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3ー18・古き者たちの計画(空の欠片5)

 ミーケ、ルカ、テレーゼの3人とも、それぞれデータ的な問題で、失った左腕の(ルカだけは他にもいくらかの部分の)再現治療はすぐには行えなかった。とりあえずは3人共に、エクエスとザラが治療システムの設定調整をするのを、そのすぐ側で待っていた。構成粒子加速法により自身で痛みを軽減できるルカ以外の2人は、痛み止めのため、無事なほうの腕に神経調節機能のある四角い機械が付けられている。

「しかし、3人腕失って、ちょっとやばい仲良し兄妹みたいだな」

 あくまで手伝いであって、手伝うべきところはもう終わったのか、ほんのついさっきまで、ザラがまだ何か操作している、ちょうど半径1メートルくらいの球体から離れたエクエス。

 特に付き合いの長いテレーゼ以外の2人にも、彼の軽い感じの態度に隠されている照れ隠しに勘づけた。とても長く生きていても、そういう性格は消せないものなのか、彼は、本気の心配のために取り乱してしまったことが、とても恥ずかしいことと考えたようだった。

「また、普通に似てるしね」

 ミーケらの体の状態を見ながら、何か考えているようだったが、そこで呆れ顔も見せたスブレット。

「似てはないとおも」

「似てはないん」

「似てはないで」

 その、左腕を失った3人が、そういう否定の言葉を発するのも、重なることに気づき、とっさに言葉を止めたタイミングもかなり同時であった。

「まあ、仲良しではありますよね」とザラも笑う。

 別に彼女でなくても、それで照れる3人という光景は、微笑ましいと思ったことだろう

「いや、似てるよ。後先のこと、考えてるようで実は考えてない性格とかさ」

 スブレットも、まだ呆れてる様子は変えなかったが、しかし少し楽しげに笑った。

 そしてその直後だった。メイリィを名乗る何者かからのメッセージを受信したという映像エルミィが、その場に出現したのは。さらにその報告の数秒後には、彼女の直接に知るミルルが現れて、それが確かに、《ヴァルキュス》軍 師団の元帥であるメイリィだということを確認した。


ーー


 時空間戦闘機ごとミズガラクタ号に出迎えられたメイリィ。

 ミーケたちとしても無駄だろうとはわかっていたが、一応戦闘機から降りる彼女を出迎えた部屋には、様々な攻撃システムを、視覚的には見えない形であちこちセットしていた。

 部屋で待っていたのは、(ミーケたちとしてはどういうことかよくわからないのだが)万が一のための準備があるというメリシアとエルミィ母子と、エクエス、それにもちろん今は不在のリーザ以外のミズガラクタ号の船員全員と、メッセージの中に名前のあったアーシェ、ミシェリ、ミルルの《ヴァルキュス》側3人。


「て、ミーケ、あなたか」

 その場の誰にとっても意外だった。メイリィが彼を知っていたことは。

「あの、どこかで会ったっけ?」

 問うミーケ自身は、それでも脳天気な様子だったが、ザラやスブレットはなかなかに緊張を見せた。(結局そういうことではなかったが)記憶を失う前のミーケのことを知っているかもしれないと即座に考えたためだ。

「いえ、会うのは初めてよ。あなたもわたしのことは知らないはず、リーザ、あの小娘から聞いてたりしてないなら。それにわたしも今の今まで忘れてたわ、ただ、今思い出したの。あなたを見た何度かの内の何度かは、わたしにとってはわりと衝撃的だったから」

「監視じゃな、あやつのことを。どうやったかはしらんが」

 そこで、消去法から真っ先に事情を悟ったアーシェ。

「ええ、影響を一切与えないでいいなら、例えあの子でも気づかれずに見張るシステムぐらい、わたしなら用意できる。だいたい軍でだって、あの小娘を一番最初から知ってて、一番警戒していたのは誰だったと思ってる? わたしはあの子を見張る事にかけてなら、あの子自身よりエキスパートなのよ」

