第1話 おはよう異世界
う、うぅーん・・・・
鳥の鳴き声が聞こえる・・・・。
うっすらと目を開けると草と地面の土、手前には綿毛の様なものと視界の端っこに空の青が見えた。
どうやらどこかの森に寝ているみたいだ。
??!
立ち上がってみたが地面が近い、というか四つん這い?。
まるで、背が縮んで小人にでもなってしまったかの様に、目の前に草の林が見える。
周りを見ると大木の様に聳え立つ草の森の中にいる事がわかった。
「ミャー・・・」『一体どうなってんだ・・・』
呟いたつもりが、言葉は出なかったようだが、代わりに猫の鳴き声が聞こえた。
周りを見回してみたが特に何かが居るようには見えない。
というか、さっきから視界の中に入ってくる、ピンク色で表面がザラザラした物で、視界に固定されているかの様に、がっつりと見えるんだよね。
後ろを見ると背中にふわふわの何かがある?。
不意にそのふわふわの一部が動いた。
!?
驚いて体の向きを変える様に動いたが、何も居ない・・・、いや、尻と一緒に後ろに動いて行ったのが見えた。
???
背後を見ると、毛の生えた海サボテンの様な物がフラフラと左右に動いている?。
ふと思ったが、人間ってこんなに首回ったっけ?
頭の中には、先程から、ある考えが浮かんでいた。
それは、自分が人間ではなく、何かの動物になっているという、突飛な考えだ。
うん、落ち着いて考えよう。
その場に座った、が、やはり手を地面に着いている。
どうなってんだ?と思いながら、手の平を見ると、そこにあったのは・・・
「ミャー!?」『肉球じゃん!?』
モフモフの毛とピンク色の4つの小さい肉球と、1つの扇方の肉球があった。
「ミャ?ミャミャミャ?フシャー!」『え?何で俺、猫になってんの??、夢?、頬を抓・・・れない!』
足元を見ても、モフモフの足とモフモフの腹が見えるだけだ。
現実味が無さ過ぎて、何度か立ったり座ったりを繰り返してみるが、頭の位置は変わらず、尻だけが上ったり下がったりしている。
記憶を辿って、昨日の夜の事を思い出してみた。
確か、仕事帰りに一杯ひっかけて、家に帰ろうとガードレールの無い、いつもの道を歩いていた筈だ。
そういえば、飲み過ぎた気もする。
いつもは、中生1杯を飲みながら軽く食べるだけなのだが、新しいプロジェクトのプロジェクトリーダーに任命されて、決起会と称して、メンバーで飲み会を開いたんだっけか。
電車に乗って最寄りの駅に着いたのは覚えているが、歩いていた時の記憶が途中から無い。
記憶は真っ暗な暗闇に包まれているだけだ。
考え事をしていて、気がついて無かったが、何故か毛繕いをしていて、丁度股間を舐めてる時に気がついた。
飼っている猫が、毛繕いの途中で突然停止した時の様に、舌を出したまま止まった。
「・・・」
意識すると毛繕いが止まったが、視界から意識を外すと、毛繕いが始まった。
何も考えずに視界に集中してみたが、毛繕いは終わらず、今は腕を舐めて顔を洗っている。
この動きは、まんま猫じゃねぇか・・・。
腕が頭の上に行くと、頭の上の方から音が聞こえる。
右腕が終わると、左腕が始まり、頭の上からガサゴソと音が聞こえる。
舌には毛が絡まっているが、口が閉じると毛を飲み込むんだ。
何か、胃がムカムカしてきた感じがあるが、これを治すには、草を食べて胃に溜まった毛を吐き出す、アレをしなければいけないのかもしれない。
先端が尖った草を食べて、吐き出すアレを・・・。
思う所はあるが、とりあえず、これが異世界転生である可能性が高いと踏んで、行動する事にした。
まずは、異世界かどうかの確認として、定番のアレを唱えてみる。
「ミャー!」『[ステータス]オープン!』
RPGゲームみたいなステータスが出ましたよ奥さん!
名前:なし
状態:正常
HP:100
MP:10000
STR:180
VIT:80
AGI:150
INT:200
MAG:1000
攻撃スキル:猫パンチ 猫キック かみつき(?) 引っ掻き 頭突き
感知スキル:魔力感知 空間感知 振動感知 嗅覚強化 毒感知
耐性スキル:毒耐性 精神異常耐性 呪い耐性
魔法:鑑定 自動回復 土魔法 治療術
ふむふむ、MPとMAGだけ異常に高いのが気になるが、攻撃スキルに猫パンチとあるから、やっぱり猫の様だ。
こんな小さな手でパンチして、意味あるのか判らないな。
爪攻撃ではなく、引っ掻きって、ネーミングセンス無えなぁ。
誰だ?これ考えた奴。
考えた奴なんて居ない?いや、いるだろ、文字になってるんだから、誰だか知らんが最初にこの技を使った奴が、付けた名前だろう。
魔法の欄に自動回復と治療術があるのは、効果が違うって事か?自動回復は自分を回復?治療は、病気や怪我を治す・・・、自分か他人かの違いかな?。
とりあえず、気になってる事は多いが、一つ一つ効果を検証しなければ判らないので、感知スキルから使ってみる事にした。
「ミャー!」『[魔力感知]!』
自分を中心にして、範囲がぐんぐん広がって行き、50m程で止まった。
範囲内には、幾つかの点が表示されていて、赤いマークと、黄色のマークの奴が見える。
赤いマークの奴は、こっちに近づいて来てるのが判った。
セオリーで考えれば、多分、俺に気がついた、若しくは、敵対する可能性を示しているのかもしれないな。
点をタップするイメージをすると、姿の立体画像が現れた。
姿は、捩じれた角を持つ、耳の長いうさぎっぽい、げっ歯類。
角は額から、真っ直ぐ斜め上に伸びていて、体長の3分の1くらいの長さで、姿は後ろ足が異常に発達している。ウサギと言っても過言ではないが、可愛くない。
髭も長くて多いし、頭もでかい。
だいぶ近づいてきたのか、ガサガサと草が揺れる様な音が聞こえた。
ビクッ!
