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3ー20・偽りの姿(空の欠片7)

 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦-6679912123567……


 フィラメント"永遠冬"だった《ヴァルキュス》と、後にフィラメント"空の欠片"を構成する各一族となる多くの銀河国家が戦乱を繰り広げた時代のことを詳細に知る者は、今は少ない。

 シャーリドの長となったばかりの頃のリルカも、戦乱の時代どころか、シャーリド一族の歴史自体あまり知らなかった。ただし大した興味はなくても、彼女はそれらについて自然と学ぶことになった。彼女が、まだまだ未熟だと自覚していた自分の補佐として選んだ何人かの内の1人ルクエが、古い時代の生き証人であったから。

 ルクエはミジィが、自らの軍にシャーリドを取り込んだ後の生まれだから、《ヴァルキュス》との戦いは経験していない。もっとも(他の国家も大抵そうだったらしいが)、実際、"空の欠片"という完全共同世界が成立するかなり寸前まで、シャーリドでは主の寝首を掻く計画がいくつもあって、本当の意味で味方と言えるかはかなり微妙だったようだが


 "空の欠片"成立以降しばらくは、"永遠冬"との確執などより、むしろ自分たちのフィラメント内での一族同士の対立が非常に激しく、特に好戦的なひとつであったシャーリドにおいては、一族内でも内戦が多かったという。

 しばらくと言っても、数百万年くらいの長さ。つまりは内外で続いた混乱のために、本来なら後世に語り継がれたろー様々な記録が失われてしまったのも当然であろう長さだ。

 それよりもはるか後の時代に生まれ、長となったリルカも、自分が何代目かすら知る術がなかった。戦乱期、混乱期を通して、おそらく最も明らかなことは、かつてのシャーリドという国家より、一族としてのシャーリドの方が規模が大きくなっているということくらい。

 理由はほぼ謎だが、"永遠冬"の有力者の中に、なぜか"空の欠片"の一族群の力を、むしろ反逆の可能性を高めてしまうほどに強くしようと画策していた者が多くいる。国家フィラメントの一部となりながらも、独立性をかなり保ったまま、相対的に物質構造として豊かにもなれた。


 長となってから200年目くらい。その200年でようやく信頼されたのだろう、リルカに会いにきた軍のクロット師団の元帥ミジィは、いくつかの特別な話を教えてくれた。

 大災害と、それ以前の人類、〈ジオ〉のこと。他の宇宙領域に関すること。古き者たち。そして……



 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦-4420


 リルカは、シャーリド一族にしては穏健派ではあるが、《ヴァルキュス》全体では強硬派な方だ。後に最高傑作で失敗作のリーザ・シャーリドを生んだ、特殊兵士育成実験計画を始めたばかりの頃には、反対する勢力を黙らせるため方法も、かなり強引だった。ようするに、そもそも成功するかも、有益かもわからないその計画のために、数えきれない反対者を殺している。

 反対者が多かったのも当然かもしれない。リルカがそこまで計画に拘ったのは、使命感ではなく、ただ純粋な好奇心のためだった。彼女は戦いよりも、強さというもの自体にかなり関心を持っていて、言ってしまえば最強の生物を作ってみたいと考えていた。

 そして、それの危険性を不安視したメイリィがついにリルカを訪ねるより少し前。リルカは、まだ生まれるより4000年以上前のリーザの、両親と会った。そして、ようやくいくらかの部分が確定的となったばかりの、子(つまりリーザ)の情報も見て、そこそこに満足はしたが、いくつかの問題点にはその時から気づいていた。

 まず、戦闘と関連する技術に関して物覚えが早すぎる可能性。仮に何かのきっかけで、それが恐ろしい敵になるのだとして、そうだと気づいた時には手遅れになっているかもしれない。実際(別に恐ろしかったわけではなかったが)、多くの者が、どうにか彼女を処分しようとすることになった訳だが、結局誰も殺すことはできなかった。

 おとなしめな性格も問題だった。環境で調整するにしても(実際にそうなるのだが)自身のその強さのために、上手くいかないパターンも考えられる。



 シャーリド・リーザ・エクヴェド暦46


 メイリィと会った後、まったく想像もできない彼女の情報網を恐れたリルカは、後はもうどういう子が生まれるのか、完全に運に任せて、子に関する全ての情報を消した。

 実際に生まれた子は、最後に見た予測データと比べ、さらに戦闘の才能に恵まれていて、性格も心配していたほどにはおとなしくなかった。ただし、想定していたよりはるかに、その冒険心の強さが問題となった。


