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【ローファンタジー】 『ありふれた怪異、街の名物』

幽霊パニック

作者: 小雨川蛙

 

 恋人がしきりに言うので私は嫌々テーマパークにやってきて、そこで目玉だというアトラクションに乗る羽目になった。

 数時間も待ってからようやく私と恋人を含めた十数人がアトラクションに乗る番となった。

「はい! 皆さま、よくお越しいただきました!」

 おぞましい衣装を身に纏ったスタッフが笑顔で挨拶をする。

「パンフレットに書かれています通り、ここはパーク内ではどこよりも怖いエリアです!」

 私は事前にこのアトラクションの紹介記事を思い出す。

 確かに怖いが、どちらかと言えば悪趣味と言う方が近いのではなかろうかと私は思った。

「逃げ帰るなら今の内ですよ? 誰も責めたりしないでしょう」

 逃げ帰りたいわけではないが、帰りたくて仕方ない。

 しかし、隣の恋人の輝く目を見て諦めた。

 あぁ、嫌で嫌で仕方ない。

「さぁ、帰るなら今の内です!」

 大仰な動作で出口を指す幾人かのスタッフたちの言葉を聞く者など誰もいなかった。

 無論、彼らの言葉もアトラクションの一部なのだから当然だろう。

「勇気ある者に敬意を! さぁ、では皆さまこちらにいらしてください!」

 私達はスタッフに案内されて乗り物に乗る。

 外観は血塗れの布や木のオブジェやイラストで構成されており、まぁ、この手のアトラクションにはありがちな良く出来た、もしくは反対にチープな造りだ。

「さぁ、シートベルトを締めて!」

 言われた通りに私は素直にシートベルトをする。

 その際、偶然乗り物の端っこが経年劣化で破損していることに気づいた。

 当然と言えば当然だが外観とは違い中身は無機質な機械で出来ており、さらに見える範囲にはいくつものお札が無造作にベタベタと張られていた。

 私は思わずため息をつく。

 こんなところで現実に戻されてしまうなんてたまらない。

 機械のメンテナンスはしっかりしてほしいものだ。

 そんな私の気持ちを知りもせず恋人が笑顔で話してきた。

「ねえ! 幽霊見れるの楽しみだね!」

 私は少し反応に迷った。

 大切な人にこういった一面があるのは何とも複雑な気持ちになる。

「そうだね」

 なんとか私はそう答えた直後、スタッフが最後とばかりに大声で説明する。

「ここは数百年前の戦争で大勢の方が亡くなり、今でも幽霊となって命あるものを恨んでいるのです! さぁ、皆さまシートベルトはしっかりと! 幽霊たちに連れていかれても知りませんよ!」

 その言葉と同時に完全なる防具で身を包んだ乗り物は動き出す。

 パンフレットによれば塩もお札も完備しているこの乗り物に幽霊が手を出すことは出来ない。

 万が一に備えて客に扮した除霊師が数人居るんだという噂まで聞いたこともある。

 乗る直前に嫌がる私に恋人が言った言葉が甦る。

『大丈夫だよ! サファリパークに行くようなもんなんだから!』

 あぁ、確かにそんな認識で良いのだろう。

 しかし、私にはどうにも……。

 そんな陰鬱とした私の気持ちが形になる前にスタッフが叫んだ。

「うわー! 皆さん! 来ましたよ! ここで死んだ幽霊たちだぁ!!」

 恐怖と歓喜が入り混じった人々の声の中、私はせめてとばかりに自分の足を見続けていた。

「恐ろしいでしょう? ここにいる人たちは皆、虐殺されて死んだのです!」

 なんて、悪趣味なアトラクションなのだろうか。

 私はそう思い目を閉じていると、けらけら笑う恋人の声が聞こえた。

「ね! 目開けてよ! すっごいよ! ほら! ほらほら!」


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