第2話 表舞台に出て来た龍神を舞台から何とか下ろしてしまいたい!
シンが帰ってから直ぐ、舞羅は手紙の文面を考える。パソコンを自分の部屋から引っ張り出して、リビングのテーブルにセットした。実の所、偉い人あてに手紙を書くなど自分の能力には入っていない。お爺ちゃんに知恵を絞ってもらうつもりである。そんな時、今迄ソファでうたた寝をしていたお婆ちゃんが目を覚まし、むくっと座り直すと、
「舞羅ちゃん、お手紙は手書きで書いた方が、心が籠っていると思うの。パソコンでササッと作ったような手紙は、印象が悪いんじゃないの」
婆さん、寝ていたんじゃあなかったのかと、大層な意見に驚く英輔爺さんである。しかし舞羅は、
「でも、でも、あたし、アルファベット手書きで書くのって、苦手よ。小学生が書いたみたいよ、きっと。汚い字だから。それに時間もかかるし」
「あ、そうよね。今時、筆記体のアルファベットとか習わないらしいわね。筆記体ならそんなに面倒じゃないんだけど」
「へえ、お婆ちゃんは筆記体が書けるんだぁ」
「そうなのよ、昔は皆習ったのよ。それにお婆ちゃんは舞羅ちゃんぐらいの時、南麦の国に居る現地の子と文通していたのよ。そっちに家族で渡った同級生の紹介でね。そうだ、あの頃大勢の日の国の人達が働きに南麦に渡っているのよ。だから日の国の言葉で書いても、通訳に不自由することは無いはずよ」
「お婆ちゃん、それホント。じゃあ、日の国語で良いのね」
「良いはずよ。日の国の言葉は分かる人が多いはず」
英輔爺さんは自分の出番は無いのが分かり、ほっとする所である。安心すると、美奈婆さんと交代になり、昼寝を始めた。
舞羅は、日の国の言葉で良いのなら、何とかかけそうだと意欲を燃やし、一応下書きを書いてみる。
《南麦の各国の大統領の皆様へ。
私は日の国に住む田辺舞羅です。初めまして。こうしてお手紙を差し上げるのは、大事なお知らせがあるからです。今日、ニュースで南麦の海底に居る巨大な生物の事を言っていました。そちらではゴゾラのようで危険だからと、何だか殺してしまうような話になっているようですが、違うんです。あの生物はゴゾラの様な怪物では無いのです。実は異次元に住んでいる龍神様なのです。本当は次元の違う所に居て、人間には見えないのですが、あの核ミサイルが飛ばされた時、龍神様はそのミサイルをご自分の体で受け止めて、海にミサイルごと落ちたのです。あの龍神様が核爆発をそのお力で、封じ込められたのです。龍神様は核爆発を起こさないようにしてくれて、皆を助けてくれたのです。龍神様は皆の命の恩人です。恩龍神様です。それで今、お疲れで海底で休んでおられるのです。感謝すべきお方で、危険な存在ではないのです。感謝こそすれ、始末してしまうなど、もっての外なのです。それより、何か龍神様のお気に触るようなことをしたら、お怒りになって、危害を加えようとした人を反撃されると思います。龍神様のお力はこの世で一番らしいです。お怒りになったら、誰も止める事はできません。お怒りになるのは、お昼寝を邪魔された時だそうです。だから、そっとしておいて頂きたいのです。何故私がこの事を知っているかと言うと、大統領の皆様には、信じがたいかもしれませんが。私の一家は、昔日の国に住んでいた龍神様の血筋、言わば末裔です。これは本当の事なのです。龍神様の睡眠を邪魔しないで下さい。私たちの命の恩人、恩龍神様です。お蔭で核の被害が無く過ごせているのです。このお願いをきっと聞き遂げて下さると信じています。そうでなければ、龍神様の怒りを買えば、大変な事になるのです。 日の国の龍神の末裔 舞羅より 》
・・・・横から舞羅の下書を読んだ美奈お婆ちゃんは、複雑な顔をしている。
「どう、お婆ちゃん。ちゃんと書けていると思う?」
「さっきから思うんだけど、どう書いても信じてもらえる内容になりそうもないわね。何だか妄想癖の子の手紙みたい」
