2ー9・造られし者たち
ロタレイに退却してすぐ、リーザは、謎の船に乗っていた、おそらくは半機械生体である男フラッデと、異質な何かを感じさせられた少年アイヤナ。それに、二人が使ってきた、船に備わっていたものとはまた違う、大量の針を飛ばしてくる円盤形の聖遺物について、エクエスたちに通信で伝えた。
〔「生物とは思えない異質性か。円盤の聖遺物が発動した時にも何か操作をしてた、てことも含めて考えると、そのアイヤナって少年、聖遺物の特殊兵器を利用するための、媒介の可能性が高いな」〕
エクエスはすぐにそう推測する。
「そういう存在を聞いたことないんだけど」
聖遺物は、原理に関しては未知要素が多くとも、 実用的観点からすると、たいていそんなに特殊とも言えない。たいていのそれは、ただ既存のシステムのみで考えた場合に、ありえないほど高い性能を発揮してしまうというようなもの。
リーザは、自分に使われた針円盤に関しても、遠隔操作の針銃としてエネルギー効率が凄まじいレベルで高いもの、と理解していた。つまりはそれを、利用に媒介が必要なほど特殊な兵器とするのは、むしろ奇妙な捉え方にも思えた。
〔「ですね。エクエス、聖遺物の特殊て言ったよね、それはただ、普通には使えず、媒介が必要なものだからってこと? それとも特殊って他の意味も?」〕
テレーゼも、リーザと同じような疑問を抱いていたようだった。
〔「聖遺物箱」〕
「レリキュア?」
〔「何それ?」〕
エクエスが呟いた言葉に、リーザとテレーゼの反応は重なる。
〔「噂に聞いたことある、聖遺物箱リンクシステム、確か」〕
しかしシェアラも、そんなこと可能性として思いつきもしないくらい荒唐無稽な話だと認識していた。
知られている聖遺物は基本的に、それぞれ単独のものであるが、中には1つの大システムを共有しあうシリーズものがあって、それらすべてのコントロールは、神子と呼ばれる特殊な生物体を軸としているという。レリキュアリ、または聖遺物箱リンクシステムとは、そういうもの。
〔「多分、おまえたちが想像するほどありえないものではないよ。それに、他はともかくリーザが気づいたような異質性を説明する分には、一番これが妥当だ」〕
エクエスはさらに、そのレリキュアリというシステムにおける要とも言える神子という存在は、おそらくかなり文字通りの意味だろうとも説明した。
つまりそのシステムの、少なくとも原型を開発したのは、おそらく神々であること。
ミラが始めた研究において、そして知的生物の歴史において最重要で、そして《虚無を歩く者》に滅ぼされたという何者かたち。テクノロジーではなく、能力として空間を超えることができた、唯一の生命体群|(?)。
〔「確実に神々が生きていたのは、大災害以前の時代だ。その頃は今に比べても、宇宙の各領域の環境は大きく異なっていたはず。考えてみたら、周囲にあまり干渉されない聖遺物|(と今は呼ばれている特別な装置)複数をリンクさせて、閉じたネットワーク系を構築すれば、どの宇宙領域でも、普遍的に使える便利道具になるのかもしれない」〕
そして、そのネットワークの軸になっているのが神子。
〔「じゃ、じゃあその神子って、神々の作った生物機械ってこと?」〕
質問をはさんだテレーゼ。
〔「原型はな。でもさすがに、そのアイヤナて奴は違うと思う。今、この〈ジオ〉の領域で、ジオ生物の姿でいることから考えて、普通に、〈ジオ〉のどこかの時代で造られたものなのだと思う。それより」〕
〔「何者であれ、"世界樹"の生まれの可能性が高いかも。その一緒にいたフラッデという人。アイヤナという少年が本当に神子なら」〕
それはまた、シェアラにも容易に推測できたことだった。
〔「そうだな。いくらなんでも、かなりの長期間を研究に費やした上でないと、レリキュアリなんて使えないと思うし、神子が自分から協力するほどの信頼関係を築けているのも納得しやすい。 利用の幅が広そうな研究の対象側が信頼を置いてくれるような研究者、いかにもって感じだ」〕
「言われてみればね」
リーザも納得はした。
「今、思うと、"世界樹"との戦いかたも、そういう可能性を抱かせる傾向とかあったかも」
しかし、だとすると……
〔「なぜ、"世界樹"の住人が、"世界樹"と敵対する訳なの?」〕
口に出したのはテレーゼだが、会話に参加していた全員が浮かべていた疑問。
「エクエスさん」
少しばかりの沈黙の後、リーザはまた口を開いた。
「わたしは、今はとりあえず、直接仕掛けはしないけど、例の2人の後を追ってみるわ。もちろん"世界樹"からは出ないようにするから、どの程度まで追えるか微妙なところだけど」
〔「了解した」〕
シェアラにも確認を取っていたのか、ややタイムラグがあった返事。
〔「それで、おれたちの方も少し考えたんだが。おれはテレーゼと"聖霊界"に行ってみようと思う」〕
「直接に? でも、そっか。あそこは使える通信がかなり限られてるんだったね」
この状況で、フィラメント"聖霊界"に情報を求めるということ自体は、理にかなっているだろうと、説明されるまでもなく、リーザにもわかっていた。
今回攻めてきたフィラメント"九天"の国家《カルヴァリ》や、 それが持っていると思われる、また別のフィラメント国家とのコネクション。さらにはそれらの協力者であるような、"世界樹"出身の可能性も高い聖遺物使い。とにかく今は、"世界樹"というフィラメント外の情報がほしいところだった。
