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3ー21・今は自分たちの意思で(空の欠片8)

 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦-?

 ケテナ暦216994……


 後の《ヴァルキュス》、フィラメント"永遠冬"を支配する唯一の一族、ザードアトヴァ。

 メイリィも知っている、今《ヴァルキュス》に残っているアルヘン生物の記録は、まだ"永遠冬"も存在していなかった、はるか前の、彼らのもの。


 大災害からそれほどまだ経っていない。第四次再生期とも呼ばれていた時代。ザードアトヴァという一族の開祖ムクルは、大災害より生き残ったたった2000人ほどの中の1人だった。

 ムクルには、変換法による18人の子がいて、その内の11人と一緒に、"冬世界"という銀河フィラメントの、《ヴァルカ》という惑星に移住したのが、いわばザードアトヴァという一族、"永遠冬"というフィラメント、《ヴァルキュス》という国家の始まり。

 大災害以前のムクルは英雄的な軍人だった。『フローデル』の起こした領域間戦争でも、〈ジオ〉側のレジスタンスとして戦いに参加していた。その頃に、〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉、それら三つの領域全ての生物たちと直接に関わったこともあった。

 ムクルは、大災害が終わった直後、生きていたジオ生物の中で、おそらくもっとも、恐ろしい存在としての生物を理解していた。実は緑液が、ジオ生物を強くするために、何者かがもたらしたことも知っていた。だがそれは3領域の生物ではないはず。少なくともジオ生物に関連するテクノロジーに関しては、ジオ生物以上では絶対になかったから。もっと特別な、それこそ神々のような何かがいたはず。

 ムクルの知っていた限り、候補として考えられそうなのは、ネーデ生物からその存在に関する話を聞いていた、アルヘン生物かエルレード生物のみ。だがそれ以上のことは全く推測もできず、彼は友人であった、スズレという科学者を頼った。


ーー


「それで知ったんだな。いや、聞いた。ムクル。ザードアトヴァなんてふざけた名前だ。フィデレテ語で「人間らしい人間」だろ。多分スズレのアイデア。で、2人はアルヘン生物を見つけた。緑液をおれたちに与えたやつに」

 まだ、アルヘン生物の記録を《ヴァルキュス》に残した"永遠冬"の一族の開祖ムクルについての、メイリィの話の途中。映像でなく、直接実体でその場に現れたエクエス。 

「またわからなかったこともわかった。メリセデルは多分スズレを知ってたから、おれにも会ったんだ。あれはやっぱりアルヘン生物で、スズレ、ムクル、2人が探し当ててた」

「あなたは、いや、誰なの?」

 メイリィは、一瞬知っているもかもしれないと考えたが、やはり全然知らない。

「『水文学会』の古い科学者だ。名前はエクエス。面白いことにスズレの息子なんだ」

「ラーシャの、ていうのは」

 少し前、ケイシャのことを思い出した時もそうだったが、テレーゼはそれ以前にも、エクエスが自分のことを「ラーシャの子」と名乗るのを聞いたことがある。

「それは父親の方。スズレは母親だ。で、お母様からおれは聞いてた。ムクルのことも、少しだけどな」


 だがエクエスが思い出した、彼の母のムクルに関する話は、悪戯者な彼女には、無茶苦茶なおふざけにしか見えてなかった精神論の、半分遊びだった研究のことばかり。赤い血液の時代を直接は知らない息子には、理解できないだろう面白さと言ってたりした。

 エクエスは、今なら母が何を面白がっていたのかはよくわかる。

「構成粒子加速法というのを生み出したのがムクルだとしたら、前の時代、大災害の前の頃の人間にとっての空想上の怪物が、空想でなくなったのを母は見たも同じだ。彼女にはそういうことが面白かった、そういう人間なんだ」


 ムクルがスズレと共にアルヘン生物、メリセデルを見つけたことは、エクエスが予想した通りだった。そして記録に残されたアルヘン生物の姿とは、やはり彼(?)のもの。


ーー


 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦-?

