びます。」

 『自分が綺麗になれば、仕事にも張りが出るからな。』

 「ここのメイド達にも、装備を渡すんですよね?」

 『そうなんだけど、領内全部を見て回るの面倒くさいな。』


 ブラスバレル領は狭いので、全部で8つの街しかない。

 だが、既に訪問した2つの街だけでも、こんなに苦労しているのだ。

 残り6つの街を回ったらどうなるのか、心配でならない。


 「他の街は、比較的穏やかな様ですよ?」

 『そう見えるだけかも知れないだろ?』


 悲観的な見方だが、何らかの策略を企てるのであれば、領内全部に仕掛けなければ、企みがバレた時に面倒くさい事になるのは確実だ。

 例え、首謀者が馬鹿だったとしても、部下に頭の切れる者が居れば、安心できる物では無いのだ。

 少しでも組織的な悪事が見つかったのであれば、広範囲に調査を進めて、徹底的に根絶やしにしなければならないのだ。


 『地下空間も含めて、徹底的に調べ上げろ。ブラスバレルとダブルバレルで暗躍していたんだから、他の街に居ない訳が無いんだからな。』

 『了解しました。』


 トンブリと話をしていたのだが、コルスが返事をした。


 『ガンバレルの街にワイバーンが飛来するそうですが、行く予定はありますか?』

 『頻度はどれくらい?』

 『ひと月に1度来るそうです。』

 『今月は来た?』

 『まだだそうです。』

 『ダブルバレルはもう、メイド達に装備を渡すだけだから、終わったら向かおう。』


 ガンバレルのワイバーンの事、忘れかかってたよ。

 ワイバーンの肉も減って来たし、そろそろ補充しても良いかもね。

 昼食後、執務室に戻って来た。


 『頑張ってるか?』

 「中々に頑固な方ですね。」

 『頑固?』

 「街の再建を進めたいのですが、どうにも補修だけで済ませようと考えている様で、建て直しには反対されています。」

 「建て直していては、時間が掛かり過ぎる!修理して住めばいいじゃないか!」

 『それで崩れたら、全部お前のせいになるが、それでもいいのか?』

 「何で俺のせいになるんだよ?」

 『建て直さないと駄目なのに、お前が費用をケチって修復したからだろ。建物ってのは、平屋ならまだしも、2階建ての場合は1階に2階の重さが掛かって来るから、1階を見た目だけ直しただけでは、その内崩れる事になる。それで人が死んだら、お前はどう責任を取るつもりだ?』

 「だが、壊れた建物を全て建て直していたら、金がかかり過ぎるだろ?」

 『その小銭をケチったせいで、人が死んでも良いと?』

 「金をどこから手に入れるんだって話だよ!」

 『その為に税金を徴収するんだよ。それと官吏の財産も没収しろよ。』

 「そんな事をして、問題にならないのか?」

 『犯罪者だぞ?』

 「だが、給金は正当な労働の対価じゃないか。」

 『旧官吏の財産は幾らあるんだ?』


 ボールドは、たとえ犯罪者であっても、正当な給金として受け取った金まで没収するのは違うと言いたいらしい。

 だが、犯罪者が減刑をするには、刑期に対する対価が必要になる。

 たかが官吏の給金程度では、たとえ10年分の給金を支払ったとしても、1年も減刑できないだろう。

 街を取り仕切っていた役職ではあるが、通常の官吏の給金というのは、リズやカレンの給金よりも少ないのだ。

 その金額は、領主次第で決まるものだが、通常は年に白金貨を貰えるかどうか程度でしかないのだ。

 それでも、下級貴族にとっては、一定の生活ができるかどうかの貴重な収入なのだ。


 「計算した結果では、400億リーブル程ある様です。」

 『確実に不正で得た金額じゃねえか。年額で、白金貨1枚出るかどうかの官吏が貯められる金額じゃねえな。』

 「判り易く言ってくれ。」

 『白金貨400枚分って事だよ。』

 「・・・?400カ月働いたんじゃないのか?」

 『自分の生活費を全く使わなかったと?』

 「あ、いや、そんな事は無いか。何年分なんだ?」

 『28年分だな。』

 「奴はそんなに長くやって無い筈だぞ!?」

 『給金の年額は幾らだったんだ?』

 「官吏としては少し高めですが、年額で白金貨2枚ですね。」

 『何年やったんだ?』

 「3年間です。」

 『という事は、394枚の白金貨は不正に稼いだ金って事だな。税収と照らし合わせて、収入源を徹底的に洗い出せ。この街の税収だけで、たった3年で白金貨400枚なんて集まる筈がない。賄賂か別の何かで稼いだ金と見た方が良いな。』


 人口3万人居るかどうかの街で、税収だけで3年間に白金貨400枚になる訳が無い。

 例え大きな商会があったとしても、税収として取れるのは、精々白金貨数枚程度、そもそも白金貨400枚なんて、国家予算に匹敵する金額なのだから、不自然にも程があるという物。

 本人を搾り上げて聞き出すのが、手っ取り早いかもな。


 『国家予算に匹敵する程の金があるんだから、その金で再建する事に異議は無いな?』

 「国家予算・・・、あぁ、異議は無い。余った金は何に使えばいいんだ?」

 『街の発展の為に使え。』

 「街の発展の為に使いましょう。」

 「お、おぅ。」

 『とりあえず、まずは街の再建からだ。安心して住める家が無い事には、何も始まらないからな。』

 「それと共に、井戸の改良も実施しましょう。」

 『この街の井戸も浅いからな。それは必要な事だろう。』

 「浅いと駄目なのか?」


 井戸が浅いと、何がいけないのか?そんな物は、少し考えれば判ると思うんだけどな。

 この街の井戸は、深さが3m程しかない。

 となると、例えば下水道が深さ2mの所を通っているとすれば、その差1mしかない事になり、汚水が染みて地下水に混ざる可能性が出てしまう。

 それは、衛生的に全く宜しくない状況であり、疫病が蔓延する原因にもなりかねない。

 コンクリートで、しっかり漏れる事無く流れて行くのであれば、問題にはならないのだろうが、そんな立派な下水道なんて、この世界には存在していないのだ。

 王都の下水道ですら、石材を敷き詰めただけの水路を使っているのだから、隙間から水が染み込んでいる事は確実にあると見て良いだろう。


 『井戸が浅いって事は、便所の深さとほぼ変わらないって事にならないか?』

 「下水道に流すだろ?」

 『下水道から水が染み込んでいるとしたら?』

 「・・・深い井戸を掘ろう。」


 話が早くて助かる。

 ブラスバレル領は、大河に近い土地である為に、地下水が豊富って事は判っている。

 大河の水深が深い為、かなりの深い所を地下水が流れている可能性が高いのだ。

 ゆくゆくは、モコスタビアみたいに水路を通して、水の豊かな土地に変えていきたいよね。

 大渓谷と繋げるのもいい手かもしれないな。


 『それと、冒険者の育成と、食堂を作ろう。』

 「冒険者の育成?」

 『建築作業には、冒険者も多数参加する事が予想される。となれば、自動回復を任意に切替させて、冒険者の鍛錬をしながら建築をさせる事ができる。そして、食堂は、美味い飯を提供する事で、作業スピードのアップを図れる。』

