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公爵家の地下には秘密の闘技場があった。
魔法を使うなら、野外の方がいいのではと思ったが、この時代の魔法は小ぶりであり、問題がなかった。魔導士それぞれの力量を見ても、建物を破壊するほどの威力を持つ、大仰な火炎や無数の風刃などを扱う技量に至っていなかった。
闘技場の上にある建物が壊れなかと心配した俺は少し損をした。
とはいえ、いずれは野外でしか技術を披露できなくなるだろう。
ゾーラの能力しかり、兆しは見えている。
闘技場で、連日戦いを繰り広げられるものの、未来で言うところの武士道や騎士道精神にのっとった戦い方であり、礼に始まり礼に終わる、とても品の良い戦いの場だった。
もっとこう血生臭い戦いになるのかと思っていただけに拍子抜けした。
四戦終えた段階で、全勝は俺とゾーラのみとなった。
最終戦を明日に控えた夜。
俺とレイフは公爵の執務室に呼ばれた。
俺たちは執務机に座る公爵の前に立つ。
年配の男はまるで俺たちを値踏みするように隅々まで見回した。
「二人を呼び出したのは他でもない。明日はゾーラには負けてもらうことにした」
その一声に驚きはなかった。
未来から見ても、勝者になるのは、俺かゾーラのどちらかになるのは目に見えている。
片や意味が分からないレイフは真顔で問う。
「なにか理由がおありですか」
すると公爵が顎をしゃくり、部屋の奥に目を向ける。
灯が届かない一角があり、その闇が幾ばくか動く素振りを見せた。
闇に紛れていた男が前進してくる。よたよたと体を不自然にかしぎながら前に進む。
あらわれた男の姿に俺たちは目を見張った。
顔には包帯が巻かれており、片目を包んでいる。
耳にも包帯がかかるようであった。
なにより、ひざ下の足を失っている。
何かをしゃべろうと口を動かしているものの、声が出る様子がない。
「彼はミデオ国においての我々の仲間だ。
二十四家は各国に六家ずつ別れているが、国に関わりなく交流がある家がある。
今、私たちが行っている戦いは他の三国でも同じように行われている。
そこにいる彼は、ある家の代表者として魔導士とともに戦った。見ての通り、彼は四敗し、あの姿になった」
「四敗ですか、三敗ではなく」
「四敗だ。彼の舌は抜かれている」
俺が怪我をする男を凝視して、レイフの問いに答えた。
これが本来の戦いなのかと肚が冷える。
「ミデオ国だけではない、他国も同じような状況である。我が国のように穏便に進まず、けが人も多い」
「なぜそのような事態に。ただ、四国のなかでどの国に統一するかを決するだけの話ではないのですか」
苛立つレイフとは裏腹に俺は冷静になる。
おそらく、この二十四家にも派閥があるのだ。
二十四家が国が国を作り出し、また破壊しようとしているなら、この家々が実際的な世界の支配者のように見えるが一枚岩ではないのだろう。
公爵は首を振った。
「今回は、非常に厳しい事態になる。
戦争は物を壊す。壊して直す。
壊す側、壊される側を調整することで、戦争はいくらでも長引かせられる」
そこに多額の金が動く。
恐らく、戦争を行うことによって私腹を肥やす目的の家があるのだろう。
「戦争を金儲けの場にしようというのですか」
レイフの声が怒りで震えている。
「我々は不利な状況にある。
残りの三国が我々と対立する家々が勝ち上がってきた。
その様な場に……」
娘を行かせるわけにはいかないと、公爵は言いかけたのだろう。
その気持ちは分かる。
俺も前世で娘を得ている。
結婚式に涙し、孫を抱いた時もおぼえている。
公爵が十代の娘をその様な場に戦いに出向かせたくはない。
ゾーラが俺を暗殺する可能性があっても、それは未来であって今ではない。
「スピア国以外の国々の代表者に好戦的な思想の家が集まることになった。
たとえ、今回四国の統合が目的であっても、その道程は、これから集う四人によって決定される。そして、三年後、集う四家の間で、代表の家が決め、残りの三か国を取り込む国が決まるのだ」
その三年後に俺が勝ち、スピア国が世界を統べる。
シナリオは見えた。
ただ、その道程はあまり嬉しい道のりではなさそうだ。
こうして、俺は翌日、ゾーラと戦い、勝った。
ゾーラが負けたことで、敗者の妹の髪を一房切らせて、スピア国の儀式は終了した。
こうして、四か国の代表として円卓に座るレイフの横に俺は侍ることになった。




