第3話 龍神を助けようしたが、龍神に助けられる・・・
真太と付き添い風の二人は、アボを追って飛行機に乗った。行先はマヤランドだ。
真太は父親の動きは数日以内なら分かるようになっていた。付き添い二人は驚く。
「さすが龍神親子だな」
「まだ神じゃあないから」
「そうかな、やっている事、神がかってないか」
真太としては良く分からなかった。
何とかマヤランドの首都の空港に着くと、空港ロビーのテレビの前には人だかりができている。真太たちも見ておいた方が良いかなと思い、後ろから覗いてみると、USBBの大統領夫妻と、マヤランドの大統領夫妻が、会談している様子を放送している。どうやら、時を同じくして、USBBの大統領夫妻もここにやって来ている。理由は同じだろう。同時通訳で会談しているが。下の帯には、ご丁寧に、日の国語と、現地のマヤランド語が出ている。会話は英語だ。マヤランド語が出ているのは分かるが、日の国語が出ているのには驚いた。それだけ日の国の人が多いと言う事だろうか。それにしても親切すぎるのでは。
『それではどうしても、あの生物を攻撃するつもりなのですか』
念を押すようにUSBBの大統領が言っている。すると、マヤランドの大統領は、
『そうです。我が国の生活手段は漁業で、魚を収穫して、他国に売りさばくのが主な外貨獲得手段ですから。あの生物が我が国の海底に居座ってからは、漁が出来なくなり、再三あの生物を駆逐して安心して漁業が再開できることを、漁業関係者から願われています。と言うか、ほぼ国中の民が願っています。近隣諸国では違う意見もありますが、我が国としては死活問題です。とは言え、少し脅かせば、他の場所に移動する可能性もあります。取り敢えず、周りに砲弾を撃って様子見です。止む負えない場合は攻撃して始末します。明日開始します』
真太たちは不味い事になったと思った。昼寝の邪魔はアバの逆鱗に触れる。USBB 大統領夫妻も懸念を顔に浮かべた。真太は、前世の事をまた思い出した。USBBの大統領夫人はレディ・ナイラと言う龍神だった。真太と同じくアバの怒りを懸念している。しかし、これでは説得に来た甲斐も無い。おまけにマヤランドの大統領から、
『大体、USBBがあの国に核の技術を教えたのではないのですか。USBBは、この事態は直接の責任はないものの、我々を止める立場ではないでしょうが』
等と言われてしまっている。わざわざ出向いたのに無駄足である。言われた大統領は御立腹の様子で、真太は、レディ・ナイラはどうするだろうなと思った。その時、横に居た柳は、
「あのマヤランドの方の夫人、何だか様子が変だな」
と言い出した。この対談ではさして意見を言うはずも無いので、あまりカメラに映らなかったが、対談が終わりカメラが引いて全員が映ると、たしかにほくそ笑んでいるように見える。ロバートは、
「あいつ、へらつきやがって、笑うとこじゃないだろう。もしかしたら何かに取りつかれているのかな。テレビ越しじゃなく、実物見たら分かるんじゃないかな」
と言い出し、真太もそう思った。
空港に着いただけで、次に何をすべきか分からなかった三人は、会談の会場に行ってみようと言う事になった。行きかけると、テレビはアバの実況中継に変わり、
『こちら日の国のカメラと、レポーター小田が解説します。どうやらあの巨大生物には側に子供がいる様で、今日初めて確認が取れました。大きさはかなり小ぶりで、ほぼこの辺りによく見かけるワニの成獣程です。ワニとしては成獣ですが、あの生物の周りに居るとあまりにも小さく、生まれたばかりという感じです。これでは攻撃が憚られます』
どうやら放送されていたのは、日本人向けのチャンネルだったようだ。そして生まれたての赤ちゃんと誤解されているのは、アボパパと見た真太である。ため息が出た。付き添い二人も察した様で、
「あれ、真太のパパだろ。結構、役まわり考えているんじゃないか」
「知らねえよ、何とかピンチを教えたいんだろうけど、その位でやめとかないと、アバが怒ってアボになんかしたら逆効果だな。みんなきっと凶暴で子供も食おうとしているとか言い出すだろうな」
「確かに」
