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神々のガラクタ船 ーWater alchemist and the Worldtree’s landsー  作者: 猫隼
Ch1・宇宙から失われたもの
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4・それは消えていない(不吉な予言4)

 エルクスに教えてもらうまでもなく、ザラは母の研究に関してはよく知っていたが、その不吉な予言に関しては、多くの者と同様に、断片的にしか知らなかった。


 端的に言えば、ミラは'管理者仮説(かんりしゃかせつ)'というものについての研究をしていた。

 これまで幾多ものパターンのシミュレーションによって、有限の宇宙、あるいは宇宙が無限であっても、その特定領域において、ほぼ必ずその通りだという、ある事実が知られている。

 そういう特定領域において、物質と定義できるような物質が生じ、それらが崩壊するまでの時間について。(今がまさにそうであるように)知的生命体が、その存在の安定期間を、意図的に延ばせるような科学技術を、そのありうる領域時間内で獲得することはありえないこと。

 ようするに、誰かが何もかも全て巻き込んで自滅でもしない限り、(擬似的にでも)永遠に続いていくだろう、ジオ族のような生命群が、偶然に宇宙に誕生するということは、絶対にないわけである。

 そこで、文字通りの神と言えるような、外部の何者かがいて、知的生命の発展を促した。あるいはそういう存在が誕生するまで、崩壊の時を引き延ばしたかしたのでないか。というような推測が、管理者仮説である。

 その管理者仮説における外部の何者かに関しては、"神"、"管理者"¨の他、"プログラマー"や"魔術師"、"外学者(そとがくしゃ)"など、様々な呼称がある。ただ基本的に、何者かたちだと考えている研究者は、それを"神々"と呼ぶことが多い。ミラもそうだった。

 しかし、彼女はそもそも管理者仮説に関して、専門家として体系的な知識を持っていたわけですらなかったとされている。

 おそらく実際にそうだった。少なくとも、彼女がその分野の研究において必須とされていたいくつかの計算技術を有していなかったのは間違いない。それに彼女は、基礎知識とされている領域変化シミュレーションと呼ばれるものに関しても、しっかり理解できていなかった。


 ザラ自身、自分の研究のために必要な知識を得ようとした母が、しかしそもそも内容をしっかり理解できるような本に出会えることすらなかなかなく、悪戦苦闘していた姿をよく覚えている。


 また、すでにミラが研究を始めた時点で、その神々という存在に関して、まったく未知の知識というものを想定しないで可能な説明はひとつだけ。ということは証明されていた。

 それは、神々とはつまり、科学技術に頼らないで、空間転移を行える、別宇宙か、別領域の生物、あるいは生物群というもの。ミラがそのことを知っていたかどうかは定かでないが、少なくとも彼女は、その神々に関して未知なる存在と想定していたようだった。

 しかし後にザラは、自らシミュレーション計算を行い、神々が未知の要素を持つ存在である可能性は0.08%ほどだと確かめている。

 とにかくミラが、自分の専門の研究対象である神々について、いろいろひどく誤解していたのは確かなようだった。だが幸か不幸か、彼女の研究範囲に関しては、そういう誤解は別に問題にならなかった。おそらくは彼女自身、それはよく理解していた。


 天才。

 "世界樹"でそのように言われる者は非常に珍しい。

 だが実のところ、周りの誰も彼もが出来損ないと考えていた彼女、ミラこそ、そう呼ばれるべき類の人種だった。

 機械が苦手。計算が苦手。文章を理解するのが苦手。記憶するのが苦手だった彼女は、しかし、その時々に発揮する、ある種の直感能力に関してだけは、この宇宙で、間違いなく類い稀なものを有していた。

 彼女だから気づけた。それは確かだった。

 全体的な理解をちゃんとできていないような、その複雑構造のシミュレーションの中に、ミラはあるいくつかの要素、関数を加えた。

 彼女がそれをしなければならないと確信した理由については、もはやザラにもわかりようもない。だが、エルクスが大事に保存していた、そのシミュレーションパターンを、実際に確認した後。直感とかでなく、自分のあらゆる科学的知識と照らし合わせることで、それは正しい方向のアプローチだったのかもしれないと、ザラにも理解ができた。

 母のような天才ではない。

 だがザラは優等生で、物事をしっかり理解するのが得意で、そして何より母のことをよく知っていた。

 確かに娘の彼女ですら、母は愚かかもしれないと考えてはいた。だがザラは、母がそれでも、自称なんかじゃなく、勘違いなんかでもなく、真の科学者であることを知っていたのである。

 だからザラは、まさしくエルクスが期待、というより願っていたように、笑いもせず、バカにもしないで、ただ真剣になってくれた。その優秀な頭脳を存分に使い、母が残した研究記録を検討した。


 そうして、失われつつあった、この宇宙にとって最も重要な1つであろう、その研究記録は、ようやくそれを受け継ぐに相応しい人物の手に渡り、守られたのだった。


ーー


「母は多分、シミュレーションの結果しかちゃんと理解していなかったと思います。ですが重要なのは、その結果です」


 そしてそのいくつかの結論は、どれもにわかには信じがたいような、とんでもないものであった。ミラが、科学者としてはどうしようもない出来損ないだと考えられていたのなら、確かに、ナンセンスな妄想だろうと、あっさり破棄されてもおかしくはなかった。

