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3ー7・彼女を知る者(星屑海6)

 銀河フィラメント"星屑海"は、相対的な規模こそそれほど大きい訳ではないが、含んでいる銀河の数はおそらく〈ジオ〉の宇宙の中で最も多い。

 1000万を超えるその銀河群の中でも、《アミュ33》はかなり奇妙なものの1つ。ジオ時間基準(ジオ時間での1年での物理的反応の平均量を参考にした基準)で定義される空洞(ヴォイド)と定義される領域が全体の約2/3、恒星の数が40億、ここまでは(現在の〈ジオ〉宇宙領域においては)それほどおかしいものではないだろうが、問題はオメガ2惑星(質量が7.3×10^28グラム以上の惑星)の数である。普通オメガ2惑星(それ)は、銀河系の中に、恒星の10倍はあるのが普通である。しかし《アミュ33》の場合、なんとそのような惑星は恒星の1/4000である100万ほどしかないのである。

 そしてその100万の内のたった8つだけの完全人工惑星の内の3つ、《クワル4》、《クワル5》、《クワル7》を中心として、恒星なしで構築された《アローカ》という星系は、"星屑海"というフィラメント世界そのものの最高指導者でもある、《ヴァルキュス》軍ラズラ師団元帥のメイリィの家。


 《クワル4》には、そのほとんどがただの遊びの場のような大広間である巨大通信施設が4つあり、メイリィはその1つに来ていた。誰かが、『カサクラ研究所』の星系に対して、攻撃命令を与えられた時空戦闘機群が放ったことを聞いたからだ。

 なぜそんなことになっているのかはわからないが、とにかく考えるのは後回しにした。理由はどうあれ、研究所なんて大規模領域の破壊を許す訳にはいかない。この"星屑海"というフィラメントの中で、それを許してもいいような理由なら、自分が知らないはずもないから、その点で悩む必要もない。


 しかしメイリィが、時空戦闘機群のコントロールシステムへのアクセスに成功した時、最初に得られたいくつかの情報の1つは、それらが次々と、自らの空間次元変換のループ攻撃のために自己崩壊していってるという事態。


(この、イカれた戦い方は……)


 メイリィはミズガラクタ号については全く何も知らなかった。だがその船の常識外れな戦い方は、ほんの少し前に、まさに攻撃を受けてる研究所星系で話題となっていた、あの生意気な小娘を嫌でも思い出させる。

 攻撃特化の時空戦闘機との戦いにおいて、デコイとライトセイルを使って、攻撃照準システムを混乱させるのは、対抗作戦として理屈にはかなっている。しかしそれを多くの者が使える一般戦術という形にするためには、実現不可能な船の性能という問題があった。ありうる性能の船でその戦術を実用的に使うには、構成粒子法を最高のレベルで扱える上で、物理的なデコイポッドにライトセイルなんて古いテクノロジーすら完璧に扱えるほどあらゆる感覚兵器(センスアーム)(知能がコントロールする範囲が50%を超えるようにした方が、理論的には最大性能を発揮できるような兵器)の扱い方を理解できていて、ついでに、そんな戦いが自分には可能だと信じて真面目に訓練するような狂気的な強さへの好奇心を有する誰かが必要。つまりあの生意気な小娘リーザ・シャーリドが必要なのである。

 リーザが、最後に残されたのだろう戦闘機内に転送させられてきた時、その絶妙なタイミングから考えて、船の(少なくともメインの)操縦者はリーザではないだろうと、メイリィには察することができた。

 いくら彼女でも真の物理法則(つまりは基底物質の段階から構築された物理法則)は破れない。あの大量の時空戦闘機を相手に、わざと1機だけ残すような戦いの後に、即座に戦闘機内に転移ポイント設定して、船に操縦者を残す形で自らを飛ばすなんて、それは絶対に不可能なことだった。


(多分、聖遺物というやつね。もしそうなら量産できるかしら?)

 普通に考えるなら、彼女の今の仲間に同じような存在がもう1人いるというよりは、彼女が持ってきたあの船の性能が異常なのだろう。

 もちろんそうじゃなく、つまり船でなく操縦者が凄い可能性もあるが、そんな可能性は考えるだけ無駄とはっきり言えるくらいに低いものだということもまた、考えるまでもない。わかりきった事実だった。

 リーザと同じような神経性能を持っている存在が、この宇宙にまだもう1人いるなんて、いや仮にいるとして、彼女が《ヴァルキュス》を去ってほんの数百年くらい。そんな出会いがあるなんて絶対に信じられなかったから。

 この広い宇宙(領域と言われることもあるが、とんでもない、ここはジオ族の領域じゃない、ジオ族の宇宙だ)の中で、何十人もいないだろう。その気ならこの宇宙(ジオ族)を滅ぼせるかもしれない孤立系(ただし時空間スケールの大きさは問題)

