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2ー27・小さき者たちが願うこと

 ミーケたちのこれまでの話を全て聞いて、自分たちのことも話してから……

「〈アルヘン〉の者たちにとって、〈ジオ〉が優先的に守るべき領域だったかもしれない。きみはそう推測したね、ミーケ」

 アミアルンはまず、その推測について、自分なりに出した答を話した。

「少し違うと思う。守るべきと考えてたというよりも、多分重要な領域だったんだ、〈ジオ〉は。だからメリセデルは、 いや彼も操り人形だったかもしれないけど、とにかく〈アルヘン〉の者たちは、きみをそこに向かわせた」

「ちょっと待ってください」

「ちょっと待ってよ」

 ザラとエルミィが割り込ませた声は同時だった。

 そして互いを見て、持った疑問がおそらく同じなのだろうことを確信したのか、エルミィは次の言葉をザラに任せた。

「ミーケがアルヘン生物に造られたというのは、間違いなく確かなんでしょうか」

 実のところミーケ自身も、そう言われたら、はっきりそうだという自信があるわけでもない。記憶が部分的に戻っているというだけではない、感覚的にはやや混乱してもいた。それに最初から1つ、当たり前のようにそうかもしれなかったこと、そもそも自分の記憶が偽物である可能性。


 ただし普通に考えたら、偽の記憶なんて絶対にありえないようなもの。物理神経ネットワークや、心層空間のある程度のパターンにはいまだに謎があるが、それでも表面の記憶領域に関して、今の人間(というより緑液生物)を意識レベルに及ぶ偽装で騙すのは難しい。

 そしてそんなことが可能だとしても、ミーケが取り戻してきた記憶は特殊な封印プログラムで、物理的に閉ざされていたものだ。その記憶が取り戻される過程で物理的な結合をどうしても必要とする。そうなった時に、偽の記憶だと違和感が必ずあるはずだった。そういう問題をすべて解決している偽記憶を作るとなると、それこそ生命体を構成する全素粒子要素を、少なくとも星系範囲まで含む影響を考慮した微調整が必要になるだろう。しかし……


「アルヘン生物が、わたしたちジオ系にどのくらい似ているのかは知りません。ですがこれだけは確かに言えます。ミーケは完璧にジオ生物です。ある宇宙領域の生物を、それとは別の宇宙領域で、ゼロからここまで完璧に造れる技術が、そんなものがもしあるのなら、まさしく神の技みたいです。おそらく、緑液が守ってくれてる、わたしたちの精神を誤魔化せるほどの偽記憶を作るのと同じくらいに」

「まあ、あいつらなら何でもできるだろうさ。だけどミーケ、きみが〈アルヘン〉に造られたことは確かだと思う」

 何でもできる。文字通りの意味での何でもだろう。

「宇宙領域という世界の数は、きっときみたちの領域の素粒子の全数よりも多い。そして神々以降、知的生物が生まれなかった世界なんて、ほとんどないはずなんだ。だけど、それでも、きみのような存在を造れるような文明なんて、おそらくたった2つだけ。最初から特別だった〈アルヘン〉と、どうしてか後から1つだけ特別になれた〈エルレード〉」


 〈エルレード〉は、〈アルヘン〉がもたらした記録の中にのみ確認されてきた、そちら以上に謎な領域。しかし記録がかなり詳しいので、どういう領域なのかは、ある意味〈アルヘン〉以上によくわかっている。

 アルヘン生物曰く、〈エルレード〉はこの宇宙で最も孤立していた領域、そして最も優れた科学文明を築いた領域。実のところ、真の宇宙全体の中で、〈アルヘン〉と神々、どちらの影響も受けず、独立で科学文明を築いたと思われる唯一の領域でもある。

 〈アルヘン〉が、他の領域から隠されていたというその存在に気付いた時、すでにそこの生物の文明は、アルヘン生物が警戒するほどのレベルになっていた。またエルレード生物は、おそらくもともとあった肉体を捨てて、完全なネットワーク領域のみに自分たちの存在を生かしている無定形生物となっていたから、元々どのような姿だったのかも、どのような過程を経て生まれたのかもよくわかっていない。