 「狼人族を使って、食堂を運営してもらいましょう。」

 『従業員も雇って、ドンドン料理を広めてやれば、関連する産業も活発になるしな。』

 「計画書を作成しますので、ボールド官吏官殿も考えて下さい。」

 「展開が早くて、追いつけねえ。」

 『こんな事ができるのは、今の内だけだからな。すぐに忙しくて、そんな事を考える暇も無くなる。』

 「勘弁願いたいんだが?」

 『無理だ。酒場の店主だったんなら判るだろ?喧嘩を防ごうとしても、防ぐのが困難な事くらい。それが、酒場どころか、街全体で起こるんだよ。』

 「治安を守る組織も作らないとだな。」

 『良い調子だ。』


 官吏の仕事というのは、やった事が無い者であったとしても、身の回りで起きている事が街全体で起こると想像する事ができれば、次にやる事を考えるきっかけを作れるのだ。

 何も考えつかない者が居たとすれば、それは考えつかないのではなく、考えていないだけだ。

 目の前で喧嘩が始まっても、普通の事だと流してしまえば、治安部隊を組織する事は無いし、対処する事もできないのだ。

 些細な事であっても、悪を悪だと思えるのであれば、それに対処する為に考える事ができるのだ。


 『では、後の事は頼んだぞ。』

 「はい、お任せあれ。」

 「もう行くのか?」

 『俺は忙しいんだよ。』

 「そうか。」


 孤児院に行って、ソフティーを回収したら、メイド達に装備を渡して、ガンバレルに移動だ。

 隣のティルトバレルの街も気にはなるが、そっちは配下に任せる事にする。

 それと、ダブルバレルの街では、もう一つ重要な事をやらなければならない。

 それは、今回の被害者達の供養だ。

 街の片隅には、共同墓地があるのだが、そこに埋葬しただけでは駄目だろうと思っている。

 犠牲となった者の中には、無念の死を迎えた者が多数いると考えられる為、それらの魂を供養する為にも、墓地にはアンデッド化を防ぐ措置が必要になる。

 基本的に、死者は全て火葬してから埋葬するのだが、稀にスケルトンになる場合があるのだ。

 アンデッドについては、まだ判らない事がたくさんある為、簡単な事で解決できるのであれば、打てる手は打っておいた方が良い。


 『ワラビ、ダブルバレルの墓地に、アンデッドを防ぐ措置を施したい。手伝ってくれ。』

 『畏まりました。』


 墓地に来てみたのだが、かなり荒れている。

 墓石がひっくり返っているのもあれば、粉々に粉砕されている物もあるのだ。


 『これは酷いな。』

 「瘴気が微量ではありますが感じられます。」

 『ビオス像を中心に建てて、神聖属性の光か火を灯そうと思うんだがどうだ?』

 「良いと思います。」


 今回のビオス像も、少し盛った像を作り、闇属性と瘴気を吸収して、天に仰ぐように伸ばした手の上に、神聖属性の火が灯る様に作り上げた。


 『これでアンデッドの発生も抑えられるな。』

 「?何か付与されましたか?」

 『微量だが、ヒールの効果も付けておいたぞ。』

 「微量?結構強く出ていませんか?」

 『瘴気が出てるんだろう。この墓地と周辺に、光が当たっている分にはアンデッドは出て来れないし、この像の下の陰に入れば、ヒールの効果でアンデッドは死ねるからな。』

 「この街の教会予定地には、セイクリッドフィールドを展開させておきました。」

 『そうか。落ち着いたら、慰霊祭でもやった方が良さげだよな。』

 「それは、こちらでやっておきます。」

 『頼むよ。』


 ソフティーに乗り、リズと共にガンバレルへ向かった。


 『ここがガンバレル?随分と荒れ果てて無いか?』

 「酷いですね。外壁がボロボロですよ?」


 ガンバレルの全体が見える丘の上から、街並みを見たのだが、殆どダブルバレルの街並みと変わらない、いや、もっと酷いかも知れない。

 ワイバーンに襲われてそうなったのか、別の理由でそうなったのかは判らないが、殆ど廃墟と言っていい程にボロボロだった。


 『とりあえず中に入ろう。ワイバーンの仕業だとすると、相当に荒されたって事になるが、ワイバーンってそんな事をする魔獣だったっけ?』

 「魔王軍に操られているならまだしも、野生のワイバーンでここまでやられるとなると、何か裏がありそうですね。」


 ワイバーンという魔獣は、その大きさから大食漢ではあるものの、あまり人間の街を襲う様な事は無い。

 何故なら、労力に対して得られる成果が少ないからだ。

 テント村ならまだ、得られる成果は大きくなる可能性はあるのだが、街の様に建物が乱立している場合、人々は建物の中か地下室に篭ってしまう為、捕まえたとしても数人程度にしかならず、食料にするにしては少ないのだ。

