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「あれ? 言ってなかったっけ。僕とブルーノはリア友だよー」
翌日『魔空間へようこそ』で顔を合わせたサミュさんにさりげなく尋ねると、何でもないことのように教えてくれた。
リア友ーーつまり、リアルでも友達ということだ。
何それずるい。私の知らないサミュさんの素顔をブルーノさんは知っているというのか。
現実世界での二人は、どんな会話をしているんだろう。
駄目だ、興味が有りすぎる。個人情報を探ってはいけないという暗黙のルールがあるというのに。
「へえ、それはいいですね」
なるべく平坦な声を出し、悔しさが滲まないように努めた。
きゅっと唇を引き結び、目の前のミッションに集中しようと決めたとき、サミュさんが言った。
「ブルーノに会いたい? ここに来ることはしばらく出来ないそうだけど、明後日一緒に飯を食いに行く約束してるんだ。リオンも来る? あっ、って言ってもリオンどこ住み? 俺らはスバトン国の王都住みなんだけど」
正直いって聞いたこともない国だ。しかし私は行くと即答した。
場所は調べればすぐに分かるし、転移魔法を使えば世界中どこへでも飛べる。物理的距離は障害ではない。
日時と待ち合わせ場所を詳しく教えてもらい、私とサミュさんは現実世界で会う約束をした。
デート? これはデートなのかしらん? いや、ブルーノさんもいるし、ご飯食べるだけだし、やましいことじゃないはず。
ちらりと脳裏をよぎるのは、バリー王子殿下の冷めた顔だ。殿下はユリア同様、駄目女の私を嫌っている。
「あ、リアルで会ってがっかりしないでよ」
サミュさんが目尻を下げて苦笑した。優しい笑い方だ、好き。
「アバターとは違うからさあ」
その言葉にギクリとし、慌てた。
「それは、こちらこそですし……」
クールビューティーな戦士、リオンは現実世界ではぱっとしない女だ。
男だと偽ったまま、サミュさんと会って大丈夫なのか。カミングアウトすべきなんだろう。でも怖い。ずっと男として接してくれて、良い関係を築けてきたのに。
それをぶち壊すくらいなら、現実世界で会おうなんてしないほうが良いのだろうか。
「サミュさん。実は俺…………」
言い淀む私に、サミュさんはとびっきりの優しい笑顔を向けてくれた。
「ん? 無理しなくていいよ。リオンの現実がどうあれ、僕はいまこうして話してるリオンが好きだから。その気持ちは、会っても変わらないよ。でもリオンが嫌なら、やっぱり会うのはやめとく?」
その全てを包み込むような笑顔に心臓を撃ち抜かれた。ズキュンだ。
「いえ……、会いたいです」
そうだ。いまこの場でカミングアウトする勇気は出ないけれど、会って白状しよう。
白状ーー……告白?
いやいやいや、それは気が早い。
第一、サミュさんへのこの想いは純粋な憧れーーリスペクトであって、男女としてどうこうなりたいという話ではない。
現実では土台無理だ。