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2ー8・聖遺物使い

 《ヴァルキュス》産の量産兵器の大半がそうであるように、ロタレイも、敵に予想以上に利用されないよう、自動操縦(オート)モードに関しては(少なくとも《ヴァルキュス》の基準で)低性能となっている。つまりどうあっても、それの真の戦闘性能を利用することができるのは、《ヴァルキュス》軍に所属している者のみ。

 リーザは、その最低限の条件だけではない。構成粒子加速法を精密的に利用した神経系機能の意図的加速、 空間内の挙動の完全記憶の代理にもなるほどに強力な感覚意識。つまりは、兵器の最大限の力を引き出すための能力までしっかり持っている。


 普通、宇宙の空間の中で、離れた機械(マシン)を操作する場合、操作者とマシンの間には、必ず通信が必要となる。しかしもちろん、(その通信形式がいかなるものであれ)それはコントロールが間接的になることを意味するから、たいていは、物理環境により変化する操作命令と実動にズレが発生してしまう。

 ロタレイの場合、離れた操作者が最も汎用的に使える、コントロールのための通信は、専用化されている人工超光速(タキオン)粒子を利用したものとなる。

 基本的に〈ジオ〉の領域において、その通信のズレに関係している物理要素は、操作者とマシンの相対的な位置のみ。これに関して、距離はあまり関係ないのだが、問題は互いの相対的な速度。

 例えば操作者が、自分から見て静止しているマシンを動かし始めることはそう難しくはない。だが問題はその次の瞬間。 動くマシンにさらなる動きを与えて、その空間内での移動経路を複雑にさせようとすれば、そのぶんコントロールの難易度も跳ね上がっていく。

 しかしリーザは、 その驚異的な感覚機能により、操作するロタレイの最大限性能でのコントロールを好きなだけ持続できる。


 つまり、5機のロタレイの内の1機がやられたのは、リーザのミスではなく、単に敵機が強すぎたため。


 見かけは角がやや丸っこい三角形状、大きさは、全長15メートルくらいのロタレイの10倍くらいはある。その敵は、妙な戦闘機だった。

 システム的に、どのようなセキュリティが積まれているのかわからないが、それがとても強固で、ロタレイに備え付けの敵解析用コンピューターでも、性能に関して全然わからない。

 この宇宙で想定可能な、どのような戦闘機であろうと、《ヴァルキュス》は想定してきた。だけど、今相手にしていたのは、予測解析すら不可能な何か。


(考えられるとしたら)

 リーザは1つの可能性に、すぐ思い至る。

 だが、もしそうなのだとしたら、今この場で相手をしてても、意味がないかもしれない。敵の正確な性能はわからなくても、ロタレイはすでに1機やられてしまった。それがあと4機だけでは勝ち目も薄いだろう。


(けど、アレは潰す)

 その敵が護衛しているようである情報連絡船。


ーー


 小さな連絡船と、それを護衛する謎の戦闘船。そして、まとめて1人が操作しているなんて思えないほどに、素早く複雑な連携をとりながら攻撃を続ける4機の無人戦闘機ロタレイ。



 護衛船に乗っていたのは、2人。

 クセがあまりない灰色がかった青色の髪。コートの長袖で隠されているが、右手の、少なくとも指は全て白銀につやめく機械になっている。見かけの年齢的には、エクエスと同じかちょっと上くらいの男。

 それと、眠たげな目を隠し気味な、濁った感じな緑色の髪。ちょっと大きめで、ポケットの多めな上着を着た、ルカやザラと同じくらいに見える少年。


「このまま攻撃続けられたら守りきれない」

「わかってる」

 少年の言葉に、そうとだけ返す男。

「くっ」


 結局は、守ろうとしていた連絡船は破壊された。

 ただし、残っていた敵4機のうちの1機を破壊することで、何とか一矢は報いる。


「事前情報と違いすぎる。お前は、想定外だったのはどっちだと思う? 船か、操作者か」

「普通に考えたら船。"世界樹"は、科学技術に関してだけは、もちろん一部の例外を除けばだけど、かなりずば抜けてるほうだと思うから、その気なら、あれくらい強力な兵器は作れると思う。例のガラクタ船もそうだけど、思ってたより平和ボケしてなかったってことかも」

 男はなかなか取り乱している様子だったが、少年の方は淡々としていた。


ーー


「いったんは離脱する」

「離脱するのか?」

 リーザの判断は、エクエスには意外なようだった。

「今ここから最低限やっておきたい仕事はやったわ。残ったあの敵船に対してはもっと警戒度上げるべきだと思うの。わたしは別に、戦術的にとかじゃない、普通に予想外に2機をやられちゃったんだから。場合によってはもっとやられる可能性もあるし。そもそも敵の戦力があまりに未知すぎる。ロタレイの中にデータのない武器システムがある」

「データが、ない? 《ヴァルキュス》の戦闘兵器内にだろ、ありえるのか?」

 エクエスはまた、かなり驚いた様子。

「1つだけありうる」

 そして別にもったいぶったりもせず、リーザはすぐに、自分が持っていた確信を話した。

「聖遺物よ」

「聖遺物ですか? "世界樹"外の」とシェアラ。

「でも「いや、そういう事なら確かにありうる」

 テレーゼも何か言おうとしたが、エクエスが遮った。

「聖遺物は、"世界樹"以外では存在自体あまり知られてないことが多い。逆にそれを知っている少数の者は、軍事的にかなり有利な立場になれる可能性も高い。そして」

 そこでリーザの方を見るエクエス。

「うん。ガラクタ船がそうだったように、聖遺物に関しては、ヴァルキュス(わたしたち)も十分なデータを持ってない。開発記録がどこにも残ってないものだからね。遭遇するまでは未知」