のんびりしている場合じゃないな、敵かもしれないし、あの角で刺されたら痛そうだ。
来る方向は判るが、いまいち距離感が掴めない。
だが、近い事は判る。
と、点の動きが止まった瞬間、来るっ!と思い、右に避けた。
左横に薄茶色で角の生えた毛玉が飛び出してきて、俺がいた場所に角を突き出す様な姿勢になっていた。
「キシャーー!!」
角をこちらに向け、兎が声を発しながら突進してきた!
「フギャー!!」『ギャー!!』
怖えぇよ!!
逃げた!全速力でとにかく逃げた!!
草と草の間をすり抜けながら、闇雲に走っていると草の森が途切れ、目の前に巨大な木が見えたので、爪と肉球を使って駆け上がった!
太い枝の上に乗り、下を見ると、立体画像で見た耳の長い薄茶色の獣で、角が生えている兎が、こちらを睨んでいるのが見えた。
後ろ足が異常に発達した体長30センチ程の、兎に似た動物だ。
興奮しているのか、鼻の穴がひくひく動いていて、口も歯を見せる様に半開きで、こちらを威嚇している様だ。
アイツ、肉食なのか?げっ歯類だからと言って、草食とは限らないが、知ってるげっ歯類は、草食か雑食しかいないな。
自分がいる所は、地上3メートル程の所にある太い木の枝の上だが、奴の後ろ足が光っている様に見えるから、何かスキルを使ってここまで来るのかも知れない。
どうしようか、ここに登ったはいいが、何もできない・・・。
魔法もまだ使った事無いし、スキルなら使えそうな気がするんだけど、アレに効くんだろうか?
どうしたらいいのか判らず迷っていると、ウサギが体を縮ませたと思った次の瞬間、もの凄い勢いで角をこちらに向けて飛び上がってきた!
「ミャ!?」『来たー!?』
恐怖に感じ、視界がスローモーションの様に見えた。
咄嗟に手を前に出して、角を叩き落すつもりで、〈猫パンチ〉を繰り出すと、腕が勝手に上に上り、スローモーションの中なのに、凄い速さで降り下ろした。
繰り出した猫パンチは、角に当たり、ポッキリ根元から折った。
ウサギの頭は、角が折れた衝撃で下に勢いよく振られ、ゴキッと音を鳴らし、縦にクルクルと回った。
「ミャ!?」『へっ!?』
折れた角は、勢いよく地面に突き刺さり、奴はくるくると縦回転しながら木の根元にどしゃっと音を立てて、背中から落ちた。
自分でやった事ながら頭が追い付かず、数十秒間、唖然となった。
取敢えず木から降りよう。
結構高いなぁ・・・。
どうやって降りる?飛び降りる?爪引っかけてゆっくり足から降りる?
元人間の俺は3メートル程の高さから飛び降りた事なんて無い。
体が小さいせいか、もの凄く高く感じる。
飛び降りる・・・?、いやいや無理無理無理無理。
でも、今の状況を何とかしなければ、死ぬまでここに居なけりゃならない訳で、高い所に登って降りられなくなった猫って、こんな気持ちなんだろうなぁ、などと、他人事の様な事を考えていた。
この枝から飛び降りるんじゃなくて、幹を伝って少し低い所から降り・・・、顔から落ちたら痛そうだから、無しにして・・・そうだ!、爪を引っかけて後ろ足から降りよう!。
木の幹に爪をかけ、そろりそろりと横に移動し、枝から足を外した瞬間、爪が幹に痕を残しながら、大した抵抗も無く、ストーンと下にずり落ちた。
「ミャー!?」『ギャーッ!落ちるー!?』
後ろ足が木の根元に着いた瞬間、パッと幹から離れて、倒した動物の前にへたり込んだ。
怖えぇよ、何だ?この爪、殆ど抵抗も無く切り裂いてたぞ!?
気を取り直して、ひとまず兎を鑑定してみる事にした。
「ミャ」『[鑑定]!』
〈角ウサギの死体〉
鑑定って念じたら声が出た。
今のは、詠唱したって感じだな。
無詠唱できるようにならないと、声で奇襲ができなくて、きつそうだ。
〈角ウサギ〉って名前だった。
なんか普通だけど、野生の兎なんて見た事が無いから、ペットショップで見た兎を思い浮かべてみるが、兎ってこんなんだったっけ?
死体になったからか、ステータスは見れなくなっていた。
失敗したな、生きてる内に[鑑定]しておくべきだった。
クー・・・キュルキュルキュル
腹の音が鳴った。
これってやっぱり、生で食べるんだよねぇ?生肉かぁ、馬刺しか何かだと思いながらなら、いけるかな?火も使えないから、生しか無いんだけどさ。
捌かれていない肉なんて、食べ方判らないなぁ、狩猟の解体動画とか見た事あるから、そんな感じで解体しながら食べればいいか。
お腹の所を爪でなぞってみた。
何か、手術でメスを使った映像を見てる様に、綺麗な切り口で切れる。
内臓がボロッと出てきたので、腸はとりあえず後回しにして、いい匂いのする肝臓から齧ってみた。
「ミャッ!!」『美味い!!』
若い時は、焼肉屋でレバ刺しをよく食べていたが、つい数分前まで生きていた肝臓は、ジューシーで美味かった。
次々と良い匂いがする部位を食べていくが、自分よりも大きな獲物だけに、それ程沢山食べられる訳では無い。
そんな事を思いながら、夢中で食べていると、気付いたら骨以外の半分を食べきってた。
ゲフッ
明らかに自分の体より、大きい体積分食ったが、一体どこに入ったんだろうか。
ぽっこり膨らんだお腹が、みるみる凹んでいく。
消化が早いのか、吸収が早いのか、よく解らないが、満腹で動けないなんて事にはならない様だ。
口の周りや前足など、血で汚れた所をペロペロ舐めて掃除していると、何やらちょっと頭が重く感じてきた。
満腹になると、眠くなるのはこちらの世界でも同じ様で、急激な睡魔に襲われている。
だが、こんな所で寝る訳には行かないだろう。
血の滴る肉など、他の肉食獣を呼び寄せる餌にしかならないし、寝るなら身を隠せる場所を探さなければ、熟睡などできないだろう。
