表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

消させてもらう

(――あのバカ、捕まんねえだろうな)


騒動をよそに、アンドレイアは身を隠しつつ、絞首台へ向かっていた。

順番は前後してしまったが、結果として彼が囮になってくれている。


アルラウネの場所は確認済み、あとはそこへ向かうだけだ。

砦が襲われ、緊急事態に町中が慌ただしくなっている。

パニックになっている人々の中に紛れるのは簡単だ。


しかし、それも絞首台付近までの話だ。

こんな時にここへ迷い込む者などいるはずがない。

矢のひとつでも飛んで来ることは覚悟しておかなくてはならない。


そう思って身を屈めて素早く入り込んだのだが、周囲に視線は感じられなかった。

さすがにひとりも兵士がいないなどということはないだろう、と思ったその時だ。

砦の方で轟音と共に巨大な氷塊が出現した。


「あいつ……」


あれだけの力を一度に使うと、さすがの竜も一時的な魔力切れを起こす。

それをわからずにやったはずはない。

あんな所で気絶されると非常に困る。

せめて自分が戻るまでは気を保っていてもらわなければ。


アルラウネをカバンにしまい、駆け出そうとすると、ひりついた気配を感じた。

直後、一本の矢がアンドレイアの顔の横を掠める。


「誰だ」


問いかけは相手に向けて発したものではない。

現状を客観的に把握するため、自分に問うた。


飛んできた方に人はいなかったはずだ。

このまま逃げてもいいが、目撃者は始末した方がいい。

アルラウネの効能から、王国の者だと推測される可能性がある。


アンドレイアは荷物を置いて、逃げる思考から戦う思考へと切り替えた。






帝国の弓兵であるルジュは、偶然にその男を見かけた。

突然の混乱の最中、火事場泥棒がいないか監視しておく必要があった。


ルジュは帝国一の弓の使い手で、鷹の目と呼ばれるほどに目が良い。

盗人がいれば足を打ち抜いて他の者に捕まえてもらう手筈だった。


幸いにも町中に妙な動きをする者は見つけられなかったのだが、ひとりだけ妙な方へ進む男がいた。

戸惑いや焦りの表情は本物に見えるが、行動の節々に嘘が見える。


目の良さとは、視力だけの話ではない。

それに見合う観察眼も、ルジュは持っていた。


後をつけられることに敏感なことも見て取れたため、行動を予測して少し先回りしつつ、やがて絞首台の広場の近くに潜んでいた。

彼がここを目的にしている理由まではわからない。

しかし、ここを目指していることは直感的に理解していた。


(なんだ……? 何を拾っているんだ?)


彼は何かを絞首台の下から集めて、カバンに詰め込んでいた。

直近で絞首刑にかけられた者の縁者だろうか。


(ま、捕まえれば分かることか)


矢を番え、警告の意味を込めて彼の肩を刺すつもりだった。

狙いの正確さにも自信はある。


だから、彼が振り向いて顔の横を掠めた時は、生きた心地がしなかった。

帝国は法治の国だ。

裁かれる前の人間を無許可で殺してはならない。


法を守る立場にある兵士のルジュは彼を殺さず捕えなければならないのだ。

しかしそれは、向こうが抵抗をしなかった場合に限る。


矢を認識した彼は、カバンをその場に降ろした。

投降するつもりかと思ったが、そうではない。

これから徒競走でもするかのごとく、柔軟体操を始めた。


得体のしれない彼に向けて、ルジュは二本目の矢を放つ。

足を止めさせるつもりだったが、彼は最低限の動きで矢を躱した。


そして、こちらへ向かって一直線に走り始めた。


この場所まで分かっているはずはないのに、ただこちらから飛んできたからという理由だけで、向かってきているのだ。


(なんて無謀な!)


人の足で隠れている弓兵へ向かって来るなど自殺行為だ。

その表情に恐れや怯えはない。

彼は当然のようにこの選択をしたのだ。


ルジュの背筋が冷える。

見えているはずがないのに、こちらをしっかりとその両の眼が捉えているような錯覚をしてしまうほどに、確信めいた行動をとっている。


ルジュは続けて矢を放った。

しかし彼は、その矢を、放たれたあとに、見て躱していた。

獣よりも優れた反射神経は驚嘆に値する。


こちらも弓に全てを賭けてきた。

多少身体能力が優れているくらいで圧倒されるような、柔な鍛え方はしていない。


矢を狙う場所を、彼よりも手前にする。

牽制と、動きの制限。

回避方向の予測。

畳みかけるような矢の雨により、ようやく一本が彼の肩に届く。


「……何だと?」


肩に刺さったかと思った矢は、しっかりと手で掴まれており、その場でへし折られた。

こちらの計画的な射撃から、狙いが察知されていた。


恐るべき相手だ。

戦うべきではない、とルジュは判断して撤退の体勢に移る。

そして、退路を駆けているところで、目の前に彼が現れた。


「目は良くても、足はあまり速くねえみたいだな」


彼は息切れひとつせず、ルジュへ言う。

先回りしていたということは、先程までの彼はまったく全速力ではなかったということになる。


「……何者なんだ」

「悪いが名乗れねえ。見つかった以上、消させてもらう」


ルジュが次の矢を番えようと指を動かす間に、頭と首とが斬り飛ばされていた。






――早朝、ニアが目を覚ますと、机の上にひとかごのアルラウネが置かれていた。

手紙なども置いておらずとも、誰からのものかわかる。

経緯を考えるに、無闇に接触しない方がいいのは、ニアにも理解できる。


これからはニアの仕事だ。

解毒薬を作って、アンドレイアに渡す。

腕まくりをして、ニアは薬作りを始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