 ましてや、周囲にはビッグホーンブルという巨大な牛が居るのだから、態々街を襲う理由が無い筈なのだ。


 『あ、空軍呼んでやるか。あいつら、活躍の場が無いって嘆いてたからな。』

 「そうですね、使ってあげて下さい。」


 基本的に、空を飛ぶ魔獣って街には近づいて来ないので、あまり空軍が活躍できる場面が無いんだよね。

 ただ、偵察任務については、これ以上に有能な者は居ない。

 空高く飛ぶだけで、魔力感知の数十倍の範囲を目視で確認できるのだから、役に立たない訳が無い。

 しかも、ジェット機では無いから音も無く、魔道砲も持っているので、攻撃能力も持っているのだ。

 有事の際には、活躍すること間違いなしと言えよう。

 で、その有事が無い為にいじけてしまっているのだ。


 『ルギー、空軍の一部を借りたいんだが、いいか?』

 『本当ですか!?何名程が必要ですか!?』

 『そうだなぁ、ワイバーンの警戒要員が欲しいんだけど、できればワイバーンがどこから来るのかも調べたい。』

 『ワイバーン!?規模は?』


 最初は凄い食いつきだったが、ワイバーンと聞いて、冷静になったようだ。

 地上の敵に対しては、圧倒的優位で戦えるのだが、同じ飛行系のワイバーン相手では、戦った事が無いので警戒しているのかも知れない。


 『聞いた話では、10頭前後居るらしい。』

 『じゅっ・・・、精鋭を揃えます!少々お待ちを!』

 『あぁ、編成したら、ブラスバレル領のガンバレルまで飛んで来てくれ。』

 『了解しました!』


 翼人族は、風魔法を使って空気抵抗を減らして飛び、鳥人族は風魔法を使って、浮力と推進力を得て飛んでいる。

 どちらも同じ様な事ではあるが、翼人族は滑空型で、鳥人族は飛翔型という感じ。

 ただ、どちらも滞空する事が可能で、長距離飛行もできるのだ。

 弱点は、ダウンバーストという事だが、ダウンバーストが発生しているのは、円形山脈の周囲だけなので、円形山脈を空から飛び越える事ができないのだ。

 あの山は、山頂付近が凄く寒いので、冷やされた空気が山肌を添う様に流れているのだ。

 そして、内側は広大な湿地帯になっている為に、湿った空気が冷やされて雲になり、下降気流に乗って麓に流れ込み、結露によって川を形成し、オークの森の木々の栄養を運んでいるのだ。


 「山脈を越えるのに、時間が掛かるのでは?」

 『山脈の途中にワープホールを設置すれば、簡単に通り抜けられるんだよ。その為の魔道具は渡してあるんだよ。』

 「そうなんですね。」


 空軍の飛行速度は、障壁と空気抵抗の低減、斥力の利用によって、音速に近いスピードが出せる様になっているのだが、ヘルメットの活用と防具に装備した温度調節機能によって、成層圏まで上がる事も可能になっている。

 かなり寒いらしいが。

 それでも、翼に魔力を纏わせる事で、氷結を防ぎ、温度を一定に保つ事が可能になるそうだ。

 初めは、鳥人族も含めて1000人程度だったのが、今は3000人を超えていて、各地に散らばった翼人族と鳥人族が、集まって来ているらしい。


 『門には誰も並んでいないな。』

 「門も開いている様ですよ?」

 『ここも大変そうだなぁ。』

 「度重なるワイバーンの襲撃で、人口が減ってるんじゃないですか?」

 『そうだと良いけど、結構人が居るみたいだけどな。』

 「・・・そうですね。真っ赤という事は、敵意を持ってるという事ですよね?」

 『そうなるな。』


 門の中に入ると、数十人のゴロツキに囲まれた。


 「止まれ!持っている物を全てこっちに寄越せ!いう事を聞かないと、殺すぞ!」

 『無視でいいな。』

 「そうですね。」

 「おい!死にてえのか!無視するな!おいいい!」

 「やっつけて食料を奪うぞ!」

 『[スライドソール]』

 ズドド

 「うわっ!何だっ!立てないぞ!」

 『この街は、食糧難に陥っているのか?』

 「そうだよ!何度もワイバーンに襲われて、食糧庫も燃えちまったんだ!」

 『何故、ワイバーンが襲ってくるんだ?』

 「それはきっと、官吏の野郎がワイバーンの卵を盗んできたからだ!」


 あー、原因はそれか。

 ワイバーンというのは、馬鹿では無く、卵を盗んだりすれば、執拗に追って来る事が知られている。

 例え卵が割れたとしても、盗んだ者を殺すまで諦めないらしい。


 『ワイバーンの卵なんて、何に使うんだ?』

 「さあ?」

 「知らねえよ!」

 『食べるのかな?』

 「育てたいとか?」

 『何の為に?まさか手懐けて乗りこなしたいとかか?』

 「可能性は高いかと。」


 ラノベでも、竜騎士だっけか?翼竜とかワイバーンを手懐けて乗りこなすというのがあったが、餌の問題をどうするのか不思議でならない。

 まぁ、翼竜が何を示すのかも判らないんだが、そもそも懐くのかが問題だ。

 卵を孵すのは、多分問題無いと思われる。

 でかい爬虫類だからね、放置するだけで勝手に孵化するんだと思われる。

 ただ、ワイバーンがインプリンティングで懐くかどうかは未知数だ。

 そんな事、未だかつて誰もやった事が無いからな。


 『どうやって懐かせるのか、何か考えがあるって事なのかなぁ?』

 「育てたら懐くんじゃないんですか?」

 『いやー、それだけじゃ駄目だと思うぞ?』

 「そうですか?」

 『そもそもが、高位魔獣だからな。ワイバーンって、ブレスを吐くだけだと思われがちだけど、風魔法も普通に使ってるからな。あれでもMAGが800近くもあるんだぞ?そんなのがインプリンティング程度で懐くとは思えない。』

