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9話_馨

しばらく私と馨は口を閉じてじっとしていた。

 

 私の頭の中では馨の言葉がメリーゴーランドのようにぐるぐると回転していた。


『あなたは・・・、森神ですね?』


 ・・・なぜわかったのだろう?


 馨は私と初対面のはずだ。

 私だって馨に自分が森神だとわかるような素振りをした覚えはない。

 

 いや、まずはこんなことを考えるより、逃げなくては!

 森神とバレた以上、ここに留まるわけにはいかない。

 逃げ切れる自信などない。


 が、死ぬのは怖い。


 そう、森神とばれたことで殺されるかもしれないのだ。


 森神は今私のいる陣地の敵なのだから。

 

 私は狼の洞穴の中に飛び込んだ気持ちになった。

 馨の強さは3日前に食堂で邪慈子じゃじしとの戦闘でよく知っていた。


 私との力の差は歴然としていた。


 速さも、腕力も、精神も。


 すべてが私の何百倍とあった。


 やはり、私は馨からは逃れられないだろう。


 逃げた途端、私の前に立ちはばかることだって簡単であろう。


 いや、馨はそこから一歩も動かず私を殺すことだってできる。

 とにかく私はもう死んだと同然なのだ。


 しかし『死』への恐怖が私に逃げろと叫んでいた。

 

 私はゆっくりと地面に、床に足を置く。


 ・・・しかし、何故化け物を封印し、人々を救った、世界を救った森神が、救ってあげた者達に命を狙われているのだろうか。

 何故救ってやった者達に、私は殺されなくてはいけないのだろう。


 ・・・馨に、聞いてみようか?教えてくれないかもしれない。

 馨は敵なのだから、殺す相手に余分なおしゃべりをする気などないだろう。

 例え、教えてもらったとしてもすぐに殺されるかもしれない。


 ・・・いや、教えてくれるのなら死んでもいい。

 自分のことを知って死ねるんだ。

 冥土の土産だとしてもかなりの価値がある。


 そうだ、私は知りたい。自分のことを知れるなら死んでもいい。


 どうせ死ぬなら、


 ききたい!

 ききたい!!


 私は何者なのかを、私の過去を!


「あなたはりゅうですか?それともあき様?」


 ・・・リュウ?アキ?誰だ?

 そんなことより、私を捕まえようとはしないのか?


 ・・・!


 もりかして、りゅうとあき、それのどちらかが私の本名なのかもしれない。


「私も、私もそれが知りたいんだ!私が誰なのかを。私は記憶喪失と言うものになっているのだ!」


 私は何かを求めて必死に言葉を繋げた。

 

 馨は、私を避けるようにして目をそらしつつ、私の言葉に驚いたと、目を見開いていた。


「馨は私のことを知っているのか?」


 馨はその言葉を否定することはなかった。


 私のことを知っているようなのだ。


「私は、馨が知っている私の過去と個人情報が知りたいんだ。」


 返事が返ってくることはなかった。


「すべてとは言わない。ほんの少しでもいいんだ。」


 私の必死さは馨には決して伝わらなかった。

 

 馨の目が潤み始めた。

 

 それと同時に鋭くもなった。


 私は彼女かおるを怒らしてしまったのだろうか。


 彼女は低く、そしてどこか力強い声を出した。まるで怒りを抑えているようであった。


「知りません!あなたなんか!私とあなたは初対面です!話かけないでよ!」


 馨は一筋の涙を流した。


 これ以上きくのは止めておこう。

 私はその姿からそう、思わされた。


 彼女はその場に座り込み、頬を真っ赤にして泣きじゃくった。


 その姿から、私はすごい罪悪感に襲われた。


 しかしその感情はすぐに消えてしまった。


 そして再び彼女を見た。


 泣きじゃくる女。


 本当はそこで優しい言葉をかけ、安着させてあげなくてはならない場面だ。

 しかし、落ち着かせることなんてやらせない。

 むしろ逆だ、安着させてほしいのは私のほうだ。


 記憶を無くし、記憶を無くした早々にはあんな化け物にあったし。

 その上誰一人私の個人情報を教えてくれない。

 みんなが私のことを仲間はずれにしているとしか思えざる終えない。

 ものすごい孤独感が私を襲ったのだ。


 それでもめげずに私を知っているらしき者に声を掛けたというのに泣きじゃくられ、罪悪感を覚えなくてはならなかった。

 今普通に話せてる自分が、自分に対して驚いているぐらいだ。

 

 まぁ、それでもこっちにしては好都合であった。

 一応はこれで馨に殺される可能性が少なくなったのだから。


 彼女のことは忌めてやりたいが、心までそういう気持ちがこみ上げてもない。

 頭の中だけのどうでもいい【言葉】だ。

 

 そんな【言葉】にいちいち振り回されていてはこっちが持たない。


 悪いが私にはおかおるに構ってやれるほど余裕はない。


 しばらくすると、馨の呟きが聞こえてきた。

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