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第9話 シンの地獄での怪我

 

 真太がママに電話で結界に穴が開いたと報告すると、香奈ママは慌てて家に帰って来た。 

 真太は事の顛末を香奈ママに報告し、舞羅や翼はどうなったんだろうとか、シンがひとりで地獄に行ってしまって心配している事を言うと、

「あら、舞羅ちゃんは憑りつかれてはいないようよ。真奈おばちゃんに聞いた所によると、舞羅ちゃんは、翼ちゃんが取りつかれてしまって、心配だから翼ちゃんに憑りついた魔物に調子を合わせて、真太達の所へ行ったそうよ。今は気を失った翼ちゃんも一緒に、家に居るわ。魔物は御神刀が欲しかったらしいけど、あれは真太のだったんでしょ」

「なんだ、じゃあ、イダさんは無理して地獄に行かなくても大丈夫みたいだな。ママ、アボパパにその事電話した方が良いよ」

「そうね、でもパパもきっと分かって居ると思うわよ。何せ、アバは全世界を把握しているだろうから」

 とは言え、真太は何か腑に落ちない。深く考える性分ではないので、だんだん眠くなってくる真太である。


 香奈ママの言った通りのようで、決死の覚悟でイダが、アボに戦いを挑む所へ、アボもふうふう追いかけてやって来た。そんな二龍神をじろりと見たアバは、

「アボのアホが移った奴が来たな。アボに近づきすぎるとアホは移るらしい。興味深い現象だ。イダ、止めとけ。アホに近づいて妙な考えが沸いて来たのだろうが、シンの奴は放っておけばいいさ。あっちで好きなだけ暴れてから、戻って来るつもりだろう。舞羅も翼も現世に居るようだ。御神刀狙いだが、間抜けは本物も子供向けも分からない奴らだし。お前らが気にする必要は無いな。俺は小物の魔物の相手で眠いんだ。同じような事ばかりやっていると眠くなる。イダには俺の昼寝の間、辺りを見張る役があったのをうっかり忘れていたな。仕方がないから、また雇ってやる。他の奴は俺の替わりは出来なかったな」

 そう言って眠り出した。どうやらイダが安眠に必要だったのを思い出したらしい。

 アボは、

「イダ、良かったな。許されて」

 と小声で言って、家に帰る事にした。だが、振り返って一応は訊ねた。

「出来ればミミちゃんは、連れて帰ってくれないかな。俺の家に居ると、きっとアホに育つぞ。さっきの踊り、見たのなら気が付いただろう」

「分かった、アバが目覚めたら行くよ」


 子供たちは、そんなアボパパの気持ちは知らずという所で。アボパパが家に帰ってみると、まだ千佳由佳の珍妙な嘘歌に合わせて、ミミちゃんも踊っていた。真太は、昼寝している。

 真太が止めても言う事は聞かなかったようで、自分の事をからかっている歌詞も気にならなくなったらしい。いつもの光景だが、御神刀が二本とも家に無いのには困ったアボ。心許ない気分である。

「本当はシンの刀だけど、シンは早く戻って来て欲しいものだな」

 呟いていると、シンがやっと戻って来てくれた。しかし、傷だらけなのに驚いたアボ。

「おいおい、死んでいても怪我するのか、大丈夫か」

「真太の刀に、地獄の毒が塗ってあった。傷になっているが、生きていないのに傷が出来るとは不思議な毒だな。霊界に戻ればおそらく治ると思う。二本の御神刀、戻しておこう。アボ達が持っていた方が、この刀達も存在意義が有るらしく思える」

 と言って帰って行った。

「ったく、心配させたくせにけろっとして戻って来たな。」

 気配を感じたのか、真太が起き上がると、

「今、シンの声がした」

「ああ、戻って来た。御神刀もな」


 アボはシンがけろっと戻って来たと思っていたが、実の所はシンが消滅していても不思議ではないような死闘だった。

 魔王は、シンが御神刀を持っているのを見ると、早くも不利と察して地獄に逃げ帰ったが、シンは勝機があるのが分かり、追って地獄へ一龍だけで行ってしまった。内心、深追いとは思っていた。