 そうした彼女の自信は、少し恐ろしいものであると同時に、ミーケとしては面白いとも思った。

 彼自身が、リーザとの付き合いの中でよく感じてきたことだ。自分のことを自分以上に彼女がよくわかっていることとか。水分子構造をコントロールする自分の能力なんかよりも、よっぽどおとぎ話の魔法みたいな印象だが、だが実際にそうなのであろう。その驚くべき感知、諜報能力は、ヒトという生物、あるいは緑液系、もしかしたら心層空間の可能性。

「まあ、実際的にあなたのことだってあまり知ってるわけではないわ、ミーケ。わたしがあの星を観察できた時間だって、全部合わせたってほんの数日程度だった訳だし。せいぜい、そうね、あなたが《フラテル》という惑星でリーザと出会ったこと、それに記憶喪失、水の研究。後はちょっと、いえかなり無謀よね、真夜中の森での秘密の特訓くら」

「わあっ、わあああ」

 唐突にさらけ出された恥ずかしい過去に、とりあえず慌てるしかないミーケ。

「な、なんで。いや、それはそうだろうけど、秘密のってわかってるのにバラさないでよ」

「あ、えっと、言っておくけど、あの子には確実にバレてるからね。まあ覚えてるかわからないけど。その頃はあなたたち、多分まだ今ほど近しい関係じゃなかったでしょう」

 別に彼の反応を面白がる風とかもなくいたって冷静に(無慈悲に)事実を告げるメイリィ。

 実際、ミーケ自身が考えてるほど、後ろめたい思い出でもないだろう。ただひょんなことから彼女に格闘術をしばらく習ったミーケが、見事なまでのその無知ゆえに、模擬戦で彼女に勝って驚かせてやろうとか計画したと、それだけの話だ。

「いや、リーザにか」

「言わないで、何も言わないで」と、スブレットを早口で遮るミーケ。

「て、そもそもそんな話、今はどうでもいいだろ。メイリィ、きみはいったい、何の用でここに?」 

「いくつかあるから、普通に順に話すわ」

 一瞬だけだが、メイリィはわかりやすい笑みも見せた。

「わざとなんですか?」

「多分な」

 ザラの小声の問いに、すぐ頷くアーシェ。

 つまりは、ミーケの予想通りの反応を引き出すことで、その場の緊張感をまず緩めたのだろう。


「まず、わたしとしても、この国に寄生する古き者たちを、今こそどうにかするべきと考えてるから。そういう点で、リーザにはわたしも賛成というわけ。あの小娘、というか、あなたたちに協力しようと思ってるわ」

「いや、おまえたちはその、そういう存在がいる事に気づいてたのか? 『フローデル』のような」と、質問を挟んだフラッデ。

「しかも古き者たちって、それが大昔の連中だって知ってたの?」

 続けてスブレットも聞いた。

「わたしは正直、知ってたって言えるかは微妙なんだけどね。でもその辺りも含めて話すと……」


 《ヴァルキュス》。ジオ族が築いた、おそらく最も特別な大国。この宇宙を守る役割まで与えられた、強固な砦。だがその始まりの頃から、すでにその巨大な複雑構造の中に要素として紛れ込んでいる、多くの者にとって決して望ましくはないだろう何かが、これまでまったく誰にも気づかれなかったわけではない。

 メイリィにとっては戦闘の師でもあり、《ヴァルキュス》がまだ、1つの特殊なフィラメント"永遠冬"だけの世界だった頃を直接に知る数少ない1人である、クロット師団の元帥ミジィも、メイリィと出会った頃には、その事実を普通に把握していた。