 リルカが初めてリーザと会ったのは、まだ彼女が、ひたすら戦闘訓練ばかりの隔離環境で育てられていた、46歳の時。

 生まれた頃からほとんど人付き合いなどしてこなかったわりには上手いと言えただろうが、しかしやはり経験が浅すぎた。ほんの少し話しただけで、彼女が自分に嘘をついていることもリルカは気づけた。

 実年齢も見た目も幼かったリーザは、外の世界になど興味がないように振舞っていた。それに、争いごとはあまり好きではなく、しかし一族の役に立ちたい気持ちは強いとか、自立は恐いから命令されるままがいい、とも語った。全部嘘だ。

 その時のリーザが、初めて出会った自分の一族の長との会話の中で、口にした完全な本心はひとつだけ。「武器として見られることはかまわない。そんなことは気にしない」。だが、そこに続けられた「逆の立場なら自分だってそうするだろう」というのもやはり嘘。



 現代。


 感覚的にもそれほど昔の話ではない。いろいろと思い出す。

 リルカは、元々の計画、彼女を一族の特別な武器とすることはさっさと諦めた。だが次には新たな計画もあった。

 リルカはあえて、リーザが勝手に旅立つのを放置した。時に不安なこともあったが、最終的に彼女が自己満足(リルカからすればそれ以外に表現しようがないこと)のための反乱を許されるほどの力を得て、軍に所属するまでは、概ね計画通りだった。ただ、希望から大きく離れてしまっていたのは、彼女自身よりもむしろその周囲。いや結局彼女自身の願いのちっぽけさが原因と言えるだろう。簡単に言えば、なんだかんだ友人に恵まれていた彼女は(もちろん、後に出て行った訳だから、少なからず不満はあったのだろうが)、意外なほど、再び所属した軍の中で静かにしていた。

 リルカは、リーザが軍を自分の理想的なものとするために掌握してくれることを望んでいた。彼女ならそれができる可能性は十分にあった。シャーリド一族としては、予想できるリーザの軍は悪いものでないし、多少そこに問題点があるとしてももはや些細なことだった。そうして表面上見えるよりもずっと、"空の欠片"の一族群との間に憎しみが渦巻いているだろう、中枢の連中に大きな泡を吹かせてやることができたかもしれないのだ。


 図らずも、今まさにそうなりそうな状況なのだろうか。

 理由はともかく、もしリーザが中枢を本格的に敵とみなして行動しているなら、リルカとしては喜ばしいことだ。

 しかし……


ーー


 ミーケたちのこれまでのこと。ミラの研究、エクエスの研究、古き者たちとの戦い、そしてネーデ生物との出会いと彼らの話。重要だと考えられたことのほとんどすべて。リーザが、ついに古き者たちから完全に故郷を取り戻し、それを利用してやろうと考えるに至った経緯をメイリィはようやく知った。


「ミーケ、あなたは」

 全て聞き終えた後、まず始めに彼女が発した質問は、またしても意外なものだった。

「あなた自身がアルヘン生物に造られた存在と本気で信じてるの? いえ、あなたがこれまでに思い出してきた記憶はそうだと語っているの? それは本当に信頼できると思う?」

「自分の感覚的には疑うのが難しいくらい」

 ミーケは今は自信もかなりあった。

「わたしも、彼の記憶が偽物に思えません。そうだとしても、それなら、なぜそうなのかがむしろ大きな謎と思います」

〔「物理的観点から言うなら、少なくとも緑液系、ジオ生物の神経構造的に、ミーケが今思い出しているだけの記憶を偽物としてこっそり抱えさせておくなんて、絶対に不可能なはずだよ」〕

 ザラの言葉に続けて、いきなりその場に、モニターを通して姿を見せたエルミィ。

「あ、わたしはエルミィ。ザラたちとは《ルビリア》で出会ったわ。話に出てきた母娘の娘の方の物理学者よ」と、ついでに簡潔に自己紹介もしておく娘。

「アーシェ、ミシェリ。あなたたちは、別宇宙の事については何も知らなかったの?」

 今度は(実質的には微妙だが)同郷の科学者二人に尋ねるメイリィ。

「わしはそもそも知るわけなかろう。シャーリド一族と関わり深いから、別宇宙どころか、もっと狭い範囲の中での外側の情報すら制限されとるんだから」

 アーシェは即答。

「何もかっていうと違うかもだけど」と、ミシェリは少しばかり返答に困った様子を見せる。

「全空間理論のことは知ってますか? あれなら少し言及したことある」

「何かわからないわ」

 今度はメイリィが即答。

「えっと、"世界樹"にも多分同じものがあると思うけど」


 そもそもそれは元々"世界樹"の研究が、他フィラメントにまで波及したものだ(そういうものは数えきれないほどある)

