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第6話 アボ、絶対無理と思う事を引き受ける羽目になる

 

「ただいま。千佳由佳、無事か」

「おかえりこっちは異常なしよ。わあ。赤ちゃんだ」

「赤ちゃん連れて来たんだ。可愛い」

「お前らより見た目は大きな子なのに、よくそのセリフ言えるよな」

 真太は感心した。

「あぶあぶ」

 まだ話が出来ないらしいが、ロバートの言う通り、こっちの言う事は分かっているようで、相槌を打っているようだ。

「しかしどうするかな。この子、ひょっとしたらアバ達は、探しているんじゃないかな」

 真太は考えて見たら、アバはこの世界の事をすべて把握しているらしいのに、ここに居るこの子の事は分かっているのかなと疑問である。さっさと迎えに来ないのが不思議である。

 あぶあぶ言う子を観察してみるが、愛想は良いが、全くわかって居ない赤ちゃんの感じだ。どういう訳でロバート達が見つけていたのかも、不思議と言えば不思議だ。この辺りに居る理由が分からない。

「何か食べさせなくて良いの」

 由佳が不味い事を言うので、慌てて遮る真太である。

「いや、いいんだ。飲まず食わずで、辺りの自然の気を吸って育てないといけないんだよ、龍神の子って言うのはね。自分が逃げることが出来る大きさに早く育たないと、魔物に食われるそうだ。だから、生まれたら周りの自然界の気だけを吸わなくてはならない。気を吸えばどんどんでかくなるんだ。この子、一人で逃げるにはまだ小さいのに、親と逸れたのかな。きっと何かから逃げて来たんだろうな。上手く逃げ延びたんだろうけどな。そうだ、ロバートの家もママが結界を張っていたから、それでロバートの所に居たんだな。柳は神社関係で結界を張っていないって事だったな。こいつ、小さいのに利口じゃないか」

「真太と違ってね」

 千佳に言われて、むっとする真太である。千佳は、

「こんなに利口なら、一体誰の子なのかな」

 と言うので、真太は考えた。

「アバの子じゃないかな。だったら、俺はアバの後釜は返上だな。ラッキー」

 そう言って喜んだら、あぶと言いながら、口に指を突っ込まれた。

「何するんだよ」

「アバの子じゃないんじゃない」

 由佳の指摘である。

「うん、それにしても、誰も迎えに来ないって言うのはどうしたのかな」

「何か取り込み中とか。魔王と戦っているのかも」

 千佳に言われて、真太もそう言えば今が戦いの時期だとアボパパも言っていたのを思い出した。と言う事は、しばらく此処に置いておくって事なのかなと思う真太である。


 千佳の想像通り、アバやアボパパはアマズンで魔王達と戦っていた。不味い事に、真太たちの所に居る子はアバの手下の中で、アバの次に能力がある龍神の子供だった。そして、子供を人質に取られ、不本意に魔王の手先となり、アバ達と戦っていた。魔王とそういう事情の龍神、かたやアバとアボパパ、そしてその他大勢さんでは幾分アバ達の方が不利である。

 アバは、

「愚かな奴、魔王側に就くとは、龍神の資格は無いな、人質など死んだも同然だ。分からないのか、もう食われているはずだ。諦めて、改心せねば大神様が許しはせぬぞ。死後、大神様の元に帰ることが出来ねば、怨霊龍どころかお前が霊獣用の地獄行きの第一号だな」

 そう手下に言い放つので、アボは、

「アバ、あまり刺激的な事を言うのはよせよ。あいつの身になってみろ」

 と、おろおろしていると、アバの元手下は、

「ええい、うるさい。俺はどうなっても構わない、ミミちゃんさえ生きていれば良いんだ。ミミちゃんはまだ死んではいない。生きているのは分かっている」

「と言う事らしいぞ、アバ。ひょっとしたら、ミミちゃんを先に取り返しに行った方が良くはないかな」

 アボが提案した。

「そう言うなら、お前がさっさと行けば良いだろう」

「そうか、それじゃあ行って来るからな。引き延ばして居ろよ。皆で」

 と言う事で、アボはミミちゃんを探しに行く事にした。

 引き延ばすことにした皆は、あまり相手に火が届かない位置を陣取り、ぼうぼう火を噴いていた。

 それを横目で見ながら出発したアボは魔王の手下と、ミミちゃんの気配を探すが、気配が無く探しようが無いのが分かった。ミミちゃんを、龍神の住む世界と、念のために人間の住む世界も探すし、シン達の居る霊界にも問い合わせるが、そっちに行った訳でもない。生きたまま食われれば、消滅で、霊界に行くことは出来ないそうだ。

