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第10話 シンのピンチ、そして舞羅たちも

 

 シンが戻ってきたとアボパパが言うのでほっとした真太であるが、気のせいかパパの言葉が歯切れが悪い気がして、

「シン、元気そうだったの」

 と聞いてみた。聞かれたアボパパは、感付いたのだろうと思い、こういう大事な事は隠す訳にはいかないと判断した。

「それがな、シンは生きてはいないのに、傷だらけなんだ。聞くと例の地獄の毒が、真太の刀に塗ってあって、そいつを持っている奴と戦ってやられたそうだ。パパはそれを聞いて変な話だと思ったが、大神様のいらっしゃる霊界に戻れば治るだろうとシンが言うから、そうかもしれないとパパも思ったんだけどな」

「けどなって」

「霊獣が通称怨霊龍になっているのに、現世の生身のように傷がつくとは、普通じゃないからな。どうかなと思った」

「どうかなって」

 いつに無い真太の追求である。

「治るのかどうかなって思った」

「治らないかもしれないって言うの」

「いや、俺がただそう思っただけだから」

 真太は眉をひそめた。

 そこへ案の定というか、シンがふらふらとやって来た。

「シン、どうしたの」

 真太はシンに駆け寄った。アボもシンを支えてソファに横たえた。

「霊界に戻る力が無くなっていた。アボ、どうも私はこれが最後のようだな。地獄の毒を甘く見ていた。だが、お前達の仇は討つことが出来たと思うぞ。毒を作っていたらしい奴は始末した」

「そうだったのか、ありがとうシン。おまえには何から何まで世話になっておいて、まだ恩は帰していなかった。すまない、何もしてやれなくて」

「そうかな、そこに居る子は恩返しの様な気がしていたが」

「いや、こいつもお前がくれたような気がしていたんだが」

 真太は二人の会話の意味がさっぱりつかめず、ただ、シンの怪我が不味い事は分かっていた。

「うぅっ、シン死なないで。あ、もう生きていないのに、どうして死にそうなんだよぅ」

 と、泣き出し、それでも思いついた。

「そうだ、烈んところの誰かがクスリ造っていたんだった。貰いに行かなきゃ。パパ飛んで行ける?」

「俺は遅いぞ、イダに頼もうか、いや、あいつはせっかくアバに許されて、役を貰ったんだった」

 段々何だか透き通って来ている感じのシンは、

「アボ、もう手遅れじゃないかな。それにその薬は、御神刀で切られた時に効いた薬だろう。この毒に効くとは思えない」

「そんな事ない。絶対試して見なきゃ。僕が行って来る。戻ってくるまで生きていてよっ」

 真太は決心して立ち上がった。

 シンはヘラリと笑い、

「その約束は出来ないな。第一もう死んでいるのに」

「うあぁん、死んでない、死んでない」

 真太が大声で泣きだす。千佳由佳、それにミミまでつられて泣き出し、大騒ぎになった所で、

「ほれ、真太持って来てやったから、気が済むまでシンに塗ってみろ」

 アバがクスリを取りに行ってくれたようで、人型になってやって来た。まだ鱗の皮膚のままである。

「あっ、アバありがとう。まだ本調子じゃないのに行ってくれたんだね」

「お前らがキンキン泣くから寝ちゃあ居られないんだ」

 アボパパは、

「睡眠を邪魔してすまなかった」

 と責められる前にすかさず謝った。アバはせせら笑って睨んだが、子供たちの前だし黙っていた。

 真太は、クスリを手に取りシンの傷に塗ろうとする。しかし、シンがもうそこに居ないかのように、真太の手は空を切った。

「ひっ、もう消えかかっている」

 しかし、アバに、

「あほう、お前がこっち側に来い」

 と言われたので、真太の居る現世とシン達の居る所が違っている事に気が付いた。どうするんだったかと思うと、アバに耳を引っ張られシン側に行けた。で、シンに薬を塗ろうと試みる。しかし結果は同じで、真太の手はシンには触れることは出来ず、空を切ってしまった。