 そう、そういうことだった。


「だけど、どうするんですか?」

 あらためてシェアラが聞く。

「こっちのシステムにも追わせるけど」

 そして、いつもの飾り気ないものと、見かけはほとんど変わっていないが、いくつか便利な機能が付加されている、スブレット作の戦闘服に、服装を切り替えたリーザ。

「敵の速度的に"世界樹"から出る前に追いつけそうだし、わたしが直接行くよ。ロタレイ内部からなら、今のわたしでも、操作権限を自由に使えるし」

「だけど大丈夫なんですか? 敵の戦力、未知なんですよね?」

 テレーゼが聞く。

「問題はないと思う。むしろ、ここでほっておいて逃げられるほうが、まずい可能性が高いよ」


 リーザはそれから、距離を取りながらも、敵船を追うロタレイの方へと、自身を空間転移させた。


「エクエス、彼女、ほんとに」

「問題はないと言ってたから、大丈夫なんだろ。あいつはあれで、宇宙の全てを滅ぼそうとするような相手でも戦えるような化け物娘だぞ」

 テレーゼにそんなふうに返しながら、エクエスはしかし、自分でもどうしようもなく疑問を抱いていた。


(聖遺物を使う何者か、武器として使える何者か)

 一番の疑問はそういう者が、国か、少なくとも何者かに従っている可能性が高いということ。

 ありえはする。だが、その一番奥にいる誰かは、いったい……


ーー


 ロタレイ内部から、さらに直接的に、謎の船の内部の方へと自分を転移させたリーザ。

 未知だったのは攻撃性能に関してであり、内部の状況はわりと解析できていた。たからリーザは、2人の乗組員のすぐ近くにもいきなり現れることができた。


「フラッデ、このひ」

 大したものだった。少年の方はどうも一瞬で、冷静にリーザの強さをいくらか計れたらしい。


(なら)

 どちらか残した方と交渉するために、意識を奪うのは彼の方がいいだろうと、リーザも即座に判断する


「と、やばい」

 少年にそこまで言葉を続けさせるつもりはなかったのだが、リーザは、彼に攻撃しようとしたその手を止めて、一旦距離をとった。


「あなた、何者?」

 とりあえずリーザは問う。


 異質、そう異質だ。《虚無を歩く者》のそれほどではなかったろうが、何か、少年からは普通の生物とは思えない何かを感じたリーザ。


「こっちのセリフだ」

 すぐそう言って、少年がフラッデと読んだ男の方は、 遠慮なくあらわにした、肘くらいからのようである機械の手で、円盤のようなものを投げてきた。


(これも)

 聖遺物だろうとリーザは思う。おそらく船自体に備わっているものとはまた別の。


「やあっ」

 それにどのような機能があるかはわからないが、まだ逃げたくはなかったので、一応高速な手の動きから繰り出される間接的な衝撃波で、自分に向かってくるそれを弾き返したリーザ。

 宇宙船内の空気量はそれほど大したものではないが、円盤自体は軽く、元々そんな勢いも強くなかったので、それは簡単であった。


 しかし円盤は、フラッデらのところに帰ってくる前に、空中で静止した。


「アイヤナ」

「うん」

 その名を呼ばれたのだろう少年が、 何か目に見えない入出力装置(コンソール)を操作したような仕草をする。


 次の瞬間、円盤の中に入っていたとは思えないほどの、大量の針のようなものがリーザに迫ってきた。


(くっ)

 やはりその針も、どのようなものかかなり未知であるため、仕方なく、まだ逃げ場になっている後ろへと退くリーザ。


 全て一秒も経たないうちのこと。

 壁に追い詰められ、壁を壊してさらに別の部屋へと逃げたリーザ。さらに追撃してきた針群。

 宇宙船内部では、逃げ場がどんどん狭くなっていくだろうし、宇宙船外では動きの制限が大きくなる。


ーー


 結局リーザは、また自分をロタレイの方に転移させた。

 そしてさすがに針群は、宇宙空間をまたいでは追ってくる気がないようだった。 


 ロタレイには、もう何度も個人を転移させるようなエネルギーは残ってない。そして、また転移しても、おそらく結果は同じだろう。何者かはともかくとして、思っていたよりも強力な力を持っている相手だ。あまり強引に仕掛けるのは、今は得策じゃない。


「フラッデ、アイヤナ」

 その名をしっかり覚えようとするように、リーザは呟いた。


ーー


 リーザに派手に壊された壁を、あえて修復させないで見ていた、その2人、フラッデとアイヤナ。


「なあ、さっきのやつ。空間転移で逃げたのか?」

「そうだろうと思う。あの速度で攻撃を避けながら。転移のシステムを」

「個人でやってたと思うのか?」

 アイヤナがそう考えているのだろうことを察して、フラッデは驚く。

「そう考えるのが妥当。さっきは僕への攻撃を止めたり、円盤を特に強く警戒してた。それは多分、それが彼女にとって未知だからだと思う。その上でさっきは、なるべくここにいようとしてたように思う。誰かが戻してくれると考えていたのじゃなく、自分で帰るタイミングを図ってたように見えた。彼女が単独で行動してるなら、説明しやすいよ」

 アイヤナにはやはり、あまり驚いてる様子はない。というか、感情的なものがかなり乏しい感じ。


「なあ、おまえ、さっき確か想定外なのは、普通に考えて船の方だって言ってたよな」

 フラッデは思い出したように言う。

「それは間違ってたんだと思う。彼女、かなり恐ろしい存在だ」

 アイヤナはそう答えた。

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