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2ー7・フィラメント国家二つ

 ミズガラクタ号が転移させられたのは、内部からは、白銀の地面と、数百メートル程度の高さに備えられた(おそらく同じ素材である)天井がひたすらに続いているような空間。特に深い意味はないだろうが、外部から見た場合の、球体の集合体というような全体の姿を感じさせない内部構造となっている。


 船が転移させられてきた場所こそ、広くまっ平らな場所であったが、距離を置いたあちこちには、高いビルが立ち並ぶ都市や、そこを飛び交っているようである様々な形の飛行マシンが、遠目に確認できた。


「まあ、見ただけでもわかると思いますが、あの都市も明らかに、知的生物が意図的に作ったものですね」


 ザラはさらに、自分たちが現在いる場所は、おそらくは外部から転移させられてくるものを迎え入れるため、あえて何も置かないでいるエリアだろうと推測した。


「この広いエリアのちょうど中心ポイントが転移の基準にさせられていることから、まず間違いないと思います。わたしたちのようなよそ者かどうかは不明ですけど、時々何かがここに送られてくるというのは周知なのでしょう。 あと、ここに調査の手が及んでいる形跡もないことから、謎な現象とかでもないのでしょうね。ここで生きている方たちにとっては」

「つまりここに住んでる連中は、わたしたちをここに送ってきたやつらのことも、しっかり認識してるっていう事?」

 スブレットが聞く。

「普通に考えるならそういうことですね」


 それから少し、ザラは静かに考え込む様子を見せた。

 ただ、もう考えるのに必要な材料はすっかり揃っているのだろう。彼女の前で、何か様々な分析結果を連続して表示していたモニター画面の動きは止まっていた。


「ザラ?」

 沈黙を破ったのはルカの声。

「ここは領域〈ワートグゥ〉ですが」


 今考えられること、一番ありえそうなことを、ザラは説明した。


「今は明らかに、知的生物を失った世界です。大災害がその原因なのもかなり間違いないでしょう。そして、それからずっとこの状態だったとするなら、 あまりにも平らなエネルギー分布も説明が簡単です」


 正確には、その全てが平らな分布が1度形成されてしまったからこそ、再び複雑な構造が生まれなくなってしまったのだろう。変化に乏しくなりすぎてしまったと言い換えてもいい


「ようするに、ここにこのような人工惑星の区域を作って、今外側から管理している誰かは、確実に、他の領域に起源を持つ者、あるいは者たちです。わたしたち同様に〈ジオ〉、からかはわかりませんが、ジオ族のことをよく知っているのもほぼ確実です」

「なんで、そうだとわかるの?」

 ルカがすぐ聞く。

「ここが明らかに、後から作り変えられたとかそういうことではなく、初めからジオ族のために作られたものだからですよ。ここの環境を作っている化学反応の何もかもが、わたしたちに最適です」

「ついでに言うなら、それだけって感じもする」

 設計や造形技術に関しては、ザラよりも詳しいスブレットが口を挟む。

「本当にただ、ジオ族のための場所を作ってみただけって感じ。こういうシンプルさが好きな人もいるけど、住居エリアとして考えた場合は遊び心が無さすぎてむしろ違和感がある。その製作者様、多分わたしたちをここに送った連中かな、ジオ族じゃないのかも」


 スブレットは、それが何でもない事のようにあっさり言ったが、他の3人は、それぞれ自分なりに驚きを見せていた。


「〈ネーデ〉かな」とミーケ。

「それが妥当な推測でしょうね」

 ザラも同意見だった。


 〈ネーデ〉。

 非常に多様な見かけを持ち、友好的であったという生物群の領域。 それもかなり古いとはいえ、大災害以降にも〈ジオ〉と繋がった、確かな記録があるという別領域。

 もしかしたら〈ジオ〉を含めた、隣り合っているらしい4つの領域の中で、唯一、安定したスペースゲイト技術を有していたか、今も有しているのかもしれない。とすると、残り2つの領域、〈ロキリナ〉と、この〈ワートグゥ〉にそこからの使者が来ていたとしても、そう不思議な話ではない。


「とにかく情報を集めましょう。さっきも言った通り、ここに住む方たちは、ここを作った何者かを知っている可能性が高いでしょうから」



 それから船外に出てきた4人だが、適当に都市に向かうにあたって、ミズガラクタ号をその場に残しておくことはせず、平面空間操作プレーンディメンションシステムを利用した物理的カモフラージュで、その船体は隠しながら、自分たちの上空へと配置しておいた。


「でも建物とかにあたらないの?」

 しばらく歩いたところで、見えはしないが、しっかりついて来ているはずの船を見上げて、そんな疑問を発したルカ。

「普通、生命体構造が平常でいれるような環境で、かつ基底物質の操作がない限りは、どうしたって必ず空虚な平面が周期的に維持されます。ミズガラクタ号は、比較的容易にそこをすり抜けることができます」