 「いんぷりんてぃんぐ?」

 『刷り込みって事だけど、低位魔獣の家畜の鳥なんかは、卵から孵った時に目の前の動くものを親と思い込むんだよ。だから飼育できるって事だ。』

 「そのインプリンティングというもので懐くのか、懐疑的という事ですか。」

 『多分、魔力を注ぐ事で親と認識するんじゃないかと思うんだよな。』

 「とりあえず、官吏の屋敷に行ってみましょうよ。」

 『そうだな。』


 っと、その前にできる手を打っておかなければな。


 『狼人族とコボルトをガンバレルに派遣する。この街はボロボロだから、炊き出しで飯を振舞うぞ。コボルトは街中から、怪我人や孤児の救出を頼む。炊き出しの整理もな。』

 『アルティス、兵士の派遣も頼みたい。』


 あるじから連絡が来たんだけど、どうするか。

 兵士ねぇ。


 『一時的な派遣では無いんだけど、それでもいいの?』

 『ブラスバレル領出身の兵士が1000名程居るんだ。彼等を復興の為の戦力として派遣してやってくれ。』

 『判ったよ。じゃぁ、まとめてガンバレルに入れよう。とりあえずは、この街の復興要員として派遣する。』

 『ゲートを開けてくれ。狼人族もコボルトも既に準備は済んでいる。』

 『兵士も?』

 『既にフル装備だ。』

 『判った。[ワープゲート]』


 スライドソールで転がされているゴロツキは、目の前に突然開いた穴を見て、口をあんぐりと開けて驚いている。

 その穴からは、続々とフル装備の兵士達とコボルト、狼人族チームが出て来た。


 『よし、兵士の代表は決まっているか?名乗りを上げろ。』

 「はっ!私がこの部隊の指揮官に任命されました、バランと申します!」

 『よし、バラン、この街の状況の調査と、怪我人の救助、孤児の保護、避難民の捜索、遺体の収容を行え。瓦礫の下、家の地下室、地下水路、あらゆるところを捜索し、怪我人の治療、無事な者達は狼人族の下に連れて来て、飯を食わせてやれ。広場には天幕を張り、住民を収容しろ。治安も悪化しているから、守ってやれ。それと、ゴロツキは全員殺すな。捕縛しろ。それと、ワイバーンが飛来するかも知れないが、無理に攻撃はするな。倒せそうなら倒しても構わないが、無理そうなら逃げろ。但し、町の住民を見捨てるのは禁止する。必ず助けろ。』

 「了解しました!行くぞ!小隊毎に分かれ、街中を捜索しろ!」


 小隊が一斉に散らばって行った。

 狼人族チームは、門の前で炊き出しの準備を開始、コボルト達は兵士達を追う様に街の中に走り出した。


 『おい、ゴロツキ共。貴様等は協力する気はあるか?』

 「飯を食わせてくれるなら、いくらでも協力するぜ。」

 『[キャンセル]では、狼人族の護衛と、集まって来る住民へ食事の提供を手伝え。おい、こいつらに飯を食わせてやれ。』

 「騙されてくれて助かるぜ。この獣人共を黙らせちまえば、この食料は俺達が独占できるってもんだぜ。」

 『できるものならやってみな。』

 「捻じ伏せてもよろしいので?」

 『それが希望らしいからな。ビシバシ使ってやれ。』

 「了解。」


 テーブルと椅子の設営を行っていた一人が、腰にぶら下げた木剣を取り出した。


 「はあ?木剣で俺達の剣とやり合おうってのか?おい!舐められてる様だぞ!やっちまえ!」

 「獣如きが舐めんなー!」

 バチン!


 真っ先に飛びかかった男の言動にイラついて、少し力の篭ったビンタが、男の左頬に炸裂した。


 ドカッ!

 「うわぁっ!」

 「ぎゃっ!」

 「うぼげっ!」


 飛ばされたついでに、3人を巻き込んで10m程吹っ飛んでいった。

 その光景を見たゴロツキ達の動きが止まった。


 「獣如きだと?」


 狼人族が殺気を出した。


 「ひいいいぃぃぃ」

 「た、助けて・・・」

 「わ、判った、謝る、謝るから助けてくれ!」


 凄いなこいつら。

 普段あんまり感情を表に出す事の無い狼人族を怒らせたぞ?まぁ、狼人族とて、それぞれの性格は違う訳で、たまたま気が短いだけかも知れないけど、常に冷静なイメージの狼人族が怒ったのを初めて見たかもしれない。

 そして、この狼人族の男は、たったの一撃で場を制したのだ。

 流石、元戦闘種族だな。


 「おい、もう落ち着け。」

 「う、すいません。ついやってしまいました。」


 チームの隊長に窘められてペコペコしているが、殺気を抑えきれていない事から、相当に腹に据えかねる台詞だったという事だろう。

 リズが吹っ飛ばされた4人を引き摺って来たが、ビンタされた奴の顔は、左半分がパンパンに腫れあがっていた。


 『じゃぁ、後は頼むな。それと、ゴロツキ共、お前等が何百人居ようとも、この3人には絶対に勝てない。判ったら大人しく従え。今は偶々手加減してくれたが、本気なら、そいつの頭は無くなってるからな。』