 失敗作。確かに戦闘兵器としては、彼女は間違いなく失敗作だが……


(「重要なのは目的だ。あの子が大した理由もなくここに帰ってくるとは思えない……それをわたしたちが邪魔するべきではないと思う」

「確かにあの子は少々、いやかなり特別な子です。ですけど、あの子がシャーリドであることは確かです」)

 自分よりは間違いなく彼女と親しい存在だったろう、2人の言葉。

「言われるまでもなく、わかってるわよ」

 そう、わかっている。むしろあの2人より、メイリィはきっと知ってるくらいだ。

「リーザ、わたしのことを覚えてる?」

 だからメイリィは今の機会に、完全にたった1人で、彼女と連絡を取ったのだった。


〔「メイリィさん」〕

 映像を介して久しぶりに見た彼女は、どうやら自分を前にして緊張してくれてるようだった。少しばかり優越感も感じ、笑みを浮かべてしまいそうになるが、そこは我慢する。

「正直に白状するとね、わたしは今結構混乱してる。あなたは、いったい」

 とにかくまずは正直に聞いた。

〔「メイリィさん。わたしを、世間知らずな不良娘でも、わがままな破壊少女でもない、シャーリドのリーザとしてのわたしを信じてくれるなら」〕

 少し意外、でもないのだろうか。こういう言い方をするということは、信じれる相手が現状限られていて、しかし自分のことは信じてくれているのだろう。

〔「確信があるわけじゃないけど、かなり高い確率だよ。今ここに、《ヴァルキュス(わたしたちの世界)》に、わたしたちが一緒になって立ち向かうべき敵が紛れ込んでる」〕

 様々なことを考慮すると、実はそれほど予想外な話でもなかった。なぜリーザがそれを知れたのかはわからないが、彼女に限って、何か勘違いということはないだろう。

「もしそうだとするとそれはおそらく《ヴァルキュス(我らの国家)》の始まりからの寄生者ね」

〔「あっさり、受けいれるんですね」〕

 また意外そうな顔、またにやけてしまいそうになった。


ーー


〔「あなた、《中枢》に行く気?」〕

 まあ、言う前に気づかれるだろうとは思っていた。

「ええ、だってあなたが受け入れた通りなら、わたしが考えてる通りなら、あそこにいる誰かが関わってる可能性が高いでしょう」


 リーザははっきりとは言わなかった。

 《中枢》。そう呼ばれる星系は"永遠冬"にある。ただしその正確な場所は"星屑海"の最高指導者メイリィや、"空の欠片"の最高指導者フラゴも知らない。2人は大元帥含め、5人いる元帥の中ではかなり若く、《ヴァルキュス》の最初の頃からいた者たちではないのだ。

 伝えられるところによると、最初の頃の《ヴァルキュス》はただ1つ、"永遠冬"という銀河フィラメントだけの国家だった。 そして、すでにこの宇宙で最大の軍事力を誇るとされていた当時から今の大元帥ユーカ、それに彼のすぐ下と言えるような2人の元帥ミジィとマルゥは生きていたとされている。

 つまりリーザが『フローデル』と何か(それも深く)関わりあると考えていたのは、《中枢》星系にいるとされる、その3人の元帥の誰か、もしかしたら全員。

 そういう訳だった。


〔「何者な」〕

 しかしそこで通信は終わった。おそらく秘密の通信経路を使っていたところ、誰かに察知されてしまったのだろう。

(でも最低限、伝えたいことは伝えた)


 『フローデル』は恐ろしい組織だ。誰が信頼できるのか、今はまだかなり判断が難しい。それでもリーザにとって、確実に信頼できる理由がある相手がいない訳ではない。メイリィはその1人で、しかも大きな影響力を持っている存在。


「スブレットちゃん、もういいよ。わたしを戻して。後、この機は壊して」


ーー


 リーザがミズガラクタ号に戻った時、スブレットと一緒に心配そうにするザラとミーケもいた。

 リーザはこらえきれないで、口元を緩める。

「マップの解析はすんだぞ」と、どうやら大量のモニターに隠れていたらしい、さすがに時々、その妙な凄さを垣間見せるエクエス。

「じゃあまずは」

 行き先は決まっていた。

「『マリツキ研究所』へ」


 それは、ある意味でリーザという人間の、最初の故郷。


ーー


 "星屑海"ではない。"空の欠片"フィラメントにある『マリツキ研究所』は、光学的にはリングに見えやすい9つの人工惑星帯が、一定領域を開けての階層構造となっている。各リングの周辺領域には星系内質量の2/3くらいを占めている、いくつもの恒星と惑星群。

