表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
41/142

41・戦うべき時(冷たい手の修道女7)

 少女が見えた時から、エクエスのその震えは明らかに顕著になっていた。

「ミーケ、なんて言った?」

 その顔は、今はまた惨殺死体だけが映ったモニターに向けたまま、彼は聞いてきた。


「あいつは《虚無を歩く者》。何もないところに存在する唯一の存在。何もないから、直接何かに干渉することができない。ただ、干渉なんてできないはずなのに、特定の物質を媒介にして、この世界に現れることができる。さっきのあの姿も、あの女の子も本当の姿じゃない、あいつに本当の姿なんてないんだ、この宇宙に、あいつの姿なんて本当はない」


 なぜかなんて、今はどうでもよかった。

 ミーケはとにかく、自分が理解できている限りの、ソレに関する情報を言葉にした。


「あれが、実体なきもの」

 リーザはリーザで、何か思うところがあるようだった。


「今、わたしが理解できた限りの上での疑問なのだが、あれはこっちに来るんじゃないのか? そういうことができる存在のように思えるが」

 さすがにあからさまではないが、カルキレも恐れているようだった。

「わたしも、そう思います」

 その、しっかり装着している限りは素肌と見分けのつかない、肘までの長い手袋を、両手それぞれの互いで掴むテレーゼ。


 《虚無を歩く者》

 おそらくはラリーという男を殺したろう何者か。

 何者にせよ、絶対に許せるような存在なんかじゃない。テレーゼも、それが来るというなら、戦う覚悟だった。


「来られないはずだ、ここには。あいつはテミスフィア質の素材を越えられない。まだ対応してない。それにはあまりにも時間がかかる。そして、十分な時間よりも昔に、こんなものはなかった」

 ただひたすら頭に浮かんでくる言葉を読んでいるようだったミーケ。


「テミスフィア。非常に重要なもの、じゃあこれはやっぱり武器、この船は」

 母の残した、それに関するあらゆる情報を思い返すザラ。

「あの、てことはさっきの、その《虚無を歩く者》とかいうのが例の」

 ルカも、そうなのだろうと察しがついた。

「神々の敵」

 スブレットも。


「そういう事なら、アレが今姿を見せた理由ははっきりしたな」

 いつのまにか、震えは止めていたエクエス。

「おれもどうやら、アレのことを少しは知ってるみたいだ、だからわかる。レコードを奪ったんだ、そのためにラリーを殺した。そして、それを手に入れようとする者たち全員を殺すために。そうするつもりだ。あいつは、水文学会(おれたち)の研究記録を見られたくないんだ。そこにある情報が、自分にとって危険かもしれないことを理解して」

「違う」

 いきなり大声でエクエスの言葉を遮ったミーケ。


 そして彼はさらに、普段の緩やかな雰囲気とはかけ離れた、取り乱した様子で続けた。

「あいつに危険なんてないんだ、あいつは殺せない。あそこに何があるのだとしても、誰も行くべきじゃない。誰かが行ったら死ぬだけだ」

「ミーケ」

「だめだから、リーザ」


 彼女が行こうと考えていることがわかったから。

 だからこそミーケは、とにかく必死で止めようとした。

 そうすることしかできなかった。


「行ったらだめだ、殺される」

 彼女がその気なら、そんなこと絶対に無理なんだとわかっていても、ミーケはリーザの腕を掴み、力づくでも行かせまいとする。

「リーザ、お願い。きみが死ぬなんて嫌だから。おれは、おれ、きみがいないと」

 まるで本当に子供のように、涙すらみせていたミーケ。


(ミーケ)

 どうしたってそれは止められないだろう。

 胸に熱いものがこみ上げた。

 心が震えた。

 しかしだからといって、今自分が出ないわけにはいかない。


(ごめんね、それに)


