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2ー10・愛のために生まれた子

 《学術委員会》に所属していたというエルミィなる人物から、都市に近づくミーケたちに暗号メッセージが送られてきた時。

 もうすぐという距離であった都市を中心に張り巡らされている電子ネットワークより、その人工惑星を大量に繋いでいるような世界が《ルビリア》という名称であること。近づいていた都市自体は《クラクト》と呼ばれている、いろいろな異なる文化のヒトの共同体領域であることも、ザラはもう知っていた。


[エルミィ、はじめまして。まず言っておきますと、あなたの察した通り、わたしたちは"世界樹"から来ました。そして、頭上の船は、聖遺物の"ガラクタ船"を、実用化させたミズガラクタ号です。わたしは学術委員会のザラ。残りの3人は、委員会ではないですが、"世界樹"における研究仲間です。それで、このルビリアという世界は、ジオから迷い込んできた人々のためのものですか? わたしたちは、何者かに転移させられたようなのですが、それが何者であるか、見当つくでしょうか?]

 エルミィのメッセージに、そんな返事を出したザラ。さらにそれの返事が帰ってくるまでは、数分であった。


[ここで間接的に会話するよりも、直接話したいところですね。そちらで私の位置を読み取ることはできるでしょうか]

 そしてザラは[できます]と即座に返した。



 それから、「明らかに、後から作り変えられたとかそういうことではなく、初めからジオ族のために作られたもの」というザラに対し、「ついでに言うなら、それだけ。本当にただ、ジオ族のための場所を作ってみただけって感じ。遊び心が無さすぎてむしろ違和感がある」と返したリーザの言葉を、実際に都市に来ると、ミーケやルカにも凄く実感できた。

 ただ様々な建物が、温かみがないというか、無機質な印象を感じさせるような、真っ白ばかりだったというだけではない。ヒトに限らず多くのジオ系生物の代謝サイクルの中で行う、適応空気の取り入れ。そのために巧妙に調整されているような都市内の空気は、むしろ調整されすぎているという感じがあった。


「なんか、ぼくにはどうも新鮮すぎて不気味だよ、ここ。まるで巨大な呼吸装置みたいな」とはルカの感想。

「言い得て妙ですね。この造りは確かに、〈ジオ〉のヒト(わたしたち)を適切に生かしておくためのもの、それはもう間違いないですね」

 そう言いながら、手元で何か操作しているような仕草のザラ。

「こっちですね」と、普通にけっこう分かれ道とかもある中で、全然迷いもせずに、先頭を歩いていく。


 都市で生活しているのだろう人たちもやはりかなりいて、よそ者だとわかりやすいのか、チラチラと物珍しそうな視線を送ってくる者もわりといた。



 そして、とある立方体の家らしき建物の前で立ち止まると、ザラはいつの間にかやめていた手元の操作を、数秒ほど再開した。

 すると、実はホログラムである壁の一部が消えるかのように現れた、立方体家の出入り口。

 建物内部には、レンガ造りみたいに見える壁や、どうもコンピューターらしい飾られたいくつかの絵画や、カラフルな花を咲かせている観葉植物、その他いろいろな生活用品。そんな、無機質な外側とは打って変わり、ずいぶん生活感のあるその中に、待ち人はしっかりといた。


「あらためてはじめまして。わたしがエルミィよ」

 待っていたのは、青緑を基調にしてるようなブラウスとフリルスカートという服装がシックな雰囲気を漂わせていた、見た目的には少女というべきか、女というべきか、微妙な感じの女性。薄めな茶色の髪の毛は、ぎりぎり鎖骨にかかるくらいの長さだった。


「今もまだ、《学術委員会》があるってことは、"世界樹"の方針もあまり変わっていないって考えていいわよね。言葉は通じるでしょう?」

「少なくともその言葉は大丈夫ですね」と返したザラだけでなく、後ろのミーケらも頷く。


 エルミィ、彼女が"世界樹"の《学術委員会》に所属していたのは290万年くらい前になる訳だが、その口から発せられる"世界樹"共通言語は、特に訛りとかも感じさせないものだった。


「ふうん、きみがザラ?」

 そうは思ったらしいが、ちょっと意外そうでもあったエルミィ。

「思ってたよりも、子供で驚きましたか?」

 もちろん、見かけ的な話ではなく、実年齢の話である。なんだかんだ"世界樹"の基準的には、ザラだってまだかなり子供な方なのだ。

「きみだけじゃなくて、きみたち全員ね」

「わかるの?」

 不思議というより、むしろ不気味そうという様子を、スブレットは遠慮なく見せる。

「わたしは専門的に生物物理寄りだからね。それにここには、多分あなたたちが思ってるよりも、いい機材とかも揃ってるし、そのくらい調べるのは簡単よ。もちろんだいたいてレベルだけどね」

