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美容のために魔法の技術は磨かれていたのか。
ありえない。
ゾーラは俺の呆れたようなぬるまゆい視線に気づいたのか、かっと頬を赤らめて、挑むように睨んできた。
「あなたも父のようにそんなつまらないことと言うのだろう」
目的が目的なだけに、その技術は軽んじられていたというわけか。
にしても、髪を奇麗にしたい一心が、魔法の技術が向上につながるとは……。
どこの世でも、年頃の娘の考えることは似かよっているのか。
十代の俺だったら、温度調節をして熱風や冷風を駆使できるようになれば、こんなことができてすごいだろと吹聴して回りそうなところだ。
いや、公爵のような父をもてば、そんなことと言われるのかもしれない。
近代でも、上司に提案し、そんなことと投げ捨てられた技術が、後の世で脚光を浴びることもあった。年寄りには、新たな技術の価値が見えない、そういうこともあるだろう。
「そんなことはどうでもいいわ。あなたの顔。その顔はなに」
顔?
するとゾーラが、我が意を得たりとにやりと笑う。
「その顔を隠すために、仮面をつけているのね」
「いや、そういうわけでは……」
俺が俺の顔に耐えられないという理由は説明が難しい。彼女は俺の容貌が殿下に似ているからと考えたのだろう。
ゾーラは俺のことを少し誤解したが、とくにばらすつもりはなさそうなので、勘違いさせたままにした。
それよりも、風と温度調節を駆使し、両手から魔法を扱っていることを褒めたたえた。
どうやら、両手で魔法を扱うことを、はしたないなどと公爵や公爵家に属す魔導士から言われており、表には出さないようにしていたらしい。
魔導士全員が両手で魔法を使えば、はしたないも卑怯もなくなるのだか、いつの時代も老年者は、過去の風習に囚われ、若い世代のことをとやかく言うものだ。その辺も今も昔も変わらないのだろう。俺からしてみれば、未来も過去も変わらないと言えるか。
暗殺される未来のことは俺は一旦横に置く。
どうせ、ゾーラとの婚約は断るつもりなのだ。いざとなれば逃亡すればいい。
それより、俺はゾーラが気に入った。
理由はレイフと一緒だ。
才能ある若者を見ると心が躍る。
彼らが、俺の知識を得て、伸びていく様は見ていて清々しい。
この森は公爵家の屋敷から近いらしく、俺が森にいる間、彼女は頻繁に顔を出した。
魔法の弟子を得た気分になり、俺はゾーラに未来から来た知識を分け与えると、彼女はレイフと同じようによく技術を吸収してくれた。
もちろん、俺が勝てる要素を残し、教えられる範囲で伝えているだけなので、問題もない。
約束の期限がきて、俺はレイフの元に戻った。
一日休み、俺はレイフとともに馬車に乗り、公爵家の別邸へと向かった。
そこには、すでにスピア国内に潜む秘密結社に属する五家が揃っていた。
俺たちが到着し、六家となる。
初日は晩餐。
これから戦うとは思えない、余裕のある時間を過ごす。
トーナメントではなく、総当たりになるという。
一家につき五戦は最低行うとしたら、魔導士の主は最悪五回は体を傷つけられることになる。
そこで、俺は提案した。
これが古くからの形骸化した習わしなら、髪を切る、血を抜くといった、方便のような儀式でもいいのではないか、と。
一部からは反対の声があがったが、多数決と意見交換の元で、俺の意見が採用された。
参加している面々が若かったのと、年長者でもそれが意味を成さない儀式だと理解していた影響が強い。
なにより、スピア国が長年平和な国であり続けた意味も大きいだろう。
彼らは、無駄に傷つけあうことを望まなかった。




