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3ー15・存在しない船対策(空の欠片2)

 アーシェが保有していてくれた、昔に自身が使っていた特製の時空間戦闘機で、1人、先に中枢へとリーザは向かった。


 そして彼女がいなくなってから、最初に言葉を発したのはミルルだった。

「あなたたち、シャーリド家に行くのがいいと思うわ。具体的には、シャーリドの領域の実質の中心世界の第一銀河《ナフルス》に」という提案。

〔「わたしたちを助けてくれるでしょうか?」〕

 すぐにザラがそう問う。

「まあ、正直助けてはくれないかもしれないけど」

「ミルル、おまえさんが一緒でもダメなのかいな?」

 ミルルも一応、シャーリドの者の中でわりと名の通ったジーナや、一師団の元帥であるメイリィと関わりあるのだから、全く影響力がないはずはない。と、少なくとも、自身も以前いくらかシャーリド家と関わりのあったアーシェには思えた。

「そりゃ、私は助けてくれるかもしれないけどさ。うん、ザラさん、だったよね。ザラさんたちのことは、あの人たち、多分興味ないだろうから」

〔「じゃあなぜ、シャーリドに行くのがいいの?」〕

 ザラが何か言うよりも先に、ルカが聞いた。

「中枢からの攻撃、があったなら、それに対して確実に抵抗してくれるだろうからさ。だから結果的には、きみたちの防壁みたいになると思うの。多分ジーナさんとか、いや、わたしの一族の人たちのほとんどは、つまり、あなたたちには特に興味ないだろうから」

「本当なのかいな? リーザを憎んでるやつとかだって、今もいるんじゃないのかい?」

 むしろザラたちよりも、ミルルに対して疑り深さを見せるアーシェ。

「わしとしては、まっすぐ《トルクト》に向かうのがいいと思うがな。戦力的にはシャーリド一族には劣るじゃろうが、しかし確実にお前さんたちのことを助けてはくれるじゃろう」

「まあ、あのトルクト部隊(ひとたち)はそうでしょうけど、だけどわたしとしては、背後に軍がある時点で、直接的にあのトルクト部隊(ひとたち)に助けを求めるのはむしろ危険かもしれないと思うんだけど」

 疑われていることはまったく気にしていないようであるミルル。むしろ、本来はあまりよい感情を持っていなくてもおかしくない相手であるザラたちのことを、かなり本気で気にかけてくれているようだった

〔「ルカ、どうするんだ?」〕と、いつの間にやらザラたちのところに来ていたエクエス。1人でいた彼を映していたモニターも消えていた。

〔「あんたは? あんたには意見ないの? 大々賢者のエクエスさん」〕

 ルカが何か言う前に、素早く彼のすぐ隣に立って、同じモニター画面に顔を見せたテレーゼ。

〔「うん、エクエス。ぼくとしても、あなたの意見は聞きたいところなんだけど」〕

 続けて、ルカ自身そう言う。

〔「おれとしてはトルクトに行くのがいいと思ってる」〕

 すぐさまエクエスはそう返した。

〔「言っとくがそんなに深くは考えてないぞ。ただ、《ヴァルキュス》の軍系一族と、リーザの昔の部下たちなら、後者の方がずっと信頼できるから。それにそもそも、船の性能からしてミズガラクタ号で戦う限りは、防御に関しては問題ないだろうと思ってるから」〕

 それから少しだけ黙ったが、他の誰かがまた喋りだす前に、再び彼は口を開く。

〔「だけどルカ、おれは何よりまずおまえが決める方がいいと思う。リーザは少なくともそう思ってたはずだ。だから、みんなをお願い、とおまえに言ったのだろうし。どうすべきか自分の考えは言わないで。まあ、単純に言えなかっただけかもしれないが、現状どうすればいいのか、さすがのあいつもわからないとかで」〕