とにかく歩いていれば、その内、いい場所が見つかるだろうと思い、木の上にいる時に、森が見えた方向に歩きだした。
今歩いてる所は草原だ。
生えてる草が自分よりも背が高く、全然前が見えない。
歩きながら生えてる草を鑑定してみたが、〈雑草〉と表示されるばかり。
殆どの草は、イネ科系の草で細長い葉っぱだ、結構密集して生えている。
たまに、ちらほらと丸っこい葉をもつ、オオバコみたいな草が生えてたから鑑定してみたら、〈ヒールリーフ〉って出たよ。
これ集めたいけど、入れ物が無いんだよね。
歩きながら、色々と試しているのだが、感知系の魔力感知は中々に便利だった。
視覚の範囲外でも存在を感じられるのは、便利としか言いようがないし、MPの消費は仕方ないにしても、時間が経つとMPは回復するので、減るか減らないかギリギリの線を狙って、範囲を少しずつ広げている。
見え方は、レーダーみたいな画面が、薄っすらと視界にあって、縮小して視界の隅に移動させる事もできる様だ。
使い続けていくと、段々と熟練度が上って行くらしく、少しずつ範囲が広がってる様だ。
まっすぐ進んでいたら、前方に敵性反応が出た。
立体画像では、蛇の様だ。
コブラでは無く、青大将の様な普通の形。
こっちに気付いたらしく、結構なスピードで向かってくる様だ。
ちょっと開けた場所に出たので、少し下がって草の陰に隠れて見てみた。
体長2mくらいの大きさで、うろこ状の体で全体的に黒く、艶のある鱗には、水面の油膜の様な虹色に光を反射する模様が見える。
「ミャ」『[鑑定]』
名前:ブラックスネーク
HP:52
MP:113
STR:75
VIT:70
AGI:104
ING:31
MAG:33
攻撃スキル:噛みつき 締め付け 毒霧
感知スキル:魔力感知 振動感知 熱源感知
耐性スキル:毒耐性 打撃耐性
魔法:水魔法
「シャー!!」
蛇が口を開けて襲ってきた。
蛇の口の中は牙2本ではなくて、ウミガメの口の中みたいに内向きの棘が無数に生えていた。
咄嗟に横っ飛びで避けて、必死に逃げた。
あんなのに咬まれたら、飲み込まれるの確定だよ。
とにかく草を避けながら必死に走った。
息が切れてきた頃に草原を抜けて、木がたくさん生えている森にたどり着いた。
森の手前にあった藪の中に潜って、休憩しながら蛇が追いかけて来ないか確認した。
魔力感知に反応は無く、音も聞こえないので、蛇は追いつけなかった様だ。
ここで、振動感知も使ってみたのだが、空気の波紋が沢山見えて、地面の振動や周囲の草の振動を感知できる様だった。
振動感知の練習がてら、ちょっと休憩してから森に入って行こうと思う。
実際にどれくらいの時間が経っているのかは知らないが、自分としては、ほんの数時間前までは、人間だった筈で、視点も高い所から見下ろしていた筈なのだが、現在は地面スレスレを眺めている。
小さいから遠くを見る事ができず、魔力感知と振動感知を連動させながら、慎重に進むしか無い訳だ。
異世界だし、植生も地球とは全然違う訳で、無いかもしれないが、食獣植物もあるかもしれないのだ。
魔力感知や振動感知が効かない可能性もあるので、視覚情報も駆使して進むしかない。
藪の中って地面に近い所には枝が殆ど無くて、通路みたいな隙間がたくさんあって進みやすい。
たまに方角が分からなくなったり、蜘蛛の巣ではない何かの糸に絡まれたりするが、特に目的地がある訳でも無く、一度通った所には、自分の毛が枝に絡まってたりするので、同じ所をグルグル回るなんて事にはならなかった。
しばらく進んだ時、レーダーに敵正反応は無いが、他とは点の大きさが二回り程大きな何かが見えた。
タップしてみると、猪っぽい姿が、立体画像に映し出された。
この立体画像は便利なんだけど、サイズが判らないんだよね。
実際に見てみないと、全く大きさが判らないんだよ。
そして、地球じゃ無いから、猪に似ていても猪サイズとは限らないのだ。
藪の中から鑑定しようと近づいてみると、巨大な剛毛の壁が見えた。
魔力感知で捉えるのは、モンスターの中心部分らしくて、相手が巨大だと、目の前に出てしまうらしい。
生暖かくて獣臭い息が吹いてきた。恐る恐る見上げてみると、ピンク色の塊に自分がすっぽり入れそうな穴が2つ開いて、ブフーと音を立てながら風を出す何かがあった。
ヤバッ!?冷や汗が出て来た。
逃げる前に鑑定してみた。
「ミャ」『[鑑定]』
名前:ペルグランデスース
HP:900
MP:250
STR:243
VIT:674
AGI:129
ING:29
MAG:70
攻撃スキル:噛みつき 突撃 体当たり 牙攻撃
感知スキル:嗅覚感知 気配感知 直感
耐性スキル:毒耐性 打撃耐性 斬撃耐性 土属性耐性
魔法:身体強化 速度強化
正確には分からないが、ハイエースくらいの大きさがあるんじゃないだろうか。
ステータスもかなり強いし、ペルグランデって確か、ラテン語で巨大?だったかな?
巨大猪と目が合った。
その瞬間、巨大猪の赤い目が光った気がした。
巨大猪は、前足を曲げて前傾姿勢になったかと思いきや、勢いよくこちらに突進してきた。
「フギャー!!」『ギャー!!』
藪から出て弧を描くように猪の横を回り込んで逃げた。
魔力感知で距離が判るので、ちょっと離れたところで後ろを振り返ってみると、巨大猪が木を破壊しながらまっすぐ追いかけてくるのが見えた。
ヒィィー!!、やばいやばいやばいやばい!
デカいから、小回りが利かない様だけど、それなりの太さがある木を薙ぎ倒しながら走るとか、怖いどころの話じゃ無いよ!!
