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56:

俺は両開きの扉をあけ放った。


ベッドにいる王が腰をあげる。ガーラは身をよじり、顔を隠そうとした。

俺にとっては隠れようがどうしようがどっちでもいい。


暴れられても困る。

大人しい王太子とは違い、暴れそうな二人を俺はすぐさま拘束することにした。


王太子が寝ていた天蓋付きのベッドよりさらに豪奢で広い。

その天蓋を支える柱に俺は手をつけた。


木でできた柱から無数の枝が伸びて、格子状に張り巡らされる。


怯えるガーラを残し、王が飛び起きた。

脂肪で膨れた腹を抱えていながらもとても俊敏な動きだ。


俺は意に介さず、二人用の牢を作り上げた。


飛び起きた王が格子に手をかけた時には牢はできあがっている。


憤怒の双眸を光らせる王が俺に向かって吠えた。


「なぜだ。なぜ、お前がここにいる!!」


殿下と間違えたか。

暗がりでは仕方ないだろう。


「俺は殿下ではない」

「そんなことは分かっている!」


分かっている?


「お前のその顔。その顔は……」


わなわなと王が震えている。


「俺の兄は死んだはずだ! マクガ家所縁の娘とともに!!」


何をいっているのか分からなかったものの、一瞬で閃く。


オーウェンの父が誰なのか。

俺はそもそも知らなかった。


母がマクガ家と縁戚のある女性。それは覚えていた。

だから、伯爵は魔力のある俺をレイフの兄弟となるよう、養子にしたのだ。

それだけ分かっていれば十分だと思っていた。


父の存在を気に留めていなかった。

それだけでなく、そもそも両親についてほとんど記憶が残っていない。


十八歳で俺と入れ替わったオーウェンの記憶から、親の記憶がごっそり抜け落ちていたのだ。


はじめからオーウェンにとって重要と感じられない人物は記憶に残っていなかった。


逆もありか!


重要な人物についての記憶がないことを隠すために、関わり合う人々の記憶を意図的に思い出せないようにしていたというのか!!


誰が、いったい、なんの目的で。

混乱しながら、平静を装い、低い声で問うた。


「俺はそんなに、兄に似ているか」

「兄ではないのか……」


亡霊でも見たかのように怯えていた王に血色が戻る。


「では、お前は兄の息子?」

「かもしれない」


オーウェンの出生を俺は今まで気にしたことが無かった。

その事実を知っているのは……。


該当者は一人しか思いつかない。


伯爵。

伯爵なら、なにかを知っているだろう。


「今さら、何をしに来た。仇でもうちに来たのか」

「そんなつもりはなかったが……」


ぽつりと呟いた俺は顎を撫でた。

上の空で、考え事に耽る。


今後の動きを、今一度改めねばならない。


「ならば王位狙いか?王位ならやろう。そうだ、王太子。あいつの命をくれてやる。息子と入れ替われ、そうすれば、自動的にお前は王位継承権を得られる」


俺は王と名乗る俗物を睨みつけた。

ひっと喉から悲鳴をあげて、王は仰け反る。


「もとより、そのつもりだが」

「ならば、それで手を打とう。早く、この、牢から解放しろ」

「……」

「黙っているなら、人を呼ぶぞ。大声を張り上げれば、ここは城で、お前はやってきた騎士達に捕らえられることになる」


早く決断しろと迫る王にも見えるように俺は指を鳴らした。ただのパフォーマンスだ。


すると、口を動かすだけで王の声は聞こえなくなった。


ベッド丸ごと空間を切り離し、別世界を作り出したのだ。


空間内の空気は限られている。騒げば酸素が減り、死を早めるだけである。

俺が戻るまで、もっても、もたなくても、どっちでもいいことだが。


俺は騎士に目を向ける。


「これを監視していてくれ。少し場を離れるが、明け方前には戻る」


俺は窓辺に向かう。開け放った窓のテラスから、伯爵領へと向かい、空へと飛んだ。


伯爵なら、オーウェンの出生について、なにか知っているはずである。

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