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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
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6・大切な誰かが(不吉な予言6)

 別に、ミーケもリーザも、心配する必要などなかった。

 ザラは、委員会の神経学研究所から拝借したらしい、神経系の読み取り装置に、コピー装置に、解析装置を、自身の宇宙船に乗せて持ってきていた。しかしそれらをいくら駆使しても、ミーケの記憶を取り戻せはしなかったから。


「ただ結論から言うと、あなたは多分、自分で自分の記憶を消したか、あるいは誰かがそれを消すのを受け入れたのだと思う。これを見て」

 自分の体の大きさくらいあるモニターに、絡み合った紐に閉じ込められている球体、というようなものを表示させたザラ。その画の横には、"世界樹"の標準共通文字で、それに関する解説らしきものもついている。だが初めて聞くような専門用語も多く、ミーケらには今いちどういうことかはわかりにくかった。

「端的に説明すると、この球体はあなたの記憶の一部で、周囲を囲ってる紐が、それの抑制要素です。つまりは神経系の記憶に関連する粒子反応に制限がかけられているようなんです」

「記憶が喪失してるって言うよりも、思い出すことに対して制限がかかってるってこと?」

 ザラの説明を、すぐさまそういうことだと解釈するミーケ。

「まあそういうことですね。しかも、詳しく説明するのはちょっと面倒なくらいに、何重にも複雑な封印プログラムになってます。これを仕掛けるために、あなた自身、自分の神経系を意識的にコントロールしたんだろうと思います。そうでなければ、あなたがそうして正気の状態を保ててるのもおかしい」

 だからこそザラは、その記憶の封印を、ミーケ自身が受け入れたのだろうと推測したわけである

「わたしの理解の上では、この封印プログラムを強引に破る方法は存在しません。わたし、にとっては正直残念な結果です」

 一応、わたしたちにとって、とは言わなかったザラ。


「だけどザラ、断片的に覚えているのはなぜかな? その制限ってのはそれほど精密ではないってこと?」

 そう、まさしくザラたちが求めている、天然水が存在しているどこかという記憶の、かすかな欠片をミーケは持っている。

「それに関しては、かなり謎ですね。ただこの封印プログラムがかなり精密に調整されたものであることは間違いないことです。だから、あなたが断片的な記憶を持っているのは、わざとなんだと思います。理由はわかりませんが」

 もちろん、それが必要になったときに手がかりにするため、というような理由などは考えられるが、結局その必要な時というのがどんな時なのかが、まるっきり謎だった。

「ちなみにその封印は、そのまま隠蔽(ブラインド)システムにもなってます。なので、データとしての読み取りや再現も不可能です」

 もっとも、その記憶喪失が意図的である時点で、それは予想できたことである。


ーー


 別に記憶は取り戻せなかったが、ミーケがザラの研究に協力することになったのは変わらない。

 そして、とりあえずはもう1人、共同研究に誘いたい人物がいるとも、ザラは告げた。

 その人物に関しては、居場所などの情報もまだ調査中であるので、ひとまずは研究の拠点となっている、ザラの研究所惑星《アミデラス》に、向かうことになったミーケたち。

 ただ、友人たちへの挨拶や、所有物の保存などを行うために、《フラテル》から出発するのは2日後ということになった。

 ザラは一応、リーザにはどうするか聞いたが、それに対して彼女とミーケの、「一緒に」という声が重なったのは微笑ましかった。

 2人の間にある強い絆は、ザラにもよくわかる。だからこそ彼女は、神経系を解析した時にわかった、ある事実に関しては、伝えるのにやや慎重になった。


ーー


 リーザはわりと規則正しく、1日のサイクルの間の、眠る時間がかなりはっきりしているが、ミーケはかなり不規則な傾向があった。

 そしてリーザが寝てから少し。


「ミーケ、今ちょっといいでしょうか?」

 コンピューター森で、ブックキューブのデータの整理をしていたミーケに、話しかけたザラ。

 ブックキューブは各辺5センチほどの、名前通りに立方体(キューブ)で、1250(がい)文字|(1.25×10^23文字)分の、本のデータを保存できる、"世界樹"ではかなり一般的な記録装置(メモリーデバイス)

「何?」


ーー


(あの2人は、わたしと違って科学者なんだもんね。なんか、ちょっと専門的な会議的なのとかあるのかな)

 ザラはリーザが寝るまで、そして寝てからもしばらく、彼女らの家にいた。それから、音は立てないように家を出て、戦艦に戻ろうとする素振りを見せたが、結局、ミーケのところに向かった。

 寝ていたが、すぐ起きたリーザには、それがわかっていた。


 ザラは当然として、ミーケも知らないことだが、リーザは、いくつもの特殊な訓練で身につけた、非常に鋭い感覚と、反射運動能力、それに警戒癖を有している。つまりは彼女は、寝てる時ですら、何か妙かもしれないことを感知すると、自分の意思にも関係なく目覚めてしまう。

 リーザは、ザラの放つ微弱な電波を捉えていて、戦艦に戻るのだと考えられた彼女が、なぜかミーケの元に向かったということを察知し、目覚めたわけだった。

(でも、2人だけで、夜に?)