 ゴロツキ達は、剣を鞘に納めてコクコクと頷いていた。


 『リズ、行くぞ。』

 「行きましょう。」


 ゴロツキは、アルティスとリズが遠ざかるのを待ってから、狼人族に話しかけた。


 「な、なぁ、あのちっこい奴と女剣士は誰なんだ?」

 「この国の宰相アルティス様と、その護衛騎士のリズ様だ。我々が3人がかりでも、あの二人には勝てない。いや、3人だな。」

 「3人?3人目はどこにいるんだ?」

 「アルティス様の足元だ。姿は見えないが、あそこにはアラクネクィーンのソフティー様がいらっしゃる。」

 「ひっ・・・」

 「因みに、常に護衛として、アラクネが3名ついて回ってるから、不意打ちでも無理だぞ。アラクネが居なくても無理だがな。」

 「な、何で無理なんだ?」

 「アルティス様は、常に広い範囲を警戒なさっているからな。あのお方に死角は無い。」

 「俺達が裏切ったらどうなる?」

 「ん?我々が成敗するが?」

 「そうじゃねえ、アルティスさんがどうするかって話だ。」

 「あぁ、良くて犯罪奴隷、悪くて細切れだな。」

 「あの小ささでどうやって・・・?」

 「リズ様の剣でだよ。アルティス様は滅多にご自分の手で攻撃したりはしない。魔法が殆どだ。」

 「さっき拘束された時の魔法、キャンセルしても全く消えなかったのは何でだ?」

 「アルティス様に魔法で対抗できる者は、この世には居ない。例えドラゴンであっても無理だ。」


 ゴロツキは、抵抗を諦めた。

 ついさっき怒らせたばかりの獣人が、宰相の話をし始めると共に殺気が消え去ったのだ。

 ガンバレルの街にも、嘗ては獣人が居た。

 その獣人達は、一度怒らせると中々静まらず、度々騒ぎを起こす事があったのだ。

 ところが、目の前に居る獣人達は、宰相の話をし始めた途端に殺気が霧散し、離れて行く後姿を尊敬の眼差しで見たのだ。

 その時を狙って攻撃を仕掛けようとしたが、一斉に獣人の耳が自分の方を向いたのだ。

 それは、彼等が全く警戒を緩めておらず、いつでも戦闘に移行できると言う証拠でもある。

 出し抜くのは無理な話だったのだ。


 「お前等は、アルティス様に協力すると言った。アルティス様はお優しいが、我々はそうでは無い。判るな?」

 「・・・判った。」

 「では、テーブルと椅子を並べろ。それが終わったら、お前等に食事を出す。」

 「おい!さっさと並べるぞ!」

 「おう!」


 狼人族の持つマジックバッグから次々と出されるテーブルと椅子を、ゴロツキ達は並べ終えた。


 「はぁはぁ、どんだけ持ってんだ。」

 「腹が減りやした・・・。」

 「頑張ったな。では飯だ。食べ終わったら、集まって来た人達に配膳しろ。」


 狼人族の男が、ゴロツキ達の目の前に料理を出しながら言った。


 「お、おう!やったるわ!」

 「こ、これ、食っていいのか?凄え良い匂いするんだが!」

 「冷めない内に、早く食え。」

 「何だこれ!?今まで食ってた物と全然違うぞ!うめえ!」

 「美味っ!美味っ!」

 「この肉、何の肉なんだ!?」

 「今日使ったのは、スケープゴートとオークだ。」


 狼人族の言葉に、ゴロツキ達の動きが止まった。


 「スケープゴートだと?これが?不味いって話だった筈だぞ?」

 「それは、誰かが流した嘘だったって事だ。誰もがその話を信じ、誰も食べようとして来なかったが、アルティス様が御自ら試食なさったのだ。」


 狼人族の男は何故かどや顔だ。


 「そいつは凄えな。スケープゴートを食べるなんて、思い付きもしなかったぜ。」

 「アルティス様は、ワイバーンの肉も食べられる様にして下さった。」

 「ワイバーンの肉?あんな硬い肉をどうやって食うんだ?」

 「セボラを使えば軟らかくなるんだよ。その方法もアルティス様が考案なされたのだ。」

 「そんな事をホイホイ喋っちまっても良いのか?」

 「問題無い。アルティス様は、レシピをどんどん広めろと仰っておられる。それに、ワイバーンの肉を安定して手に入れられる者が居ないのでな。」


 狼人族の男は、白い歯をキラリと光らせながら、サムズアップした。


 「確かに、ワイバーンの肉を手に入れるのは難しいが、レシピを広めるだって?売れば儲かるんじゃないのか?」

 「そんな端金を稼ぐよりも、レシピを広めて、アレンジしてもらった方が、色んな味を楽しめる様になると仰っておられる。」

 「レシピ通りに作らなくても良いってのか?」

 「人の好みは十人十色、甘いのが好きな者や辛いのが好きな者、薄味が好きな者もいれば、濃い味が好きな者もいる。それぞれが、それぞれの好みに合わせて、その地方独特の風味を足して、更に美味しく作ってもらえれば、同じ料理にもバリエーションが増えて面白い。もちろん失敗もあるだろうが、失敗は成功の母であり、色々と試行錯誤を重ねて新しい味を追求して欲しい、そう仰られた。」


 狼人族の男は腕を組み、遠くを見るような目で語った。


 「今食べているこの料理も、アレンジしていいのか?」

 「問題無い。だが、失敗しても残すなよ?」

 「おっしゃ!この街では、アンジョの風味を強めに出すんだぜ!」

 「ほぅ、ではアレンジしてみよう。」


 狼人族とゴロツキが、料理を街でよく使われるアンジョを使って、アレンジし始めた。

 ピタパンに挟む肉をアンジョで炒めたり、オーロラソースにアンジョ風味を足してみたり。

 辺りにアンジョの匂いが漂い始めた頃、腹を空かせた住民達が集まり始めた。


 「住民が集まり始めたな。そろそろ片付けて、住民に食事を提供するぞ。準備を始めろ!」

 「おい、働くぞ!」

 「眺めてる連中を集めて来るぜ!」

 「集めるついでに、何日間まともな食事をしていないか聞け。それによってメニューが変わるからな。」


 一方、アルティス達は官吏の屋敷に向かって歩いていた。


 『酷い状況だな。中心部に向かえば向かう程に酷くなっていく。』

 「そうですね。所々焦げていますし、溶けた様な跡も見受けられますね。」

 『ワイバーンのブレスって、そんなに火力あったっけ?』

 「質の悪い鉄を使っていたりすると、ワイバーンのブレスに負ける事がある様ですね。」

 『そうか。』

 「この周辺でも、生き残れた人がいる様ですね。」

 『地下室に逃げ込んだ様だな。だが、崩れた瓦礫のせいで、外に出られない様だな。』

 「兵士達に瓦礫を撤去させましょう。」

 『そうしてくれ。』


 リズが兵士達に念話で支持を出すと、近くに居たコボルト達が続々と集まって来た。


 『兵士じゃなくて、コボルト達が来たな。』

 「兵士達は、住宅のある南側と北側を中心に捜索しているそうです。中心部の近くには、コボルト達が来ていたので、来てもらいました。」

 『うん。だが、みんなヘロヘロだな。疲れたらエネバーとジュースを摂って、休憩しながらやれよー。』

 「少しでも早く助けたい!だから頑張る!」

 『気持ちは判るが、効率よく救出するには、自分達の体調を整える方が先決だ。特にこの辺の瓦礫は酷いからな、二次災害を防ぐ為にも休憩を取れ。』

 「うう・・・、了解しました。」


 コボルト達は、魔力感知では無く、匂いで人々の居る場所を見つけている。

 彼等には、生死だけでは無く、状態も匂いで判別する事ができる為、自分達の事を差し置いてでも、早く助け出したいと思っているのだろう。

 だが、見るからにフラフラで、朦朧としている素振りから、一心不乱に救助に当たっていた事が判るのだ。

 そのままの状態で救助を続けても、かえって時間がかかってしまう事は明白だ。

 5分だけでもいいから、休憩して体力の回復に努めて欲しい所だ。


 『こっちは、官吏の屋敷に急ごう。またワイバーンが襲って来たら、救助の邪魔になってしまう。』

 「そうですね、急ぎましょう。」


 官吏の屋敷に向けて走り出した。

 街の中心部にある官吏の屋敷に来たが、そこには何も無かった。

 いや、有るには有るが、そこにあるのは直径10m程のクレーターと、屋敷の場所を示す柵だけだった。


 『徹底的にやられてるなぁ。コルス、この街に来てる筈の暗部と官吏の情報を頼む。』

 『はい。暗部の方ですが、地下通路で住民の救助に当たっているそうです。ついでに官吏の情報も聞き出しているそうですが、屋敷の地下に地下室があるそうで、そちらに潜伏しているという噂がある様です。ですが、生きている可能性は低いと見られている様です。』

