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3ー8・軍事国家にとっての混ぜ物と変換(星屑海7)

 銀河フィラメント"空の欠片"は、《ヴァルキュス》という国家世界の中心にある3つの銀河フィラメントのうち、最も規模が大きく、標準基準要素世界(小世界)の数も最も多く、たいていの時代においてヒトの数も常に最も多かった。

 現在の3つのフィラメント全てに共通して残っている記録によると、"空の欠片(そこ)"はもともとフィラメントと呼ばれるような領域ではなかったとされる。それを構成する物質要素の大半は、かつて《ヴァルキュス》という大世界(フィラメント世界)と敵対していた、いくつもの別小世界(銀河団世界)の残骸を再利用したものなのである。

 その起源の名残は、今においてもしっかり残っている。《ヴァルキュス》に属し、ヴァルキュス軍というこの宇宙で最大の勢力の部分でありながら、しかし独立性を保っている、いくつもの一族という集団群。

 特に三大軍貴族と呼ばれるアークフォート、クルックス、そしてシャーリドは、その一族自体がすでにフィラメントスケールで強力な軍隊と言える。


 シャーリドはむしろ閉鎖的ではない方だが、それでも軍において高い影響力を持っている一族の仲間複数に認められないと、一族の外の者に関わることを許されない。そのように(全体としては同じ世界という集合の中の部分にすぎないにも関わらず)外部との関わりを警戒するのは、情報漏洩を防ぐため。

 "空の欠片"のあらゆる一族に共通していることの1つは、その個々の、もはや生物兵器と言えるくらいに強力な人間たちが、すべて受精法で造られているということ。


 そもそも人間に限らず、ある生物(ジオ生物)を新しく発生させようとする場合、極論、用意すべきものは身体を構成する分子群と、それらのコントロール機構となる命令暗号セットを含む分子群だけ。純粋に1個の生物も武器のように考えるなら、重要なのはとにかくコントロール機構の方だ。身体とコントロール機構は、そのままコンピューターのあるシステムと、 動作コントロールプログラムとの関係とも言えるが、システムはコントロールが十分複雑であるなら、実質的に無限の切り替えが可能であり、時と場合に応じての変更すらたやすい。ようするに、そのレベルで対策してもすぐに克服されてしまうようなものでしかない。もちろんハイテクノロジー文明同士の戦いの場合であるが。

 そこで、個々の生物たちからまず兵器として実用的に使うなら、(普通は遺伝物質と呼ばれる)コントロール機構の部分が重要となる。特に機密性は最重要だ。どんな強力な武器でも、それがどのようなものか知られれば、対策を立てられてしまう。


 受精法(じゅせいほう)というのは通常、(ある程度以上のテクノロジーの文明では、意図的な調整がない場合にそれが失われやすい)感情的な性差を有する文化(ようするに、多くの男女(厳密には2つ以上の別性)に自分たちの子供が欲しいと思わせるような文化)を必要とする。その安定性に、外部からの直接的機械的操作が必要ない唯一の次世代生成法であるために、おそらくジオ生物の最初の(本来の?)方法だったとされている。


 現在では一般的である若い状態を長く維持するシステムも、本来は、古い意味での子作りを考慮していたという有力な説もある。

 ある程度以下のローテク文明においては(そして世代交代の頻度に対して、寿命があまり長くないような者たちが構成員となる)、社会の運用を効率的に行いたい場合、若い者たちに子を産んでもらい、それを(たいていの社会でその傾向があるように)経済的に安定した親世代が面倒をみるという方法がよい。しかしそれでは納得したくない人が大勢いた。そしてあらゆる問題は、若い時代が長いのなら問題がなくなると考えられたと。


 しかし起源はどうあれ、受精法は現在ではデメリットが多いとされる。

 変換法(へんかんほう)というのは、ようするに子を発生させる受精法以外の全ての方法の総称なので、普通「変換は受精にくらべて、あれこれ」みたいなことは断言しにくいが、「やはりある程度以上のテクノロジー文明においては、(あらゆる)変換法が受精よりもお手軽で、かつ(たいていの場合で)安全」なことは確かだ。

 変換法に共通するメリットといえば発生時点からのその人物の情報の多さ。環境要因を除いたその生物のあらゆる特性が、生まれる前にすでにわかっているので、そういう意味で安全とよく言われるのである("世界樹"においては、哲学者と哲学をかじった他分野の多くの科学者たちが、受精法の子が生まれてからの調整により、実質的に変換法で生まれた子と情報的に平等になるようなシステムを考えてきたが、上手くいった例は1つもない)。ただ、その安全性につながる事前情報の多さこそが、軍事戦略的に見た場合の変換法の大きな弱点なのである。

 変換法の他のメリットと言えよう、量産体制の整えやすさ、水準の決めやすさ、国家内文化の許容範囲、そしてそもそものコントロールのしやすさなど全て、《ヴァルキュス》という国、軍隊組織にとっては、敵対する者に情報を知られやすいという非常に大きなデメリットの前では霞む訳である。

 製造段階でどこかで意図的調整の過程があった存在は読まれやすい。どこかに必ずデータも残ってしまう。一方、受精法で生まれた兵士は、その遺伝分子のサンプルを奪われない限りは、情報的にかなり安全で、しかもそういうことが最も重要になるであろう、構成粒子加速法を使えるような者なら、生きている間は、そのようなサンプルを自己で守ることが容易い。


 そういう事情で、《ヴァルキュス》は広範囲に、文化としての恋愛を用意していて、受精法を推奨している。そして多くの一族が、生まれた子供の構成情報を固く守っている。

 この国は、本質的に互いを知らない、いわば仮面を外したがらない者たちの共同体と言える。

 そうした世界システムが、多くの、特別な力を有する者たちを生み出してきた。そして時には、シャーリド一族に生まれたリーザのように、必要とされる厄介者が誕生したりもする訳である。


 リーザ・シャーリドは、よくもわるくも、「特別な強き者」と呼ばれるような存在であった。

 強い人間を造る。特に、それまでに存在した誰よりも強い人間を造ろうというのなら、まずランダム性を減らすことだ。

 そもそも肉体的なことだけではなく心が重要なのである。単に生物を適当に作りまくっても、強き存在がなかなか生まれないのは、物理的構成を利用する心層空間との組み合わせも大切だから。物理的構成と心層空間のどちらもが、特別に強い(と言える)のが求めるべき存在。

 物理的な強さは、多少の正確さは欠くとしても、遺伝物質情報を確かめるまでもなく、戦闘シミュレーションを使えば、簡単に確認できる。そこで、軍系の一族の子は基本的に、生まれてからしばらくは直接戦闘訓練の日々である。

 リーザも例外でなく、そして幼い頃から直接戦闘に関する高い才能を発揮していた彼女は、最初から非常に期待された存在だった。

 基礎的な訓練段階を経てからは、戦闘シミュレーション漬けの日々。それが生まれた時からほとんど100年目くらいまでの彼女の日常だった。そして彼女自身はそれに非常に満足していた。

 戦うことは好きで、強さへの渇望もあり、あくまでも群のために戦う個であるという自覚も明確であった。そういうところは兵士としても、まさに理想的であった。

 ただ1つだけ、まだ表に出る前のその時代から、一族の中にはすでに、彼女にはどうしても無視できない大きな欠陥があると考えている者もいた。

 それは彼女があまりに、優しすぎたこと。

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