表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

7話_【死】という感覚

 辺りの人々がいきなり立ち上がった。

 2、3分経つかたたないかの時には食堂にいた者達はもういなかった。

 

 逃げたのだろうか?

 それともただの時間を区切るだけの音?

 いや、雰囲気にしても時間にしてもこれはただの音などではない。

 何かを警告している。

 ・・・では何を?


 するととおるが付いて来いという素振りをした。

 私は辺りがどういう状況なのかを理解できぬまま竜の後を付いていく。


 ・・・にしてもここは私達の敵で私達はここに『侵入』してきたのだろう?

 なのにこの3人はここ(フェルンス)のことをよく知っているように見える。


 どうしてだろう?


 私のことについても聞きたいことがある。

 これは『侵入』には関係ないのだが、私はずっと気になって仕様がない。

 自分(椎名瑠璃)のことについて教えてくれない。

 ようするに彼等が知っている私の個人情報を教えてくれないということだ。


 ズドン


 いきなり目の前に何かが落ちてきた。

 落ちたときに、波紋のように広がった突風と竜の広い背中で目の前の物体の姿が見えなかった。


 風のせいで目に砂が入った、涙が出る。


 竜は向こうに行ってろと呟き、私の背中を強く押した。


 その瞬間。

 

 私は目の前の物体を見てしまった。

 全長は2mぐらい。

 色は人間の皮膚をむいたようなピンク色の面に赤い筋が通っていた。

 そして何より気になったのは口元だ。

 ヒルのように丸く大きな口をしている、よくみると小さく少し赤くなっている歯が見えた。

 そして舌であろうか?

 ヌルリとした長い緑色の物が丸い口の奥から外へベロンと垂れ下がっていた。

 全身の2m以上ありそうだ。

 その化け物が涙のせいであろうか、半液状に下半身が床についてるように見える。


 さっきのサイレンはこの化け物が侵入してきたからに違いない。


「瑠璃!何をしている!早く向こう行け!邪魔だ!」


 3m先に化け物を前にした竜がいた。

 私は竜が言ったように逃げようとした、が。


     アシガウゴカナイ!!


 化け物を前にして怖ろしくなった。

 その恐怖で自分の足をコントロールできなくなっていたのだ。

 

 1分も経たない内に腹まで痛くなってきた。

 神経的な胃の痙攣けいれんだろう。

 しかし私はその痙攣程度にさえかなりの同様を隠せずにいた。


 足が動かないと竜にいようとしても声が出ない。声さえも出ないのだ。


 こんな自分が情けなくて仕様が無い。


 逃げることさえできない。

 これでは竜の足を引っ張るだけだ。


 すると食堂の扉から蛭の化け物がやってきた。

 1mmしかない小さな隙間から新たな化け物が現れたのだ。

 まるで蛞蝓ナメクジヒルを合成した生き物のようだ。


 気色が悪い。


 こいつらがいる部屋で息さえしたくない。


 背中がとても冷たい汗をかいている。


 竜も新たな化け物がきているのに気が付いているらしい。

 そして私の足が震えて動かないこともすぐにわかったようだった。


 しかしどうやら竜は化け物を1匹止めるだけで精一杯のようだ。

 無理も無い。

 あんな化け物を素手で戦っているのだから、1匹でも食い止められるだけでもすごいことだ。

 

 もう1匹の化け物が近づいてくる。

 いつか感じたような感覚。

 いつだったか・・・。

 覚えていない。

 きっと記憶を無くす前の私の物(感覚)だろう。

 

 この感覚の名前は


 【死】


 私は込み上げてくる感覚を抑えようとした。

 しかし私は恐怖に押し負けてしまった。

 

 化け物との距離が1m未満になった。

 化け物に手があったら私はもう、死んでいるだろう。


 私は思い切り目を瞑る。

 よくみる物語ではこの瞬間に、いままでの思い出を振り返り、そしてその思い出の中からキーワードを引き出して自分の力を開化するものが普通だが、生憎私には思い出と言う物が無かった。

 心の中では、思い出の代わりに

 悔しい。

 死にたくない。

 こんな思いが頭の中を巡る。


 腹の痛みが感じなくなった。


 死んだのだろうか?