 アボは手遅れだったかとがっくりするし、真太はさらに大声で泣こうと、大口を開けて息を吸った。

 アバは腹を立てたらしく、

「ええい、またうるさく泣く気か、これでも食らえ」

 と残りの塗り薬を真太の口の中に放り込んでしまった。

「うえっ。にがっ」

「アバ、酷いじゃあないか。これは食い物じゃあないだろう。飲んだのか、真太」

 アボパパは慌てて、吐き出させようとするし、瀕死のシンまで、瀕死と言う表現は違っているが、とにかくシンも慌てて吐き出させようと、真太の口に手を突っ込んだ。そして、

「おや、真太に触ることが出来ておるな」

 とか言い、気が付いたように手の傷をしげしげと眺めた。

「どうやら、真太の口の中の薬に触ると治っておるな」

 と言い出す。

 アボパパに、

「真太、薬吐き出せ」

 と言われた真太は必死でえづいた。で、シンの上に吐き出した。

「うわっ」

 シンは悲鳴を上げるが、傷は瞬く間に治ってしまった。

 ぺっぺっとばかりに苦い薬の最後を吐き出し真太は、アバにヘラリと笑い、

「俺のつばと混ぜたらいい薬が出来たね。さすが、アバのアイデアは凄いね」

「はは、そうだろ」

 笑ってアバは立ち去った。

「シンは生き返るし、アバの機嫌は治るし、良かったねシン」

「その様だな。真太には何度も言うようだが、私は死んでいるんだが、まあ良い。おかげで助かったな。真太は良い子だな。アボ、世話になった。二人育てるのは大事だな。私も剣術を真太に教えに来ようと思っておるし、イヅにやる気があれば教えよう」

「そりゃ助かるな。剣術は俺が真太に教えられることはもう無いからな。今日の所は霊界に戻ってゆっくり休んでくれ。仇を討ってくれたのは本当にうれしいな。ありがとう、シン」

 と言う事で、今回の所はめでたしめでたしで終わったのだった。


 真太達の家でやれやれで終わった今回の事件であるが、一方こちらは舞羅達の家である。

 眠って居た翼は飛び起き、

「舞羅、シンはあの毒でも死ななかったようだな。おまけに毒男はシンに討たれているぞ」

「しっ、声が大きくってよ。お爺ちゃんは年寄に似合わず耳が良いの。あたし達はバレていないから、まだ何か手がある筈よ。でも、シンがあたし達の家じゃなくて、あっちに行ったのは変だと思わない?」

「だからバレているんじゃあないか。あいつに泳がされているとしたら?」

「だったらもう行動に移すべきでしょうよ。あたくし達に敗北なんて似合わなくてよ。シンにはこの争いから手を引いて貰わなくては、魔王の勝利は無いわねえ」

「それは、始めから分かっている事じゃないか。俺ら魔族の生き残りの安泰は、あの新米の魔王の手腕にかかっているからな。次の手はシンの精神的ダメージだな。これはうまく行くかどうか分からないが、試しにこの翼と舞羅を始末してみよう。舞羅の魂は厄介だが、毒男の毒でまだ眠っておるようだな。この間に始末するか、今度はお前の番だぞ」

「何を言っている、そんな汚い仕事はお前の役では」

「鬼大夫、舞羅の魂に近づけぬほど弱いのと違うか、さっき憑りつくときに俺に眠らせて地獄に幽閉しろと命令なんぞしおって、大きな顔をして、もしや俺より力が無いのじゃあないか」

「愚か者、力が強いものほどあの舞羅には近づけぬのじゃ。お前の力で始末をおし。お前なら舞羅に近づけるはず、お前程度の小物が舞羅の始末には合っておるのじゃ。名前も鬼小僧で小物の名であろうが」

「なにおっ」

「おや、やる気かい。試しにあたくしと戦ってみるのか。愚か者。お前を生かしておるのは舞羅の相手をさせるためぞ。言う事を聞かぬものなど、存在させておく意味が無いのぉ。お前の替わりの小物なぞ、まだ幾らでもおるぞ」

段々凄味が出て来る鬼大夫であるが、そう言われてもこの鬼小僧、もしやこの鬼大夫より自分の方が強いのではと思いこんでおり、戦いに挑むことにした。

 頭の良くない奴の割合が霊獣界より魔界の方が多いのは、統計がある訳ではないが、事実であると霊獣たちは把握している。



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