 「ワイバーンのションベン?」

 『何だそれ?』

 「ワイバーンは、ブレスが効かないと判断すると、尾の先から毒液を出すんですよ。その毒液は、皮膚にかかれば爛れ、蒸発すると毒霧になり生き残る術が無くなると言われています。」

 『そんなの文献には載って無かったぞ?』

 「ザッハーンの悲劇で、ワイバーンの尾から出したそうですよ。」


 ザッハーンの悲劇とは、都市国家群の内の一つだったザッハーンで起きた、ワイバーンの群れによる襲撃事件の事だ。

 ザッハーンの王が、ワイバーンの卵を商人から買ったそうだが、マジックバッグから卵を取り出した直後にワイバーンに襲撃される様になり、幾度かの襲撃の後に数十のワイバーンが飛来して、国全体を焼き尽くし壊滅したという事件の話だ。

 ザッハーンの総人口は、当時としてはかなり繫栄していた様で、5万人と推定されていて、生き残ったのは2000人程しか居なかったとされる。

 まあ、戸籍制度なんて物が無かったので、本当かどうかは定かでは無いものの、ザッハーンの街の周囲にも集落があり、立地条件も良かった為に交易のハブ地として栄えた歴史があるので、あながち嘘とも言い切れないのだ。

 そのザッハーンは、ワイバーンに襲撃されても、攻撃を毎回跳ね返していたらしく、最後に毒を撒き散らされて滅亡したと言われているのだ。

 ただ、この話には、幾つかの不可解な点がある為に、実話では無いという疑念が存在しているのだ。

 まず一つ目として、ワイバーンがどこから飛来したのか。

 ワイバーンは、主に高地に棲息している飛行型の魔獣で、平地や森林では殆ど見かける事が無いのだ。

 稀に餌を求めて飛来する事はあっても、飛行スピードもそれ程速くない上に、ワイバーン自体の重量もそれなりにあり、平地から飛び立つ事ができないと思われるのだ。

 羽状の膜はあるが羽では無い事から、翼自体が重く、飛び上がる為にはかなりの助走が必要になると思う。

 二つ目、ザッハーンの近くに高い山が無いという事。

 一番近くてマルグリッド王国を囲む山脈なのだが、そこまで数千キロはあるのだ。

 そんな所から飛来するか?飛行速度が旅客機並みのワイバーンが、そんな距離を毎日往復するなんて事は、考えられないという説もある。

 ワイバーンの飛行高度は、それ程高くないので、片道だけで食べたエネルギーを消費しきる可能性が高いのだ。

 まぁ、その栄養を住民を食べる事で補っていたとすれば、4万人強を食べ尽くしたという根拠にもなり得る話にはなるが。

 そして最後に、ザッハーンの滅亡したのが2000年前という事だ。

 現在の都市国家群のある場所は、元ヨートンハイム公国のあった場所で、ヨートンハイム公国は3000年続いた国という事で、年代的に一致しないという事だ。

 ヨートンハイム公国が、元々広かったわけでは無いという説もあるが、それを示す資料が全く無いのである。

 1500年前の古い地図では、ヨートンハイム公国の大きさがエルフ王国東部から、バネナ王国東部、マルグリッド王国北部までの大きさだったと示している事から、それより前は狭かったとも言えるのだが、そんな古い地図は見た事が無いのだ。

 ヨートンハイム公国には大図書館があって、そこには世界中の書籍が集められていたという話もあり、滅亡した時に焼失してしまった可能性も高いが、定かでは無い。

 暇になったら、ヨートンハイム公国のあった場所を探索するのもいいかもしれないね。

 ヨートンハイム公国のあった場所に行けば、ヨートンハイム公国の禁書庫が残ってる可能性もあるからね。


 『ワイバーンの尾に、そんな器官は無いぞ?』

 「え?」

 『毒液を出す穴も無ければ、毒を作り出す様な器官も存在しない。可能性として考えられるのは、襲ったのがワイバーンでは無く、竜種の可能性だな。ポイズンドラゴンとか。』

 「居るんですか?」

 『可能性はある。』


 ドラゴンの種類については、かなりの種類が存在している可能性がある。

 基本属性のドラゴンに加えて、オリハルコンドラゴンも確認されているのだから、ミスリルやアダマンタイト、ヒヒイロカネやアボイタカラ、アイアンやカッパーも居る可能性がある。

 金属が居るのだから、宝石が居ても可笑しくはないし、上位属性や派生属性に属するものもいる可能性が高いのだ。

 エンシェントドラゴンであるオニキスは、黒いが闇では無く、無属性らしい。

 生活魔法が得意とか言う訳では無く、何でも使えるのだ。

 ラクガンスキルに封印されていた古代竜とは違い、普通の竜種という扱いで、封印されていた古代竜は、神竜という神族側の竜種なのだ。

 だから、バラバラにされても死ぬ事が無く、神界に送られた今でも生き続けているのだ。

 まだ幾つかのパーツが、こちらの世界にも眠っている可能性があるので、見つけたら磨り潰して神界に送りつけようと思う。

 ラクガンスキルにあったのが頭、レッドドラゴンが持っていたのが心臓、他の臓器もあったのだが、レッドドラゴンの内臓と融合していたので、万能薬の材料として消費させてもらったよ。