 ミーケは《虚無を歩く者》と言った。リーザにとっては、それは物質世界に現れた、物質の超越者。

 この宇宙に、ジオ族に、それと戦えるものなんてどれだけいるか。

 そして、ミラの予言も、エクエスの恐れも、ミーケの記憶も、リーザ自身の本能も、それが敵なのだと告げている。

 もはやレコードとか、ラリーの仇とか、そういう次元の話でもない。

 今なら自分がいるのだ。

 こんな機会が再びくるなんて、限りなく低い可能性だろう。

 今、戦うしかないのだ。

 それは物質の型をとって現れた。

 ミーケの言う通り、その本体を殺すことなどおそらくできないのだろう。だが、その型を壊すことなら……


「ありがとう、ミーケ」

 なんとかルカが、そういうふうに動いたのだろうことを気づけたくらいで、他の者たちには、まったく何がなんだか、訳がわからなかった。

 それほど素早く、しかし優しく、大好きな親友の掴む手を離させ、軽くショックを与えて、その意識を奪ったリーザ。

「最後じゃないよ。あなたに伝えたいこと、まだたくさんあるんだから」

 仮に、まだしっかり意識があったとしても、聞こえるかどうか微妙なくらいの小声で、そう言ったリーザ。


「みんな、わたし」

「リーザ」

 たった1人で、敵と戦おうというのだろう彼女を、今度はルカが止めた。

「ぼくもいく。一緒に戦うよ」

 無知ゆえか、勇気ゆえか、ただ怖がってなんかいないし、迷いもなかったようであった。

「ルカくん」

 しかし、リーザは今は冷静に、彼の気持ちを汲み取ったりなどしない。


 しっかりとその動きに気づき、ガードしたはずだった。だが、両腕で受けたリーザの拳からの振動を受けて、かなり派手に吹っ飛ばされると共に、ミーケ同様、ルカも意識を失わされてしまう。


「あなたの強さはわかってる、あなたの気持ちも。だけどね」

 その意識を奪うのに、ミーケと違い、かなり強引にするしかなかったことこそ、ルカの尋常でない強さの証明でもあった。

 だがそれでも……


「その強さでも足りない。この戦いには」


 リーザでも、正直なところ、絶対に勝てる自信があるわけじゃない。

 もしかしたら戦いにすらならない可能性だってあるくらいだろう。


「ザラさん、今回ばかりは、わたしにも万が一てことがあるかもしれないから、その時は」

「こちらは心配しないでください。今は自分のことだけを」


 本当はザラだって止めたかった。

 だが、ミーケが止められないリーザを、自分が止められるはずがない。


「エクエスさん。あの女の子の姿」

「おまえなら言うまでもないと思うけど、遠慮はするな。ただ」


 さすがにリーザは勘がいい。エクエスと、アレが姿を借りている元の人物に、何か深い関係があるということをもう確信しているようだった。

 だが、伝えるべきことは、自分に対して配慮をするなというようなことじゃない。それより、本当にアレと戦うなら、絶対に伝えておくべき、ずっと重要なことがある。


「リーザ、おれがこれを何で知ってるかなんて今は聞かないでくれ。ただ、アレがここに現れるのに用いたのは、アレ自身の能力じゃなく技術だ。スペースゲイトだ。だが、この船からなら、おれはそれを邪魔できる。確信ができたら合図を送るから、その時にもしも、相手が自分を消そうとする手に気づいたら、絶対にかわすな。不意をつける」

「なかなか、無茶いうわね。だけど了解」


 ただ、信じるというよりも、むしろ信じるしかないというのが現状ではあった。

 少なくとも、かなりいい作戦ではある。確かに、そうして不意をつけるなら、なんとかできる可能性は跳ね上がる。


「ザラさん、対象をモニターに映ってる場として、個人用のテレポートシステムの使用に、必要なエネルギーは」

「十分にあります」

「それじゃあ、お願いします」


 そして、ミズガラクタ号に備わった、一時的な人工空間経路を利用した空間跳び(テレポート)で、その敵のところへ送られる瞬間。


 それは結局、軍事国家で兵士として育てられた者の、どうしようもない(さが)だろう。

 これまで経験したこともないような、恐ろしい存在との戦いを前に、リーザはそれでも笑みを見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