表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
44/142

44・水が存在しない世界のありえなさ(冷たい手の修道女10)

 リリエンデラは初期の生命体とされたが、それは見事に間違いではある。

 もちろん当時は知られてなかったが、宇宙の領域は、この〈ジオ〉だけではない。リリエンデラは真の意味で最初の生命体ではないが、彼らの領域、その場所では、確かに最初の生命体の可能性が高い。


 宇宙全体の構造がどうなっているかに関しては、いくつも仮説がある。だが、実際の原理がどういうものにしろ、簡単に実用的に「広い全体があって、それぞれの部分が領域になる」と考えることはできる。

 どの領域にも、始まりがあり、終わりがある。知的生物による意図的な操作などで、擬似的な永遠が得られることはあるが、結局それは操作を続ける限りのものだ。


 そこにもともといた生命体がどのようなものにしろ、普通は領域が消えた場合、そこの生物も最後ということになるが、リリエンデラは違った。

 正確にはリリエンデラは、領域と一体化した上で、自らを縮小させ、あたかも消え去ったかのような状態を発生させられる、そういう生物だった。

 そして、実質空白となった宇宙のその場所に、再び領域が現れた場合に、自分たちの領域をまた広げ、その領域に現れた生物を遊ぶみたいに滅ぼしては、また縮小する。

 ちょうどそれは、内部に存在する者たちにとっては、宇宙がまるで小さな特異点、つまり無限に小さな点から始まり、ある程度広まっては、また縮小するような世界体験となる。

 ジオ族が遥か古代の時代に、宇宙の始まりを、特異点から始まる広がりビッグバンとし、終焉を特異点への収束ビッグクランチとするような仮説をたてたのもそのためとされる。

 だが実際、その領域のビッグクランチという滅びは、それ以前からそこにいた生命体がもたらすものだったのだ。


 ジオが、リリエンデラの玩具宇宙の何世代目にあたるかは謎だ。

 だが、ジオはおそらく偶然に、リリエンデラの推測をこえて、対抗できるような存在となった。

 リリエンデラとの戦いは、『ミュズル』も含め、バラバラだったジオ族たちを再び1つにした。


 しかしこのリリエンデラとの戦いについては、勝利し、ジオ族たちがついに自由を得たという、その結果以外の記録はほぼない。

 むしろ歴史の流れの中で重要なのは、その戦いの後に起こった出来事であった。


 自由になったジオ族たちだが、共通の大敵を失ったとたんに、またすぐに分裂した。

 残った領域の支配権を巡っての戦いが始まったが、どの勢力が勝ったとしても、結局リリエンデラ以前のような状態に戻ることは明らかだった。なぜなら、争う勢力のどれにも、『ミュズル』の影響が色濃くあったから。彼らの支配を終わらせた団結が、彼らの性質を全体に広めてしまっていたわけだ。

 結局、勝者である科学結社『フローデル』は、自分たちを新たな『ミュズル』とも称して、領域を自分たちのみで支配した。

 第二次支配だった。


 ただ、以前のように、一部のジオ族がジオ族すべてを支配しているだけなら、宇宙全体から見れば大した問題ではない。リリエンデラが、 宇宙を作っては滅ぼすことを繰り返していたことに関してすらそう言える。

 いずれにしても、宇宙全体のごく一部の、閉鎖された領域内の現象にすぎないから。


 『フローデル』は野心が強すぎた。

 彼らはさらに、リリエンデラ戦の時代に明らかになった別の宇宙|(実は別領域)にも支配の手を伸ばしていったのである。


 当時、明らかになっていた別の領域3つ。

〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉。

 それらは、各領域を全体の部分として表示した場合に、ちょうど〈ジオ〉と隣り合っている場所でもある。そして、当然のことながら、ジオ族とは異なる生命体群がいる。


 しかし実のところ、野心が強すぎるというよりむしろ愚かだった。

 他の領域すら支配しようとするにしても、わざわざ近場の3つ全てに、同時に手を伸ばさなくてもよかったろう。

 もっとも、リリエンデラという変わった生命体が、作った環境で発生したジオ族という存在も、かなり変わり種の生命体ではある。

 〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉は、位置関係的な問題もあるのか、違いが微妙で、当時のジオ族は、一緒くたに考えていた説もある。