 錬金術で合成すると、あっさりと神属性が霧散したので、問題無く使える事が判ったんだよね。

 ちょっと効果が強烈に出るみたいだけど、エリクサークラスの万能薬として考えれば、問題無いだろう。


 「ワイバーンにそっくりなんですか?」

 『ドラゴンなんて見た事が無ければ、空を飛ぶトカゲ=ワイバーンという事になるんじゃないか?』

 「おとぎ話で知ってると思いますよ?」

 『ザッハーンの時代には、紙が無かった可能性もあるからな。羊皮紙の本なんて買える平民は居ないから、話だけで絵は見て無い可能性もあると思うぞ。』

 「そういう事ですか。でも、おとぎ話の描写でも、角や鱗の話はあると思いますが?」

 『それも後世になってから、絵を見た者が付け加えた可能性が高い。地方ごとに描写の言い方に違いがあるからな。角が牙になってたり、鱗がトゲトゲになってたりな。』

 「そんなに違いがありましたっけ?」

 『あるんだよ。』


 王都にある王立図書館には、世界中から集められたザッハーンの悲劇の本が所蔵されていて、古い物では羊皮紙の本、新しい物では紙の本がある。

 特に紙製の本の場合では、ワイバーンの様な絵から、本物のドラゴンが描かれている物まで、様々な挿絵が描かれていて面白いのだ。

 一般的に、ワイバーンはつるっとした表面で、膜の様な翼を持つとされているのだが、地方に依っては鶏冠(とさか)があったり、尾の先に棘があったりする。

 つまり、ワイバーンというのは総称であり、翼竜を意味する名前であって、ワイバーンの中にも種類が分かれているという事だろう。

 今まで倒したワイバーンの場合は、プテラノドンタイプだな。

 他の地域に行けば、ケツァルコアトルみたいな奴もいるかも知れないね。


 『とりあえず、シェルターを作っていた可能性もあるという事だな。調べてみるか。』

 「魔力感知にはひっかかりませんよ?」

 『魔力を感知させない様な部屋にした可能性もあるからな。』

 「できるんですか?」

 『できるぞ?鉛で壁を作れば、ほぼ見えなくなる。』


 他にも、タングステンや鋼を使っても見えなくする事ができる。

 ただ、そんな重い物を運ぶ手段が限られる為、作ろうとする者が居ないのと、鍛冶屋が基本的に鍛造で成形するので、鉄板1枚作るだけでも、とてつもない時間がかかるのだ。

 鉛の壁とは言え、床も天井もとなると、格段に難しくなるのだろう。


 「作れるんですか?」

 『さあな、天井だけだとしても、かなりの難易度だっただろうな。[ウルトラサウンド・エクスプロレーション]』


 地中にある空間を捉えた。

 だが、同時に人型の鉛の塊も見えた。


 『まぁ、予想通りだな。』

 「どうなってたんですか?」

 『鉛が溶けだして、埋もれた様だな。生存者は居なさそうだ。』

 「一応見るんですよね?」

 『見るぞ。そのままにはしておけないからな。』


 ワイバーンのブレスは鉄をも溶かす程の高温で、それを地下室の天井に向けて何発も撃ち出されれば、天井の鉛は溶けだして部屋の中に降り注ぐ事になる。

 また、部屋の中の温度も数百度になる為に、鉛が降り注がなくても生存は絶望的だろう。

 これが、シールド系魔法や結界で防いだのであれば、また違った結果になったと思われる。

 そもそも、ブレスは完全な物理攻撃では無いので、物理的に防ぐのは難しいのだ。

 例えば、水中で火を燃やす事は不可能だが、魔法であれば可能になる。

 難易度も消費MPも爆上がりだが、不可能では無いのだ。

 つまり、魔力という物は、様々な効果があり、不可能を可能にする力という訳だ。

 だから、そんな物を物理的な物だけで防ぐのは至難の業であり、魔力に対抗する為に魔力の盾を使う必要があるという事だ。

 地上にあるクレーターをよく見ると、真っ黒いガラスが散乱している事から、テクタイトが散乱しているのだろう。

 そして、その中心部には、お椀型に凹んだ部分がある事から、メタルジェットの様に一点集中的に撃ち込まれた可能性もある様だ。

 ワイバーンだって馬鹿では無いから、貫通が難しいと思えば、範囲では無く点を狙って撃ち込む事ができるという訳だ。

 まぁ、魔法も使えるのだから、それなりに知能はあるんだよ。

 魔獣というのは、決して頭が悪いという事は無い。

 寧ろ狡猾な分、頭が良いと言えるのだ。


 「どうやって入ります?入り口は無いみたいですが。」

 『その前に警戒だな。そろそろ来そうだ。』

 「ワイバーンですか?」

 『ワイバーンでは無くて、ワイバーンに間違えられるルギーに襲い掛かる人間だな。』


 街の貴族街と市街を隔てる外壁の上で警戒をしていた住民が叫んだ。


 「ワイバーンが来るぞ!?みんな隠れろ!」


 リズは、眉間に皺を寄せて呟いた。


 「飛んでる以外、どこも似てませんが。」

 『飛んで来たら、今は恐怖でワイバーンに見えるって事だよ。』


 外壁の上にいる住人の一人が、何かがおかしい事に気が付いた。


 「何か小さく無いか?」

 「人間が飛んでる!?」

 「新しいワイバーンか?」

 「んな訳あるかいっ!」


 ルギー達がアルティスの前に降り立った。


 「お待たせ致しました。空軍到着しました。」

 『待ってたぞ。すぐに上空の警戒にあたってくれ。ワイバーンを発見し次第、撃ち落とせ。』

 「はっ!行くぞ!」

 「待て!この野郎!紛らわしい事しやがって!」

 「やめなさい。」


 リズが、ルギー達に襲い掛かった住民を制止した。


 「何だてめぇ!死にたく無かったら引っ込んでろ!」

 「止めないと、痛い目に合うのは貴方達ですよ?彼等は、ワイバーンを討伐する為に来た、バネナ王国軍の空軍です。」

 「ば、バネナ王国軍!?何でそんなのが来るんだよ!?」

 「向こうで食事を配ってるのも、バネナ王国軍ですよ。貴方達がワイバーンに襲われているので、宰相閣下が派遣して下さいました。大人しく下がりなさい。」

 「わ、判ったよ。もう襲われないって思っても良いのか?」

 「彼等がワイバーンを倒してくれますよ。安心してください。」


 リズが住民を宥めてくれたので、ルギー達も胸を撫で下ろした。


 「向かってもよろしいですか?」

 「行きなさい。ワイバーンを必ず倒してきなさい。一匹たりとも逃してはなりません。」

