9・虚無を歩く者(不吉な予言9)
誰かがあの特殊な力、 それを開発した、あの〈アルヘン〉の者たちが"錬金術"と呼んでいた力を使った。
昔とは違って、それを使える者なんてもうほとんどいないだろう。だから珍しくて、今の宇宙では、ずいぶんとその力は目立つ。
最後にその発動が感知されたのはどのくらい前であろうか。それが確認された領域に生きている、ジオ族が好んで使う時間基準では6000億年ほど前だ。興味深いのは、その時もその対象が水であったことか。
今回も水、そして、同じ領域。
もしかしたらそれらの発動は、同じ人物の手によるものなのかもしれない。
もしその錬金術を使える何者かが、〈アルヘン〉の最後の生き残りなのだとしたら、もうかつてのように、その力を恐れる必要などないだろう。あの忌まわしき〈エルレード〉の装置のせいで、宇宙はずいぶん変わり果ててしまったから。再び水が溢れることなど絶対にない。
つまり水の錬金術師は、もうかつてのような兵器にはなりえない。
彼は、その時によっては彼女である場合もある。彼はそういう存在。ミーケの力の発動に気づいた時、彼は領域すら異なる遠くの惑星にいた。
だがその発動はすぐにわかった。彼はもう、宇宙の全てをその意識の前に置いているようなものだから。もの珍しいことがあったならば、すぐに気づくことができる。
〈ジオ〉。
あの恐ろしき領域。
今はずいぶん静かになった。
あそこの者たちも、長く生きているうちに、賢くなったのだろう。
宇宙の中で、あそこがずいぶんと特別な場所であったことだけは間違いない。元々は、あの奇妙な生命体であるリリエンデラの玩具であった領域。だが、自力でその呪縛を解き放ち、後から全てを支配しようとさえした。
〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉。今でも、ジオのことを忘れていない者がいるだろう。
彼か、彼女かは知らない。だが、その誰かが最後の錬金術師というのなら……。
(会いに行こう)
神々の敵。《虚無を歩く者》は、そう決心した。