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58:

「なぜ……」


俺は辛うじて呟く。はじめから気づかれていたことに驚いた。

肯定していいのか、否定していいのか。まごついている俺を無視して伯爵は話し続けた。


「どちらでもいいことだ。レイフは戻ってこない」


意気消沈した呟き。


「入れ替わる前、オーウェンが秘密裏に言い残した伝言を伝えよう。


自分は消える。

次に合う時は別人になっている。

別人になった自分が、出生の秘密に疑問を持つ時があれば、魔導を研究する小部屋に来るように伝えてほしい。


と……。

だから、屋敷の部屋も研究のための小部屋もそのままにしてある。気になるなら、覗いてから戻るといい」

「わかりました。ありがとうございます」


もういうことはないと生気を欠いた伯爵は沈黙した。

時間がない俺は伯爵に頭を下げ、慌ただしく部屋を出る。


元の自室へと向かった。


出生の秘密は驚きだったが、さらに謎が浮き上がってきた。わき目もふらず、研究用の小部屋へと飛び込んだ。


部屋をぐるりと見回す。


少しほこりっぽくなっているとしても、ここを去った日に比べて、別段変化は見受けられない。


どこかに隠し扉や、隠し棚などがあるのかもしれないと考え、念入りに探索してもなにも見つけられなかった。


部屋の中央には、円形の模様が施されている。

まるで儀式を行う陣のようだ。


誘われるように俺は足を踏み入れた。


陣の中央に立つ。


「……」


何もおきない。俺はふっと吹き出した。

今まで、真剣になにかを求めてきたことが、急に愚かしく感じた。


張りつめていた心が解ける。

今まで、なにをそんなに求めてきたのか、意味が分からなくなった。


やるべきことはここにはない。


我に返った俺が、踏みつけた陣から出ようとした時だった。


がんと脳天に何かを叩きつけられたかのような重みを感じ、膝をつく。追いかけるように激しい頭痛に見舞われた。


両手を床につけ、拳を握る。痛みで吹き出した汗がぽたりと落ちた。


この痛みには覚えがある。


転生直後、記憶を取り戻した時だ。


あまりの痛みに俺は床に倒れ込んだ。







―― 痛い痛い。


のたうち回っているとどこから声が聞こえてきた。


『よくここまでたどり着きましたね。オーウェン。いや、自意識としては、如月 悠真さん』


声が響くと頭痛が消えた。

余韻がじんじんと残るなかで、顔をあげる。


『私こそ、本当の、と言えばいいかな。十八歳までのオーウェンです。

あなたは私で、私はあなた。私はずっとあなたと共にいた』


目の前にいたのは、俺そっくりの人物。王太子よりさらに似ており、一卵性双生児の片割れのようだった。


『あなたの前世の一人です』


―― 前世? 今世の間違いだろ。


『いいえ。私は十八歳で服毒し仮死状態になった。そこから、ミデオ国の孤児になり、奴隷となった。当時はまだ名前を憶えていたのでオーウェンと名乗っていました。


そこから未来に転生し、歴史を学ぶ如月 悠真になった。さすがにここまでは記憶を持ってくることが叶わず、奴隷時代の名前より古い記憶は抜け落ちてしまいましたね。


如月 悠真としての人生をまっとうし、私は再びオーウェンに戻った。


あなたの記憶と私の記憶を繋げると、そういう流れだと理解できました。


ここまできれいに転生できるとは。期待以上ですよ』



―― ……まるで、転生すると見込んでいたような口ぶりだな。



『ええ、そうなると確信めいた予想はしていました。 


遅効性の毒を服薬し、意識が薄れかける直前に解毒の薬を飲んだのです。それにより、私は一時的に死に、転生を果たした。

かけでした。うまくいくかは分からなかった。


ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていました。


()()暗殺される未来が見えていた私は、その暗殺される未来を覆したかったのです。

同じ毒で、()()()()()()なんて、まっぴらじゃないですか』


―― 二度?


『ええ。意味が分からないという顔ですね。


あなたも私であるのに、私のことを知らないなんて、変な気分だ。


私はオーウェン。あなただけでなく、私にも前世の記憶があります。


十八歳ま()でのオ()ーウェン()の前世の名は、マーギラ・スピア。現王の兄であり、あなたの肉体の父ですよ』

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