「まず第一に、わたしたちのこの領域は、確かに神々がいなければ存在していなかったものでしょうが、しかし神々が直接的に関与したわけではありません。神々が直接に関与していた別領域の知的生命体の影響です

 それひとつかはわからないが、とにかくはるか昔に、宇宙のどこかの領域で、神々に影響を受けて、永遠の知性を獲得した生物群があった。それはおそらく、実質的に最初の知的文明を築いた者たちである。

 やがてその生物群は、科学技術を発展させることで、神の真似事をするようになる。つまり、本来は干渉する事など出来ない、他の領域に転移する技術を開発して、影響を与えるようになった。

 そうして、知的生命の領域は増えていったのだろうが、おそらくはジオ系が発展した、ザラたちの領域も、そのようなひとつ。


「ちょ、ちょっと待って、その別の領域に転移する技術って、'多元時空間転移たげんじくうかんてんい'のこと? ていうか別領域って、つまりその、別宇宙ってこと?」

 一応理解できようができまいが、途中で口は挟むまいと決心していたリーザだったが、そこはあまりにも気になった事なので、ついつい聞いてしまう。

 基本的には互いに干渉できない、いくつもの別宇宙空間が確認されているが、多元時空間転移というのは、ある宇宙空間から別の宇宙空間へと転移するための技術。多元時空間転移というのはやや格式ばった名称で、一般的には、単に'時空ワープ'とか、'スペースゲイト技術'などと呼ばれることも多い。

 興味深い技術としてかなり有名で、幅広く利用法を研究されてはいる。しかし様々な危険性があるために、今のところはあまり実用的なものとはされていない。


「その通りです。ここでいう転移技術というのは、時空間転移のことです。あと、確かにそれで行き来する別の空間を、別宇宙と考える者もいますが、それも可能性はあまり高くありません。だから、別領域というほうがおそらく正しいです」

「それってつまり、やっぱりこの世界はひとつだけの宇宙(ユニバース)って考えが正しいってこと?」

 今度はミーケが聞く。

「その可能性がかなり高いです。まあしかし、本質的にはあまり関係ないことですけどね。全体としては同じ1つの宇宙の中にあっても、互いに干渉しあうことができないのは結局同じなわけですし」

 結局全ては唯一の宇宙ユニバースか、いくつも存在する多元的宇宙マルチバースか。という議論は非常に古くからあるが、確かに真実がどちらであろうと、影響を受けるような他分野とかも、ほぼ存在しない。


「シミュレーション結果の話に戻りますが、第二に、神々というのは、どうも何者かに滅ぼされてしまったようなのです」

 滅びてしまったのではない。意図しない形で、おそらくそれらは滅ぼされてしまったのである。

「どこかの知的文明か、また別の存在があるのかもしれません。しかしほぼ確実なことは、それは敵だということです。おそらくはその何か以外にすべてにとって」

 そう考える根拠は2つ示されていた。

 まず、神々は明らかに、知的生物たちにとって友好的な存在であった。それに、ある程度以上発達した知的文明にとっては、特に脅威な存在でもなかったということ。

「それを滅ぼした理由は、知られるとまずいことをしようとしていたか、もしくは何かに感づいたために抹殺したのだと思います。いずれにしても、敵意を持っていたのはまず間違いないでしょう。本来、宇宙の知的文明に友好的な存在であるはずの神々に対してです。そして」

 むしろ決定的なのは、もうひとつの根拠の方だった。

「同盟戦の続きだったのか、仇討ちだったのか、それとも新たに狙われた上での防衛戦だったのかはわかりませんが、とにかく、神々が滅ぼされたと思われる時から、ある時期までにかけての間。それも我々の基準ではかなり長い時間です。その長い期間、あらゆる領域の、あらゆる知的文明が、互いに争いあうわけでも、内部で争うわけでもなくて、ひたすらに奇妙な武器を作っているらしいんです」

 奇妙というのは、それはおそらく武器というようなものなのだが、しかし実際、武器としてどう使うのか、現在は不明というもの。

「聖遺物の中のいくつかもそうです。というかわたしは、何に使うためにあるのかわからないものは、ほとんどその頃に作られた武器だと考えています」


 その戦いはかなり長きにわたっていたようだった。それが文字通りに長期戦だったのか、想像するのも難しいくらいの消耗戦だったのかは、領域と知的文明の真の数は予測もできないために、わかりようもないが。

「ただ、わたしたち、あえてそう言います、母もそう表現してましたから。とにかく、わたしたちは一時的な勝利を収めたようです。この宇宙全体の環境を激変させてまで」

「激変? 天然水仮説、まさか」

 そこでミーケの方を見たリーザだが、彼もどうやら同じことを推測したようだった。

 そして、その通りだった。

「そのまさかだと思います。さっき、武器をひたすら作っていたのはある時期までと言いましたが、その時期とは天然水が失われたと、それの研究者たちが考えている時期と一致しているんです」

 偶然だとしたら、それこそとんでもなかったろう。

「勝利が、一時的っていうのはなぜ?」

 今や、恐る恐るという感じで聞くミーケ。

「それもシュミレーションが示していたこと、第三です。ようするに」


 決して失わせるわけにはいかない。

 エルクスがそんなふうに言った理由。


「その敵は滅んでいないんです。おそらくこのたったひとつの宇宙(ユニバース)から消えてない」

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