10話_名残惜しい夢
「何故彼方なのですか!あっちが!アイツが記憶を無くせばすべてが終わったのに。何故・・・」
『彼方』というのはたぶん私のことだろう。
そして初対面でこんなことを話せるものもいないだろう。
やはり馨は私のことを知っている。
そして彼女は私に怒っているのではない。
『アイツ』に怒っているのだ。
私のことがわかったのだろうか?
アキなのか・・・それともリュウなのか・・・。
そして『アイツ』とは何者だろう。
気になる。
ききたい。
今きかないと後悔するかもしれない。
私は彼女に『ききたい』と心の中で強く叫んでいた。
絶対にきこえることはない。
聞こえていても少々こちらも困る。
私は彼女にきくのをやめたのだ。
馨の姿からきかないで、言いたくないと叫んでいたからだ。
そんな者がすんなりと話すはずもないし、きく私も辛くなる。
しかし、相手に頭を下げることはやりたくない。
絶対に。
確かに馨を泣かせたのは私だがこっちには悪気もない。
それに今だ相手が泣き出した理由がわからないままでいる。
それにこっちだって馨を十分に心配してやったんだ。
これ以上馨にやってやる義理はない。
私は逃げるように足を出口へと傾けた。
するとそこには複雑な表情をした、柊が立っていた。
「あの・・・。いえ・・・やっぱり何でもありません」
柊は何かを言おうとしてやめた。
私もそれを無理に聞くつもりもなかったし、今の状況で人と会話などする気になれない。
相手と話せなくて済むのならそれに越したことはない。
「馨のことは頼む、私は自室に戻っているから。」
そういって私は柊に背を向けた。
「自分の部屋の番号、わかりますか?」
私は頷き。
「81番でしょ?」
っといった。
柊は私に向けて少し笑った。
これは楓の笑い方とは違ってとても爽やかで全く邪気がなかった。
ついでに楓は人を馬鹿にしたように笑う。
その姿は本当にムカつく、まるで小悪魔だ。
「80番ですよ」
柊は私に向かって優しく呟いた。
「え?私のナンバーって81でしょ?」
「はい、そうですよ」
柊の返事があまりにもあっさりしていたので「なんで?」ときく気を失せてしまった。
そして私は柊に一礼してとても長い廊下へと歩調を上げ、歩き出した。
・・・馨のナンバーは76。
私の部屋とはかなり近いのか。部屋に辿りつくのは楽だが別の意味でいろいろと大変だな・・・。
あんなことがあったんだし、しばらくはこの部屋の前でうろつけないな。
私は77というプレートを探し、見つけた時点で迷うことなくずんずんとプレートのある方に向かって歩いた。
78、79、80。
あ、あった。この部屋だ。
カチャ。
私は扉を開き部屋の中に入った。
明かりのついていない部屋はまるで廊下とは別世界のように威圧感のある怖ろしい部屋であった。
…ああ。この部屋に入ったのが1ヶ月ぶりのように感じる。
はぁ・・・。
しかしまた・・・。夢からいいところで目覚めてしまったな。
あのまま夢のなかにいたら。
もしかしたら、あの世界。
自分のことが少しだけでも分かったかもしれないし・・・。
また、あの夢をみないかな。
い、いや!夢が終わってよかったんだよ!あんな血生臭いところ・・・。
・・・。
・・・。
・・・【血】・・・。
これから私はあんな化け物を切り捨てなくてはいけないのか。
あんな化け物と戦っていかなくてはいけないのか・・・。
ふと、私は時計を見る。