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2ー3・墓参りと特訓

 エクエスとテレーゼは、『水文学会』が、まだどこかに残しているかもしれない研究記録を探しながら、"世界樹"のあちこちを旅していた。

 それはエクエスの思い出を辿る旅でもあり、かつての全ての友人たちの墓参りの旅でもあった。


 《虚無を歩く者》が現れた時、エクエスにとっては、友人の何世代も後の子孫であるラリーは殺されてしまった。それはエクエス自身、何度目かもわからない知り合いの死。


「ラリーのことは守れなかった。それはごめんな」

 国家外惑星の1つ《セドハ》にある、壮大な荒野に、無造作に建てられている、白い、数メートル程度のピラミッドの前に立ち、まずそんなことを言うエクエス。


 そのピラミッドは一応、ラリーの先祖であり、エクエスとは『水文学会』を一緒に立ち上げた友人でもあった、カーライルの墓。

 もっとも彼の遺体や、それと関連する物質すら、そこに眠らされてる訳ではない。それはエクエスが勝手に墓と定義してるだけのものである。


「リウェリィの姿を久々に見たよ。とんだ偽物だけどな」


 届いているのか、意味があるのかなんて、わかりようもない、友への報告を続けるエクエスより、少しばかり距離を置いた後ろで、テレーゼは口を閉ざしていた。

 声は震えていないけど、たぶんすぐ前の彼は涙を流しているのだろうと思った。

 昔、一緒に暮らしていた頃に何度か見たことがある。涙をしっかり流しながら、まるで自分でもそれに気づいていないかのように、他は平然としている彼の姿。


「今は、新しい仲間ができたんだ。笑っちゃうだろ、おれはやっぱり、まだ科学者だったみたい」

 そこまで言ったところで振り向いた彼は、涙でなく笑みを浮かべていた。


 そこで、テレーゼは質問を投げた。


「えっと、話しかけてるって事はさ。エクエス、あんたは、生物の意識とかそういうものに関する何かの情報が、いつまでもどこかで残るかもしれないって考えてるの? そういうことだよね」


 レトギナ教においては、死は別れであることを覚悟するようにと説いている。生命体が物理的に完全崩壊した後にも、何らかの情報が残る可能性を否定はしないが、永遠の生よりは、死の方が原理的にありえると捉えているわけである。


「ただの感情的な問題だな」とだけ言ってから、さらに少し考えたような様子を見せてから彼は続ける。

「いろいろな別れを体験してきたが、永遠だったのは死によるものだけだ。その後に何かが残るのだとしても、それが永遠の別れであることは確かだ、おれたちが生きている限りはな。心の物理的な外部で、死者と再会できたやつはいないんだから」


 それが決めつけかは微妙なところであろう。実際、生きている誰かを構成する全ての要素が壊れた時、(すでにそれの時点で、定義的に矛盾していると考える者も多いが)それでも残る生物要素が何かあるのだとしても、 残された生き残りの者が、物理的な関わりを持つことは不可能だろうという推測は、支持者がかなり多い。エクエスならば、それの証明すらも理解しているのかもしれない。


「レトギナも多分、似たような考え方だろ。だからこそ、決して死後の何かという概念に溺れるな、て言ってたはずだ」

「正確には、第2聖典の第19章4節アコーディナね。確かに彼は、あんたと考え方似てるのかも。レトギナによると、彼は冷たい心の人」


 だからといって、その考えを間違いだとしているわけではない。

 レトギナ教の聖典は、その思想体系の開発者たちによる、全員が正しいと認めている言葉と、それらの説明集というのが、実質の内容。

 つまり、そのアコーディナの言葉もすべて、レトギナの公式見解。


「あいつが、《虚無を歩く者》が、昔のやつらに死んでないと考えられていたのも、同じ理由だったのだと思う。どこかに相互作用が残っていて」

「それはでも逆に言えば、アレだって殺せたなら、もう二度と現れなくなるってことだよね」

「それはそうだろうな。リーザがそうだと理解したように、まず間違いなく、アレは感情というものを持っていた。そして、感情を持つことができるのが生命体だけだということも確かなんだ」


 だからこそリーザは、それに対抗できると考え、実際に返り討ちにした。


「生命体なら、殺しさえすれば、全て終わりだ」

「ねえ、わたしたちのその考え方が間違ってるって可能性はない?」

「そんなこと、あってはほしくないな」

 だがエクエスも、その可能性をはっきり否定することはせず、テレーゼも背筋を冷やされる。



「感情。逆に感情は、生物なら、いえ、知的と呼ばれる生物なら必ず持っているもの?」

また、ふと気になって、聞いてみたテレーゼ。

「"世界樹"にある知的生物の定義、心の定義、というか、心層空間(しんそうくうかん)のことはおまえも知ってるだろ」


 空間と呼ばれているが、実際にそういうものなのかはわからない。それはつまり、生命体の要素の中で、物理的相互作用のみで完全に予想することが不可能な唯一のもの。いわゆる心、あるいは神経系と相互作用することで心を発生させている未知要素のことである。

