3
夜が白む頃、まどろみながら現実世界へ戻ってきた。
ドロンク百匹討伐を達成し、珍しい魔道具アクセサリーを手に入れた後は、チームの皆とレジアートの町へと繰り出し、戦利品を加工に出した。
魔道具アクセサリーをそのまま使用するのも良いが、好みの宝石をつけたり、属性魔法をオリジナルにしたりと、加工するとなおさら良い物になる。付加価値を付けたあと、より高く売り飛ばすという手もあるし。
それから皆で食事をしたり、ダンスクラブへ行って遊んで、一夜を明かした。
『魔空間へようこそ』の世界では魔物討伐だけでなく、色んな楽しみ方があるのだ。
チームに属していてもミッションには全く参加せず、ひたすら武器作りに没頭しているような職人もいるし。
「お姉様、もうお昼が来ますわよ。いつまで寝ているんですの、だらしないですわね」
ゆさゆさと体を揺さぶられて薄目を開けると、妹のユリアが蔑みの瞳で私を見下ろしていた。
漆黒の髪に緋色の瞳、紅い唇から覗く歯が白くて目に眩しい。
「ユリアが健全すぎるのよぉ。お姉ちゃんは普通」
「どうせまた夜更かししてたんでしょう。夜中にこそこそ一人で地下室に下りて、何をやってるのよ?」
ギクリ。まさか勘づかれていたとは。家族が寝静まったのを気配で確認してから、差し足忍び足で寝室から抜け出ていたというのに。
半年も続けるうちに、どこかで気の緩みが出たのかもしれない。
鍵は毎回しっかり掛けているので、魔方陣は見られていないだろうけど。
「魔道具のお手入れよ~。ひいお祖父ちゃんのコレクションの。骨董品だからもう使い道はないけど、かといって放ったらかしでは錆びついちゃうと思って」
「ふ~ん、お姉様って本当に物好きな変人ですわね。ユリア、理解できませんわ。バリー殿下が本当にお可哀想。お姉様が婚約者だなんて。魔力がいくらあっても、女としての魅力はありませんもの」
妹にくどくど言われるのも慣れっこだ。
私だって、好きでこの国の王子のバリー殿下と婚約したわけじゃない。
お父上と国王陛下が勝手にお決めになったことだ。そんなに羨ましければ、バリー王子殿下の婚約者の座はユリアに譲ると私は言ったが、魔力に大差があり、ユリアでは王妃の器に満たないそうだ。
努力家のユリアよりも、ぐうたらしている私のほうが持って生まれた魔力量が大きく、歴然とした差がある。
悔しくてムカつく気持ちは分かる。申し訳ない。
だから私はくどくどと妹に言われ続けることを甘んじて受け入れ、やる気のないぐだぐだな生活を続けている。駄目女だ。
魔力がいくらあっても、魔物と人類が戦争する時代はとうに終わっている。平和な現実世界に物騒な力は無用だ。
しかしもしものときに備えて、この国の王子は魔力が最も優れた者が継ぎ、同等に魔力が優れた者を妻に娶る。それがバリー王子殿下と、国王陛下の側近の娘である私というだけの話だ。
結婚は私が十七になる来年だ。バリー王子殿下は二つ年上だ。
そういえば、サミュさんは何歳なんだろう?
しっかりしているし、対応の仕方が大人だし、二十歳くらいかな?
まさかの年下だったらびっくりするけど、それはないかな。
聞いてみたいけれど、あの異空間でリアルの個人情報を尋ねるのはマナー違反だ。
国籍や年齢、性別を問わず、アバターを通して自由に交流できるというのが、『異空間へようこそ』の最たる魅力なのだ。
知らないほうが良いことは世の中に沢山ある。
それでもやっぱりサミュさんのことをもっと知りたいなと、気づけば現実世界でもサミュさんのことを考えている。異空間の世界へ侵食され、毒され気味の現実世界。
現実世界でのサミュさんを知ることが出来たら、この気持ちも少し落ち着くだろうか。
いや、知らないほうがいいのかな。
知りたくてもマナー違反だし。
あれ?けど、サミュさんはブルーノさんのリアル生活について知っていたような……。
職場が変わったばかりと知ってたし、いつだったかは「リアルも筋肉バカ」と本人へ向かって言っていた。ブルーノさんは「本当はもっと腹黒いくせにこの野郎」と言い返していた。仲の良さに嫉妬したが、問題はそこじゃなかった。
あの二人、もしかして現実世界でも友達!?
リアルでも顔を合わせる仲なのか?