藪も岩も木も、全く意に介さずに迫って来る様子は、ハリウッド映画での逃走シーンの様に、すぐ後ろに巨大な追跡者が、土煙を上げながら迫って来ていた。
このまま逃げてるだけじゃ駄目だと思い、岩か山を探しながら駆け抜けていくと、前方に切り立った崖が見えてきた。
高さは5メートル程しかないが、あの巨体が飛び越えられるとは思えない。
勢いそのままに崖を駆け上がった。
ドゴーーン!
大きな音を立てて巨大猪が崖に突っ込んだ。
衝撃で崖の上が揺れたが、頭が崖にめり込み動けない様子だったので、そのまま走って逃げた。
倒すって事も一瞬考えてはみたが、折れた木の枝などが、背中の毛に挟まってたりしており、毛が硬そうだと思った。
直径50センチくらいありそうな木を、破壊する程硬いって事だから、自分の小さい爪では肉まで届きそうに無い。
何時間逃げ回ったのか分からないが、もうクタクタだ。
既に夕方を迎えている様で、薄暗くなった森の中で、倒木の根元に穴を見つけてその中で休んでる。
穴の直径は30センチ程、1メートル程の奥行きがある、特に獣臭はしない。
小さな虫が動いているのが見えるが、[クリーン]と言ったら消えたので、問題無さそうだ。
何故魔法が使えるのか?知らないよ。
ラノベ知識で、生活魔法でよく出て来るから、綺麗にするイメージで唱えてみたらできたんだよ。
ただ、へとへとに疲れていて、考えるのが面倒臭いし、他の場所を探すのもきついので、穴の奥でこのまま寝る事にしたんだよ。
目覚めは清々しく・・・は無かった。
土の上にそのまま寝た為か、毛がジメジメし、何か体がムズムズする。
毛に付いた土が口に入るが、毛繕いをしてから外に出た。
空の半分は夜だったが、半分は明るくなっていて、木々の隙間から遠くに見えるのは、オレンジ色の空と森の木々だった。
空の明るい部分が少しずつ広がって来たので、今は多分朝なのだろう。
空の高い所には星が見えており、森の中はまだ薄暗いと思ったが、暗闇程暗く感じる事は無かった。
さすが、ネコ科は夜目が利く様で、薄暗い場所も一瞬で見える様になるのだ。
昼間程ではないが見えない事もなく、魔力感知もあるので、探索を再開することにした。
当分はスキルの確認と、魔法の検証、耐性のチェック・・・は、率先してやりたいとは思えないので、確認できたらって感じかな。
だが、その前にやらなければならない事があった。
それは、体中を駆け回る痒みを何とかしなければ、全く集中できないのだ。
蚤かダニかは判らないが、何かが駆けずり回っている事には、変わりはないだろう。
「ミャ」『[クリーン]』
パァッと何かが通り抜けた感覚があったのだが、駆け回る奴には効いてない様だ。
蚤を付かない様にするには、どうしたらいいんだろうか。
魔法でやるとしたら、蚤は虫だからインセクトでいいとして、防ぐ?忌避する?うん、忌避の方がしっくりくる。
「ミャ」『インセクト忌避!』
シーン
違うな。
インセクトって言った時に、体の胸の近くで何かが反応したのを感じたので、試してみよう。
「ミャ」『[クリーン]』
何かを感じるが、通り抜ける物が強くてよく解らない。
「ミャ」『[ウインド]』
サー
胸の辺りに何かを感じたが、それよりも目の前で起こった風に驚いた。
これが魔法か!?
厳密に言えば、鑑定もクリーンも魔法なのだが、目に見えて効果を確認できる魔法を行使したのは、これが初めてだった。
いや、鑑定も目に見えているんだけど、何かこう、違うんだよ。
頭の中に浮かんでくるだけで、周りに現象を及ぼすって事じゃないから、実感が湧かなかったんだよね。
だけど、今のウインドは違う。
目の前で現象として現れたんだ。
たまたま、風が吹いただけかも知れない?全然違うよ。
自分の顔の前から風が吹いたんだよ。
なんかさ、初めての経験ってぞわぞわ来るよね。
もっと試したいって思うよね?喉も乾いたしやってみたいよね?
「ミャ」『[ウォーター]』
ザッパン!
ヘクチッ!
大量の水が上から降って来て、全身びしょ濡れだよ。
毛が濡れて、駆け回れなくなった蚤が、死んでくれた様だけど、もの凄く寒いよ。
毛繕いで水分を舐めとっているけど、早く暖めないと風邪を引きそうだよ!
「ミャ」『[ホットウインド]』
ブアッ
熱い熱風が通り過ぎていった。
多分失敗したんだと思うけど、ドライヤーは確か和製英語だった気がするから、ドラ・・・、何かぞわっと来た。
危険信号の様な気がしたので、違う方法を考えるとしよう。
「ミャ」『[ヘアドライヤー]』
ブオー
強い強い、飛ばされそうだよ!ちょっと弱めて体の向きを変えながら乾かした。
何となく解ってきたよ。
特徴としては、基本的に英語で言えばいいらしい。
イギリス語かアメリカ語かは判らないが、単語を繋げていけば、使えるらしい。
法則は、〈事象〉と〈物質〉が基本。
何を使って何をするかなのだが、接続詞は要らない様子だ。
さっき寒気を覚えたのは、ドライなんだけど、多分、全部の水分を飛ばしちゃうとかなのかも知れない。
歩きながらも、練習はしておくけど、検証をするのなら、もう少し居心地が良さそうな場所を探して、拠点となる場所を決めたいな。
で、歩いていれば、やっぱり喉が渇くので、漠然とではなく、大きさを思い浮かべながら、落とすのではなく、ISSで宇宙飛行士がよくやってる、水を浮かべて玉にしているヤツを想像しながら唱えてみた。
「ミャ」『[ウォーター]』
空中に浮かぶ水の玉が出た。
大きさは直径20㎝程で、表面はツルツルではなく、風でも当たっているかの如く、波打っていて、反対側を見る事はできない様だ。
