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大広間には、我が両親と親族、国王陛下とその側近、国の幹部たちが顔を揃えていた。
壇上背面の真っ白い大きな壁には、プロジェクターが投影されている。プロジェクターとは魔道具の一種で、魔力によって記憶した映像を拡大してスクリーンに投影し、より多くの者に派手に見せることができる装置だ。
断罪の場で、証拠を提示するときなどに使われる。
え、もしかして断罪劇が始まるとか?
これだけの面子が揃っているのだ、それだけの事が始まってもおかしくはない。
「皆様、お忙しい中わざわざお集まりいただき、ありがとうございます。わたくしの姉、アデル・レドナップの罪をここに告発いたします!」
ユリアに押し出されて、皆の前に出た。
何だどういう事だ、とザワザワとした声に包まれる。
それをピシャリと制して、ユリアは言葉を続けた。
「我が姉アデルは、あろうことか、『魔空間へようこそ』という、人間どもの間で流行っている魔方陣遊びに興じておりました」
何だそれはという声がまたザワザワと広がった。ご説明致しますとユリアが言い、プロジェクターが作動した。
いつの間に作成したのか『魔空間へようこそ』の開発者、ヒロ・チャンドンが見たら泣いて喜びそうな、良くできたプロモーション映像が流れ出した。
魔空間での遊び方が詳しく説明されていく。
「ーーこのように」とユリアが再びマイクを手にした。
「このように魔物を惨殺していくゲームなのです。我々の仲間である魔物を、です。人間どもと仲間になり、魔物を惨殺する。何と恐ろしい事でしょうか。この行為を魔界で黙認出来ますか? 反逆罪ですわ!」
ユリアが叫ぶように言い、場はシンと波を打ったように静まった。
それからヒソヒソとさざ波のように声が聞こえてきた。
「確かに」「むごい遊びだのう」「人間の世界に干渉すること自体が良くないのう」
どうやら私の分は悪いようだ。
このままでは何らかの処罰を下されてしまう。
「お待ちください! 言い訳を致しますが、この異空間に出てくる魔物たちは全て、架空の生き物です。実在する魔物は登場しませんし、魔物全てが討伐対象の敵ではありません。仲良くなる魔物もいますし。そもそも全て、造りごとの世界です。仮想世界での遊びが処罰対象になるのですか?」
毅然とした態度で自己擁護した。
「それもそうだのう」「子供の遊びに口を出すのものう」「どんなもんかのう」
おじいちゃん幹部たちは日和見主義で、流されやすい。
ユリアも負けじと言い返した。
「その考えが危険思想ですわ! 遊びだから仮想の世界だからと、同胞である魔物を虐殺して何とも感じないのですか!? あー、恐ろしいですわ! お姉様はサイコパスですの? 危険人物ですわ、今すぐ魔力を封印して隔離をしてください! こんなサイコパスが王子殿下の婚約者だなんて、とても看過できませんわ! お姉様はバリー殿下に相応しくありません。殿下、早急に婚約破棄をなさって下さい!」
ぎゃんぎゃん吠え立てるユリアを、バリー王子殿下は眉間に皺寄せて眺めている。
そしてすっと歩み出て、私の隣に並んだ。
ユリアの望み通り、婚約破棄を言い渡すのだろうか。
皆が殿下の発言に注目し、固唾を飲んだ。
「皆の者、騒ぐな。不愉快だ。私の婚約者、アデル・レドナップが異常なサイコパスであると言うなら、私も同じである。何故なら私もこの『異空間へようこそ』のヘビーユーザーであるからだ。なかなか楽しいゲームでな、やれば嵌まるぞ。希望者には、ヒロ・チャンドンの魔方陣を配布しよう。私からは以上だ」
え?
ええええ!!
私以上に毅然とした態度でとんでもない事を言ってのけたバリー殿下をまじまじと見た。
魔空間へようこそのヘビーユーザーですと!?
びっくりだが納得だ。道理で、サミュさんたちと普通に話が合っていた訳だ。殿下もアバターを通じてあの異空間へ出入りし、遊びに興じていたと。
しかも私やサミュさんたち、ホワドラのメンバーについて詳しかったということは……チームメンバーの誰か!?
「うう、嘘ですわ! お姉様を庇って、殿下までそんな事を。国王陛下、何とかなさって下さいませ。殿下はお姉様に騙されています。もし殿下の仰っている事が本当なら、殿下までが『異空間へようこそ』に毒されているということですわ。由々しき事態ですわ! 何とかなさらないと」
「うるさい雌だな、ぎゃんぎゃん吠えるな」
殿下がユリアへ言った。
「父上へ言っても無駄だ。大体、誰が『魔空間へようこそ』を考案開発したと思ってる。あれだけ壮大な異空間を創世し、滞りなく運営できるなんて魔王級の魔力持ちでないと無理だろ。ねえ、ヒロチャンさん?」
バリー殿下が悪い笑みを浮かべて見た先には、滝汗をかいている魔王陛下がいた。
「えっ!」「魔王様!?」「嘘でしょ」「けど納得」「さすが魔王様」「魔王様じゃないと無理よね、分かる」「あれ面白いよね」「えっ、君も隠れユーザー?」「実は俺も」「あれ面白いよねー」