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39:

「助けていただいたのに、あの時は、驚きのあまり声がでなくて。

ずっと、お礼を告げたかったんです。

でも、オーウェン様はとても偉い魔導士という職業の方だと聞いて、私から声をかけるのは畏れ多いと思っていたんです」


やはり、助けた直後はショックで声が出なかったようだ。


直後の生気の抜けたような顔にも赤みが差している。普通に働き、食べられている状況に安心し、英気が養われたのだろう。


「偶然だ。たまたま、目があったからな」


いや、本当にそうだろうか。

俺が前前世で見た最後の光景で、ジェナは助けを求めていた。

あの時は目を背け、巻き込まれないようにこそこそしていたのだ。


偶然目があったとはいえ、助けてほしがっていた女を助けたのは、ある意味、俺の自己満足。


前前世の俺にはできなくとも、今の俺にはできるのだ。

弱者から強者へと立場を変えたぞと、証明しただけだろう。


俺は腕を組んだ。


まじまじと女を見つめる。

日がさんさんと降りそそぐなかで働く女は少し焼けて健康的だ。

娼館にいただけあって、顔立ちも整っている。


なにより働くことをいとわない姿勢は、拾ってきた者として鼻が高い。


「ここの仕事は慣れたか」

「はい」

「なにをしているんだ」

「主に、洗濯と掃除に料理補助です。料理補助は、水くみと料理の下ごしらえを担当しております」

「では、今は料理の下ごしらえ中か?」

「はい」


俺は二つある木桶の一つを持った。ジェナは悲鳴をあげんばかりに驚いた顔をする。


「手伝おう」

「いいです。これは私の仕事で、木桶二つ分ぐらいもてますから」

「気にしなくていい。ジェナを拾って来たのは俺だ。仕事ぶりを確認するだけだ」


百年以上生きているのに、どうしてこう朴訥とした答えしかできないのか。

もう少し、気の利いたことを言えればいいのに。

歳を取っても、慣れないことは不器用なままだった。


俺は踵を返す。

厨房の裏口に向かって歩き始めた。


ジェナは慌てて追いかけてくる。


軽々しく口を利くのをはばかっているのか、俺の足が速すぎるのか、彼女は終始無言だった。


裏口で水桶を持ってジェナと俺が現れると、仮面を見た途端に、見習いの料理人が大慌てで奥に引っ込んで、料理長を連れてきた。

揉み手で頭を下げる料理長に、ジェナを拾って来たことを言い訳に仕事ぶりを見たいと告げる。


大慌てになる料理長と少々問答を繰り返し、俺は押し通した。


その間、ジェナと見習いはあんぐりと口をあけて俺を眺めていた。


次のジェナの仕事は厨房の出入り口外で、桶一杯の根菜の皮をむくことだという。


木箱を逆さに座ったジェナの傍に、俺もまた裏返した木箱に座った。




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