「〈エルレード〉はどうやってか自分たちの宇宙領域全体を、宇宙そのものを使うよりも効率的なコンピューターに仕上げていたらしい。原理は説明してもわからないと思う。おれたちもわかってないしね。〈アルヘン〉の記録に書かれてる、そのコンピューターに関するすべての情報、まるで永遠に解けないように作られてる暗号だよ」


 とにかく〈エルレード〉は〈アルヘン〉においても(少なくともその当時は)机上の空論であった、自分たちの宇宙の全機械化、それとの一体化、孤立が守れる限り永久に動作可能な状態、何よりこの宇宙で不可能なテクノロジーを実現させたらしい。

 〈アルヘン〉には、それを恐れるあまりに、孤立を崩すことでシステムを崩壊させてやるか、あるいはそれから得られる情報などを利用するために放置するか、という2つの選択肢があった。〈アルヘン〉は放置することを決めた。

 こうしてこの宇宙の中で最も優れた科学文明は〈アルヘン〉ではなくなった。


「その辺りはおれたちとしてもかなり推測だけど、〈エルレード〉も《虚無を歩く者》の敵ではあったはずだ。だから〈アルヘン〉と同じで、生命体側にとって、その(戦いの)時は強力な味方であったはず」

 そしてもし大災害を起こしたのが〈アルヘン〉でなかったとするなら。

「おれたちから水を永遠に奪い去ったのは〈エルレード〉だったのかもしれない。きっと彼らがそう決定したのなら、〈アルヘン〉にだって止められなかったはずだ。だから止めようなんてしなかったはず。それよりそれを利用しようとしたはずだ」

「ミーケの水を操る能力は。水がなくなるから、水に関連する能力を?」

 自分で言っておいて、エルミィは不思議そうにする。

「正確に何がどのタイミングであったのかはわからないけど、ミーケが〈ジオ〉に来ることが、ずいぶん前から決まってたことはまず間違いない」

「なぜ、そうだと思うの?」

 ミーケ自身が問う。

「きみの能力はウンディーネと呼ばれていたんだろう。ここまでそこに対して誰も何も言わないってことは知らないんだろう。それが何を意味する言葉なのか、それが、おそらく〈ジオ〉のある概念を意味する名称だってこと」


 ミーケたちだけでなく、アミアルンのように〈ジオ〉の専門家でもないエルディクも、その時は非常に驚かされていた。


「彼らは、〈アルヘン〉はきみたちのこともずっと前から知ってるんだ。今のきみたちが忘れてしまった古い伝説も知ってた。だから水を操る錬金術師の能力がウンディーネだった」


 他の誰も何も言わない。ただアミアルンの説明を待った。


「きみたちジオ族が、ただひとつ、地球という惑星だけを住居にしていた頃。惑星上にいくつもあった社会の内、ある時間、今のぼくらからしたらほんのわずかな時間だけど、その頃のきみたちにしてみたら長い時間だ、とても特別に影響力を持ったいくつかの社会において、黄金がとても価値のあるものとされていた。だから不思議な力、魔法で黄金を作ろうと試みる迷信が生まれた。錬金術師という名前はその研究に着手していた者たちの総称だ」

 実際のところ黄金と言われて、今ミーケたちが思い浮かべる物と、 地球時代に認識されていた黄金は、似てはいても物質的な構成はずいぶん異なっているのだが、そこは別にどうでもいいことだろうから、アミアルンはあえて詳しく説明もしない。

「ウンディーネは、大昔の伝説で自然界の基本物質の1つとされた水を司るとされた精霊の名前だ。錬金術師が物質をコントロールする時に、その原理として想定されていた物質に宿る精霊。水に宿っていたのがウンディーネ。だから水を操る錬金術師の能力がその名前にされた。に違いないんだ」