そして"聖霊界"は"世界樹"と繋がりが深く信頼できるし、相対的にはかなり閉鎖的といえよう"世界樹"よりも(表裏どちらの意味でも)外交的に開かれているのである。
そういう訳で、リーザは2人の聖遺物使いの追跡を続行。そしてエクエスとテレーゼは、"世界樹"でもかなり広く浸透しているレトギナ教の発祥のフィラメントとされる"聖霊界"へと向かった。
ーー
今やエネルギーがかなりの範囲で均一で、非ヒト動物のヒトデに似た生物構造ばかりが ほとんど埋め尽くしてしまっているかのような宇宙領域、〈ワートグゥ〉。その中にあって、領域を超えて迷い込んできたジオ生物たちの住居用世界となっている、連続惑星都市《ルビリア》。
その《ルビリア》には、付属システムとして、透明粒子、つまりは空間を飛び交うものの、他と相互作用をしにくい素粒子を利用したサーチシステムがある。そして、その世界をただひたすらに監視しているようなネーデ生物の宇宙船。
監視宇宙船の搭乗員であるネーデ生物のキルル族のアミアルンが、《ルビリア》へと転移させた、彼|(?)にとっては完全に未知の船であるミスガラクタ号。
それから外に出てきた4人に関して、サーチシステムはすぐ、解析したデータを送ってきていた。
4人のうちの3人は、特になんてこともない。成分構成的に、それは普通のジオ族のヒトと言えた。だが、1人は……
「1人、奇妙な構成がいる。かなり信じられないくらいに」
アミアルンは、小さなモニターに詰め込まれるように表示されていた、直線と丸をいろいろ組み合わせているかのようなネーデの言語記号で書かれた4人の解析データの内、まるで他はいらないとばかりに、その、気になる1人分の表示だけ、抜き出すような動作で、別の巨大モニターへと移させた。
「わたしには、特にこれが、ジオ系としてそんなに風変わりとは思えないんだが」
巨大モニターのそれを見ても、ケロウ族のエルディクは、アミアルンほどジオ族について詳しくないため、いったい何がそんなに奇妙なのかがわからない。
「一見すると完璧に普通のジオ系だからこそおかしいんだ。でもおれにはわかる、専門家だからさ。この構成パターンは、自然下で発生しえない。もっと大切なことは、〈ジオ〉の領域で造れたとは思えない」
「他の領域で?」
やはり表情には出ないものの、エルディクもこの時点で相当な驚きを声に含ませた。
「だが、ありえなくないか、この構成は緑液、いやスフィア粒子が使われてるじゃないか。〈ジオ〉でないとしても、ジオ系が関わっていないと」
エルディクも、アミアルンもそうだが、彼らの認識として、今のジオ族には必須要素とも言えるスフィア粒子は、(システムとしてはあまりにも複雑で、普通は理解しがたいものだが)原理的にジオ系のみがコントロールを許されている、非常に特別な素粒子。
「逆にここまで完璧なら信じやすいよ。いいですか、そもそもスフィア粒子というのは、非常に汎用性が高い、しかも実質的な永久機関を備えたロボット素粒子というようなものです」
それは、大災害によって変わり果てた宇宙において、ジオ生物の人間を、人間のままで、極限までに強化した、奇跡的としか思えないような発明。
「エルディク、あなたもご存知の通り、今のこの宇宙では、基底物質の設定のせいで、自然下のどんな環境でも水素がまず作れません。これは水が安定しない理由の1つにすぎませんが、特に重要な1つでもあります。スフィア粒子というのは組み合わせる他の素粒子によって、そのマクロ分子の性質を、システムとして切り替えできます。ようするに偽水素を安定状態で発生させたりということも可能なのです。もっともその組み合わせに対応している生物群はおそらく、それを開発したのだろうジオ系くらいなのですが。でもそのおかげで、ジオ系は本質的に以前とほとんど変わらない、むしろ新しい環境になるのに合わせ、自分たちを強化することすらできた」
自分で話していて、相当に興味深い話題なのか、アミアルンの声には興奮が現れる。
「だからこそスフィア粒子、緑液系まで完全再現された、いわば偽ジオ系。こいつは完璧に造られた生命体。けど完璧に生物、ジオの」
しかし次の結論には、彼も、声にやや恐怖を滲ませていた。
「こんなものを作れるテクノロジーを、おれたちが持ったことがあるはずはない。あんなに完璧な生命体を造れるなんて」
ネーデのことを意味する「おれたち」という表現ではない。
それは、大災害を引き起こしたもの、神々の敵との長い戦い、それらから本質的に遠く離れていた、〈ジオ〉も〈ネーデ〉も〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉も含む隅っこのたくさんの領域。 かつての知的生物の最大の戦いに、役に立つどころか、参加すらも出来なかったような脇役たちの世界全部のこと。
「多分、これを造ったのは」
根拠なんて、そういうものを造れるというだけで、十分だとも思えていた。
「〈エルレード〉か、〈アルヘン〉」
今はわからない。わかりようもない。
だが、かつて神々がいて、神々の敵もいた頃。この唯一の宇宙の中で、最も強大な影響力を持っていたらしい、2つの領域世界。
〈エルレード〉は、知性というものがたどり着くことが可能な、最大のテクノロジーを持っていたらしい領域。
そして〈アルヘン〉は、 それこそ単なる伝説としか思えないような、神々から直接に知性を授けられたという唯一の領域。唯一の宇宙で、最初の知的生物たちの領域。