上を向いて飲むのは、気管に入りそうで飲みにくいが、喉を潤す事はできた。
少し玉から離れた所で、魔法を解除すると、水の塊はそのまま地面に落ちた。
テクテク歩きながら考える。
昨日みたいな追いかけられる事は避けたいから、不用意に近づくのは避けるのと、遠距離の攻撃手段が欲しいと、思ったよ。
なんて思ってた時期もありました。
というか、これはチートなのか?と思ってしまう程に簡単だった。
頭でイメージを浮かべて、これだ!と思える名前を言えば、割と簡単にできてしまう、難関は魔法名が間違っていると発動しない。
例えば、[バブルウォッシュ]なんか、体がムズムズするので、唱えてみたら、あっさり成功した。
木の枝何かを集めてきて、[パイロットファイア]で焚火もできるようになった、あ、日本語に直すと、種火だね。
属性も特に制限は無いみたいで、[ホーリーライト]や、[ウインドカッター]も使えた。
ただ、[ホーリーライト]を使うときに、唱えるだけでは発動しなかったのだ。
”聖”ってイメージが判らなくて、思い浮かんだのが、フランシスコ・ザビエルの絵で、あの頭から光がピカーってなってるイメージをしたら、普通にできたね。
聖とは、クリスマスやらバレンタインやらが思い浮かぶとは思うけど、そこには聖人がいて、その聖人にあやかったお祭りだからね、漠然とクリスマスを思い浮かべても発動しなかったし、もちろんサンタクロースも駄目だった。
でも、聖人とは、何もキリスト教だけの話では無くて、善行や偉業を為した人全般が対象になる筈なので、仏教や他の宗教でも大丈夫だと思う。
では、神はどうかというと、駄目だったよ。
神って存在が不明瞭過ぎてよく判らないというのと、元の世界の神と、この世界の神は違う可能性が高い。
そもそも聖「人」では無いという事だろうと思う。
だから聖人と思われる人、不特定多数の人の為に、何かを成した人を思い浮かべるしか無いので、マザー・テレサ様にしたよ。
ステータス確認をしてみたら、土魔法だけだったのが、風魔法、水魔法、火魔法、光魔法、生活魔法が増えていたよ。
あれ?聖魔法は?と思うかもしれないが、聖魔法という属性は無くて、光魔法の中に入っていたよ。
次の日も、魔法の種類を増やしながら探索を続けていると、岩山を見つけた。
いくつもの大きな岩が、折り重なってできた様な岩場かな?を見つけたので、近づいてみると、岩と岩の隙間に、小さな入り口と、その奥に、割と広いスペースを見つけたので、そこを拠点とする事にした。
地面は、乾燥した土と枯葉が吹き込んだ様な場所だから、ジメジメする事も無いだろうし、周辺には、他の小動物もいるので、餌にも困ら無さそうだ。
水も割と近くに池を見つけたので、魚も居そうだし、良さげないい場所だね。
丁度いい住処を見つけたら、そこを中心にして、まずは、周辺の環境調査からだ。
危険な生物が居たら怖いから、先に確認しておくよ。
池の周辺を見てみようと来てみたが、手つかずの池には、魚が豊富にいる様で、池の畔にある木の枝が、池に覆いかぶさる様に生えていたので、登ってみた。
池の水は凄く綺麗で、アオコも無いし、ヘドロも沈殿していない。
一部からは、水が湧き出ている様子が見えるから、透明度が高くて、泳ぐ魚も丸見えだ。
水深は、よく判らない。
透明度が高すぎて、泳ぐ魚が宙を浮いているように見え・・・あれ?、あの魚浮いて無いか?、あっ!捕食した!。
バシャッと音を立てて、宙に居た魚が、水の中の魚に食らいついたのが見えた。
さすが異世界、空中を泳ぐ魚がいるとは・・・。
中々に広い池の様で、少し離れた所には、黒くて大きい影が泳いでいる。
あのデカさは反則だよ、この池のヌシなのか、体長5mくらいありそうだ。
あれには関わらない様にしたいと思った。
今日はまだ、何も食べていないから、お腹も減ってきたし、どうにかして魚を食いたい。
どうやって魚を獲るか・・・泳ぐ?いや、犬かきくらいしかできる気がしないし、空中での行動も覚束ないのに、水中で魚より器用に泳げる気がしない。
漁をする方向で考えた方がいいのだが・・・。
とそこで、魔力感知の赤い点がこっちに近づいてくるのが見えた。
池を見ると2mくらいの魚が、少し手前で潜ったと思ったら、真下から垂直に飛び上がって、枝に乗る自分を狙ってきた。
またスローモーションになって、飛び上がってくる魚がじわじわと近づいてくる。
急いで、枝の根元の方に飛び退いた。
すると、スローモーションが解け、魚が俺の居た場所に食らいついてぶら下がった。
魚の口は、直径50cm程の大きさがあり、長い牙がたくさん生えていて、枝に牙が刺さって抜けずに藻掻いている。
チャンスだ!こいつを陸に飛ばせば食える!
そう思ったが、どうやって陸の方に飛ばすか、方法を考えた。
簡単に、枝にぶら下がって、〈猫キック〉で陸に飛ばせばいけるが、それでは自分自身が反作用で池に飛ばされる訳で、危険が危ない。
この爪は、木でも豆腐を切るかのように、切ってしまうのだ。
どうにか、こう風魔法で空中に足場を作るとかできないかと思い、試しにやってみた。
頭の中で、空中に浮かぶ板をイメージしながら、魔法を唱えようと、適当な名前を付けて言ってみた。
「ミャ」『[ウインドボード]』
何かが目の前にできた気がするが、何も見えない。
だが、魔法が発動した感じはあるし、目の前に何かがあるのは判る、何故なら、魔力感知で見えているからだ。
透明な板がそこにあるのだが、飛び乗る勇気が出ない。
これを動かして、あの魚を陸に飛ばす様に、ぶつけてみるってのがいいかも知れない!
