第5話 龍神の赤ちゃんを助ける
真太はすっかり熟睡してしまった。目が覚めたのは家に到着して、千佳由佳の騒ぐ声の所為だった。
「パパ、良かった。怪我とかしてないのね。でも、真太はどうして寝てるの」
「真太はまだ赤ちゃんだから、きっと眠いのよ。それよりパパ、テレビで実況中継していたのよ。知ってた。それで、パパの事、アバの赤ちゃんだって。笑っちゃった。真太が赤ちゃんなのは当たっていたね。でもアバの子じゃないけど」
「アバ、消えちゃったけど、人間に見えていたら不味い事、やっと気が付いたんでしょね。アバのおうちに帰ったの」
「そうかい、見ていたのか、そりゃ可笑しかったね。うん、アバは自分の家に戻ったよ。悪い奴がお家にいる子供たちを狙っているから、帰って見張っていなけりゃならなくなってね。千佳由佳も用心するんだよ」
「でもあたし達はママが結界張っているから、大丈夫なんじゃない」
「うん、でも千佳と由佳が悪い奴と分らなかったら、自分から近づいたりして、捕まってしまうかもしれないよ。自分からだと悪い奴にも近づけるからね。知っている人に化けているかもしれないしね」
「わぁ、それホント。困ったわね」
千佳が思案しているようで、真太はなんだかおかしくなり、笑ってしまった。
「真太、笑い事じゃないでしょ」
千佳が叱る。今日はお姉さん面をすることにしたらしい。
「あたし達が遊びに行っている間に、真太ったらパパを追いかけて行って。行ったらなんか役に立ったわけ」
そう言われては、言い返すしかない。
「俺はアバがゴゾラみたいな怪獣と思われているのを、子供思いの良い怪獣さんだというイメージにしてやったんだ。かなりの働きだったと言える。ね、そうだろパパ」
パパはさっきと打って変わって、
「調子に乗るなよ」
と睨んだ。どうやら調子に乗ってはまずかったらしい。その時急にパパの様子が変わった。
「アバが呼んでいる。お前達、うろつくんじゃあないぞ。ママの結界の中に居ろ。所で、ママはどうした」
「ママはデパートに行ったよ。セールなのに店員さんが足りないんだって」
アボパパは、「働かなくても暮らせるのに・・・」とか呟きながら出かけて行った。
三人だけになって、顔を見合わせた。真太は、
「知っている奴が、魔物に取りつかれているぐらいは、お前らにも判るよな」
気になって確かめてみた。すると千佳が、
「それがねえ、お婆ちゃんが取りつかれているのは、判った事ないのよね。翼君は一緒に暮らして居るから、さすがに判るらしいけど。前に真太が生まれたばかりの時、お家に来た時は、全然いつも通りのお婆ちゃんだったのよ。だから、他所の少し知っている人だともっと判らないよ。きっと」
何とも心細い事を言い出して、真太はがっくりした。
「誰が来ても、家に入れるんじゃないぞ」
そう言って、出かけようとすると、
「家に居ろって言われたでしょ」
千佳に止められた。
「柳や、ロバートに謝りに行くんだ。もう家に居ると思うんだ」
「柳君っていつか魔物に取りつかれたでしょ。一度取り付かれたら、取り付かれやすくなるって、翼君が言っていたよ。もう一度言う。止めといた方が良い」
もっともな事を指摘されて、真太は少し躊躇した。
由佳が、
「電話にしといたら」
由佳までお姉さん面になっている。真太は自分がアホ面だからだと身に染みた。すると、ロバートの方から電話してきた。
「ごめん。今電話しようと思っていたんだ。あの時、不味いことやり出してゴメン、お前ら無事に逃げられたんだな。良かった」
「いいよ、慣れているから。それより、俺ら、帰りに近所で変な子供を拾ってさ。なんか昔のお前を彷彿とさせているんだよね。夏でもないのに、半そで半ズボンでさ。さっきから何だか、成長している感じもして。話は出来ないくせに、俺等の言っている事は分かってるっぽいし」
「何だって、そりゃ俺と同じだな。お前んちに居るのか。分かった直ぐ行く」
千佳由佳に、
「そう言う事だから行って来る。用心してろよ」
「赤ちゃんなの。こっちに連れて来てよ。用心してね」
千佳に言い返されて、ため息が出た真太である。
ロバートの家に急いで行ってみると、南麦大陸の方の少しほりの深い顔で目のくりくりした10歳前後に見える子が居て、真太を見てよだれを流して喜んでいる。
「あぶっ」
随分親し気に、飛びついて来た。
「わっ、どうしたのかな、こんな所に一人でいて」
「だろ、で、家に連れて帰っていたら、お前が帰ったような感じがしたから、電話したんだ。お前が面倒見ろよ。俺らはちょっと、お手上げ」
「うん、ありがとう。助かったよ。でもこの格好は目立つな。お前んち、長袖の服ないか。こいつに合うサイズの」
「無いけど、ぶかぶかでもそのうちサイズ合うんじゃないか」
そう言って、ロバートは比較的小さめのジャージを出してきた。
「これもう着られないから、やるよ」
「ありがとう、世話になったな」
真太は、抱きついて来て離れない子に、何とか服を着せて急いで家に帰る事にした。何か訳ありなのは知れているので、さっさと安全な結界の中に入りたい。
「こんな時、パパみたいに別の次元の方に行って帰れば安心だけど、まだそんな能力ないし」
と愚痴りながらその子をおぶい、走って帰ったのだが、その方が正解だった。魔物達はその異次元でその子を探し回っていた。奴らは人間の世界にまで目が行き届いておらず、第一、赤ちゃんが自分で移動できるとは思ってはいなかったのだ。