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殿下は当日の流れを語った。
近習のみでレイフの功を労う小規模な宴を開いた。
最中に洗われた王は、レイフに貝殻程度の細工の施した小箱を持ってきた。
小箱には王が愛用する遠くにある塩湖から採れる塩が入っていた。
王はレイフに塩を贈答し、それに合う酒も提供して去っていった。
労いに来た王がよもや毒を盛るとはだれも考えない。
酒と塩を疑うことはなく、レイフは盃の縁に塩を塗り、酒を楽しんだ。
殿下は語る。
「酒量が少ない私も王の差し入れの酒が気になり、レイフとともに飲んでみた。その時、舌に馴染みのある痺れた感触が走った。
辛い酒だったので、塩に紛れた毒の味は分かりにくい。
この毒は蓄積し、量が増えると致死に至る。小箱の毒の量はちゃんと計算されていたのだ。
わざわざ高価な酒を父が差し入れたのも、確実にその毒の塩をレイフが口にするように仕向けるためだろう。
実際、レイフは酒がすすみ、小箱の塩を使い切った」
俺は必死な殿下を冷ややかに見下す。
怯えながら、殿下は「ここに小箱がある」と、サイドテーブルの引き出しから、貝殻ほどの小箱を取り出し、怯えながら俺に恭しく掲げた。
俺はその小箱をつまみ上げる。
「宴の席で、レイフが倒れたことで、当初、私の暗殺が疑われた。レイフは倒れ、すぐさま屋敷に戻った。
その後、存命ということで、表向きは、ゾーラ嬢が代行を務めているが、俺も王もレイフが死んだことは知っている。
小箱はどさくさに紛れて私が握りしめて持ち出した。中は洗っていない。塩と微量の毒が出るだろう。
おそらく、父は私が母に差し上げていた薬をくすねて、毒にしたのだ。足がつきにくく、私に罪をきせやすいように。
王である自分がレイフという若者にいいように操られていることを、面白くなく思っていたからな!」
自嘲気味に殿下は口角をあげる。
「その場で、王を告発しようとは思わなかったのか」
「私が? 父を? できるわけない。父を王を罪人として告発するなんて! そんな恐ろしいことを!!」
俺はベッドの天蓋を支える柱に手をかけた。
木部から枝が伸び、ベッドをぐるりと格子状に取り囲んだ。
あっという間に、殿下の居場所はベッドから牢へと早変わる。
俺は変わらず、無感情に無能な殿下を見下ろしていた。
「しばらくそこにいてもらおう。
今夜中に決着はつく」
殿下に背を向け、部屋を出た俺は、監視役に騎士を一人残し、王がいる寝室へと向かった。