と、動かそうとした瞬間に、霧散した。
時間切れか?と思ったが、何も板に拘る必要は無くて、普通にショット系で、魚の頭と胴を切り離す様に撃てばいいと気付いた。
魚の真下に、斜めにボードを出し、スパッと[ウインドカッター]で切った方が確実かもしれない。
落ちたら、ボードに当たって陸側に飛ばされる?流される感じでいいだろう。
テレビで見た、冷凍された魚が、ローラーコンベアーを滑って行く様なイメージだ。
何枚出せるか、検証してみると、4枚ものボードを維持できたので、魚を滑らせて陸に落とすルートを作った。
「ミャ」『[ウインドカッター]』
エラの近くでスパッと切って、下に落とした。
上手くボードの上を滑って、陸に落ちた魚は、血をダラダラながしているので、血抜きの為に尾びれを落として、血抜きした。
魚特有のぬめりも強く、気持ち悪いので、爪を使って皮を剥いで、脂の乗ってる腹の周りだけ食べて、残りは放置した。
正直、味はいまいちで、塩も醤油もわさびも無いから、淡水魚特有の臭みが感じられた。
味は淡泊で、要は塩が欲しいと思った。
池の周りを探索してみたら、湿地になっている場所があって、そこには、泥炭層があった。
泥炭は、沼や池などに沈んだ草や木が積み重なり、炭素を多く含む泥になった層の事で、乾燥させれば燃やす事ができるそうだ。
その泥炭層の先には、水の綺麗な小川があった。
流れはそれ程は早くなく、川底には、赤や緑、金色の何かが見える。
気になったので、水の中に入って見てみようと思った。
冷たかったけど、ついでに体についた蚤とかを落とすつもりだ。
朝に落としたんだけど、上から水を被った為か、お腹周りの蚤は死んでないんだよね。
浅瀬で頭以外を水に浸けてたら、奴らが頭に集まりやがった。
「ミャ」『[バブルウォッシュ]』
バラバラと蚤やダニが頭から追い出されたり、泡に捕まって水に流されていく。
蚤やダニは、毛の間を走り回り、腹が減ると血を吸うのだが、これが凄く痒いのだ。
水中を見るつもりで入ったが、頭を水に突っ込む勇気が出なかった。
「ミャ」『[ヘアドライヤー]』
濡れた体が寒いので、ヘアドライヤーで乾かしたのだが、ドライを覚えて全身一気に乾かしたいよね。
小規模だが、一応範囲魔法で、適当にやると体の中の水分まで消えてしまう可能性がある。
当然、そんな事になれば、ミイラ化して死んでしまう事になる。
自分の魔法で死ぬなんて御免だよ。
ふと、水に濡れない様に、体毛だけを撥水にする事ができないか、試してみた。
「ミャ」『[ウォーターリペレント]』
成功したらしい。
薬品じゃないから、舐めても平気だし、水の中に入っても、出れば一瞬で乾くんだ。
でも、これって、ラッコや水鳥と同じ様な物だから、毛の間に空気の層ができて、浮いちゃうんだよね。
水に潜る為には、もう一工夫必要って事だね。
川底の何かを調べるには、顔を突っ込まないといけないが、息が続かないだろうし、流れが穏やかとは言っても、流される危険性がある。
流されれば、あの巨大魚のいる池に、まっしぐらだ。
なので、浅瀬で泳いでみたら、スイムというスキルがもらえた。
チートかよ。
水に顔を付ける為の魔法を考えてみた。
「ミャ」『[ウォーターカーテン]』
ガボガボゴボ
失敗だよ、死ぬかと思ったよ。
滝の中に顔を突っ込んだみたいに、何も見えないんだ、しかも呼吸できない。
「ミャ」『[エアバブル]』
今度は正解だった様だ。
風が動いてないから、水面がざわつかないし、継続発動にすれば、空気の層を維持してくれる。
水中で見た川底には、宝石の原石らしき石と、金色に輝く塊がいくつも見えた。
藻が生えている様子も無く、水深30cmの川底には、赤、青、緑、黄色、金色、スカイブルーに黒いのも見える。
鑑定してみると、ルビー、サファイヤ、エメラルド、ゴールドナゲット、アクアマリン、オパールにダイアモンドと、様々な宝石が沈んでいた。
使う事が有るか無いかは判らないけど、持っていても損は無いだろう、持って行く手段が今のところ無いけども。
それと、体が沈まないから、水面で必死に泳いで確認したよ。
川の中は、とりあえず置いておいて、日も傾いてきたので、一旦住処に戻る事にした。
住処に近づいた時に、角ウサギを見つけたので、襲撃して巣に持ち帰って食べた。
残りは明日の朝食べるとして、奥に置いておく。
周りに小動物らしき点が、いくつもあったので、頭と足と食べない内臓を外に捨てておいた。
寝てる間に侵入して来やがった奴は、威嚇して追い出した。
毎度毎度やられるのも、癪に障るし、基本的には入り口を毎回塞ぐ事にした。
翌朝に思ったんだけど、MAGは1000から1210に増えているんだけど、他が全然微動だにしないんだ。
MAGは魔法に関する数値みたいだから、魔法をバンバン使っていたから上がるのは判る。
だけど、初日にペルグランデスースに追いかけ回されて、散々走り回ったのに、STRもAGIも微動だにしないって可笑しくない?
