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こうして断罪劇は、バリー殿下の一言によって隠れユーザー交流会へと変貌を遂げた。
魔王陛下の言い訳によると、最初は軍国シュミレート用にと趣味で創った異空間だったそうだ。
しかしあまりに出来が良かったため、誰かに自慢したくて、匿名で人間のふりをして、魔方陣を配布したそうだ。
それが好評となり、ヒロチャン神と上級魔法使いたちに崇められ、リクエストに応えるうちに大規模になってしまったとのこと。
「あの人、おだてられると弱いから」
大広間から移動し、私の部屋のバルコニーに出て、バリー殿下と話をしている。
少し外の空気が吸いたいと私が言ったからだ。
「バリー殿下は、魔王陛下がヒロチャンだと知っていて『魔空間へようこそ』で遊んでいたのですか? 魔王陛下から直々に、魔方陣を頂いたとか?」
「いや、あの人家族にも内緒にしてたから。ちょっとは後ろめたさがあったんだろうな。魔法陣は別ルートで入手したし、俺が遊んでることは陛下には内緒にしてたよ。ヒロチャンの正体が親父だってのは薄々気づいてたけど、知られたくないようだったからこっちも黙ってた。なのにお前の妹、余計なことしてくれたよなあ。いや、お前が鈍臭く証拠を残すから、勘づかれたのか」
「う、申し訳ありません……」
バリー王子殿下は相変わらず毒舌で、私を毛嫌いしている。
特に今日は風当たりがきつい。
「とってもお怒りですね。嫌なら本当に……婚約を解消して頂いても……」
「はあ?」と言って、バリー殿下は氷点下の視線を私に向けた。突き刺すような瞳だ。
ああ、これだからサミュさんのアバターに惹かれたのだ。サミュさんのアバターの、あの全てを受け入れてくれるような優しい眼差し。私の癒し。
けどあれは幻だった。
創りものの世界の、創りごと。現実世界のサミュさんは、顔こそアバターに似ていたものの、女の子を騙して犯そうとする最低な人間だった。
ショックだ。ショックすぎて、もうどうでもいい。異空間へようこその世界も、この現実も。
「ああ、当然怒ってる。俺という者がいながら、他の奴にうつつ抜かしやがって。異空間でのアバター遊びだと思って大目に見ていたが、リアルで会うとか馬鹿か。俺がいなかったらーーいや、お前ほどの魔力持ちなら大丈夫とは思うが。万一お前に何かあった場合、あいつら皆殺しにされるんだぞ? 俺に。拷問の末、魂を抜き取って永久に監禁した上で肉体はなぶり殺す。そういうことをちゃんと念頭に入れて、責任ある行動をしろよ」
怖い、バリー王子殿下はこういうところが怖いのだ。
「はい……申し訳ありませんでした」
項垂れる私に、殿下はなおもブツブツと言った。
「大体、あいつら偽善者ぶって鼻につくと思ってたんだ。簡単に騙されやがって、お前は本当に男を見る目がないな。その目は節穴か」
そう言えば、殿下に聞きたいことがあった。
「殿下も同じチームにいらっしゃったんですよね? 誰だったんですか?」
はあと溜め息を吐かれた。
「ルーカスだよ」
「えっ、あのルーカスさんが殿下!?」
ルーカスさんは武器作りに精を出していた、チーム・ホワドラの武器職人だ。ミッションには参加せず、アジトへ持ち込んだ鍛冶道具を使って、芸術品のように精密な武器を次々と作製していた。
無愛想なくせに礼儀に口うるさくて、「挨拶をしろ」だの「そこへ私物を置くな」等よく注意された。
バリー殿下の魔力を持ってすれば、いくらでも見目麗しいアバターを創り、ハーレム無双することも出来たろうに。
ルーカスは地味な見た目で、魔力をひけらかすこともせず、黙々とこだわりの武器を作っては、チームメイトへ献上していた。
私が背負っていた美しい大剣も、ルーカス作だった。
「殿下が作ってくださったあの剣、とってもかっこ良かったです。切れ味も抜群で、魔力属性も豊富で」
「当然だろ。誰が作ったと思ってる」
殿下が得意気に鼻を鳴らした。
「まあお前も……アバターのセンスだけは良かったな」
そう言って笑う殿下は、リオンそのものだ。私の萌えを全て詰め込んだアバターは、バリー殿下そっくりになってしまったのだから笑えない。
「リオンを見てすぐに、お前だと確信した。俺そっくりのアバターを創るとはな。俺のこと好きすぎかよ。恥ずかしいだろが」
ああもう恥ずかしくて死にたい。そこはスルーして頂きたかったです、殿下。
「そのくせ、他の男にうつつを抜かしやがって」
ブツブツと言い続ける殿下は、いつになくしつこい。
「よりによって俺の姿で、他の奴といちゃつきやがって」
「ごめんなさい、でもいちゃついては無いですよ。男同士でしたし、リオンはクール気取ってたんで」
「でも惚れてたんだろ? あの偽善者レイプ 魔に」
「惚れてた……まあ、憧れてましたけど。優しくて色々面倒見てくれましたから」
「俺だって剣をやっただろうが。あれがどれだけレアな大剣か知らんのか」
「知ってます。その節は本当にありがとうございました」
ぐっと言葉に詰まる殿下。さっきから何だろうこの変な感じ……まるで……
「まさかヤキモチ焼いてます?」
言葉に出してから、しまったと思った。
殿下は私を毛嫌いしているのに。
「はあぁ!?」
案の定、逆鱗に触れてしまったようだ。
鬼の形相で殿下が目を剥いた。
「まさか、だと? それ以外の何だと言うのだ。とんちんかんな事を言うな。俺はいま猛烈に、嫉妬にトチ狂ってるんだぞ。そんなことも分かっていないとは、お前は本当に大馬鹿者だな。一回死んでこい。俺が蘇生してやるから、分かるまで何度でも死んでこい」
バリー殿下はやっぱり毒舌だ。激しい言葉は私の胸を貫いて、瀕死にさせた。
まさか、殿下がそんな風に思ってくれていたなんて。嬉しくて死ねる、と遠のいていく意識のなかで思った。
嬉しさのあまり失神してしまった私に、慌てた殿下が何度も蘇生魔法をかけていたと後で聞いて知った。