 何にせよ、それはまさに神をも恐れぬ所業であった。

 別領域同士の戦いが始まり、最終的には、この争いのために一時的に繋がった3つの領域の同盟軍により、『フローデル』は倒され、第二次支配は終わった。


 外部との戦い。そして内戦。外部を巻き込んだ内戦を連続したジオ族たちは、疲弊しきっていたとされる。

 ただ、3つの領域の同盟軍には、〈ジオ〉側のレジスタンスたちの協力もあったため、ジオ族自体はその存続も許された。

 しかし〈ネーデ〉、〈ワートグゥ〉、〈ロキリナ〉のいずれも、発生していた〈ジオ〉との繋がりは全て絶ち、疲れたジオ族は、それでも自分たちだけの手で、新たな〈ジオ〉を始めなければならなかった。


 それからあとの時代は、 正式にそういう名称がついているわけではないが、ジオ族の黄金時代と言ってしまってもいいだろう。

 自分たちの世界がどれほどに小さなものかを自覚し、しかし特別な知的生物ではあるという誇りを持ち、自分たちなりの世界を、また一から始めようと、みんなでがんばった。絆が大切にされ、争いなんてほとんどなかった時代だった。


 そして、そんな黄金時代を唐突に終わらせたのが、突然の大規模異変だった。

 それはつまり、この宇宙から水を奪い去った大変化だ。


 たとえ別の宇宙、別の領域だろうが、そもそも本来、存在しない物質とか、何もかも未知の新しい物質が現れるとかいう考え方は、昔はあまり真面目に検討されなかった。

 なぜなら物質が、素粒子の組成が変わることによって発生することは、それこそ惑星の《ジオ》の時代から知られていた、いわばこの宇宙の基本原理だから。

 原理的には存在を推測不可能な物質などない。仮にそういうものがあるとしても、それを作ることは結局不可能だということだから、やはり真面目に考える必要はない。

 そのはずだった。


 素粒子よりもさらに根本的な要素である、基底物質の存在が確認されたのは、フィデレテの時代とされている。

 基底物質は深淵の基本構成要素で、本質的には確かに実在する小物質とされるが、実質的には法則として扱った方が正しく捉えやすい。言うなれば、どのような素粒子が存在し、どういった相互作用を行えるかというルールである。

 宇宙に存在しなくなったのは、正確には安定した水というよりも、安定した水になれる素粒子。もっと正確に言うなら、水という状態を安定させる相互作用が可能な法則こそが失われたわけだった。


 この宇宙で、かつて水が普遍的な物質だったのは当たり前である。

 なぜなら、それが安定するルール(基底物質パターン)というのは、あまりにありえすぎることだから。

 仮に基底物質パターンを適当に作るシミュレーションを1秒ずつ行うとする。そんなシミュレーションを、宇宙(領域)が誕生してから、なくなるまでの時間ずっと繰り返し続けても、水の無い宇宙なんて現れないだろう。

 そのくらい、水というのは、存在しないことがありえない物質なのである。

 宇宙にはいくつもの領域があり、それぞれに基底物質が異なっているのだとしても、おそらく水だけはどこにでもあるのだ。


 領域のどこにでも生命体が存在する、かなり正しいらしい仮説の説明もこれでつく。つまり、古い記録によく見られる「水こそが生命体の起源の物質」という情報が正しいということだ。


 普通に考えるなら、変化が起こるとしても、まず水が失われるということ自体がありえない。

 そして、おそらく生命体に必須とされていた水が急になくなってしまったなら、生き残りが存在している現状はありえない。


 やはり、明らかに水が失われたのは意図的で、それを知っていたから、その時のために準備していた者たちがいるのも間違いなかった。スフィア粒子の開発者ミーヴィリが、そういう者たちの1人だったのは確実だろう。


 ミーヴィリの他には、彼の親友であり助手であったというウィンター。そして、彼らの師であったメリセデルも、同じく、水がなくなることを知っていたかもしれない。



(メリセデルって、どこかで……)

 記録にその名前が出てきて、そしてミーケはすぐに思い出す。


(「かなり昔のことだ、まだ"世界樹"がなかったくらいの」

「メリセデルという少し奇妙な感じの科学者がいると聞いて、会いに行ったんだ」

「彼の助手は……)


「エクエス」

「ああ、多分、同じ名前で、おれも脅かされた」

 ミーケよりも先にそこまで読んでいたエクエス。


「あの《虚無を歩く者》が、誰かたちが水を消滅させることに決めた理由の可能性は高いと思う。で、その誰かたちの1人がメリセデル。で、おまえの記憶の鍵にはアレがいた」

 そして、少しばかり苦笑いを見せながら、エクエスは続けた。

「やっぱりおまえだろうな、メリセデルの助手。水を操る少年」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