 魔王が逃げ帰った場所は、シンが今まで行ったことも無い地獄の奥底、地獄の果てと言った感じの所だった。シンはそれでも、ここで仕留めなければ追ってきた甲斐が無いので、

「逃げ切れると思うなよ」

 と、魔王目掛けて、御神刀を振るった。イケると思ったが、魔王の前に立ち塞がった何者かに、御神刀を払われた。

「これは、もう一振りの真太のじゃあないか。いつの間に奪われていたのか」

 驚いたシン。しかもその刀には毒が塗ってある。そしてそれを持ってシンと対峙している者は、かなりの使い手と見た。地獄の奥底に、こんな奴が潜んでいたとは驚きである。

 彼は地獄に居る者の禍々しさを通り越して、凍えるような殺気の塊だった。

 シンは心底、深追いした事を後悔しそうになったが、ふと思った。『この毒だった、この魔界の毒には皆やられていたな。伯父上に、翔。それにアボも死にこそしなかったが、毒にやられて気を吸収できずに弱り果て、それでも生きながらえて、彼は復讐を考えていた筈だ。こいつがその元凶のようだ。では、今が復讐の機会ではないのか。この地獄の奥底に来る機会など、今を置いては無かろうな』

 シンは魔王の事は捨て置き、この冷たい殺気の奴を倒すことに専念した。能力は拮抗していて、お互い睨み合うばかりである。どちらかに隙が出来るまでの睨み合いである。

 そうなると、やられるのは嫌だが、捨て置かれるのも不愉快な魔王である。シンと対峙している元人間の成れの果て、究極の地獄の毒を作成した通称毒男は魔王としても、気に食わない奴なのだか。と言うのも、奴の機嫌を損ねて毒を食らわされてはたまらないので、代々の魔王とて頭が上がらなかったのである。  

 と言う事で、どちらの味方をするかと言えば、辛うじて地獄の仲間と言える毒男の方となる。さっき彼に助けられたことは、失念している魔王だ。それに本来、地獄の者の間でもこの毒男は嫌われ者だったし、この機会にシンにやられてもらっても、魔王としては一向にかまわないのだが、シンにこの魔王より毒男を倒そうとされては、魔王の沽券にかかわる。よって、シンは消さなければならない。

 こんな事を色々魔王は考えていて、結論が出て、毒男に味方するのに少し時間が掛かってしまった。毒男はそれを察した様で、魔王を妙な微笑みで見た。

 隙が出来て、シンにバッサリ切られてしまった毒男。しまったと魔王はシンに、強力なばおぉん攻撃を始めた。すると毒男が、ばおぉんに怯んだシンに切りつけた。魔王は、一太刀でもあの毒なら勝算は毒男ではと思う。あいつは魔物では無く地獄に落ちた人間だから、御神刀でやられても、人間の急所でなければやられたとは言えないと見た、魔王である。

 しかしそうなると、あの笑い方が気になる所だ、毒男が勝てば奴に次に殺されるのは自分の様な気がしてくる魔王。その予感は当たっている様で、毒男はこっちを見て、

「少し、俺に味方するのが遅くは無かったか」

 と言い出した。危険を感じた魔王。毒男にもぶおぉん攻撃をしてしまう。魔王の攻撃は強力で、油断していた毒男は吹っ飛ばされる。転がった所をシンから又、一太刀浴びるが、急所ではない。たまらず魔王は、

「おい、毒男は元人間だからな。御神刀の威力は効かないぞ。人間を殺すように殺さねばな」

 つい、シンに味方してしまう魔王。シンは呆れながら心臓を狙うが、その時は毒男が持ち直し、またシンに切りつけた。二度目の毒だ。魔王としては、勝機は毒男に行ったと見た。シンに味方して、また自ら墓穴を掘ってしまったと自覚する魔王。こうなっては、両方処分するのが解決方法ではと思い、丁度二人が刀を持ったままもみ合って、ころころ地獄の業火の穴の方へ転がっている。そこで魔王は思いっきりぶおぉん攻撃をしてやった。一緒に業火の中に落とす算段である。落ちて行った。やれやれと思っていると、シンだけは刀を二振り持って中から飛び上がって出て来た。魔王はしまったと思う。奴は本性は龍であった。

 だが、シンは魔王には御神刀は振るわず、まあ、そんな元気は残っていないとは思われたが、

「忠告、有難かった。今日の所はこれで戻る事にしよう。お前との勝負はまたの機会だ」

 と言って立ち去った。

 魔王としては、目障りな毒男を始末出来て良しとすることにしたのだった。

 シンとしては、あの魔王はまだ人間界に居た頃の癖、おしゃべりな所が残っているのかなと思うのだった。


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