「平面操作。なんか万能だね」としか言えないルカ。

「意外と使えないって意見も多いよ。影響を避けるのには便利だけど、 逆に影響を与えることに使うのは難しい技術だから」

 そして、[空間操作技術入門]という、その技術に関して詳しくかつ初心者向けの本も、ルカの持つブックキューブに送ってやったミーケ。


「えっ」

 そこで、何かに気づいたようだったスブレット。

「何?」とルカ。

「メッセージです」

 スブレット同様、ミズガラクタ号の通信システムを、自身の持つ粒子コンピューターと繋げていたザラ。

「これ」

 それをスブレットはそれぞれの前に表示させた。


 そのメッセージは暗号であったが、ザラには即座に解読できた。それは《学術委員会》がよく使う形式のものであったから。


「標準化します」

 ザラがそう言うよりも少し早いぐらいに、その暗号文は、4人それぞれが知っている言語のものに変えられた。


[その船、聖遺物ですよね? "世界樹"から来たのですか? わたしは世界樹第三暦6598.56……2611まで、《学術委員会》に所属していたエルミィ、物理学者です]


 世界樹第三暦6598.56……2611は、計算上は約291万8000年ほど前。


「どうやら、文化圏的な意味での仲間もいるようですね」

 これに関してはそんなに驚いている様子も見せず、ザラはそう言った。


-ー


 領域〈ジオ〉、銀河フィラメント"世界樹"、人工惑星《ミルテール》。

 ザラの従姉であり、《アズテア》の姫であり、その《アズテア》の従属国《ルセドラ》の代理王でもあるシェアラの住む巨大な住居と、直接的につながっている、軍事施設の指令室。


「だ、大丈夫ぽい?」

「全然余裕。遠隔操作のロタレイ5機だけでも十分に対応できるわ」

 モニターに表示された、"世界樹"に迫り来る、他フィラメントからの戦艦群の情報を確認しながら、不安げなシェアラに、平然と言葉を返す、ヘッドフォンのようなものを頭に付けていたリーザ。


 その場にはエクエスとテレーゼもいる。


「急いでるみたいね。それに装備からして、どうやらミズガラクタ号が消えたことを知ってはいるみたい」などとリーザが話す間にも、画面に書かれた情報数は少なくなっていた。


「これって、今リアルタイムで倒しまくってるって事?」

「そういうことだろうな」

 テレーゼの問いに、苦笑いで答えるエクエス。


 そういうこと。リーザは、《ルセドラ》が以前、違法な取引によって入手していた《ヴァルキュス》製の戦闘兵器ロタレイを使い、明らかな攻撃意思をもって迫る、こうなっては哀れな軍隊を、簡単に返り討ちにしていたのである。


「終わった」

 まだ画面の敵戦艦情報は少しだけ残っていはいるが、戦うロタレイとの操作接続(コントロールリンク)を構築していたヘッドフォン型コントローラを外したリーザ。

「何人か捕らえもしたわ。《カルヴァリ》て国の軍だって」

「《カルヴァリ》? "九天(くてん)"の国家だ」

 その国名を知っていたエクエス。


 "九天"は、"世界樹"とは空洞領域を挟んで隣接する銀河フィラメントの1つで、《カルヴァリ》は、その1/3ほどを支配下に置いている大国家。


「いや、囮と思う」

 本来はそうだと気づけるはずもなかったのだが、リーザは、ロタレイのサーチシステムで一応調べたいくつかの情報から、そのことにもすぐ感づいた。

「どういうつもりかわからないけど、多分"賢者(けんじゃ)"の方向。目立たない情報連絡用船が向かってる」


 "賢者の地"もまた、空洞を除けば隣接しているフィラメント。


「今の状況で、さっきの規模の戦艦を囮にしてまで、こっそり他フィラメントに連絡船を向かわせる理由なんて、軍事増強目的以外には考えにくい」

 再び、ヘッドフォン型コントローラを装着したリーザ。

「戦力を高めるのが目的ならまず間違いなく国へと向かうはず。エクエスさん、ありえそうな国家の情報が欲しい」

「"賢者の地"の国家は《トリポット》だけだ。単純な規模で言えば、"世界樹"全体とちょうど同じくらいと思う」


 そしてヘッドフォンコントローラを通して、その国に関して知ってるだけの情報を、リーザに伝えるエクエス。


「「コネが大きすぎる」」

 リーザとエクエスの声が重なった。


「いったい、どういうことが?」

 また不安そうにするシェアラ。

「わからないけど、こいつも止めて直接確かめ」


 リーザが言葉を止めたのを合図にしたかのように、誰もがしばらく無言となる。


「何者か知らないけど、強い、いや、上手いかな」

「リーザ、何があった?」

 エクエスもそこで、さすがに少し緊張した様子を見せる。

「1機やられた。どうも凄腕の護衛がいるみたい」

 しかしリーザはまだ、全然平気そうな様子であった。

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