 「必ずや殲滅いたします!行くぞ!空軍の実力を見せる時だ!」


 垂直発射ミサイルの様に、真上に飛び上がってから四方に散開していった。


 『空の上は、彼等に任せておいて大丈夫だろう。俺達は、地下室の方を掘りだそう。』

 「どうやるんです?」

 『土魔法で周りの土をどかすしかないだろ。天井がどうなってるのか判らないけど、普通に考えたら木と石材を使ってるんだと思うけどな。』

 「土魔法・・・エンバンクメントですか?やってみます。[エンバンクメント]」


 リズがエンバンクメントを発動すると、クレーターの周りに土塁が盛り上がり、その内側の土が抉れて、地下室の形が判る様になった。

 地下室の壁の上に降り立ち、天井に乗っても大丈夫か確認してみた。

 地下室の天井には、直径50cm程の穴が開き、ワイバーンのブレスが貫通した跡があった。


 「穴が開いてますね。ブレスが貫通したのでしょうか?」

 『そうだな、貫通したか、内側で止めたかは判らないが、あれのせいで鉛が溶けだしたんだろう。気化した可能性も高いな。』

 「気化?鉛って気体にもなるんですか?」

 『なるぞ。融点が327度くらいだから、ブレスが当たれば瞬時に気化しただろう。その煙を吸い込んでも死ぬし、高温でも死ぬし、何れにせよ生き延びる可能性は低いって事だな。』

 「でも、魔力反応がある様ですよ?」


 リズが魔力を感知した様だが、こっちからは見えないな。

 鉛の壁を作る時に、空気穴か気泡かで小さな穴が開いている様だ。


 『ん?見えないな。そっちから見えるのか?』

 「ここから見えます。」


 リズの立っている壁の上から、下に貫通する穴が開いていた。


 『空気穴か何かかな?こんな穴が空いてたら、真上に来た時にバレるって判らなかったのかなぁ?』

 「どうやって空気穴を開ければ良かったんですか?」

 『簡単にパイプをカーブさせて繋げば良いんだよ。』

 「中を見えなくするだけなんですね。」

 『そういう事だな。天井からじゃなくて、壁に穴を開けよう。』

 「はい。切りますね。」


 リズが剣を抜き、丸く人が通れる程の穴を開けた。

 切り出した壁は、厚さが30cm程もあり、石材と石材の間に鉛が流し込んであった。

 中は真っ暗で、天井は丸太が並んでいて、その隙間から鉛が垂れ下がって固まっていた。

 床には、倒れ込んだ人の上に鉛が流れ落ちて、まるでポンペイの人型石膏像の様になっていた。


 『[ホーリーライト]』


 パアッと部屋の中が明るくなると、中には5人の遺体が横たわり、壁際に結界で囲まれた一人の少女が眠っていた。


 「生きてますね、結界で守られた様ですね。」

 『[鑑定]生きてるな。中毒にもなっていないし、魔道具か。使っているのはオークの魔石とオーガの魔石だな。この子の生命維持だけに全振りしたって感じか。』

 「この部屋全体をカバーできる程では無かった、という事でしょうか?」

 『そうだな。結界の魔道具と正常な空気を出す魔道具、それとマジックシールドだな。魔石の魔力含有量では、この部屋全体にかけたら3秒しか持たない事になってたな。だから、この子を生かす事に全部使ったんだろう。』

 「その割に、誰も庇った様子が無いですね。」

 『庇えなかったんだろ。鉛ヒュームは、重度障害を引き起こすからな。』

 「鉛ヒューム?」

 『気化した鉛の事だよ。吸い込むと全身に影響を及ぼすし、痙攣を引き起こすんだったかな?神経障害もあるから、高濃度のヒュームを吸い込めばどうなるか。で、そこに頭上から鉛が降って来て、大火傷で死んだのだろうな。』

 「結界、解除しても大丈夫ですか?」

 『んー、ハーフリングって種族らしいが、大丈夫なのか?』

 「え?ハーフリングなのですか!?あー、ワイバーンに狙われる原因は、この子ですね。」

 『え?そうなの?』


 ハーフリングという種族は、確かホビット族の事だったと思うんだけど、この世界では別種族としての扱いなのかな?良く解らないけど、ハーフリングという種族について書いてる文献は無かったので、全く知らないんだよね。


 「はい。ハーフリングというのは、妖精族と言われる人種?で、ワイバーンを操ると言われています。偶に、山岳地帯でワイバーンの巣で寝ているハーフリングを、人間の子供だと思って、助けるつもりがワイバーンの餌食になる冒険者が居るそうです。」

 『それで、この子は助け出されてしまったと。この子にとっては、攫われたって事になるんだよな。だから執拗に狙って来るのか。』

 「どうしますか?」

 『とりあえず、結界に入れてワイバーンに連れ帰ってもらう方が良いんだろうな。それで収まるかは判らないが。』

 「そうしましょう。」

 『ルギー、ワイバーンの討伐は一旦中止だ。ハーフリングが出て来た。』

 『ハーフリング!?話し合いになりませんよ?奴らは、危害を加えた相手を徹底的に攻撃しますから、引き渡したとしても攻撃は続くかと思われます。』

 『そっちの方が早く話が纏まりそうだな。』

 『あー、そうですね。そうしましょう。一旦戻ります。』


 ハーフリングがワイバーンを操るとして、この少女をハーフリングに引き渡しても尚攻撃してくるのであれば、それ以降のワイバーンを倒せばいいだけの事。

 今までは、ワイバーンを倒せる者が居なかった為に、好き放題できていたのだと思う。

 だが、今回はそうはならないのだから、ハーフリングには諦めてもらう事もできるだろう。


 『とりあえず、結界で包み込むから、魔道具の方を解除してくれ。[コンテインメント]』

 「魔道具を解除しました。」

 「掛ったな!死」

 ゴンッ!


 魔道具の結界を解除した直後、立ち上がって魔法を撃とうとしたら、結界に頭をぶつけて両手で頭を抱えて蹲った。


 「痛ったー!?何で結界があるー!?」

 『俺が張ったからな。まぁ、ファイアーボール程度では何とも無いが。』

 「何だお前は!?ケットシーの子供か!?」

 『懐かしい驚き方だな。ハーフリングって好戦的なんだな。ワイバーンを殺されたく無かったら、大人しく山に帰れ。』

 「まるでワイバーンを倒せる様な言い方だな。我々のワイバーンは、野生のワイバーンよりも強いのだぞ!」

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