三人でそそくさとその場を離れた。これ以上見てはいられない。あの大統領夫人の正体を見極めに、対談会場に急いで行こうとしていると、後ろでどよめきが起こっている。言わんこっちゃない。
『何と言う、血も涙もない生物でしょうか。赤ちゃんの生存が危ぶまれますが・・・。あっまだ動きがあります。早く逃げて自立して欲しいものです。ぼくぅ、早く逃げてー』
真太はため息が出た。しかし、これでアバもピンチが分かっただろう。
空港の側に迎賓館があり、どうやら、対談会場は間近だったようだ。三人で近くまで行くと、丁度両国の大統領がお別れの挨拶をしていた。あの夫人はやはり何かに取りつかれていると、三人で確かめ合った。遠目でしか見られなくて、正体までは分からないが、近づきすぎてこっちを感づかれるのも危ない。何せ、頼りのパパは今取り込み中である。
そう言う訳で、用心したのにもかかわらず、夫人がこちらをぎろっと見た。ほんと、がっかりである。レディ・ナイラもこっちを見て、眉を寄せている。トットと逃げるしかない三人である。
踵を返して走り出しながら、真太は、
「げっ、ついて無いな」
と言うが、時すでに遅し。あちこちからわらわらと、生きているのか死んでいるのか分からない顔の奴らが出て来た。柳が、
「わあー。キョンシーと違うか」
ロバートは、
「こりゃ本物の死人だ。どうする。死人はこれ以上死なないし」
と叫んだ。真太としては、火を噴いて応戦するしかない代物だと分かった。仕方なく真太は小さな火吹き龍の本性を現し、ふうふう噴いた。あちこちから、
「ここにも赤ちゃんが居るぞ」
と騒ぎが起こっている。うしろから、マヤランドの大統領が、
「生け捕りにしろ」
と言っているのが分かる。レディ・ナイラはこりゃだめだとばかりに、首を振った。
そのうち、真太の首に何かチクリと刺さった。麻酔銃で撃たれたらしいのが分かった。付き添い二人が、
「元に戻るんじゃあないぞ」
と叫んでいる。もちろんそれは無しである。ぞっとしたが、興奮している所為か、あまり眠くはならない真太は、
「俺は飛んで逃げる。お前らは適当に逃げろ」
と、二人に通じたかどうか、叫んだつもりになって、飛んで逃げる事にした。
ヒョロヒョロ飛んで逃げるが、前方から戦闘機が飛んで来た。泣きたくなる。で、泣いた。
そこへアバ登場だ。龍神の形状で現れ、戦闘機5機に次々に火を噴いた。中の兵隊さんは皆、パラシュートで逃げ出しているから、手加減したのだろう。はっきり言って散々である。
真太は、これでは叱られて当然の有様だと思った。どさくさに紛れて、地上の茂った木々の間に飛び込み人型に戻って、反省の涙を流した。泣いたらだんだん眠くなってくる。と言うより、先ほど撃たれた麻酔銃の効き目が、今表れたのかもしれない。しくしくねむねむしていると、アバが人型になってやって来た。前に会った時より大部人間っぽい。皮膚が鱗のままだが、形状はほぼアバである。
眠くて座り込んでいたので、真太は上目遣いにアバを見る。
「今日はほんとに反省していますから。反省案件です。全く」
「そうだろうな。ったく親子そろって、始末の悪い奴らだなあ。お前の親父にも言っておいたが、人間の動向は百も承知だ。それでも必死で眠って居るのに、お前ら親子は随分うるさくしていたなあ。まだ本調子じゃあないから、今日の所は帰してやるが、許した訳じゃあないからな。言わばツケだ。このままでは済まさないから、覚えておけよ。こうも危険に飛び込んでいくとは、あきれてものも言えぬわ。アボの苦労がしのばれるな、アボはこの件は責任は問わない。奴は安眠を妨げた落し前だけだな。お前の方はどうして俺の苦労を無駄にしようと画策するのか、理解に苦しむな。本調子になったら俺がしつけてやるからな。楽しみに待って居ろ。ふん」
アバはそう言って、立ち去った。アバは何処で調達してきたのか服を着ていた。俺のも調達して欲しかったなと思う真太である。自分の服はさっきの火吹きで燃やしてしまっていた。全く持って、残念な結果と思い知る。自分のスーツケースから、服を運ぶにはあまりにも眠すぎる。だが、眠るには南国といえども、服が無いと寒くて眠れない。そうこう悩んでいると、アボパパが服を持って迎えに来てくれた。やれやれである。