 定義というよりも、知的生命体とされる存在ならば、そういうものを必ず有していることだけは絶対だと、何度も証明もされている。


「感情は、心層空間の機能から生じているものであることはかなり確実だ。だけど、絶対に必須の要素でもなければ、必ず発生してしまうものでもない。意識さえあれば、生物として表面上の動きは十分可能だしな」


 より正確には、生物と定義するのに最低限必要な要素のひとつは知能で、その知能なるものに必要な要素の三大と言われているのが、意識、記憶、そして感情。


「三大といっても、実際には意識だけあれば生物としては機能する。もっとも、心層空間を有してないか、それでなくてもその影響が弱すぎる生物に限っては、意識もほとんどないと言っていいんだけどな」


 しかしとにかく、意識さえあれば生物と定義は可能。


「で、神経系にも程度があるけど、感情の因子が完全に心層空間だとする一般説が正しいなら、知的になりうる十分なレベルでの神経系を有してる生物でも、感情を持たないことはありうる」

「感情を持っていない知的生物が」


 テレーゼとしては、それもまた恐ろしい話。


「まあ、ありえるんだが、長時間の生存はたぶん無理だ」

「なぜ?」

「簡単に説明するならこういうことだ。今のおれがそうであるように、死を悲しむのも、死んだ者との繋がりを信じようとするのも、感情という要素を持っている生物だからこそだ。そして、死の悲しみを知らない者は、長生きには向いてないんだよ」


 エクエスの、その確かに簡単な説明は、本心のようにも、何か誤魔化しているようにも、テレーゼには思えた。


ーー


 リーザとルカは、スブレットが《カルディラ大学》の教師何人かとも協力して、作ってくれた、なるべく様々な環境を用意できる特別な人工惑星|《TT(ティーティー)4》で、1年間、ほとんど毎日、特訓ばかりの日々を送っていた。


 正確には、リーザはひたすら教師で、特訓はルカのためである。

 あの恐ろしき《虚無を歩く者》だけではない。今後どんな敵と戦うことになったとしても、リーザと一緒に、仲間たちを守れるようになるために。


「うっ」

 先に拳を放ったはずなのに、先に手の平を腹に当てられ、軽く数メートル吹き飛ばされてしまうルカ。


「まだ遅すぎる」

 あっさり言うリーザ。

「加速法を使うことを無理に意識しないで。特に攻撃には、最悪使えないなら使えないでもいい」


 体内の緑液を、変化経路的に固定させることで(と表現されるような特殊操作により)自身の崩壊を防ぐ前準備をした後。神経系のコントロールを起点に、相互作用を効率的に連鎖させて、自身を構成する素粒子の一部を急加速させる。そうして、通常一個の生物という集合体が放てるものよりも、遥かに強い攻撃を、その負担もなるべく抑えた上で可能とするための特殊技術、構成粒子加速法こうせいりゅうしかそくほう

 ルカが、実にそればかりのため、7ヶ月ほどの時間をかけて、ようやく少しは使えるようになった技術。しかし、それはあくまでも、他の動きなく集中した状態での場合であり、動き回る戦闘の真っ最中で、好きなタイミングで、というほどには慣れていない。

 実際、この技術は、生身での戦いにおいて、いかなる敵にも通用する可能性のある、究極の武器になりえるが、普通は実用的か怪しいくらいに、かなり難しい。

 そもそもリーザですら、それを限界まで利用した最大限の一撃を放つためには、わずかな時間の、完全な一点集中が必要となる。《虚無を歩く者》に対して、その極限の一撃を放つことができたのは、エクエスが上手く、余裕の時間を用意してくれたおかげ。


「たいていの場合で重要なのは、相手にダメージを与えることよりも、こっちが受けないこと」


 もちろんどんな場合の戦闘においても、敵をさっさと無力化してしまうことが一番いい。だが、それができたとしても、自分がそれでいくらか損害を被ってしまったなら、さらに連続して現れた敵への対処が難しくなる。

それより、とにかく戦いで時間さえ稼げれば、仲間の解析や、武器を使ったサポートも期待できる。


「少し攻撃をするから、なるべくかわして」

 そう言うのと同時に、ルカに迫り、拳や蹴りを適当に繰り出すリーザ。


「わっ」

 ごくわずかな時間での何発もの攻撃。最初のいくつかしかかわせもしない。


「だめだ、今のぼくじゃ」

 数十メートル吹き飛ばされながらも、すぐに立ち上がったルカ。

「ううん、上出来だよ。こんなわずかな時間で」

 リーザはそう言った。


 その時、2人それぞれの足下に、地面から生えるように現れた立方体(キューブ)


[「リーザ、ルカ」]

 キューブから発せられたスブレットの声。

[「ちょっとばかし、重要な発見があったんだけど、今大丈夫そうなら、こっち来てくれない」]


 互いを見合って、頷きあうリーザとルカ。


「了解」

 キューブの通信機ごしに、リーザはすぐ、その声を返した。

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