で、思ったのが、〈自動回復〉だ。
この魔法は、常時と任意のどちらかを選べるようになっているんだけど、常時だとほぼ疲れない。
初日は肉体的に疲れたというよりは、精神的に疲れた感じで、翌日に筋肉痛にもなってないんだよね。
しかも、ちょっと動くと、すぐに発動する。
試しに任意にしてみた。
3日目は、池とは反対方向を進んでみたよ。
こっちは、木の実が沢山生っていたんだけど、殆どの木の実が薄くピンク色に光って見えるんだよね。
一つ落として鑑定しみてみた。
「ミャ」『[鑑定]』〈ワニナシ〉(毒)
ワニナシって、確かアボカドの和名だった気がする。
皮が鰐の皮に似ているからだそうだよ。
確かにアボカドは、人間以外には猛毒で、動物に食べさせてはいけないって言われてた。
というか、アボカドの語源の方じゃなくて良かったね。
近くにはもっと大きな実が生っていたので、そっちも落として鑑定し見てた。
「ミャ」『[鑑定]』〈ブレッドナッツ〉(毒)
パンの実ならぬパンのナッツ?説明文では、〈人族以外には毒〉とだけ書いてある。
食えないって事か。
他にも色々と木の実が生っているんだけど、山葡萄と蛇イチゴ以外は全部毒だったよ。
山葡萄は、一粒食べてみたけど、星が散るくらいに酸っぱかった。
蛇イチゴは、緑色のしか無かったよ。
一日中歩き回ってみたけど、目ぼしい物は何も無く、角ウサギが居た程度だった。
夜にステータス確認をしてみたら、STRとAGIが微妙に上がってたよ。
これで確定したけど、自動回復は地雷だね。
怪我でもしない限り、発動しない事にしたよ。
因みに、任意にして発動した場合は、3分間持続するだけだったよ。
一週間もすると、周辺に小動物が居なくなった。
まぁ、仕方ないよね。
狩られる側は、捕食者の近くに住むにはリスクがあるからね。
魔法の検証も進んでるよ。
無属性魔法や生活魔法の中には、事象だけで発動する場合もある事が判った。
例えば、[サーチ]、これは探知する魔法だが、何かに特化する訳では無いので、色々な物が引っ掛かるのだ。
精度を高めるには、何を探知するのかを指定する必要があって、指定して探知に成功すると、スキルを覚えたよ。
つまり、魔力感知というスキルも、元が魔法なのだと思う。
どうりで、MPを消費する訳だ。
何故英語なのかは判らないが、撥水も英語にすると発動するし、防虫なら[インセクティサイド]で発動した。
蚤を防げると思って使ってみたのだが、厳密には虫では無いダニ類には効果が無く、発動しているのが、皮膚より少し上辺りなので、その下に入り込まれると、蚤でも防げなかったのだ。
残念。
とりあえず、ネイティブじゃなくて、日本語読みなのは、楽でいいね。
実験が楽しくて、つい調子に乗ってしまい、[テンパーチャーコントロール]で、温度調整ができる様になってしまった。
調節できるのは、体温と周囲の気温で、スライド式スイッチみたいなものが、視界の隅にでてきたよ。
平温なら問題無いけど、温度差によっては、MPを消費する様になると判った。
何故そんなにも必死に魔法を考えるのかというと、小さい体に道具を使えない手足、不便極まりないのだ。
元人間で、つい先日まで人間の生活をしていたのだから、突然四つ足になって、その生活に慣れるかと言えば、無理だよね。
その不便さを一部解消するだろう魔法を覚えたい。
これは、アイテムボックスが欲しかったのだが、どこを探しても無い様子。
魔法の自由度が高いのだから、無い筈は無いと思い、ずっと色々と試していた。
属性としては、空間魔法だと思われる。
欲しかった理由は、まず、手に持てないので、持ち運びが不便である事。
大量に何かを見つけても、持って帰れないのだ。
川底に、ゴールドナゲットを見つけても、持って帰れないし、食べられる木の実を見つけても、その場で食べるか、一つだけ持って帰るかの二択しか選べないのだ。
元人間としては、悔しい限りである。
そして、多少大きい獲物であったとしても、食べ残しを持ち帰れるメリットは大きく、何が何でも欲しいと思ってしまうのだ。
難しいのは判っているが、諦めるにはまだ時期尚早だ。
英語では、アイテムボックスは道具箱になるから、違うとして、インベントリも目録とかの意味だから違うし、スペースボックスでも違う、スペーシアルコンテナーも違った。
空間?空間的?、何か違うよね?、空間というよりも、次元的な話だから、ディメンション?と発言した時に、一瞬魔力が反応したから、ディメンショナルホールと言ったら、失敗した。
何故だ?、他の言葉が違う可能性も含めて、ウェアハウスとかボックスとかインベントリとかバッグとか色々言ったけど駄目で、[ディメンション]、[ホール]で発動したんだよ。
この法則を考えた奴、絶対何かのゲームか、アニメの影響を受けてるよな。
何故これだけ「次元の穴」なんだよ。
何気に、こういう〈突然の法則無視〉にはイラッと来るんだよね。
しかも、スキルチックなのにスキルでは無く、魔法とか。
中の広さは、多分MAG値が基準になっていそうだ。
イラついてて忘れてたが、[鑑定]してみた。
[ディメンションホール]
中の広さは、MAG×1㎥で、生物は入れられない。中に入れた物の時間は止まる為、長期保存に向いている。
中身は、インデックスに表示されて、確認する事ができる。
任意の空間に、次元の穴を開け、異空間へ繋げて、結界で指定範囲を作っている感じの様だ。
生物の範囲がよく解らないが、魔獣全般と植物以外が入らない様子。
微生物については、入口で死ぬって事じゃないかな?毛虫の様な、植物に付いている虫は、弾かれて落ちた。
卵や蛹でも試してみたいのだが、手元には無いので、手に入った時にやってみよう。
容量は、1㎥×MAGという事は、今が5054だから、505.4万リットル、大体、小学校の25mプール20杯分くらいかな?かなり広い。
箱型ではなく、体積って意味だろうから、かなり自由度は高いのではないかと思う。
そして、液体でも砂状でも入り、入れた時の状態のまま取り出せるのだ。
例えば、砂を100グラム入れたとして、追加の100グラムを入れると、砂200グラムとなり、150グラムだけを出す事も可能になるのだ。
ディメンションホールを覚えたおかげで、時空間魔法を習得した。
一応、空間に黒い穴が開いたので、食いかけの肉を入れてみると、目録が出た。
前足を突っ込もうとしても、中に入らないので、一度閉じてぇ、下に向けて開いてぇ、選択したら落ちてきた。
地面に肉の面から落ちてきたのを見て、あぁ、皿が欲しい・・・と思ったね。
おかげで砂まみれですよ、お肉が!、何で中身まで逆さになって落ちて来るかなぁ。