 実際には1つだけの巨大空間の中に散りばめられながら、各部分領域ごとで完全に情報が遮断されている境界があるために、まるでいくつもの宇宙があるのと同じ状態であるという、古くからある(そして正しい可能性が高いと考えられている)多元的宇宙(マルチバース)のパターン。全空間理論は、そうしたマルチバースを前提とし、さらに量子場とか心層空間などといった宇宙構造の多領域層も全部統一的に考える理論いくつかの1つ。


〔「どう考えるにしても、この宇宙と隣り合っているけど、関わることのできない別の宇宙を挟んだ、さらにまた別な関われない別宇宙が存在していると考えないと破綻してしまう理論よ」〕

 説明したのはミシェリでなく、しっかりその理論も知っていたエルミィ。

「まあ、とりあえず、実際にこの〈ジオ〉と隣り合う3つの宇宙領域の具体的なことは知らないのよね」

 メイリィとしては、重要なのはその点ぐらい。

「やっぱり直接聞くのがいいわよね。ネーデ生物と今連絡を取れる? 多分ここに呼び出すことだってできるでしょう。会わせてくれるくらいにはわたしはもう信頼されてる? 無理だって言うなら別にいいけど」


 そして、ザラたちが何か言ったりしたりする前に、自分たちから立体映像をそこに表示させることで、ネーデ生物、ケイシャは姿を見せた。


「ケイシャね、あなたが」

 話の途中で、似ているというヒゲクジラとかいう生物については、その姿を見せられていたので、すぐにそうだとメイリィも気づけた。

〔「この場はアミアルンのほうがいいかもしれないが、あいにく少し席を外しててな」〕

 やはり表情的からは全く読み取れないものの、その声には、少し申し訳なさが入ってる感じのケイシャ。

「いえ、むしろあなたで好都合よ。キスト族、あなたたちのアルヘン生物の記録を見せてほしいの。わたしなり確かめたいことがあるの」

〔「アルヘン生物の?」〕


 申し出もそうだが、確かめたいことがある、というのはなおさら意外な言葉だった。ケイシャにとっても、ミーケたちにとっても、アーシェやミルルとしてもそうだった。

 しかしメイリィは、他の者の注目など全然気にもせず、与えられたデータを、自らが持ってきていた、小さな立方体コンピューターによって、冷静に確かめる。

 その間、数分程度の沈黙。


「やっぱり、そういう話か」

「どういう話?」

「何かわかったの?」

 特に幼い少年の見かけの2人、ルカとアイヤナの、気になるあまりの声はほぼ同時。

「ええ、どういう話なのですか?」とザラ。

「あなたたちも多分、というか少なくともアーシェ、ミシェリ、あなたたちは知ってるでしょう。ループ情報空間(ネット)と、物質フィードバック制御を合わせて、メモリーのデータ領域のグラフィックを変化させてしまう手法。わたしは名前は忘れたけど」

「アトレーデ操作ね」

 メイリィの忘れていたその名称も知っていたミシェリ。

「人間の姿」

 スブレットは、それを知ってるだけでなく、自分自身利用した経験があった。

「思いもしなかった。メイリィ、さん。あなたはアルヘン生物のこと見たことあるんだね。それで、それが人間と似ていたってネーデの記録が違うかもって。すごい、それ本当なら。だって大昔でしょう。《地球》だってまだないくらい、ずっと昔」

 彼女らしく、興奮してどんどん早口になっていく。

「そういうこと。そしてこれが」


 グラフィックデータを改竄している。しかし、利用したテクノロジーに関しては知れているので、そうだとわかっていたならば修正も容易だった。その場に表示された、メモリー内の、やはり普通に人間のような姿のアルヘン生物。しかし、まもなくそれはかすれ、消えて、そしてまた別の姿となってはっきりしてくる。

 大きさは人間と対して変わらない。円柱のような体、腰の横についてるような巨大で短い二つの足に、左右と真ん中から伸びる、先にいくにつれ広がる腕。そこだけだと普通に植物的な、草らしきものが茂った顔。


「これよ、これがアルヘン生物の本来の姿に違いないわ」

 メイリィはしかし、自分自身も少し驚いた表情をしていた。

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