〔「だと思う」〕

〔「まあ、そうですよね」〕

 ミーケとザラのほぼ同時の反応。

〔「うん、よし」〕と、いよいよ完全に覚悟を決めたようだったルカ。

〔「リセノラ」〕

 あらためて、ここまででまだ、リーザたち側、ミズガラクタ号側のどちらのモニターにも姿を見せていなかった少女の名を、ルカは呼んだ。

〔「なあに?」〕

 新たにモニターを出現させることはなく、自身を呼んだルカのすぐ近くに立体映像として姿を見せたリセノラ。少し前まで寝ていたのか、もしかしたら今起こされたのか、その表情も声もなかなか眠たそうだった。

〔「いくつか新しく作ってほしいものがあるんだけど」〕

 そう言いながら、さっさとその作ってほしい希望を、リセノラの指輪コンピューターにデータで送ったようで、その指から一瞬光が放たれた次、より正確には立体映像の彼女、おそらくその映像範囲全体を光が包んだ一瞬の次に、彼女の目の前に、文字ばかりびっしり映った小さな半透明モニターが出現する。

〔「なるべくはやくお願い」〕とルカ。

〔「はやくね。わかった」〕

 そして一旦は消えたが、数秒くらいで、彼女は再び現れた。

〔「アイヤナ、ザラ、エクエス。ちょっとお手伝いに来て」〕

 それから、指名した3人から了解の返事をもらってから、彼女の立体映像は今度こそ消えた。


ーー


 銀河フィラメント"空の欠片"の中でも、シャーリド一族の所有するシャーリド銀河団の第一銀河は、一族の拠点として知られている。取り立てて変わったところがある銀河ではない。数億の恒星と、各恒星ごとにいくつかの伴惑星。空洞領域は少し広めであるが、平均から大きく離れるぐらいのものではない。

 ただ、シャーリド第一銀河には1つだけ、普通の銀河(それ)とは一線を画す側面がある。人工低次元障壁、つまりは3次元以上の物体、というよりエネルギー体とその影響が、普通には出入りできないシールドで覆われているために、銀河系内外でエネルギーの影響交換が行われることがほぼないのである。


 中枢へと向かうリーザと別れてから、力になってくれるというミルルとアーシェ、それにアーシェの助手17人も乗せたミズガラクタ号が、9つのリング構造がさらに階層を構成する人工惑星帯『マリツキ研究所』の内部より2つめのリングに含まれる惑星《エルドロ》から出発してから3時間くらいが経っていた。

 『マリツキ研究所』を抜けるより前に、船は、リーザの幼馴染みであるマリツキの科学者で、内部から5番目、すなわち《マリツキ輪5》にある研究所惑星にいたミシェリも拾った。


 ルカがリセノラに「作ってほしい」と頼んだものは、リーザにくらべての自分の力不足と感じることを補うためのもの。次元変換技術を駆使した時空間場での戦い方など知らないから、そのような技術を無効化させる装置。空洞領域を越えた距離間での探知の術もないから、特に、性能以上に範囲重視の扱いやすい探知装置。それに、なるべくリーザが普段から理解している程度に、それほど離れてない仲間たちの状態を、ルカが常に確認できるようなシステム。

 前2つ、反次元変換装置と、遠距離探知装置はそれほど難しくなく、2時間以内にどちらも用意できた。問題は最後、確認システム。それに関してはまだ制作に取りかかることもできていなかった。ルカが望んでいたような性能を実現するためには、既存機械のパターンでは不十分と判断したリセノラは、スブレットに新設計を頼み、とにもかくにも彼女の作業待ちだった。


「ごめん、わたしのと、ザラとテレーゼの分しか用意できなかった」

 集中したいからと1人だけ閉じこもっていた部屋から出てきて、すぐにその名前をあげた3人、ようするに世界樹人でかつ生理的調整を大してしていない若い3人の分の、(ルカがすぐ使えそうな)生体データ追跡システムの設計データを、部屋の前で待っていたリセノラに渡したスブレット。