「それは言えてる」
舞羅は知恵を絞って書いたものの、自分でもどうかと思う内容である。そうこうしていると、そこへ弟の翼と従兄弟で龍神アボの子の真太がやって来た。この一大事に二人してなにをしていたのやら。
「翼、何処に行っていたの。真太は何か用?」
「お姉ちゃん、やけに機嫌悪いな。どうしたの」
真太の方は、察した様で、
「不味い事になっているんだな。でも、俺はアボパパから、うろつくなと言われているんだ。困ったな」
と呟いている。舞羅は、
「うろついた所で、不味さが増すだけでしょ」
と言い出した。真太がむっとして言い返そうとするのを見た翼は、
「だから何膨れているんだよ。舞羅は。そんな顔は珍しいな。何年ぶりかな」
と言って、真太を遮った。実の所、真太が騒ぐと、騒ぎがテレパシーで分かり、昼寝を邪魔されたと御立腹のアバ様がやって来た事があり、翼は肝を冷やした。その内、舞羅の下書きが見えて、事情が分かる。
「わあ。物凄い事になるかならないかの瀬戸際だな。あっ、だけどこうなったら、真太を泣かして、アバを呼んだらいいんじゃない。すべて解決だ」
翼が思いつくが、舞羅に指摘される。
「で、誰が真太を泣かす訳?」
「僕じゃないね。それに真太は僕じゃあ泣かないし」
真太は、
「俺自分で足の小指でもぶつけて泣こうかな」
「ふん、そんな事で来るわけないでしょ。取り敢えずこの手紙、綺麗に書き直して速達で送るから」
辛うじて前世の記憶を思い出した真太は、
「手紙出す時間無いだろ。ファックスにしろよ」
と知恵を出す。
「そんな知恵有るなら、文面も工夫できない?」
「それは無理」
三人であわあわしながら手紙の準備をして、一番攻撃に強気な国、マヤランドの大統領宛にファックスした。真太は余り良い手段じゃあない気がしていた。信用されないに決まっている。
翼が、
「やっぱり真太を誰かが泣かして、アバをこっちに来させるのが一番だと思うな」
とまだ言っている。舞羅がまた、
「誰が泣かす?」
と言い、先程の繰り返しとなった。
真太は、
「アボパパが何とかするんじゃないかな。今は寝ているけど、目を覚ますんじゃないかな。騒ぎに気が付いてさ。アバを逃がすなら、僕もついて行きたいし」
と思いつき、家に戻ってみた。
家に戻ると、アボパパは既に出かけてしまっていた。
「わぁ、もう行っちまったのか。俺もついて行きたかったのに」
ママは、
「パパに、真太は家に居させろって言われているのよ。だからお留守番よ」
「だけど、アバがこの間みたいにパパに怒ったら大変だよ。僕が居ないと止められないよ、きっと」
「そんな怖い可能性言わないでよ。ママはどうすりゃいいの」
「南麦大陸に行く旅費ちょうだい。アバが怒らないようにしないと」
ママは仕方なく真太に旅費を渡すことにした。
「ひとりで行けるの。でも。あたしは千佳由佳がいるし」
「ロバートに頼んでみるよ」
「そう、でもご両親が何て言うかしら」
「あの人達は、こういう事すごく理解があるんだ」
そう言って、ロバートの家に走って行くと、そこには柳まで居た。この二人また仲直りしたらしく、最近よくつるんでいる。そうなると二人に事情を言うしかない。余りニュースなど見ない筈の二人だが、真太が説明するまでも無く事情は知っていた。それで、
「パパは俺に家に居ろって言って出かけたけれど、アバの機嫌が悪くなったら、俺しか、たぶん止められないんだ。だから俺追いかけたいけど、ママが俺がひとりで行けるのか心配していて、だから一緒に行ってもらえないかなと思って、二人とも旅行した事あるだろ。俺は今世ではない。それに、前世の記憶は最近大事な所以外は、あやふやになっているから」
「わかった、行く、行く」
二人ともかなりの勢いで引き受けた。真太はかえって懸念を感じる。この二人、旅行は暇つぶしじゃないんだけど。分かっているかな。