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伝書鳩の夏休み 第十一回

 十一 第二の事件


 妻の葬式の本格的な準備を始める旨の電報を受けて、青山氏が一足先にジニア荘を去ることが決まっていた。

 そして今日が出発の日なのだが、昨晩から降り続く大雨の影響で列車の運行に乱れが生じていると、ラジオが報じていた。

 相沢の様子を見に行くために部屋を出ると、活良木君が火芝君の部屋を塞いでいた。

「おはよう。」僕が、気になる方向へちらちら視線を向けながら挨拶すると、活良木君は妙な表情で、ああと返した。

 壁の向こうから、かすかに火芝君のうにゃうにゃ声が聞こえた。「……ない……じゃ……どこにも……ないか!」狂乱の様子だった。

「何があったんだい?」

 活良木君は溜め息をついて「探し物。で、俺は門番。」

「何を探しているんだい。」

「知らねえよ。どうせ、またとってきた(・・・・・)……」そこまで言って、彼は唇を噛んだ。「お前は早く相沢のとこに行けや。」

 その時、バタバタと階段を駆け下りる足音と知鶴さんの叫び声が聞こえた。「青山君……青山君が!」

 僕は活良木君とエントランス・ホールへ駆け込んだ。「青山さんがどうされたんですか。」

 知鶴さんは階段の途中で倒れ込んでしまっていた。知鶴さんを活良木君に任せて、僕は青山氏の部屋へと急いだ。

 ――青山氏は、部屋の中央で倒れていた。そばには、ウォッカの瓶と何かの空袋が五枚落ちていた。

 走る音が聞こえて活良木君が来た。彼は青山氏の姿を認めると、脈を取って死亡を確認した。

 僕は、机の上の封筒に気が付いた。封はされていない。意を決して便箋を開いてみると、それはタイプライターを用いてローマ字で打たれた遺書だった。


 私は、会社の金を横領したことを隠すために保険金詐欺を計画しました。

 あの日、妻のカクテルに毒を入れて殺害しましたが、保険金のほとんどが妻の葬儀に使われることを知り、もはやどうにもならないと悟り自ら命を絶つことを選びました

 自らの過ちの全てを心から後悔しています


 通報を受けて到着した満願警部の話にこっそり聞き耳を立てると、睡眠薬による自殺で確定だろうとのことだった。

 大きな自動車がやってきて、灰色の布にくるまれた遺体を乗せて走り去っていった。

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