3ー14・単独行動へ(空の欠片1)
「アーシェ。信頼できる相手を教えて。特に、トルクトは?」
「まず大丈夫じゃよ。トルクト以外にも、マリツキ研究所もな。実のところ、おまえさんの伝説のおかげで、ミシェリは今、結構高い立場にいるんじゃぞ」
アーシェに会って、リーザがまず確かめたのは、現在の状況でも確実に信頼できる相手。つまりは、《ヴァルキュス》という国家に寄生する敵と戦う上で、国内の方にいる協力を求められそうな味方。
「あと、ミルル姉さんいたの、いいタイミングかも。せっかくだから聞いときたいんだけど」
「でもあの、あまり答えられないかもしれないけど」ということについて、自分でちょっと残念そうなミルル。
「この質問なら答えられるでしょう。リルカおおばあさまが今どこにいるかわかる? あるいは連絡をどうやってとるか」
リルカ。
実のところ、その名前がリーザの口から出るのを、アーシェははじめて聞いた。ただしもちろん、大問題児であったとはいえ、一族の最高傑作とされていた彼女が、面識がないわけもないだろう。
リルカ・シャーリドは、リーザが生まれるよりずっと以前から、今に至るまでシャーリド一族の長である女。
「おおおばさま? いえ今はわからないけど、でもジーナさんは、あなたのことどうにかしようって気はないみたい。もしかしたら、求めたなら協力だってしてくれるかも」
姉妹にとって祖母にあたるジーナも、一族内での影響力はなかなか大きい。
「ミルル姉さんは、ジーナさんのところに」
「ちょっと前からね。だからあなたが知らないのは無理ないわ」
「ミルル姉さん。あなたは、あなた自身は、わたしがこれから始めようとしてる戦いに、手を貸してほしいと言ったらどうする?」
「わたしは」
まだミルルは詳しい事情は知らないはずだが、それでもそれが、《ヴァルキュス》国内の大規模な内戦に発展しかねないという話だとはわかってたろう。
「どんな形になるかはわからないけど、あなたに協力しようとすると思う。だってわたしが仕えるジーナさんやメイリィさんは、そうするだろうから。わたしはあなたたちの間に何があったのかほとんど知らないけど、でもあの人たちがあなたのこと、別に嫌ってたりしてないことはわかる」
「リーザ、素直に嬉しく思っておけばいいと思うぞ」
何か言いたそうにするも言わないリーザに、彼女の考えを察したアーシェが言う」
「そう、よね」
それに今さら気にするようなことでもない。仮に彼女らが違っていたとしても、リーザに好意的な者の大多数は、結局のところは強力な生物兵器としての彼女を望んでいるということは確かな話なのだし。
「ミルル姉さん、ジーナさんに」
しかしそこで、一旦話は途切れる。
〔「リーザ」〕
突然、その場に出現したモニターに映ったザラによって。
〔「ちょっと、いえ、かなり重大なお話が」〕
ーー
ミズガラクタ号の1室。
まずは、ザラたちは知らない相手であったミルルを紹介してもらってから。
ネーデ生物のケイシャたちや、ロキリナ生物のタキムも交えて話しあったこと。そして、もしかしたら非常に重要な手がかり、《虚無を歩く者》に関してのロキリナの記録を《ヴァルキュス》の解析システムによって調べさせてほしいことを、ザラはリーザに伝える。
〔「あの、ザラさん。解析システムて、どのくらいのレベルのやつを?」〕
「なるべく優れたものがいいですね。あなたがかつて、実体なきものとの仮想戦闘をしたのに使ったようなシュミレーションが行えるコンピューターもほしいです」
〔「えっと」〕となぜか深刻そうなリーザ。
「何か問題が?」
向こう側にはザラしか見えてないわけだが、ザラたちの方からはリーザたち3人共がモニターで確認できている。そしてその全員が、ザラの言葉に気まずいような雰囲気を醸し出していたのは、ザラたちからすれば意外だった。
〔「つまり、そのだな」〕
おそらくは、軍内部での科学組織のコンピューター利用に関する規定などについてはあまり知らず、どのように説明すればよいのか悩むリーザのすぐ横に立ったアーシェ。
〔「わしらがやろうとしていることは、というよりもむしろもう始めてしまっていることじゃが。少なくとも、お前さんらの敵はすでに、おまえさんらを始末するために時空戦闘機を使ったわけじゃし、そしてお前さんたちはそれを見事に撃退したわけじゃから」〕
「実体なきものを解析できるようなコンピューターシステムは、おそらく敵である中枢が独占してるとか?」
そう推測したメリシアが口を挟む。同時に、リーザたちの方では、彼女を写したモニターも表示されたはずである。
〔「まあわりとそういうことなんじゃ。それは軍の特別訓練にも関連してるものじゃが、そういうものはすべて軍の最高権力者である大元帥の管理下にあるのじゃ。以前は、わしらは軍の機密訓練プログラムを一時的に盗んで、ようするにな、それを利用したのは勝手に使わせてもらってたわけなのじゃ」〕
「でも、前にできたなら」
〔「その時に比べたら、今のわしらは警戒されすぎとる。あの頃は、リーザは厄介な問題児ではあったが、危険な存在ではなかったから。いや、今でも普通には問題ではないじゃろうが、じゃが」〕
〔「もうわたしのことを、『フローデル』の奴らは知ってるだろうから。大元帥はほぼ確実に向こう側だとわたしは今は思ってるわ。それに」〕