 それとも化け物に食われたのだろうか?


 …どちらにしても私は死ぬのか。

 結局私は自分の事が分からなかった。

 あの者達はどうして私に教えてくれなかったのだろうか。

 自分の事さえ知っていれば私は安らかに逝けるのに。


 私はそっと目を開けた。


 そこにあった光景は右から放たれたと思われる矢が化け物のヌルリとした緑色の舌を捕らえていた。

 化け物には手が無い。

 舌に刺さった矢が抜けないようだ。


 私は助かったのだろうか?


 いや、まだ助かったわけではない。

 今はまだ、化け物は矢に意識を集中させているが、私に意識を傾ければ私を瞬殺できる。

 そういう位置に化け物と私がいた。


 再び私は恐怖に包まれる。

 すると、瞬きをした瞬間に目の前に黒いロングヘアを1つにまとめている少女がいた。


 少女は化け物に止めを刺そうと舌が伸びている、口の中に向かって弓を構え、矢を打ち込んだ。


 化け物は苦痛そうに唸り声にさえならない音を発した。

 少女は化け物のその苦痛そうな姿を見たにも関わらず。

 顔色一つ、汗一つかかないで、もう一発化け物の口の中に矢を放った。


 黒い化け物の体液が宙を舞う。


 私の頬に黒い粒が降り注ぐ。

 そしてゆっくりと頬から垂れていく。


 臭いはない。

 しかしこの液体は生温かく、粘り気があった。


 化け物の【血】であろう。


 私は少女に恐怖した。


 化け物とはいえ、生き物を躊躇ためらい無く、あんなに無残に殺せるのだ。


 黒い体液は私の足元まで広がり、付着した。


 私が体を震わせる度に黒い雫は垂れ。

 ピチャリと音を立てた。


 気がおかしくなっても仕方ない。

 そんな事を思わせるには十分な光景であった。


 少女は竜に向かって包丁らしきものを投げる。

 竜はそれを簡単に受け取り、目の前の化け物を真っ二つにした。

 

 またもや黒い体液が飛び出る。

 赤っぽい肉の塊らしきものが私のひざにポンと乗る。

 怖かった。

 化け物が怖いんじゃあない。

 私が恐怖した化け物を意図も簡単に切り捨てる、この2人が怖かったのだ。


 食堂は黒い体液で満ちた。

 こんな化け物2匹のどこにこれほどまでの体液がでるのかと思わされた。


 気持ち悪い。

 吐き気がする。


 気が付いた事には赤い光の点滅と、あの耳障りなサイレンが停止していた。

 やはりこのサイレンは化け物がここ(フェルンス)に侵入したことによりなったのか。


 私は心の中でそう、微かに思う。


 少女は私を見た。

 一瞬私の世界が凍りついた。

 

 少女は私が10歳未満の子供のように軽く頭に手を置いて微笑みかけてきた。

 彼女は別に私を10歳未満などと思っていないだろうが、私にとってはかなりの屈辱であった。


「大丈夫?怪我してない?」


 頷くことさえできない。

 まだあの恐怖が心に残っていた。


 格好悪い。

 情け無さすぎだ。


「・・・。体が動かないの?それとも放心状態?」


 いえ、しっかり聞こえてます。体は動かないが放心状態ではありません。


「2番隊ー!!…。ふぅ。仕方ない。」


 少女は私の腕を自分の肩に巻きつけゆっくりと食堂から出た。

 それとほぼ同時に、


『侵入した邪慈子じゃじしはすべて処理した。邪慈子じゃじしのランクはGだ。数は18体。

繰り返す。侵入した邪慈子はすべて処理した。邪慈子のランクはGだ。数は18体。

 1番隊はこのまま門の警備を続けろ。2番隊は怪我人の看護。3番隊は1番隊の控えと共にフェルンス内の後片付けを始めろ。』


 と、いう放送が聞こえてきた。


 【邪慈子じゃじし


 あれが…。

 あの化け物が邪慈子…。


 気が付くと私は、またあの悪夢を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