 ケテナ暦216995……


 ムクルとスズレが出会ったメリセデルは最初から人の姿ではなかった。ミーケ、あるいは水を操る少年も近くにはいなかった。

 それはアルヘン生物の姿で、とある惑星の森の中に、擬態しているかのように溶け込んでいた。今も昔も、知的生物の形態にそれほど多様性がない〈ジオ〉や〈ロキリナ〉では、黙っていればそうだと気づかれにくいかもしれない。

「スフィア粒子に関連する話なら、わたしも答えられることは少ない。あれは単に、わたし自身の仲間の命令に従っただけの結果だ。あれの意味するところはわたしにも想像する事ぐらいしか出来ないが、それならきみたちの推測とそれほど違わないだろう。そしてアルヘン生物に関することは、今はきみたちに言えない。だからわたしに、この仕事を任せた者のことも何も言えはしない」

 メリセデルはそう語った。だがその情報は十分ヒントで、それに彼もそのヒントを与えるつもりで待っていたのだろう。それからすぐに、彼はまた姿をくらました。

 ずっと後に、《ヴァルキュス》と関わりの薄い領域に新しくできた、それもまた特殊な銀河フィラメント"世界樹"に、メリセデルは再び姿を見せるが、その時は完全に人形で、前にはいなかったはずの1人の少年をつれていた。しかしそのことを、《ヴァルキュス》の方は把握していなかった。


ーー


「ムクルは、まず確実に、自分たちよりもずっと昔からこの宇宙に存在してきた者たちが、なぜか大災害を必死で生き延びようとするわたしたちを強く改造したことは確信できた。そして今はまだ、わたしたちに言えない、つまりいつか何かがあるとはっきり示唆されていたこと、多分外の宇宙からの危機、そういうものがあるってことも理解できた。それで戦いの準備を始めようと決めた。それがこの国《ヴァルキュス》の始まりなのだそうよ。実のところわたしは、わたしだけじゃないと思う、とにかく、今はもうそんなの、この国を作るため適当に用意した嘘の理由だったと考えてた人も多いのだけどね。もちろん万が一の時のことはいつだってみんな考えてる。あの子、リーザもそうだったでしょう」

 メイリィの言葉に、ミーケたちの何人か、その戦いの時に彼女の近くにいた者たちは、《虚無を歩く者》、実体なき者と実際に遭遇した彼女の様子を思い出す。


(「あれが、実体なきもの」

「その強さでも足りない。この戦いには」

「ザラさん、今回ばかりは、わたしにも万が一てことがあるかもしれないから……」

「あなたにも感情はあるでしょう。少なくとも、わたしたちが感情だと定義できるものを持ってるはず」)


「エクエスが言う、"世界樹"にいたメリセデルが連れてた助手くんが、もし昔のミーケだったとしたら、2人が出会ったのは、ムクルたちより後、なのかな?」

 そう言ったスブレットの考えはわりと混乱していたが、だがそれを聞いたミーケの戸惑いは彼女をはるかに超えていた。

「でも、なんとなく連れられてきたような気がする。でもいやそっか、こっちで行方不明だったなら、一旦帰ったのだとす、れば」

 だが、そこでまた、封印が解かれたためじゃなく、単に埋もれていたことをミーケは思い出す。


(「ア◼◼️️。わたしはあなたを決して行かせないから」

「どっちの道だって無茶な賭けなら……」)

 いつだった。あれはいつだった。確かにあの時に……

(「イヤ、モウヒトツダケダ、アルヘン宇宙ハ死ンダ」)

 そうだと聞いた。誰、いや何から?


「〈アルヘン〉はどこかで、死んだって聞いた。機械、と思う。エルレード生物かもしれない。とにかく何かにそうだと教えてもらった。でもそれがいつだったか思い出せない。ただ」

 メリセデルと知り合ったよりは後の気がした。

「もう、何か計画があったことは間違いないと思う。〈アルヘン〉は自分たちが滅ぶことを知っててそれで何かを託した。ここに、〈ジオ〉に」

 スフィア粒子、つまり緑液系を与えた。もしかしたら《ヴァルキュス》も、"世界樹"も創るように仕向けた。もしかしたら、道案内役に、そうでなくてもその大きな助けになるだろうミーケを残した。


「まあ、元々誰が計画したにせよ、わたしたちよりずっと前にどんな流れがあったにせよ、ひとつだけ、もっと確かなことがあるわ。昔この宇宙に危機があった、今またそういう危機があるなら、今この宇宙を守るための戦いは、わたしたちのものよ。わたしたちの戦いよ。だからきっとあの子も言ってたでしょう。協力してあげるわ。わたしたちもあなたに。まあ、邪魔になるやつらを排除した後でね」

 そこまで早口に言って、こらえきれない楽しさのためみたいな笑みを見せたメイリィは、結局のところリーザに似ているように、ミーケには思えた。

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