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40:

根菜の皮をむいていくジェナを俺は膝に肘をついて眺める。


「ジェナはどうして戦場にいたんだ」

「……」


聞かなくても半分くらい想像はついている。


「……悪いことをしたから」


ジェナはぽつりと答えた。


孤児であったり、幼い頃から娼館で暮らす者ならば、どんな処遇がそこに待っているか分かっている。

彼女は、まるでそんな道理など知らない態度をとっていた。あの場であんな態度をとったとなれば、それなりの家庭で育っていた可能性がある。


現に、働きぶりを見ていれば真面目そのもの。

娼館で働いていた者なら、身体を売った方が楽に儲けられると、厨房の男や家令を誘いそうなところ、そのような素振りもない。


それ以上はなにも言いたくないと無心でジェナは根菜をむいている。


彼女に興味がわいた俺は立ち上がり、厨房へと向かう。

驚く料理長から、半ば奪うようにナイフを一本借りてきた。


俺がいなくなってほっとしたのかジェナの手際が良くなっている。

再び木箱に座ると、彼女はぎょっとして手を止めた。

俺は根菜を手すると、ナイフで皮をむき始める。


ちらりとジェナを見ると、手際の良さに驚いているようだった。


一人暮らしで台所に立っていた前世を持つ男の手際をなめてもらっては困る。

するすると皮をむく俺は手元を見つめながら問うた。


「家族はいないのか? 俺が拾って来た手前、帰りたい家があるなら、帰してやらないでもない」


おそらく帰る家はない。

俺は分かっていて聞いていた。


「帰る家はないです。私は娼館に売られたから……」


根菜をむきながら、観念したジェナが身の上を語り出す。


両親と兄妹の四人家族だった。

ある時、住み込みで働いていた城に夜盗が入り、城内の人々はほぼ全員殺された。ジェナは一人隠れて、難を逃れることができた。

身寄りがなくなり、母方の祖父母の家を訪ねる。祖母だけがいたが、その家も実質母の弟がしきっていた。

祖母が亡くなり、弟夫婦が仕切る家にいずらくなる。

国の内情もどんどん悪くなり、ジェナは娼館に売られることになった。


彼女の生い立ちは予想通り、それなりの家で育ってきたことをうかがわせる。

不本意な中で娼館に行くことになり、馴染まなかったのだろう。


ジェナの育ちは、前前世の俺よりずっとマシだ。


前前世の俺からしてみれば、ジェナでも十分高嶺の花になるだろう。

このご時世で、両親に愛され育まれ育てられた過去を持つのは稀である。


(働き者なところも悪くない)


どこかの貴族の城で両親が働いていたというだけあり、仕事に慣れるのも早い。


俺は根菜を向きながら、しげしげとジェナを観察する。


平民の働き者の娘。それが彼女の本質だ。


前世の俺も平民だ。

世の中に広く知れ渡るような有名人ではなく、名もなき一市民だった。


家政婦もおらず、電気製品に助けられて生き、それなりの年まで働き、晩年も慎ましやかに生きた。趣味で歴史を学んだり調べてたりする地味な人生だった。


ジェナといると、魔導士オーウェンという仮面が剥がれ落ちる。


現在の自意識に強い影響を与える如月 悠真に還るようだ。


(この娘、いいかもしれない……)


新たな人生の道筋が見えてくる予感の訪れを感じた。



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