「あとのはかかりすぎると思う。エルミィとフラッデのは、もう1日くらいあったらできるかも。あと、ミーケとエクエスとアイヤナのは、多分100年あっても無理だと思う」

「いや、十分、ほんと」

「うん、やっぱきみ、すごいよ」

「というか、エルミィとフラッデでも、1日くらいなんですね」

 申し訳なさそうなスブレットだが、リセノラも、一緒にいたミーケとザラも、彼女の自覚なき天才ぶりに、いつも通り驚かされる。


 ルカが求めるシステム、つまりリーザの感知能力の再現が、緑液系とルカ自身の構成粒子加速法を利用したものになるだろうことは、ミーケらにも予想ついた。

 リセノラという例外を除いた、今生きているすべてのヒトに共通しているであろう緑液系というのは、ある反応としての動作パターンが完全に確定的で、(心層空間という誰も突破できたことのない壁はあるが)性能高いコンピューターを使うことで未来予測計算の基準因数(ファクター)(ある数学表現において、安定した挙動を壊さないどんな変換をしても、記号を変化させる必要性が生じない要素)になりうる。ようするに、ある孤立した(例えばある人の)緑液系の周囲で起きた現象に対する、緑液系(それ)の反応は決定的|(固定)なのである。

 リーザが生物の生理的なものを含む様々な(しかもその時々の自分にとって重要な)現象を感知できるのは、自らの緑液系の反応を読み取っているのだが、エクエスやエルミィによると、考えられるどの方法であっても、その読み取ったデータを実用的に使える程度に理解するために最低限必要な速度は、通常の生物にはどうあっても実現不可能。リーザは構成粒子加速法を使って神経の動作速度を上げている。それは本人曰く、本人もコントロールできない「心の奥底でまず感づく情報を、瞬時に意識上に持ってくるというようなもの」だが、実際には本人が考えている以上に、自動的に働いている要素が多いだろうとエクエスもエルミィも推測している。

 設計のスペシャリストであるスブレットに、可能か聞くまでもなく、(生まれつきか、どうやってかそれを埋め込まれているのかはともかく)リーザの能力に関して、自動的な部分システムはまず再現できないだろうし、仮に出来るのだとしても途方もない時間がかかることが間違いないことはミーケたちにもわかる。しかしスブレットなら(現にできた訳であるが)あらかじめ物理情報が揃っている特定の緑液系から(やはりその決定的という特性のために)読み取れるパターンから、それの持ち主の状態を、リーザと同じ程度に確認できる装置設計くらいなら用意できる。もっともそれには、感知対象となるヒトの生体情報をよく知る必要がある。

 まずスブレットは、自分の生体情報に関してなら、あらためて調べるまでもなく、かなり詳しく知っている。《カルディラ大学》で彼女が学んだ分野の1つに生物設計学というのがあるが、「自分の生体情報を自力で調べる」というのは、入学してから最初に出される課題の1つだった。そして"世界樹"の一般的尺度では、別にそれからそれほど長い時間があった訳でもなく、さらには彼女は重度のヒキコモリであったために、自らの体の人工的破壊とかの経験も一切ない。

 問題は他の者たちだが、ザラはアズテア王家の、テレーゼはレトギナ教のデータベースに大量のデータがあるし、そもそも世界樹人の若い個体だから、シュミレーション上で扱いやすい。だからその2人のもわりとすぐに用意できた訳だった。

 しかし、スブレットの設計構造の組み立ては、やはり匠の仕事である。理屈がわかる者ほど、強くそう感じさせられることだろう。


「1日の余裕はないと思う」

 いつもなら映像だろうに、直接自身を転送してきたエクエス。転送前から一緒にいたのかはわからないが、ルカとアイヤナも一緒だった。

〔「何か仕掛けられたかもしれん」〕

 エクエスに続いて、今度は映像で姿を見せたアーシェ。


ーー


 まずは、船に乗っていた全員、集まった。


「補足されたみたいですね。つまり、外から隔絶されたみたいです」ということは、少しの解析で理解できたザラ。

「どうやってだ?」

 即座に聞いたのはフラッデだが、そう思ったのは彼だけじゃなかったろう。


 リーザの話を参考にして、スブレットがミズガラクタ号に付けた高性能な質量探査(エネルギーサーチ)通信波域(ウェーブネット)システムは、少なくとも(後になって考えてみると、リーザははなからそこまで想定してたのだろう)実体なきものにすら、こちらに干渉しようとする限りは、船を隔絶するような何かをこっそり行うなんて絶対に不可能なはずだったから。


