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魔導士オーウェンはどこへ消えた!?  作者: 礼(ゆき)
第一章 三度の転生
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4:

裕福ではないが、共働きの両親の元で、俺は恵まれて育った。


前世と違い二十年以上、勉学に励む期間がある。

同年代と戯れる時間は、前世では経験のない有意義な一時だった。

手厚い教育が当たり前という時代に感謝の念さえ覚える。


同世代は勉強なんてと不満を漏らすが、それは産まれた時代がいかに恵まれているかを知らないだけだろう。そう言いながらも、勉強する者は勉強する。

俺も同じようなものであった。


大学を卒業し就職した。


大学で出会った最初の妻と結婚し、娘が産まれた。

娘が七つになる頃に離婚。

生活時間が合わなくなったことが理由だった。


社会人としての初の独身を謳歌し、数年後に、再び転職先で仲良くなった女性とつきあい結婚する。

子どもは二人。娘と息子が産まれた。


生涯子どもは三人だった。


最初の妻の子どもは俺が四十半ばで結婚した。

父として、結婚式に参加させてもらえた時は、本気で泣いてしまった。


程なく孫が産まれた。

四十代後半で孫を抱くとは思わなかったが、人生に余裕が出てきていた俺は子どもを得た時とはまた違う喜びを感じた。


二人目の妻の子は、二人とも年齢を重ねてからの結婚式になった。おおらかに育て過ぎたのかもしれない。しかし、結婚後は立て続けに孫が産まれ、それから十数年、俺の周りは祝い事ばかりで、にぎやかになった。


子どもがいると、人生が華やぐものだ。


七十まで働き、一端、仕事から距離を取る。

孫もそれなりに大きくなり、祖父母の家に寄りつかなくなった。


俺は十代の頃から、暇があれば、魔導士オーウェンの足跡や資料を集めることをライフワークにしていた。


仕事や家庭のことが一段落し、長年の夢であった、帝国へと飛行機を乗り継ぎ旅行に行った。目当ては、魔導士オーウェンの仮面を飾る帝国美術館だ。


魔導士オーウェンが着ていたローブや人の背丈を越える杖も飾られていた。が、やはりメインは仮面だ。

顔全体を覆いつくす、白地に鮮やかな色彩で装飾をほどこされた仮面。

それは前世の俺が最期に見た仮面で間違いなかった。


(俺を殺した男の仮面を、こんな風に再び見る機会がこようとは思わなかった)


奇妙な感慨を覚える。

懐かしさのような気持ちだ。

同時に、胸を空くような晴れやかさも覚える。


魔導士オーウェンは前世の俺を殺してから、暗殺されている。


どんなに才能があっても、能力が高くても、死んでしまっては意味がない。


今の俺の人生は平凡だ。

魔導士オーウェンのような華やかさもなければ、誇るような才能もない。


でも長生きをした。

家族には恵まれた。

それなりに健康に生きてこれた。

恵まれた時代に産まれてこれた恩恵を十分に受けることができた。


短命に終わった前世。

歴史に名を残しながらも、暗殺された俺の前世を殺した魔導士。

七十を超え、天寿を全うできそうな今の俺。


この三者を比べた時に、今世の人生を一番良い人生だと思う。


それなりに働き社会に貢献し、長生きできた。

平凡で、とりえも特にないかもしれないが、時代と家族には恵まれている。

仕事はどうしても後進に追い抜かれていく。それは寂しくもあった。

だが、子どもや孫、ひ孫の顔を見るたびに、何のための仕事だったのかを実感する。

子ども達の笑顔は俺の人生の誇りだ。


何度生まれ変わろうとも、こんな人生を生きたい。

そんな生まれ変わりの体験をさせてくれた神に感謝しながら、俺は家族に囲まれて息を引き取った。


享年九十二。


悔いはない。

とても充実した人生であった。








恵まれた人生を生ききった俺が生まれ変わることはもうないと思っていた。

なのに、俺は三度目の転生を果たす。

しかもそれは、暗殺によって命を落すことになる魔導士オーウェンであった。




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