「〈ジオ〉、いえ地球生物として造られ、 その能力にも地球文明らしい名前が与えられた。これが偶然ではないと?」

 そこで聞いたのはメリシア。

「偶然なはずがない。特定の鍵で徐々に解かれていく記憶の封印プログラム、それは道標だろう。手がかりどころか道標」

「ミーケに与えられたろう使命は「まだ終わってない」

 ザラが言うより早く、自分で自分に言い聞かせるように、ミーケは言った。

「やっぱりすべてを、思い出す必要がある」

 恐れみたいな感情は驚くほどなかった。きっと今の自分を見つけ、一緒にいてくれた、あの何より強くて優しい親友のおかげだろうと、ミーケは思う。


「少し関係ない話だけど、あなたたちに聞きたいことがあるの」

 一段落したと思われるタイミングで、ミーケたちの前に出てきたメリシア。

「答えられることならいいけど、正直ね、おれたちが思ってたよりも、きみたちはよく知ってる」

「知らないという意味ではなく、もっと別の理由で答えたくない質問かも。それだったら答えなくていいわ。わたしもただ、気になるから聞いてみるってだけだから」

 そしてメリシアは聞いた。

「わたしはこれまで一度だって、あなたたちの敵意を感じたことはない。でもなぜなの? 敵ではなくても、わたしたちは警戒すべき存在ではないの? 確かにあなたたちが思ってる以上に、わたしたちはよく知ってたと思う。わたしたちは自分たちのことを、過去にあなたたちに何をしようとしたのかを、ちゃんと知ってるのよ」


 愚かな時代だったと、口で言うだけなら簡単だろう。だがそれは、決して消すことのできない恐ろしい歴史。4つの宇宙領域全てを支配しようとした科学結社。後になってみれば、ただ多くの犠牲を出しただけで何も得るものなどなかった戦いを引き起こした過ち。


「わたしたちにとって」

 そこで、エルディクが言葉を投げてきた。

「もともとおまえたちは、ただ偶然、隣同士の世界で生まれたというだけの存在だ」

「最初は、最初はね。でもそれは必ずそういうものだろ」


 その表情は変わらなくても、アミアルンは笑った。そんなふうにミーケたちには見えた。


「おれたちが、きみたちを憎んだことはない。敵だと思ったこともない。だけど怖くはあったよ。きみたちは知的生物としてはあまりにも、1つの世代の寿命が短いし。それぞれの時間があまりにも短くて、全体を共有する部分部分でズレが発生しやすいみたいだった」

 だから恐れていて、それでも……

「ねえ、この宇宙は、真の宇宙はどれくらい広いと思う? どれだけの生命体がいると思う? おれたちがこうしてメッセージを伝え合うことができることが、どれほど特別なことだと思う?」

 また、きっと彼は笑った。

「別に、おれたちは敵になることだって、味方になることだってできる。ただ隣にいただけの存在だからさ。そして、本当の宇宙の中でとてもちっぽけな存在同士なんだ。だから、ここで戦うことこそ本当はバカげてて愚かなこと。おれたちは小さくて弱い。だけどこうやって、言葉を伝えあうこともできるんだ。きみたちが自分たちのことをどう考えていようとも、おれたちのことをどう考えていようと、おれたちがきみたちに望んでることはずっと変わらなかった」

 だから、ジオ族は絶滅させられなかった。ジオ族側はいろいろと理由を推測していたが、彼らの考えてたことなんて全部的外れだ。〈ネーデ〉は、〈ネーデ〉だけでもない、〈ロキリナ〉も〈ワートグゥ〉もそれは同じだった。〈ジオ〉との戦いも、〈ジオ〉の絶滅も願ったことなんかなかった。

「ずっと変わらない。おれたちは仲間になりたかっただけだよ。この宇宙で、おれたちには手が届かないような領域で、何が起きようとしてても、何がおれたちの敵になりうるのだとしても、おれたちがそれに立ち向かう時、仲間でいるべきだと信じてるから。弱いおれたちの強みは、強くなるために一緒に戦えると理解してることだと信じてるから」

「せっかく」

 ザラは見た目にもはっきりわかる笑みを見せる。他の者たちも。

「お隣さんだったわけですしね、そうですよね」

「こんな狭いところで、戦うなんてバカバカしい、てことだね」

 ザラに続いて、スブレットがそんなふうに言った。


「おれたちは、おれたちも、今はあなたたちと仲間でありたい」

 全員との、笑顔でのアイコンタクトの後で、代表するようにミーケが言う。

「それならやっと言えるよ」

 ネーデ生物のアミアルンとして、それはいつも夢見てたような話。

「これからよろしくね、ジオ生物」


 これもまた途中のことで、しかし1つの始まり。大切な出会いと、友情の始まり。

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