「広い空間ごとの隔絶ね」

 ザラが説明するよりも先に確信したエルミィ。

「はい、わたしには上手く説明できませんが」とザラ。

「これは、理解は意味のない話ではあると思う。ただ簡単にはこういうこと」


 そして、真っ黒な球体を頭上に表示させ、まるで(その通りと言えばその通りかもしれないが)広大な宇宙のある1点をズームアップしていくかのように、銀河フィラメントらしき集団、銀河らしき集団、そしてミズガラクタ号が今いる周辺か、それを中心としたいくつかの星系と、切り替えていくエルミィ。

「理論的には、まあもう実践されてるわけだけど、どんなレベルのエネルギーサーチでもすり抜ける唯一の方法ね。宇宙全体、あ、いや、この〈ジオ〉全体に切り替え用空間を重ねて、必要な範囲まで収縮させる」

「あの、エルミィ、ぼくにもわかるように説明できる? 切り替え用の空間を重ねるって、どういうことなの?」

 そこで口を挟んだルカ

「さっきも言ったけど、理解は意味のない話とも思うけど。でもそうね。ある宇宙全体を包むような巨大な仮想空間を想定して。次に仮想空間の方を基準とした実際の動きを、自然的な形を乱さないように少しずつ進めるの。十分に長い時間が経ったら、いきなり仮想空間を実際のものに変換して適用しても、宇宙全体の違和感(ギャップ)は非常に少なくなる。そういうわけよ」

「でも、そんなの、正直頭おかしくない、何を想定してそんなこと、いや、この船か」

「本来は存在しない宇宙で一番強い船を想定した対抗策」

 スブレットもミーケも、顔を見合わせて、そしてリーザなしなら、一番《ヴァルキュス》という国を知っていそうなエクエスを見る。

「まあ」

 一瞬困った様子を見せたが、しかし一応、自分が出せる実にシンプルな答だけは発したエクエス。

「リーザの故郷に、もしかしたらリーザの身内だしな」

 結局、それでミーケたちも納得はできた。

「えっと、まあいいや、とにかく、隔絶された空間に閉じ込められちゃったってことだよね」

 なんとなくではともかく、しっかりと理解することはもう諦めて、しかし冷静さだけはしっかり保つルカ。

「その理解で問題はないでしょうね」とザラ。

「これは、時間稼ぎだよね、多分」

 少し考えるも、その可能性が相当高いとルカは推測した。

「そういうことじゃろうな。リーザがいなくなったなら、ミズガラクタ号(この船)をそれでも壊せなくても、足止めならできると考えたわけじゃろう」

「そしてあの子とこの船がなかったら、他の所を攻撃できる、たくさん殺せるとね。他には考えにくいけど、でもそうだとすると中枢の連中、かなり本気で正気を失ってるわ。やっぱりリーザのことは知られてることも多い。精神的な打撃を与えようとしてるんだと思う。それにあの子の心を折ることはできなかったとしても、目的を見失わせることはできるかもしれないし」

 ルカよりも早くに(というよりしっかり検討するまでもなく)、そんな考えに確信をもっていたようであるアーシェとミシェリ。《ヴァルキュス》側のリーザの友人である2人。

「でも、だとすると、リーザが単独でぼくらを離れてることはもう知られてる。だよね」

 ルカはとにかく万全を期して、わかりきっているようなことでも、自分より物知りな仲間たちにしっかり確認する。

「まず間違いなく、目当てのものは見つけておると思う。逃げるために暴れてるのかもしれん」

 アーシェがすぐ答える。

「外部から完全に隔絶されてる空間だから、コントロールコンピューターは、内部にあるはず。で合ってる?」

 これは普通に、ルカとしては自信がなかった考え方だった。

「合ってる。原理的に確実に」と頷くエルミィ。

「よし、じゃあ」

 そして、どこかの破壊少女。師匠ゆずりの言い方で、ルカは仲間たちを鼓舞した。

「友達を傷つけるような相手だし、遠慮もいらない。ぼくらでぶっ壊してやろう」

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