 リングは、1番内部のものが《マリツキ()1》と呼ばれ、外側のものほど最後の数字が大きい。つまり1番外側のリングは《マリツキ輪9》である。

 アーシェは、所属するその研究所に自分の住居を持っているわけではない(だから、昔から彼女たちの交流の場であった事実からすると、少し奇妙なことに、リーザはアーシェが正式にはマリツキの者でないと勘違いしていた)。ただ、《マリツキ輪2》の一部を巡る恒星《マリツキB4》の第二惑星《エルドロ》にある、惑星表面積の1/5ほどに広がる、複雑に絡み合った植物の壁で囲まれている研究施設は、実質的に彼女の領域。

 そこを訪ねる者は、まずは植物壁にいくつかある、訪問者ベルと呼ばれている大きなスイッチを押す。


「誰じゃ? 知り合いだとしたら、ごめん、忘れとるわ」

「大丈夫です。初対面のはずです。はじめましてアーシェ博士」

 人に聞いてた通りスイッチを押すのとほとんど同時に現れた、立体映像の彼女。おそらく正確に投影されたイメージではないのだろう、ものすごく寝起きで眠たそうな声を発する映像の彼女に、しかしそんな印象はない。

 そして次の瞬間には、正確なイメージに切り替わったのか、さっきまでの整った状態と比べて、かなり乱れている白衣に、やはり眠そうにその目をこすっている彼女となる。

「で、誰?」

「わたしはミルル、シャーリドです。リーザのことは知ってますよね? わたしは一応はあの子の姉にあたります。もっとも、世代かなり離れてるから、ほとんど面識ないんですけど」


 《ヴァルキュス》という世界では兄弟姉妹という認識はあまり意味がない。しかし、一族内での繋がりを表す場合わかりやすい、というか主にデータ検索する時に便利なので、(実際にはこのような表現が残っているのが不思議なほどに、その実質的な定義は古い時代から変化しているが)遺伝的に、自分から見た兄弟姉妹、子、孫、親くらいまでなら把握している者が多い。


「ほうほう」

「あの子が、今、ここに向かってるらしいことは知ってますか?」


 目的が何であれ、マップを手に入れたなら、まずリーザが向かうだろう場所の候補を、ミルルはジーナから聞いていた。その候補の中にあったから、彼女が乗ってるらしい謎の船がマリツキの星系に向かってることにはすぐに気づけた。


「いや、それは知らなか、て、ほえ?」

「まだ情報きてなかったんですね。"星屑海"の方では、もうあちこち大騒ぎですよ。どうも、誰かが差し向けた時空戦闘機群の攻撃を、1隻の船だけで退けたとかで」

(ミズガラクタ号?)だろうということは、すでに"世界樹"にいた彼女と何度か連絡をとっているアーシェには推測ついた。


 そして、彼女と最後に連絡を取った時のことをいくつか思い出す。おそらくは《ヴァルキュス》までも敵として想定していた科学結社『フローデル』の話。


「アーシェ博士?」

「あ、いや、少しばかり気になることがあってな。だが今はそれより、おまえさん、ミルルと言ったのう」


 リーザが今、本当に《ヴァルキュス》に戻ってきているとするなら、そして自分の所に向かっているというのなら、まず確実に、『フローデル』の関係だろう。とすると、映像越しに目の前のシャーリドの娘も含めて、そう簡単に信用する訳にはいかない。


「何の用じゃ? 別にただリーザがここに来ることを教えに来たとか、そういう訳ではあるまい」

「メイリィ元帥からの使いで来たんです。わたしになぜかは教えてくれませんでしたが、諜報部を使うわけにはいかないからと」


 《ヴァルキュス》軍諜報部という組織は、基本的には各師団に属してるが、大部隊とは完全に分けられている。それぞれの大部隊の元帥しか詳細を知らない、あらゆる秘密情報を扱う部隊。しかし実際には、どの諜報部隊も大元帥の直属でもあるから、その大元帥が信用できるか分からない現状では、使うのは危険と考えるのは当然と言えば当然。


「でも、いい機会とも思ってます。実は前からあなたに聞きたいことあったから」

「おまえさんの妹のことかいな」

「ええ。正直ただの好奇心ですけどね。わたしはあの子と直接会ったこともないし、唯一あの子と共通して接点ありそうなジーナさんも、やっぱり世代が遠すぎる上に、《ルーケノ・ギザ》とも関わりなくて、世間に流布してる噂以上のことはあまり知らないみたいだし」

「まあ」

 そして少しばかり(話すかどうかよりも、どこからどこまでを語るかを)考えてから、アーシェは言った。

「とりあえず中に入ってくるがよい。あの子の話、わしが知ってるところなら話してやろう」

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