 人が住む、他の多くの惑星同様、《フラテル》も、1日ごとに、明るい朝から暗い夜への一連の流れが設定されている。そして"世界樹"ではどうなのか知らないが、少なくともリーザの故郷では、夜に男女が2人だけで会うのは、恋愛絡みというのはかなり基本。

(いや、ここは"世界樹"、"世界樹"。それに)

 ミーケもザラも、いかにも恋愛なんて興味なさそうな科学者。そう、おそらくは似たような人種。

(やっぱ気になる。なんかごめん、ミーケ、ザラさん)

 そしてリーザは、ザラよりもずっと完璧に、周囲への物理的影響を抑えながら、その上で素早く、自分も森へと向かった。


ーー


「これからする話、リーザに伝えるかどうかはあなたに任せます」

 そう前置きしたザラ。


 しかし実のところ、すでに近くの木の陰に隠れていたリーザには丸聞こえであった。


「実は、記憶こそ取り戻せなかったですけど、2つほど、おそらくあなたたちにとって重要だろうことに気づきました」

 それは、生体回路の構成や成分比率、変化曲率などのデータのいくつかが明確に示していたことだと、ザラは説明した。

「まず、あなたはやはりこの領域の住人ではないと思います。もし仮にこの領域の住人であるのだとしても、それはそれでかなり特殊な作られ方をしていると言えます。受精法(じゅせいほう)はもちろん、変換法(へんかんほう)でもあなたの構成はありえないようなものですから」


 受精法は、最も一般的で、かつ自然的な方法である子供の生成方法。男女それぞれの生殖細胞を合成させて、ジオ生物の初期状態とされる、"胚発生細胞(はいはっせいさいぼう)"とする方法。

 変換法もまた、かなり一般的である。特定の細胞を変換、調整して、胚発生細胞を造る方法。


「それとあなたは、おそらくかなり若いです。構成組織に意図的な調整の痕跡がまったく見られませんから。多分300歳はいっていないんじゃないでしょうか」

 どんな生命体であっても、意図的な調整を加えない限り、生体組織は劣化、つまりは老化していく。

「ですが、それにもかかわらず、あなたが、記憶を失う前のあなたです、が残したあなたの能力はかなり希有なものです」

 古代のシミュレーションを構築するというのは決して簡単ではない。いくら才能がどうこうといっても、限界がある。ミーケはしかし20年足らずで、ほとんど独学の知識だけを使い、原始時代のジオの星系まで再現した。

「わたしは、多分あなたが、この領域に関して、比較的詳しいのだと思います。もちろん本能的にです。その知識は封印されていても、無意識的な感覚としてあなたに残っていると。あなたが実は別の領域の住人で、しかもかなり若いだろうと考えられるにも関わらずです」

 そこまで説明されたところで、彼女が言わんとしていることがミーケにもわかった。

「おれがここに来たのは、侵略のためかも、てこと?」

「その可能性はかなりあると思います。もしもあなたがこの領域に来て真っ先に学ぶべきだった内容が、領域をシミュレートするために必要な知識だったなら」

 実際に戦いにおいて、相手の情報を得るためのシミュレーションはかなり基本である。そもそも時間変化による様々を研究するのにもよく使われる諸々のシュミレーション技術からして、元をたどるなら、戦いの道具として発展してきたものだ。 


「重要なこと2つって言ったよね。おれが別の宇宙領域の住人だろうってことと、目的が侵略だったかもしれないってことで2つ?」

「いえ」

 すぐさま首を横に振ったザラ。

「ここまでで1つめです。もう1つは、むしろこっちの方がリーザに言うべきかを迷った理由です」

 そしてそれは、別の宇宙だの、侵略だのなんかより、よっぽど予想だにしてなかった話であった。

「おそらくあなたが記憶を失うその時までそうだったでしょう。あなたには、まず間違いなく、わたしたちが普通の恋愛感情と呼ぶようなものを抱いていた、とても大切な誰かがいたようです」

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