ディメンションホールのサイズの決め手にもなっている、MAGというステータスについては、いまいちよく解らないんだけど、多分魔法の熟練度とか、威力に関する数値だと思われる。
MPにも関係していて、最初はMAGの10倍だったのが、途中から20倍に増えた。
だから、今のMP最大値は、101089もある。
MAGの増え方は、110%ずつ増えている様だから、初期値が1000で計算するとLv18かな?Lvという概念は何処にも表示されていないんだけど、成長と共に数値が増える所を見ると、裏設定にレベルがあると思われる。
どの数値が重要なのかは、もう、STRとMAGだけなんじゃないかと思ってるよ。
他にも色々数値が隠されているとは思うけど、気にしたら負けな様な気がするよ。
だって、どんなに数値が良くたって、技量が無かったら、宝の持ち腐れだし、心が弱かったら全力を出せないからね。
気にするだけ無駄だと思うよ。
お皿を作るには、まずは材料だね。
材料を取りに行くとなると、やはりあの川底が気になるところなんだけど、どうやって潜水するかが問題だ。
一方、潜水しない選択肢もある。
それは、川の流れを変えてしまう方法なのだが、結構大規模になってしまうので、MP的に難しいと感じている。
という訳で、一旦川にやってきた。
流れとしては、小川程度ではあるんだけど、決して水量が少ない訳では無いので、流れを変えるよりも直接掘りたいと思った。
潜る方法としては、アンカーを付けて潜るか、川底にディメンションホールを出して、一気に流し込むか。
水深30㎝で何を迷ってるんだと言われそうだけど、今の体では、高さが25㎝くらいしかないから、完全に沈んでしまうんだよね。
しかも、子猫って1週間もすれば、二回りくらいは大きくなるよね?何故か俺はサイズが変らないんだよ。
成長しないとか、一体誰の差し金なんだよ。
とりあえず、川岸から川底にディメンションホールを出して、掘ってみようと思う。
「ミャ」『[ディメンションホール]』
すごい勢いで水量が増えて行ってるが、川岸を移動するとディメンションホールも一緒に移動するので、川底の素材も一緒にどんどん入って来る。
水深2m近くの所に出したから、水深も2mになっていた。
不要な水をディメンションホールから排出しながら、内容物を確認してみると、宝石の原石に加えて、金属の鉱石も大量に混ざっていた。
ゴールドナゲットも大量に入っていて、3トンも入ってるよ。
まぁ、こんな成りだから、使う宛が無いんだけどね。
たとえ、人里に行ったとしても、金に換えてどうするって感じだ。
だって、お金も使う宛が無いんだから。
まぁ、これだけあればいいだろう、疲れたし戻って・・・何しに行ったんだっけ?
住処に戻った時に、金属で皿を作ろうと思った。
これはやっぱり、錬金術?と思い、鉱石を取り出して、錬金術の魔法を探る作業に入った。
「ミャ」『[セパレーション]』
鉱石の山が種類ごとに分かれただけだった。
分ける作業も、成分の分離と物質毎の分離は違うという事で、錬金術のを使う時は、普通の魔法とは区別する必要があるって事で、〈アルケミー〉と唱えると、魔力が反応した。
「ミャ」『[アルケミー・セパレーション]』
金属成分と岩石成分が分離した。
分離した後の岩石、所謂スラグと言っても、とかした訳でも無いので、普通に砂利になっただけの物と色んな金属の粉ができあがった。
含有率少ない金属は、分離作業コストの問題で、前の世界では無視される事が多いのだが、魔法でやる分には、[マテリアル]と[メタル]で分離できるので、コストもかからないし、小まめにやっておこう。
この世界では、メタルとマテリアルの違いは、金属と宝石や非金属として指定できる様だ。
宝石も金属成分が含まれているんだけど、マテリアルに分類されるみたいだね。
今回使うのは、錫、加工しやすくて銀色が映えるやつ。
何で錫にしたのかと言うと、元人間の貧乏性が出て、金で作るって考えが浮かばなかったからだよ。
「ミャ」『[アルケミー・モールディング]』
成形は、これでできたよ。
模様も意匠も何もないただの皿?お盆と言ってもいいくらいの物だね。
これでやっと、砂まみれにならない食事ができる訳だが、何の模様も無い皿を見て、彫金とまではいかなくても、ちょっとした文様くらいは作れる様に、練習してみようと思ったよ。
だから、明日からは、鉱石集めと工芸技能の習得だ!
1ヶ月経ちました。
金、銀、ミスリル、オリハルコン、その他色々金属が、この岩場にはあった。
珍しいというか、殆ど集まらなかったのは、魔力鉱石とアダマンタイトで、ヒヒイロカネは無かったね。
見つけた金属で、髪飾りやブローチ、指輪にネックレスまで作った。
魔道具になるのかどうかは判らないが、カットした宝石に、魔法を登録できる事が判ったので、予備MPタンクや、STR強化、VIT強化など付けたネックレスなんかも作ってみた。
おかげで、彫金スキルも取れたのだが、自分では着けられないので、人間にあった時の贈り物としてだね。
色々探していた中で、最重要課題としていたのが、塩だ。
この世界には、塩分が必要ないのかも知れないが、哺乳類には塩は必須の栄養素で、筋肉を動かすには必ず塩が必要なので、どこかにある筈だ。
獲物の血液にも、塩分が含まれているし、今もこうして活動できている理由は、どこかで塩分を摂取しているからだと思われる。
塩分としてではなくて、塩素とナトリウムを別々に摂取している可能性もあるけど、塩気を一番感じる血液からだろうなぁ。
なんかね、生肉の味に飽きてきた。
毎日毎日、角ウサギかツイストホーンディアの肉ばっかりで、たまに魚が入る程度しかないのと、調味料もスパイスも何も使わないから、食事に喜びが無いっていうかさ、嬉しくないんだよね。
人間だった頃は、自炊で色んな料理に挑戦していたから、その頃が懐かしいよ。
こうなったら、スパイス、ハーブ、野菜とかその辺を探しまくるぞー!!
はい、3週間経ちました。
ハーブとか、ヒールリーフとマジックリーフっていうのは、沢山あったよ。
スパイスは、正直、よく解らないという事で、山椒以外が判らなかった。
いや、ホースラディッシュっぽい物はあったよ?でも、ツーンとしてもねぇ。
森の中を散策している途中で、人間の死体は、何体か見つけてた。
骨はバラバラだったが、装備は近くに纏まっていて、木に寄りかかってたり、岩の隙間に挟まってたり。
剣やナイフなどの金属類は錆びていて、使い物にならなくなっていたが、アミュレットやタリスマンなどの魔道具を幾つか持っていた。
鑑定では、それ程いい物では無かったので、貴金属と宝石のみ貰っておいた。
それ以外には、冒険者証っぽいカードを持っていたから、拾っておいたよ。
明日からは、探索範囲を広げて、人間を探そうと心に決めた。