「あいつ、生きているのは分かっている等とデタラメ言ったな。どういうつもりかな。困ったな。やっぱり殺されて食われていましたと報告しても、あいつはこっち側には、もう戻ることは出来まいな、アバのあの怒り様では。参ったな」

 アボパパは、自分の提案が不味い結果になりそうだと思い、すっかり参ってしまった。香奈に慰めてもらおうと、ちょっと家に戻る事にした。今回、へたれは、良い方向に行った。

 アボパパ、家に戻って大いに驚くことになる。ミミちゃんはそこに居て、香奈ママや千佳由佳に構ってもらってご機嫌である。真太はいつものように昼寝している。

「ミミちゃん、こんな所に居たのかっ」

「あら、お帰りなさい。そうなのよ。利口な子ねえ。始めにロバートに拾われてあたしが結界を張っていた彼の家に隠れていて、真太が戻ったから、真太がこっちに連れて来たの。結界で魔物から隠れていたのよ。驚いたみたいね。ここに居るって分からないなんて、あたしの結界も大した効き目ね。へたれて帰って来たみたいだけど、でも、連れて行くんでしょ。今から」

「ああ、連れて行くとも、気配がしなくてすっかり参っていたんだ。やれやれだ。ミミちゃん、パパの所に帰ろうね、ママは・・おじちゃんは知らないねぇ」

 そう言いながら、アボパパがミミちゃんを抱っこしていると、真太は話し声で目を覚ました。

「結界で分からなかったって、で、家に帰ってみたら、居たんだって。ミミちゃんって言うんだ。へえ、さぼりもたまには良いって分かったね。じゃ、ミミちゃん、バイバイ」

 アボは、アバ達の所に戻りながら、真太に不味い所を見られたなと思った。後で口止めが必用である。

  しかし、戻って上空から様子を見てみると、アバのアボを見上げた眼つきで事は知れているのが分かった。

 子供が無事戻ったと知れると、勝負はあっけなく着いた。アバ第一の手下は、魔王の直ぐ側に陣取っていたので、あっという間に魔王を始末した。アボは見ていて、あの動きはアバと実力は大して変わらないように感じた。それとも、不本意に魔王側に就いた腹いせの、なせる業だったろうか。

 アボは失念していたが、アバの第一の手下の名はイダと言う名だったようだ。皆が、

「イダ、良かったな。魔王の見事な始末、さすがアバの第一の手下」

 などと言っている。

 片付いたようなので、アボがミミちゃんを連れてみんなの所へ戻ったものの、魔王を倒したイダはミミちゃんを抱いたアボの所に行きかねていた。アバの視線がきつい。

 他の龍神達が、ミミちゃんを抱いていたアボを取り囲み、喜んだ。

「ミミちゃん無事だったか、良かった、良かった。さすがアボ、機転か聞く奴だな」

「アバ、イダは魔王を倒した事だし、仲間に戻してやっても良いだろう」

 年嵩の龍神がアバにお伺いを立てると、

「バカ野郎。あんな裏切者なんぞ、またあっさり仲間になど出来るか。アボ、その子は真太と一緒にお前が育てろ。手間の掛かりついでで良いだろ。一人育てるのも二人育てるのもさして手間は違わないんじゃあないか、子育てはもう慣れているだろう」

 と、アバは物凄い提案をして来た。アボはギョッとして、

「何を言い出す。子供は親が育てるものだぞ。俺らは真太で手一杯だ」

「だが、ミミのママはさらわれるときに魔物に殺されてしまった。人間だったからな。お前の奥さんと同じだ。香奈さんは子育てに慣れているから頼んでくれ。ミミはまだ母親の手が居るだろう」

 アバにそう言われては、アボも拒否しきれず、だが絶対無理だと思い。

「香奈に聞いてみるが、何と言うかは分からないぞ」

 と言ってしまった。するとアバに、

「聞くんじゃねぇ。頼むんだ。バカ野郎」

 と睨まれ、そしてテレパシーで『見つけたんじゃなくてさぼる気で家にもどったら、ミミが香奈さんの結界の中に隠れていたんだろうが。その件、他の奴に言ってみようか』

 と脅され、仕方なく、

「そうだな、お願いしてみるよ。多分育ててくれるだろう」

 と引き受けるしかなかった。

 龍神達に取り囲まれ、ミミはイダを見つけることは出来ていない様だった。きょろきょろ探しているので、

「パパは居ないねえ。また、おじちゃんの家に戻ろうか」

 そう言ってごまかし、アボはまたミミを家に連れ帰る事にした。ミミがイダを見つけないように踵を返して戻っていると、イダがテレパシーで、

『アボ、恩にきる』

 と言って来た。何とも言えない気分になるアボだった。


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