 さらに彼女は、ルカを見て続けた。

「まあでも、ネオテニーね、きみは。きみだけは正直全然判断つかないわ。実年齢」

「そんなことまでわかるの?」

 しかし、そこに大きな驚きを見せたのは、当のルカだけであった。

「実年齢を調べれる技術があるなら、そうだとはわかると思うよ」

 一応、スブレットが説明する。

「ただ珍しい体質というだけじゃなく、境遇的にも特殊っぽいね、きみは」

 そうだとも感づいたエルミィ。

「でも、実際のところ」


 そして、ただ見るというより、本当に、強い好奇心に満ちた眼差しを、エルミィは、ミーケに向けた。


「な、何?」とミーケ。

「きみこそ、興味深いわね。どう考えても別の宇宙、どこかのオーバーテクノロジーの産物。何者なの?」

 そのエルミィの推測と、それによって持ったらしい疑問には、物知らずなルカだけでなく、当のミーケも、ザラもスブレットも、凄まじく驚かされた。


「その驚きよう。気づいてなかったからこその驚き? それとも気づいていたからこそ?」

「両方と言えますね。わたしも以前、彼の生体としての機構を調べたことがあるんですが」


 しかしその時は、ミーケが、おそらくは特殊な作られ方をしている、ということくらいしかわからなかった。

 ついでに、彼の水をコントロールする特殊能力や、失われた記憶に関してなどもザラは説明した。


「水のコントロールか」

「何か、思い当たることとかあるの?」

 すぐさま問うミーケ。

「いいえ、むしろますますわからなくなったわ。だって水が安定していた宇宙は、私の時代から見ても、とんでもなく昔だし。大災害は確か、すべての宇宙領域で発生したはず」

「大災害に、水が安定していた宇宙って。エルミィ、あなたは物理学者でしょう。あなたはそんな時代があったことを確信してるんですか」

 ザラも、そこでかなり興奮した様子を見せる。

「あ、いやそっか、そうだったわ。つい忘れがちだったけど、そういえば〈ジオ〉の方の、大災害とかの記録って、『水文学会』のものしかなかったんだっけ。さすがにあれはマイナーすぎるか」

「「『水文学会』」」

 ミーケとスブレットの、またしてもかなり驚きの混じった、その声が重なる。

「え、ええ。何、もしかして知ってる訳?」

 そこはエルミィの方も驚いたようだった。


「エルミィ、順を追って話します。実はわたしたち」


 そしてザラは、ミラから受け継いだ神々の敵の研究のこと。エクエスと、『水文学会』の 研究記録のレコードのこと。そして実際に遭遇もした《虚無を歩く者》という神々の敵と、ソレが使った別領域同士を超えるためのゲートをさらに利用して、実際の別領域、〈ワートグゥ〉へ来た経緯などを、一通り説明した。



「いろいろ納得できたわ。かなりいろいろ」

 しかし、結局エルミィも、大災害や、『水文学会』の研究、神々の敵などに関して、ミーケたちがこれまでに明らかにしてきた内容以上のことは知らなかった。


「でも、あなたはどうやらエクエスとは面識がないようですけど、なぜ『水文学会』のことを?」

 尋ねるザラ。

「それは、わたしの昔の」

 しかし、そこで一旦言葉を止めたエルミィ。

「何か?」とルカ。

「いえ、何でもないの。少し悲しい思い出だからね、わたしにとっては。だけど話すわ、わたしのこと。というか、『水文学会』のことをなぜ知ってるかとか、ここにはどういう経緯で来たのかとかね。きみたちの研究には、どうもわたしの大切な人も、いえ、大切だった人も関わってるようだから。ぜひ聞いてほしい」


ーー


 エルミィが生まれたのは、彼女が《学術委員会》を辞めることになった頃よりも、さらに何十億年と前のこと。

 彼女は、当時でも今でも、"世界樹"においてはかなり珍しい、妊娠法で産まれた子だった。ただし、無調整にこだわっていた訳ではないので、半分くらいは変換法の子と言える。

 何より珍しかったのは両親が、自分たちの交わりから、しっかりと子を産もうとしたことだ。

 彼女の父親の名前はエヴァード。母親の名前はメリシア。2人は、やはり"世界樹"ではかなり珍しい、恋人ではなく、夫婦を名乗る2人だった。


 そしてメリシアは優れた社会学者で、エルミィは優れた物理学者となった。

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