そもそも以前にそれを勝手に使えたと言っても、それはもともと中枢のコンピューターのメモリの中にある、完成された戦闘訓練用プログラム。だからこそ、当時リーザに協力してくれたアシェレ師団の元帥フラゴが(実のところリーザたちも、彼がどうやったのかは知らないから推測だが)嘘の理由をでっち上げるなどして持ち出せたのだ。
〔「おまえさんたちの目的、つまりは実体なきものとやらの使っていた経路の解析のためのシステム。となると、おそらく新しく中枢のコンピューターで作る必要があると思う」〕
〔「だけど、わたしたちは大元帥の武器でもあるそれも、まさしく壊すつもりだったから」〕
そういうことだ。そもそも何であろうと、大元帥がもしも『フローデル』の者なら、それと関わっているもの、特に仮想空間ネットワークを使えるものは全て破壊する必要があるだろう。もうその寄生者たちが、二度と立ち上がれないように。今度こそ完璧に……
〔「でもリーザ、《ルーケノ・ギザ》の時は」〕
ミーケたちはまだ聞いたこともなった、昔リーザが、軍に対して反乱を起こしていた時に、籠城していた星系の名を出したミルル。
〔「無理よ、前の時とは違う。前は守ればいいだけだったけど今回はこっちが攻めるんだから」〕
そしてリーザは、正直にはっきりと結論を告げた。
〔「ザラさん。わたしは、わたしと友達とミズガラクタ号なら、中枢と戦っても勝てると思ってる。だけど、わたしたちに必要なものだけを的確に残して、というのは無理だよ」〕
それはつまり、もしザラたちが考えたように、その中枢の、おそらくは実体なきもの《虚無を歩く者》の古い経路を解析できるシステムも構築できる特殊なコンピューターを使うには、まさに今おこなっている戦いが終わる前でないといけない、ということ。
〔「ザラさん。この手がかりは逃すわけにはいかないものだよね。わたしたちの研究のために、あいつ、実体なきものといつかまた戦う時のために」〕
「そうなると思う」と誰より早く答えたのはネーデ生物のエルディクだった。
「おそらくずいぶん遅れたけど、我々はそろそろ遠くへ向かうべきだと思う。真の唯一の宇宙を知るべきだと」
「はい、わたしもそう思ってます」
そう、大災害を生き残った〈ジオ〉、〈ネーデ〉、〈ロキリナ〉の自分たちがここに集まったのが運命みたいなら、旅に出るべき時は今だろうと、ザラも感じていた。
〔「わかった」〕
リーザもちゃんと確認して、そして、また覚悟を決める。
〔「ザラさん、みんなを呼んで」〕
ーー
それから、ミズガラクタ号の者たち全員との通信が繋がれてから、さっきまでの話に加わっていなかった者たちも、事情を聞いた。
「方法は2つあると思う。戦いの最中に敵のコンピューターを勝手に使う。あるいは戦いが敵地で本格的になる前、つまり今のうちに必要な最低限だけでも奪っておく」
リーザが簡単に示した2つの選択肢。しかしどちらも簡単な方法とは言い難い。
「後の方がかなり現実的じゃな」
アーシェはすぐにそう判断した。
「それに奪っておいたら、戦いの後の私たちにとっても、またそれが役に立ったりするかもしれないしね」
リーザも同意件。
〔「だが奪うといっても、具体的にはどのようにする?」〕
新たに表示されたモニターに、一緒にいたアイヤナと共に姿を映したフラッデ。
〔「どう考えても、リーザが単独で行って、なるべくさっさととってくるのがいいだろうな」〕
また別のモニターに映る、1人でいたようであるエクエス。
〔「そもそも、それが無理ならどうしようもない。だよな」〕
「うん、だけどエクエスさん」
そう、それが最善の策だとはリーザ自身わかっている。こっそり行くなら、アイヤナの力を借りるのがいいだろうが、言わば敵の本拠地である中枢では、さすがに隠密行動も難しい。それにその目的、必要な量のコンピューターの奪取に成功した場合は、もう確実に存在を知らせてしまうだろう。そうなるとあとはとにかく、いかに早く逃げるかが問題となる。
〔「リーザ、危険なことなの?」〕
ミーケが聞いた。
「危険なのは、わたしじゃないわ」
「そうじゃろうな。リーザなら1人で中枢に行っても、目的は果たせるじゃろう。じゃが、さすがにそれなりの時間はかかる思う。そして敵には、おまえさんらから彼女が離れていることがわかってしまう」
今や顔のひきつっていたアーシェ。
〔「総攻撃が予想されるわけか」〕
〔「わたしたちの方が狙われるかもてことね」〕
エクエスとメリシアの声が重なる。
「多分、戦力を削るためというよりも、一番厄介なリーザの精神へのダメージのためにな」とアーシェ。
〔「ミズガラクタ号があってもきついかな?」〕
モニター表示されず、どこにいるのか不明なスブレット。
「わからないの。敵がもしも好機だと考えたなら、どんな攻撃をしてくるか」
しかしどのような攻撃がきたとしても、自分さえ一緒にいるならすぐさまそれに対抗する策を用意できる、という自信がリーザにはあった。自分さえいたなら。
「ルカくん」
その名前を呼ぶや、モニターに表示されたルカ。どうやらスブレットとテレーゼも近くにいたようだった。
〔「リーザ」〕
どのようなことを言われるのかは、言われるまでもなくわかっていた。だからルカは、自分も覚悟を決めて、震えそうな体を無理やり震えさせず、その拳を握りしめる。
「みんなをお願い」
「うん、任せて」
できるだけ力強く、永遠少年の弟子は、化物少女の師に、そう返した。