「若い頃のわたしは、立場としては少しリーザと似ていてね。ある一族の中で異端児だったんだけど、ミジィと戦って、負けてから、しばらくはあいつに鍛えられて、軍に入ったの。本当にかなり昔の話よ。あいつは、軍に入ってからのわたしには何も言わなくなったけど、修行時代にはよく言われたわ。ユーカ大元帥とマルゥ元帥は決して信用するなとね」


 ほとんどミジィから聞いたことでなく、彼から伝えられたわずかな情報から、メイリィ自身が調べたことだ。

 かつて、フィラメント"永遠冬"だった《ヴァルキュス》が、後にその3大領域構造に、フィラメント"空の欠片"として取り込まれることになる、いくつもの銀河国家とまだ敵対していた戦乱の時代。その頃の《ヴァルキュス》軍には師団という分類はなく、ただその全体の総司令(トップ)は、現在と変わらずユーカという男で、マルゥは唯一の次官であった。ミジィも存在感がなかったわけではない。1大部隊の隊長であった彼は(実は現在もなのだが)当時、構成粒子加速法を最大に使いこなせた数少ない1人で、特にマルゥからの信頼厚い上級兵士だった。

 現在《ヴァルキュス》という国家について、他フィラメント世界に流れている噂の1つ、「この国の軍隊の指揮官クラスの者には、たった1人で銀河国家を導く指揮官能力と、たった1人で銀河国家と戦える戦力が求められる」という基準は、その出所をミジィその人に帰する。"空の欠片"を構成する各一族になるかつての銀河国家を、いくつも1人で打ち負かし、さらにはそのカリスマ性で味方側へと取り組んだ活躍記録からだ(リーザは、これまでに何人かいた、彼の再来と言えなくもない)。

 実のところ、"空の欠片"の、ほぼ独立軍と言える各一族という構造が残るように仕向けた者たちの中で、おそらく最も影響力を持っていたのがミジィである。他にも軍の師団分類や、軍事力に関してはたいしたことなかった(もともとは同盟国のような存在だった)フィラメント"星屑海"の強化といった、つまり権力|(というか武力)の分散化は、実はかなり最初から気づかれていた「古代からの者たち」、つまり『フローデル』という秘密結社を警戒する者たちによってなされた。

 古代からのものと言われる謎の組織は、本来はこの宇宙を支配するための巨大な軍隊を作ろうと考えていた。そして彼らの計画は、《ヴァルキュス》という世界が生まれたいくつかの理由の1つでもある。ただし彼らは利用しているつもりで、現在までずっと利用されてきてもいる訳だ。


「昔は昔の事情があったみたいだから。『フローデル(かれら)』が《ヴァルキュス(わたしたち)》が強くなるために必要な要素だったのは確かみたい。だけど今はもう邪魔なだけ。なのだけど、それだから彼らをもう排除しようとか、そういう簡単な話でもないわけ。簡単に言うけど、わたしたちが彼らを制限するために用意したいろいろが、今はわたしたちの方に対しても邪魔になってるの」


 ただそれでも、まったく問題はないとされていた。〈ジオ〉の宇宙で、最強の軍事国家として存在しているだけなら……


「だけど今は、わたしたちの方の事情も変わってしまって、正確には変えられてしまったから。あの小娘がこの国を必要としてるなら、そこから予想できるどんな事態も、今のままじゃ満足には手を貸せないだろうからね。この船のここまでの軌跡もいくらか辿らせてもらったけど」

 そして彼女は、またあっさりと衝撃的な言葉を続けた。

「あなたたち」

 それはまさしく、ミーケを知っていたこと。『フローデル』を知っていたことに続いて、3度目の爆弾であった。

「〈ワートグゥ〉から来たんでしょう。向こうに行ってた、というのが正確かしら。これ以上は本当に知らないけど、他の宇宙からの何かがあるなら、その危機は事前予測で対策立てるのはとても難しいだろうから。何があっても即座に対応できるよう、わたしたちをはっきり1つにまとめておく必要があるというのは正解。だからその妨げになる癌は排除しないと、ていうのもね」

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